逆恨みもいいところだな
歪んだ空間から現れたゲルマに一同は驚愕の顔を表した。
あいつ、俺が倒して天使に連行されたのは知ってたが、まさか【無限牢獄】の中にいたのか。
脱走者がゲルマと分かって驚いた俺だが、それと同時に今置かれてる自分達の状況の不味さに気づいた。
不味いな、今俺は渾身の一撃の反動のせいでまだ後五分は動けない。
スカラも俺との戦いで元気そうにはしてるが、既に満身創痍だ。
まともに動けるのはリーナとサラだが、二人じゃゲルマに勝てる確率は低い。
このままゲルマがこっちに来て暴れるつもりなら、間違いなく全滅させられる。
(どうする.......)
緊張な面持ちでゲルマを見つめていると、俺の顔を見て察したのか、ゲルマは不適な笑みを浮かべた。
「ふふふ、そんな顔をしなくても、今はなにもしませんよ。こっちも見ての通りボロボロなのでね」
空間の向こう側にいるゲルマは自分の体を見回しながら言う。
こいつの言う通り、ゲルマの見た目はまるで死闘でも繰り広げてきた後のようにボロボロだ。
【無限牢獄】から脱出するときに酷使し過ぎたのだろうか。
ゲルマを見ながら俺は考察していると、スカラがゲルマを見て大きな声をあげた。
「あー!?お前!!」
ゲルマを指差しながら大きな声を出すスカラに、ゲルマ何事かとスカラの方を向いた。
すると、面識があるのかゲルマの方も驚きの声をあげる。
「あ、貴女は!!【破壊神】!?」
「お前ゲルマ!!よくもあん時は逃げてくれたな!!」
仮面で見えないが驚いた顔をしているであろうゲルマに、スカラは俺との戦いを忘れいきり立つ。
スカラを見て驚いたゲルマだが、冷静になろうと軽く咳払いをし、気持ちを落ち着かせた。
「まさか、貴女もここにいるとは。ですが、まぁいいです。今となっては貴女など新たな力を得た私の敵ではない」
「あんだと!?」
「力?」
ゲルマに煽られ憤慨するスカラだが、今のゲルマの言葉に俺は気になること言葉が聞こえた。
「そう、私は力を得たのです。あの地獄から脱し、何者にも邪魔されない強い力を」
そう言うと、ゲルマはまた不適に笑う。
どんな力を得たかは分からないが、この自信だ。
きっととんでもない力なんだろう。
余裕とも言えるゲルマの様子に、俺は無言のまま顔をしかめると、ゲルマは途端に笑うのを止めた。
「といっても、それを披露するのはまだ少し先になりますが」
残念そうにゲルマは言うと、さっきから黙っていたサラは強気な姿勢でゲルマを問い詰めた。
「あんた!あの【無限牢獄】からどうやって出てきたの!?あそこは簡単に出られる場所じゃないのよ!!」
スカラもそうだが、神相手でも動じないサラは強気な声でゲルマに聞くと、ゲルマはやれやれといった感じで首を横に振った。
「そんなことわざわざ応えるわけないでしょ。何故自ら情報を漏洩させる真似をしなくてはならないんだか」
「何ですって!?」
ばかばかしいとばかりに言うゲルマの態度にサラは怒りの形相をする。
まぁ、流石に応えるわけがないか。
「それで、いきなり来て何の用だ。まさか、わざわざ挨拶に来たなんてわけないんだろ?」
本題に入ろうと俺はゲルマに聞くと、ゲルマはふふっと仮面の内側に笑みを作る。
「えぇ、そうです。でなければこんな通信系の魔法なんて使いませんから。といっても、挨拶も目的の一つですけど」
軽く口を挟んだ後、ゲルマは少し黙り本題を切り出した。
「今日より、人族の男よ、いや、神谷夜兎。今ここに私は今一度この世界に闇を訪れされることを宣言します」
ゲルマの宣言を聞いて俺は思い出した。
そういえば、こいつ世界が闇に包まれた世界を創るとかなんとか言ってたな。
まだ諦めてなかったのか。
「それにあたって、先ずは貴方に宣戦布告しに来たのですよ」
「なんで俺に言う必要があるんだよ」
「どのみち貴方は私の理想郷を創るのには邪魔な存在です。初めの内に潰さなければいけません。それに、あの時の屈辱、神である私が神でもないただの一世界の生物に敗れたことが、我慢ならない。だから不意打ちなんて真似はせず、堂々とこうして挨拶に来たんです」
仮面のせいで顔つきは一切分からないが、この先程の抑揚のある笑いを含んだ声とは違い、冷酷で、怒りに満ちている。
何か勝手に恨まれているようだが、正直逆恨みもいいところだ。
そんなん忘れてとっとと他の世界にでも行けばいいものを。
面倒なことをしてくれるな。
口には出さないが、俺は内心ため息しか出なかった。
「そして、都合よく【破壊神】も一緒にいるようですので、ついでに貴女もあの時の雪辱を晴らさせて頂きます」
「やれるもんならやってみろ!!なんなら今すぐそっから出て来やがれ!!」
ついでに標的にされたスカラは喧嘩上等といった感じでゲルマに言うが、そんな挑発にゲルマは乗る筈もなく面倒とばかりに息を吐く。
「やれやれ、だから今日は挨拶だけと言っているでしょう。それにこれは通信系の魔法であって移動は出来ません。これだから単細胞は面倒だ」
