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俺に拒否権はないみたいだな

 おっさんの手伝いも終わり、今日も今日とて俺はベッドの上に転がり込む。

 リーナには申し訳ないことをしたが、当分スカラはここには来ないだろう。なんかメトロンに怒られてたし。


 

 当分脅威となるものも去り、俺は気を楽にする。

 それにしても、やっぱりこの時間は良いな。

 クーラーの効いた涼しい部屋のなかで本を読みながら、俺は噛み締める。  

 このゆっくりとした時間に快適な空間。

 堪らなく良い。

 


 読むのに疲れ、俺は本を体の上に起き「はぁ」っと一息つく。

 するとその瞬間、部屋のドアが開き頭の中で聞き覚えのある声が響いた。



“あーるじー!!”

「ごふっ!?」


  

 部屋に入ってきたロウガはダッシュで俺の腹の上に勢いよく飛び乗り、俺はその重くのし掛かった衝撃に軽くむせる。

 急な衝撃にいったいなんだと俺は腹の上のロウガを見ると、ロウガは尻尾をぶんぶん振りながら俺にねだってきた。



“お散歩いこー!!”



 どうやら散歩に行きたいらしい。

 ロウガの奴、正式に家で飼われるようになってから、ますます犬らしさが増した気がする。

 それでいいのか狼。

 犬らしさ満開のロウガを見て俺はなんとも言えない気持ちになったが、ここで俺はふと疑問に思った。



「お前どうやって入ったんだ?」



 ロウガじゃドアノブに届かない。

 どうやってドアを開けたんだろうか。

 不思議に思った俺だが、俺の疑問に応えるかのようにまた一人部屋に入ってきた。



「私が開けた」   



 見ると、そこには夏蓮がドアの近くで俺を見下ろしていた。



「なんかドアの前で入りたそうにうろうろしてたから」 

「そうだったのか」



 夏蓮の話を聞いて俺は納得し、寝ながらロウガの頭を撫でる。

 俺に撫でられロウガは気持ち良さそうに目を閉じて「くぅ~ん」と鼻を鳴らす。

 だが、直ぐに目的を思いだし、ロウガはハッとなり再度俺に催促する。



“そうじゃなくて!一緒にお散歩いこーよー!!”

「あー、そうだったな」



 ロウガにお願いされ、考える素振りを見せる俺だが、正直今はそんな気分じゃない。

 最近色々あったから休みたいと思っていたし、なによりここから出たくない。

 ロウガの願いに渋る俺を見て、夏蓮は何を話してるのか聞いてきた。  



「ロウガ何て言ってるの?」

「一緒にお散歩に行きたんいだと」



 俺のその発言を聞いて夏蓮は何を思ったのか、食い気味に告げてきた。



「行ってきて」

「いや、今はそんな気分じゃーーー」

「行ってきて」



 夏蓮の言葉に俺は拒否をしようとしたが、有無を言わさず夏蓮は俺を行かせようとする。

 どうやら、どうあがいても夏蓮は俺を行かせたいようだ。

 


「だったら、お前が行けばいいだろ」

“僕主とがいい!!”



 反論程度に俺は言うが、ロウガは俺をご所望みたいだった。

 まぁ、最近構ってやれなかったからそういうのも仕方ないかもしれないが。

 夏蓮に頼るのが無理だと俺は悟ると、夏蓮は行けないわけを喋りだした。



「今日家にあいつらが来ることになってるから、どのみち私も無理」

「あいつら?」 

「三馬鹿」



 三馬鹿と聞いて俺は誰だと思ったが、直ぐに誰のことかと思い出した。

 あの前に夏蓮いじめてた奴等か。

 一度しか面識はなかったが印象的な対面をしたせいかと微かに覚えていた俺は、意外そうな顔をする。



「お前が他人を家に呼ぶなんて珍しいな。やっぱり仲良くなったんだ」



 他人を家に呼ぶことを夏蓮はしないため、俺は珍しがっていると、夏蓮は暗い面持ちで応えた。



「本当は呼びたくなかったけど、ちょっとゲームで賭けをして負けたから、仕方なく」



 失態とばかりに「あそこで波動弾を撃てれば......」と夏蓮は悔しそうに呟く。

 どうやら自分の意志で呼んだんじゃないみたいだな。

 しかも勝負がゲーセンの格闘ゲームときたか。

 夏蓮は多才だけど、ゲームは凡人並み。

 きっと煽られて逃げるに逃げられなくなったんだろう。  

 


