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会わせちゃいけない奴を会わせてしまった

 夏休み。それは学生にとって一、二を争うビックイベント。

 学校もなく、家に引きこもるだけの毎日。

 宿題を終わらせれば、それはなにものにも縛られない、幸せな時間となる。

 今、俺はまさしくその時間を過ごしていた。



「あー、俺はこれを求めていた」



 ベッドに寝転びながら、俺はこの至福の時間を堪能する。 

 身体全身の力を抜き、全ての体重をベッドにかける。

 これなんだよ。俺はこれを求めていたんだよ。

 最近不幸なことの連続だったから、この時間を暫く忘れていた。



「幸せそうです。マスター」



 枕元に置いてある携帯から、メルの声が聞こえてくる。

 


「まぁなー、この感じが久しぶり過ぎる」



 幸せそうな表情をしながら喋る俺を見て、メルは「そうなんですか」と嬉しそうに微笑む。

 なんか幼女に暖かい目で見られてる気がするが、今の俺には関係ない。

 あの忌まわしき魔法で傷付いた心と身体を癒さねば。



 結局、あの後ゲルマはリーナ達によって再度連行された。

 ついでに、スカラも一緒に持っていって貰ったが、その翌日リーナから『また、遊びに来るぜ!!』とスカラからの伝言を聞き、正直血の気が退いた。 



 あれをもう一度やるとか一生御免だ。

 なんで死と隣り合わせな殺し合いを何度もしなくちゃならないんだ。

 しかも、遊びに来るとか、完全に気に入られてるし。

 どこにそんな気に入る要素があったんだろうか。



(今の内に休んでおかねば.......)



 またいつあの悪魔が来るか分からない。

 休めるときに休んでおかねば次は今度こそ死ぬ。

 寝転びながら俺は憂鬱なことを考えていると、俺はもう一つ別の奴から伝言があったのを思い出した。



 そういえば、ゲルマが連れてかれる間際に『私はまた必ず舞い戻る。その時は神谷夜兎。貴方を必ず殺してあげますからね。神に勝てる人族などいるわけがないんですから!』と言っていたらしい。


  

 俺としては脱獄するならもう別の世界に行けばいいのにと思うんだが、無駄にプライドの高い神はめんどくさくてしょうがない。

 ゲルマが脱獄した理由だが、どうもゲルマ自身の能力が原因らしく、同じ【無限牢獄】にいた奴の憎悪を少しずつ吸収して今まで機会を伺ってたみたいだ。



 だから、今回はその反省点を生かし、ゲルマ専用の牢獄をつくるようで、もうあいつが戻ってくることはないだろう。

 そのお陰でゲルマに関しては問題ない。  

 あるのはスカラの方だ。

 俺はそう思いながら、遊びという名の殺し合いをする姿が目に浮かぶ。

 考えたくもない光景だ。



(もう一回修行でもするかなぁ.......)



 正直この部屋から出たくない気持ちが強いが、殺される気もない。

 だが、一度このベッドに身を預けた身体を動かすのは至難の技だ。

 なんとかならないだろうか。

 ダラダラしながら俺はそんなことを考えていた矢先、枕元にあった携帯のバイブがヴゥ゛っと突然鳴り出した。



 電話か?

 携帯が鳴り出し、俺は顔を携帯の方に向かせると、メルが電話の相手の名前を呼んでくれた。


 

「マスター、石田哲二という人からお電話です」



 石田哲二?......あぁ、おっさんか。

 最近会ってないのと、ずっとおっさんと呼んでいたせいで名前を忘れていた俺はおっさんの名前を思いだし、メルに出るように伝える。



「出てくれ、メル」

「はいです!」



 俺の指示にメルは元気よく返事をし、携帯の『応答』ボタンが自動的に押される。

 すると、携帯の中からトーンの低い渋い声が聞こえてきた。



『おーっす、夜兎。夏休みだからってグータラしてんじゃないんだろうなー』

「なんの用なんだ?おっさん」



 開始早々、おっさんの戯言を流しつつ俺は用件を聞く。



『いやな、最近どうしてるのかと思ってこうして確認してるのと、何か急にーーーーーお前の声が聞きたくてな』

「用がないなら切るぞ」 



 最後の部分だけキリッとした声で言うおっさん。

 その言葉を聞いた瞬間俺は携帯に手を伸ばし電話を切ろうとすると、おっさんは慌てて弁明してきた。



『だー!待て待て!!冗談!冗談だ!!話ならある!!』



 ならさっさと言え。

 慌てて弁明するおっさんに俺は呆れながら手を伸ばした手を引っ込める。

 なにが『お前の声が聞きたくてな』だ。

 そんな渋い声でふざけたことを言うなっての。

 長い付き合いである俺じゃなかったら、確実に引かれてるぞ。 

 


