ラスボスより面倒な奴が目の前にいたな
戦闘は一回でいい気がする。
意外にもしぶとく生きていたゲルマに、俺は驚愕しつつも平静を保つ。
「お前、生きてたのか」
「何故だか物凄い気配を感じたのでね、慌てて逃げ込みましたよ。まぁ、完全には逃げれませんでしたが........」
そう言ってゲルマは視線を自分の左手の方に移す。
その視線の先には、肩から先が途切れ、左腕が消し飛んでいた。
仮面で表情は分からないが、苦痛な顔でもしてるのだろうか。
右手でギュッと肩を握り、俺の方を睨んだ。
「まさか、島ごと破壊するなんて思いませんでしたよ。そんなことも出来るとは、正直計算外です」
怨念の籠った声でゲルマは俺に言う。
口調は変わらないが、明らかに俺を恨んでるな。やったの俺じゃないけど。
濡れ衣もいいところの勘違いに、俺は誤解を解くため真実を告げた。
「いや、やったの俺じゃなくて、あいつ」
真実を告げた後、俺はスカラを指差す。
俺の指差しにゲルマは警戒しながらも、チラリとその方向を向いた。
俺に執着し過ぎてスカラのことを忘れていたのか。
スカラの存在を確認したゲルマは、ピタッと動きを止め、暫くスカラを見つめた後、視線を元に戻した。
「ま、まぁ、あの傷付いた【破壊神】にこんな芸当と知能がある筈がありません。大方貴方が手助けをしたんでしょう」
合ってるには合ってるが、少し誤魔化したなこいつ。
しかも、然り気無くスカラのこと馬鹿にしてるし。
何事もなかったかのような態度をとるゲルマを見て、俺はそう思う。
すると、さっきまで後ろで固まっていたリーナが俺の隣に出て警告を始めた。
「ゲルマ、もう貴様に勝ち目はない。大人しく投降しろ」
リーナの強気な警告にゲルマはビビることもなく、寧ろおかしいとばかりにふふっと嘲笑った。
「投降しろといって誰がすると思ってるんですか」
まだまだ諦めていないのか、ゲルマは体から黒い靄を放出させる。
「片腕はなくなりましたが、私にはまだこの力がある。あなた達を殺した後は【破壊神】の番です」
禍々しく発せられるそれは、ゲルマを中心に徐々に広がっていく。
黒い靄を発しながら自信満々にゲルマは語るが、俺は真顔で見つめ続ける。
視線をずらしスカラの方を見ると、あいつは未だ水面で下を見つめながら「地面が抉れてんなー」と呑気に見つめている。
駄目だ。全然気づいてないな。
スカラの助けは期待できないなと確信し、俺は少し残念に思ったが、まぁ、別に助けはいらないか。
スカラを見て俺はそう思うと、ここで一つ言いたいことがあった。
さっきのリーナの発言には、俺もゲルマに同意だが、一つ訂正がある。
それはーーーーーーーー
「復讐の時間です!」
「そんな時間ねぇよ」
ーーーーーーーーー俺がお前を殺すことだ。
転移で後ろに回り、俺は片手でゲルマの頭を鷲掴みにする。
片手を失い、体がボロボロだからか、ゲルマは反応できず俺に掴まれてから気付いた。
「なっ!?」
まだ体が重い。
渾身の一撃の反動の残りのせいで体に鉛でも付けられたような感覚だ。
ゲルマの頭を掴みながら、体の重さに耐えつつ俺はこの戦いの終止符を打つ呪文を唱えた。
「救済の癒し手」
その瞬間、俺の右腕は大きく金色に輝きだした。
キラキラと輝くその光は徐々にその強さを増していき、全ての闇を払い除ける。
やがてその光は、ゲルマが放出していた黒い靄を浄化し、ゲルマの中に流れていった。
「ぐっ!!ぐぁぁああぁあぁぁぁあぁあぁあ!!!」
聖なる光が流れ込み、ゲルマはこれまでにない苦痛な声をあげる。
浄化している証拠か、頭からジュウっと焼けるような音が聞こえる。
俺の手を掴みながらゲルマはじたばたと暴れるが、弱りきった今のあいつでは到底引き剥がすことは出来ない。
救済の癒し手は俺が触れた邪悪なものを全て取り払う魔法。
憎悪がエネルギー源となっているゲルマにとっては天敵となる魔法で、もう体が重くて怠い俺には一撃で決められる手段だ。
金色に輝く右腕がゲルマの憎悪を払い続け、ゲルマの体から抜けるようにして黒い靄が体のあちこちから出ていく。
呻き声をあげながら抵抗するゲルマに対し、俺は一切緩めることなく掴み、鋭い目で浄化し続ける。
「あ゛ぁ゛...ア゛...ぁ゛あ゛...アァ゛....」
慈悲はない。潔く散っていけ。
最初は奇声のように呻いていたゲルマは、憎悪を抜かれ過ぎたか段々抵抗力が失っていき、やがて手を垂らしぐったりと動かなくなった。
これでもう大丈夫だな。
暫くまともに動かなくなったゲルマを見て、俺は魔法を解除した。
「..............」