「あぁ!?誰が単細胞だ!!」
ゲルマの煽りにスカラは怒りながらギャーギャーと騒ぐ。
そこに関しては俺も同意だが、今はそんなことを言っている場合ではない。
騒ぐスカラを無視し、ゲルマは俺に向かって別れを告げた。
「では、私はこれにて失礼します。神谷夜兎、私の傷が戻り次第直ぐに貴方を殺しに行くので、精々準備をしながら待っていてください。ついでに【破壊神】さんもーーーーーーーでは、さようなら」
その瞬間、空間の中のゲルマは消え、歪んでいた空間は徐々に元に戻り、気がつけばそこには何も残らなかった。
ゲルマが消えた後には、辺りは一瞬の静けさが漂ったが、それはスカラの怒りの咆哮によって簡単に打ち消された。
「あの野郎ただじゃおかねぇぇぇぇぇ!!」
怒りに任せながらスカラは吠える。
吠えるスカラとは対照的に俺は少し考え込んだ。
さて、これからどうするか。
ゲルマは傷が消えれば俺のところに来ると言っていた。
なら、その前にゲルマを倒せばいいんだが、今あいつが何処にいるかなんて分からない。
どうにか探せればなんとかなるんだがなぁ。
俺はどうしたもんかと頭を働かせていると、リーナが俺に意見を求めてきた。
「どうする、神谷夜兎。このままゲルマを迎え撃つつもりか」
「いや、それよりもあいつが手負いの状態で倒すのがいいんだが、あいつの居場所って分かるか?」
「それは分からないわ」
俺は考えながらリーナに聞くと、リーナとは別の方向から答えが返ってきた。
見ると、いつの間にかサラが俺の前に歩いてきていた。
「ゲルマはここに来る際行方を眩ませて来ている。追えたのはこの世界に来たってことだけで誰もあいつの居場所を追えなかったのよ」
サラの説明に俺は「そうか」とだけ言って再び考え込む。
居場所が分からないんじゃあなー。
どうにかしようと俺は考え抜いていると、ふとサラを見てまだお礼を言っていないことに気づいた。
「そういやサラ、今更だがさっきは助かった。ありがとうな」
「本当に今更ね.........」
俺の言葉を受けてサラはそう言うと、僅かに微笑んだ。
「まぁいいわ。これで貸しは返したからね」
「貸し?」
「あのままだったら、あんた確実に死んでたわよ」
サラに言われ、俺は「あー」っと思い出す。
そういや言ってたな、そんなこと。
あれに関してはそこまで気にしてなかった俺は、サラの妙な律儀さに少しおかしく思えていると、リーナが話を戻した。
「それで、どうするつもりなんだ?場所が分からないんじゃ倒しに行けないぞ」
難しい顔をするリーナに俺はそうだなーっと頭を捻る。
すると、一つの考えが頭をよぎった。
「出来るかもしれない」
「なに?」
「え、本当?」
思わず呟いた俺の言葉に、リーナとサラは食いついた。
思い付いた俺は、自分の手を見ながらギュッと握る。
よし、もう体は動くな。
これならスキルが使える。
もう反動が解け、スキルが使えるのを確認し、俺は集中するため目を瞑った。
【空間魔法(効果範囲 特大)】は指定した空間の詳細を知ることが出来る。
範囲が特大になったことで、その力は今や地球全体に及ぶ。
それを使えば、こことは違う異世界の人物であるゲルマなんて丸分かりだ。
俺は意識を集中させ、【空間魔法(効果範囲 特大)】を地球全体に広がらせる。
「.........いた」
一つだけ普通の人とは明らかに違う魔力反応がある。
しかも、どこかの国ではなく、無人島だ。
絶対ここにゲルマがいる。
「見つけたのか?」
「あぁ、あいつの場所が分かったぞ」
「おい!!あの野郎の場所が分かるのか!!?」
すると、さっきまで向こうで吠えていたスカラが俺の話を聞いて詰め寄ってきた。
こういう時は地獄耳だな、こいつ。
いきなり至近距離まで詰め寄られ俺はおぉっと顔を引かせて驚いたが、スカラにはそんなこと関係なかった。
「あ、あぁ、そうだ」
「ならとっとと行くぞ!!あいつは私がぶっ飛ばす!!」
さっきの満身創痍な体はどうしたんだろうか。
俺の襟を掴みながら、ガンを飛ばすようにスカラは言う。
今にも恐喝でもされそうな絵面だな。
「分かった。分かったから手を離せ。リーナ、サラ、俺の肩を掴め。転移する」
「あぁ」
「分かったわ」
俺に言われ、リーナとサラは俺の肩を掴んだ。
ついでにスカラの肩を触り、転移の準備を整える。
「それじゃあ、行くぞ」
そう言って、俺はゲルマがいるところまで転移した。
おまけ
【もしも】
もし、ゲルマが通信先を間違えたら
女子風呂
「お久しぶりですね。人族の男よ」
「きゃー!!痴漢よー!!」
「覗きー!!」
「あれ?あ、間違えてしまった!!」
「いいから出てってよ!!」
男風呂
「お久しぶりですね。人族の男よ」
「な、なんだ!?」
「うお!!の、覗きか!!」
「あ、間違えてたか」
「ち、ちか「失礼しましたー」」
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