 携帯の中で慌てるおっさんの声を聞きながら俺はため息に似た息を吐くと、メルが驚いた声をあげた。



「この人凄い怖い顔してるです!」


 

 多分、おっさんの携帯の内カメラを覗いたんだろう。 

 おっさんの厳つい顔にメルは吃驚した様子で俺の方に帰ってくる。

 いきなりメルの声が聞こえ、弁明を述べていたおっさんは「ん?」と電話越しで首を傾げた。   


『なんか今、小さい女の子の声が聞こえなかったか?』

「色々あったんだよ」



 説明するのも面倒な俺は適当にそう言うと、おっさんは勘づいたのかまさか!?といった感じで慌て出す。



『ま、まさかお前、小さい女の子に惚れて、連れて帰ったんじゃ.....』

「言いたいことはそれだけか?」

『すいませんでした』



 少し殺気の含んだ俺の威圧の声におっさんは即座に謝罪する。 

 全く、誰が幼女趣味だ。

 ふざけるのも大概にしろ。

 いつになく悪ふざけが過ぎるおっさんに俺は段々嫌気がさしていき、とっとと用件を聞くことにした。



「んで、用件はなんだ。またなんかの捜査か?」

『あ、あぁ、それなんだがなーーーーー』



 俺の予想は的中していたのか、おっさんは少し言いづらそうに応える。

 用件をまとめると、今回は人探しらしい。

 なんでもとある事件の重要参考人の足取りが途中で途絶えたらしく、捜査が滞っているようだ。



 だから、性懲りもなくまた俺の力で探して欲しいってことか。

 話は分かったが、今の俺にはこれまでの疲れを癒すという使命がある。

 今回は悪いが断らせてもらおう。



『どうだ?頼めないか?』



 希望にすがるような声で頼んでくるおっさんに俺は断ろうとすると、付け加えるようにおっさんは一言挟んだ。



「悪いが、今回はーーーー」

『やってくれたら、極上の寿司を奢ってやるぞ』

「今すぐ行こう」





    




ーーーーーーーーーーーーー










 失敗した...........。

 夏の太陽が眩しい空の下、俺は若干の後悔を感じていた。



「いやー!助かるぜー!!やっぱ頼りになるな相棒は!!」



 人気のない駐車場で、隣で嬉しそうに笑うおっさんに背中を叩かれながら、俺は数十秒前の自分を呪った。

 またしても釣られてしまった。 

 しかも、転移まで使って行くとは.......。

 一時のテンションに任せた自分が間違いだった。



 おっさんにこんな言いように扱われるとは。

 さっきまではあんなに渋っていたのに、おっさんも俺の扱いには慣れていたということか。



「やっぱ相棒はもので釣った方が手っ取り早いな!!」


  

 否定できないところがまた癪だな。

 してやられた感が否めない感じがした俺だが、これもいつものことだ。

 とっとと割りきって報酬のために頑張るとしよう。



「さっさと終わらせるぞ」

「おう!」



 やれやれといった感じの俺に、おっさんはやる気に満ちた返事をだす。

 出来れば寝ていたかったが、まぁ、スカラが来ないだけましだよな。

 そう思い奮起させようとした俺だが、この思いが見事に踏みにじられることになる。

 捜査を始めようとした瞬間ーーーーーー突如上空に魔法陣が現れた。

 


「おっと!?よっしゃ!今度は成功!」   



 上空に現れた魔法陣から吐き出されるようにして出てきたその人物は、綺麗に着地が成功し、喜んでいる。

 この世界にはいないが、敢えて言わせて貰おう。

 ーーーー恨むぞ、神様........。

 