無言だ。ピクリとも動かない。
気絶してるのか、死んでるのか分からないが、ゲルマが動かなくなったのを確認し、俺はこの対処についてリーナに聞いた。
「リーナ、こいつどうしたらいい?」
「.......え?え、あ、あぁ、こちらで預かろう」
俺に話し掛けられて数秒経ってから、リーナは少しぎこちない動作で俺の下に来て、ゲルマを担いだ。
サラの方はまだ放心状態でこちらを見つめたまま呆然としている。
「あ、あっという間だったわね.......」
「こっちはもうくたくたなんでな。もう長々と戦う元気はない」
スカラとの戦いでもう限界だっての。
こっちは島破壊して終わるつもりだったのに、無駄な手間が掛かってしまった。
早く帰って休みたいもんだ。
身体的にも、精神的にも。
「早く帰りたい.......」
ようやく全部終えて俺はホッと一息つくと、水面にいたスカラが戻ってきていた。
「いやー、自分が吹き飛ばした跡を眺めてたらつい夢中になっちまったぜー」
「あっははは!!」と笑いながらこっちに来るスカラに俺は軽く殺意が芽生えたが、今となっては突っ掛かる気力も起きない。
楽しそうにスカラは笑っていると、スカラはリーナに担がれているゲルマに気づき、途端に驚いた表情をしながらゲルマを指差した。
「あ、ゲルマ!?お前なんで生きてるんだよ!?」
今更なことに俺達はどう説明しようかと迷っていると、今度こそ止めを刺そうとスカラは大剣を取り出した。
「さっきは、よくもやってくれやがったな!!」
「これ以上面倒なことは止めろぉ!!」
ゲルマに斬りかかろうと大剣振り上げるスカラに、俺は半ギレ気味になりながらスカラの首根っこを掴む。
もう面倒事は御免だ。
オーバーキルする必要ないだろ。
「離せ!!私が止めを刺すんだ!!」
「止めならもう刺されてんだよ!!もうお前は大人しく帰れ!!」
荒ぶるスカラを俺は無理矢理止める。
意地でも止めを刺そうとするスカラに、リーナとサラは苦笑いをしながら眺めていた。
もう元凶は倒せたというのに、どうしてこうも気が休まらないのだろうか。
大剣をぶんぶん振り回すスカラを抑えながら、俺は内心虚しく呟く。
結局、殺る気満々なスカラを止めるのに、俺はスカラを気絶させる羽目になったのは言うまでもない。
ーーーーーーーーーーーーーーー
夜兎がゲルマを倒してから数時間後。
天界のとある場所にいる神王男女に一つの報告が送られた。
「神王様!!脱走者であるゲルマが捕獲されました!!」
「.......そうか」
背中に翼の生えた兵士の報告を聞いて、男は目を瞑りながら小さく呟く。
目を瞑ったまま天井を向き、やがてその顔はふっと微笑んだ。
「やっぱりやったか」
「流石はあの子ね」
女の方も同様に嬉しいのかふふっと顔を和らげる。
「報告ご苦労。もう行っていいぞ」
「はっ!!失礼しました!!」
元気な鋭い声で、兵士はピシッと敬礼をし、その場を去っていった。
それを目で見送った男は、少し安堵したようにふーっと椅子に背中を預ける。
「これで一先ずは安心か」
「あら、大丈夫とか言ってた割りには随分と心配症ですね」
男をからかうように、女はふふっと笑う。
女に言われ男は気恥ずかしいのか、少し顔を逸らし気味に言った。
「そりゃあ、心配ぐらいはするさ。大丈夫だと思ってもな」
「そうですか」
男の反応に女は微笑ましく思ったのか優しい笑みを見せる。
男は少し顔を逸らした後、次第に少し顔を曇らせた。
「でもまぁ、まだまだこれからだな」
「そうですね.........」
男の言葉に、女も同じ様に顔を曇らせる。
それが誰のことでどんなことかは明らかではないが、二人は未来を案じるように静かに願う。
「あいつなら大丈夫だ」
「えぇ」
お互いに手を繋ぎ、男と女は目を瞑る。
この神王である男女が、何を願って何が起こると思っているかは分からないが、その『運命』に終結が訪れるのは、まだまだ先の話である。
これで、ここからまた少し日常パートに入ります。
おまけ
【もしもシリーズ】
もし、ゲルマが起きていたら
「早く帰りたい.......」
(ふふふ、まさか誰も私が寝た不利をしているとは思わないでしょう。タイミングが来たら皆殺しです)
「いやー、自分が吹き飛ばした跡を眺めてたらつい夢中になっちまったぜー」
(ん?この声は【破壊神】)
「てめー!!さっきはよくもやってくれやがったなれ!!」
「これ以上面倒事は止めろぉ!!」
(........起きるの止めようかな)
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