 顔を下に向け落ち込む夏蓮を見ながら俺は苦笑いしていると、「だから」と夏蓮は顔を上げ力の籠った目で俺を見る。 



「三馬鹿が来る前に家から出ていって」



 とうとう家から出ていってと言われてしまった。

 そんなにあの三人に会わせたくないのかと思った俺はもう行くしかないと思いながらも、取り敢えず反論を続ける。



「別に会っても俺は大丈夫だが」 

「私が駄目。それにあの三人絶対あんたが狙い。面倒になる前に早く行って」



 余程急いでるみたいで、強めな声で夏蓮は俺に告げる。

 これはもう行くしかなくなったな。

 でないと、夏蓮の怒りを買ってしまいそうだ。

 抵抗を諦め俺は残念そうに息を吐く。

 さようなら、俺の至福の時間........。



“早く行こうよー!主ー!!”



 前足で俺の体をポンポンと叩きながらロウガからも催促される。

 俺の体をポンポン叩くロウガに俺は「はいはい」と宥めつつ、ロウガを持ち上げ体を起こす。

 

 

「そんじゃあ、行くか。ロウガ」

「わん!(うん!)」

「なるべく遅く帰ってきてね」



 気持ちを切り替え部屋から出る途中夏蓮に言われ、俺は「あぁ」と返事をしながら部屋を出ていく。






  




ーーーーーーーーーーーーーー









 天気は快晴、風は無風。

 この如何にも散歩日和な天気のなか、俺はロウガと共に住宅街を歩く。

  


“楽しいねぇ!主ー!”

「あー、そうだなー」



 楽しそうに俺の前を歩くロウガの言葉に、俺は軽く棒読みな感じで返事をする。

 この歩いているだけが楽しいとは。

 俺にはただ暑いだけとしか思えん。

 犬の感覚は分からんものだな。狼だけど。

 


 そんなことを思いながら俺はなんとなくロウガを見る。

 一応首輪は着いているが、リードはしていない。

 したって意味ないからだ。

 ロウガはその辺の犬より数倍賢い。

 だからリードなんてなくても自分の意志で判断は出来る。



 ましてや、俺はロウガと話すことも可能なため、万が一なことが起きる可能性が極めて低い。   



(これがモンスターの首を噛みちぎって戦う狼とは思えないな......)



 ロウガを見ながら俺はぼやいていると、急にロウガがピタッと動きを止めた。



“あれ?”

「どうした?」



 立ち止まるロウガに俺は聞くと、ロウガは鼻先をピクピクさせ、なにかを感じ取ったのか突然走り出した。


 

“いる!”

「お、おいロウガ!?」



 なにを見つけたのか走り出したロウガに俺は驚き慌てて後を追いかける。

 万が一なことがまさかの起きてしまったな。

 リードでも着けておくべきだったかと俺は思っていると、ロウガが角を右に曲がり姿が見えなくなった瞬間小さな悲鳴が聞こえた。   



「わん!わん!」

「きゃっ!?」



 悲鳴が聞こえ、俺はまずいと思い急いで角を右に曲がると、その光景に俺は驚きの声をあげた。



「あれ、さや?」

「え、夜兎君?」


  

 見知った人物に出会い、俺とさやはお互い名前を呼び会う。

 下を見ると、ロウガがさやの足元でじゃれている。

 そういうことだったのか。

 ロウガが走り出した理由が判明し俺は暴走した訳じゃないと分かり、俺は少しホッとしさやに歩み寄る。



「悪いな。家のロウガが」

「うんうん、気にしないで。びっくりしただけだから」



 申し訳なさそうにする俺にさやは気にしてないと言いながら、膝を折りロウガの頭を撫でる。

 さやに撫でられロウガは気持ち良さそうに目を細め鼻を鳴らす。 



「これからどこか出掛けるのか」

「もう用は済んでこれから帰るところなの。そっちはお散歩?」

「あぁ、ロウガにせがまれた」



 「そうなんだー」と微笑を浮かべながら、さやは言う。

 すると、少しの間ロウガを見つめながら、さやは考え込み少し言いづらそうに顔をしながら言った。



「ねぇ、よかったら私も一緒にお散歩行っていい?どうせこの後予定ないし」

「散歩か?別にいいぞ」



 さやの頼みに俺は迷うことなく了承する。  

 ロウガも、さやと一緒にお散歩が行けて”やったー!!“と喜んでいる。

 了承を貰い、さやはよかったという感じで喜びながら立ち上がり、散歩の続きが始まった。 




 