 目の前の人物を見て俺は泣きそうな気持ちになっていると、喜んでいたその人は俺を見て更に喜びの声をあげた。



「おー!夜兎!遊びに来たぞー!!」



 ボサボサな深紅にビキニアーマーを身に付けたスカラは、俺に向かって手を降りながら近づいてくる。

 嬉しそうにするスカラとは対照的に、俺は軽く絶望を感じた。

 来るの早すぎだろ。神が気軽に遊びに来るなって。



 心の中で俺は悪態ついていると、隣にいたおっさんはスカラを見て戸惑いながら俺に訪ねた。



「お、おい夜兎、なんだよあの綺麗なねえちゃんは?お前の知り合いか?」

「口には気を付けろよ。あれでも神様だからな。下手したら殺されるぞ」   



 俺の脅し混じりな言葉におっさんは「か、神!?」と小声で驚き身体をビクッとさせる。

 如何に変わり者のおっさんといえど、神相手だと驚きもするか。

 どうしたらいいんだと若干目を泳がせるおっさんを見て、俺はそう思っていると、スカラもおっさんを見て首を傾げた。



「誰だお前?」



 当然ともいえるスカラの反応に、俺は一応スカラにおっさんを紹介した。



「こいつは、おっさん。俺の財布だ」 

「誰が財布だ!!ちゃんと名前で紹介しろ!!」



 俺の紹介におっさんは機嫌を損ねるんじゃないかと焦りの声をあげる。 

 別に間違ってはいないだろ。

 緊張の顔と素振りを見せながら、おっさんはピシッと背筋を伸ばし再度挨拶をした。


 

「は、初めまして!石田哲二と申します!!」

「私はスカラだ!よろしくな!」



 緊張するおっさんとは反対に、スカラはにかっと笑いながら挨拶を交わす。

 しかし、まさかこんな早く来るとは。

 この非常事態に俺は内心冷や汗を掻く。

 緊張してるおっさんと会話しているスカラを交互に見ながら、俺はどうにかせねばと考える。



 どうにかして殺し合いだけは避けなければ、でないと今度こそあの世行きだ。

 スカラがおっさんと話している間にどうにか策を考えようと思考を巡らせた。




ーーーーーーーー数分後




 ..........どうしてこうなった。



「あっははは!!気が合うなお前!!」

「がっははは!!全くだな!!」



 お互い肩を組ながら、スカラとおっさんは高笑いをあげる。

 人が考え込んでいた間に何を話してたんだ。

 さっきまでのおっさんの緊張した態度はどこにいった。

 


 この想定外過ぎる事態に俺は頭を抱える。

 なんてこった......。

 会わせちゃいけない奴等を会わせてしまった気がする。

 何にシンパシーを感じたのか、意気投合した二人は意味もなく笑い続け、俺はそれに呆れたように息を吐く。



「何があったんだよ。お前ら......」

「ただ気が合っただけだぜ!!なっ!スカラ!」

「そういうことだ!!テツ!!」 



 おっさんは神様相手に名前呼び、スカラに至ってはあだ名呼びか。  

 どこまで仲良くなってんだこいつら。

 異常なほどの仲の良さに俺は僅かばかりの疎外感を覚えたが、今は捜査をするのが先決だ。



「それより早く捜査に行くんだろ、おっさん」

「おぉ!そうだったな!」

「なんだ?捜査って」



 忘れていたのか、おっさんは思い出したかのように言うと、スカラは捜査について聞いてきた。



「簡単に言えば、今から人探しをするんだ」

「面白そうだな!私も一緒に行くぞ!!」



 おっさんの話を聞いて、スカラは興味を持ったのか行きたいと言い出した。

 いやいやまてまて、こんな奴が行ったら録なことが起きないに決まってる。

 俺は目でおっさんに断るように訴えるが、俺の訴えは届く筈もなく、おっさんは笑顔で応えた。



「そりゃあいい!!神様がいてくれるなら怖いもんなしだな!!」



 そう言いながらおっさんは機嫌良さげに言う。

 言うと思ったわぁ.....。

 案の定過ぎるおっさんの返答に俺はあちゃーっと顔に手をやる。

 


 いや、ここで断っても機嫌を損ねるだけなんだけから、しょうがないのだろうけど。

 決まったら善は急げか、スカラとおっさんは捜査を始めようと歩きだした。


  

「なにやってんだ夜兎!早く行くぞ!!」

「とっとと来いよ!!」



 絶対嫌な予感しかしない。

 急かす二人を見ながら、俺は足取りを重くしながら向かっていくのだった。

おまけ


【置き手紙】


「あれ?スカラどこにいったんだろ?」

「スカラ様ならどこかに行かれましたよ」 

「行ったってどこに?」

「こちらに手紙を預かっております」

『夜兎のとこ遊びに行ってくる』

「え?ってことは今スカラは地球に......」

「はい」

「.........(サァーーー」←(血の気が引いた)



ーーーーーーーーーーーーーー


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