  


ーーーーーーーーーーーーーー





 



 さやも加わり、俺は退屈せずさやと喋りつつ散歩を続ける。



「ーーーーということがあった」

「へー、そんなことがあったんだ」



 話のなか、俺はスカラが出てきたことについてさやに話していると、さやは少し驚いたような反応を見せる。



「大変だったんだね」

「あれはもう二度と御免だ」



 俺の話を聞いて苦笑を浮かべるさやに俺は軽くため息をつく。



「なんか夜兎君っていつも何かに巻き込まれたりするよね」

「言うなよ。俺も気にしてるから」



 最近、本当に呪いなんじゃないかと自分でも疑いたくなるレベルだ。 

 たまに呪いを解く魔法を自分にかけたりしたことはあるが、一向に効果が現れないため呪いではない。



「案外そういう体質だったりして」

「本当にありそうで怖いな」



 くすくすと笑いながら言うさやに、俺は少し落ち込むように肩を落とす。

 体質とかだったらどうしようもない気がするんだが。

 頼むからそれだけはあって欲しくない。



 若干暗くなる俺に「元気だして」と励ますさや。

 そんなやり取りを見てか、通りすがりのお婆さんが微笑ましそうに俺達を見ていた。



「おや、若いっていいねぇ。恋人かい」



 からかいにも似たお婆さんの発言に、さやは少し恥ずかしそうに訂正をする。



「あ、あの、別に私達そういう関係じゃないですよ」 

「あら?そうなのかい?てっきりそうだと思ってたよ。あんまりにも仲が良さそうだったから」



 悪気のないお婆さんの更なる発言に、さやは恥ずかしそうに顔を赤くする。

 それに対し、俺は「あー」っとなんとなくお婆さんに言いたいことを理解した。

 若い男女がペットを連れて散歩しているってのも珍しいかもしれないからな。

   


 特に付き合っている訳でもない男女が一緒に散歩なんてするわけがないし。  

 勘違いもされるか。

 前にも、さやと買い物に言ってレジのおばさんに冷やかされたこともあったし、やっぱりそう見えてしまうのかな。



 恋人と言われ、俺とさやはそれぞれ別の意味でなんとも言えない気持ちになっていると、散歩に飽きたのかロウガは俺の足元に寄ってきた。



“主ー、あれやりたーい。あの前にやった遊びー”

  

  

 いきなりあれと言われ、俺はなんだっけ?と思ったが、直ぐに思い出した。



「あー、あの草原行ってやるやつかー」

“それやりたーい!!”

「え、なに?なんの話?」



 ロウガの声が聞こえないさやは、どういうこと?っと首を傾げている。

 訳が分からないさやに、俺は含みのある顔で応えた。   



「ちょっと変わった犬の遊びだ」



 そう言うと、俺は「それじゃあ行くかー」と言ってどこかに歩き出す。

 俺の声にロウガは“おー!!”っと元気よく返事をし、さやは「え、ちょ、ちょっと待って!?」と小走りで追いかけていく。



 どこか転移出きる人気のないところを探さなくちゃな。

 そう思いながら俺は人気のなさそうな場所に向かって歩き続けていった。


おまけ


【勘違い】


「初々しいわねぇ、新婚さんかしら?」

「い、いえ.....」

ーーーー

「あらあら、若い夫婦ねぇ」

「そ、そうじゃなくて.....」

ーーーー

「結婚したばかりなのかしら?」

「ち、違うんです......」

ーーーー

「ねぇ、夜兎君」

「なんだ?」

「お婆さん達の目ってどうなってるんだろう.....」

「いや、俺に聞くなよ」


ーーーーーーーーーー


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