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何か聞き覚えある声なんですけど

「サラ?」



 天使の姿で颯爽と現れたサラ。

 羽をバサッと広げ優雅に降り立ったその姿に俺とスカラは一瞬目を奪われたが、スカラはキッとサラを睨んだ。



「天使ごときが今更何のようだ」



 いいところで水を刺されたスカラは機嫌悪そうに言うが、そんなスカラを見ても動じずサラは涼しい顔をしている。

 度胸があるのかよく分からないが、俺とスカラの真ん中に降りたサラは静かに用件を告げた。



「勝負はここまでです。緊急事態が発生しました」

「緊急事態?」



 緊急事態と聞いて、俺はサラの方を向く。

 緊急事態の内容に俺は気になったが、水を刺されたスカラは聞く耳を持たなかった。



「だから、どうした!今いいところなんだ!!邪魔すんじゃねぇ!!」

「神王様との制約を破るつもりですか?」



 関係ないとばかり言うスカラだったが、サラに神王の名前を出され、「うっ」っと口ごもった。 

 神王との制約?というか、緊急事態?

 何やらいきなりの事で、俺はどういう状況か理解できないでいた。



「いったいどうなってるんだ?」

「脱走者が出たんだ」



 状況が呑み込めず、俺は首を傾げていると、俺の疑問に応えるように後ろから声が聞こえた。

 後ろを振り向くと、そこには難しい顔をするリーナがこちらに向かって歩いてきている。

 途中サラと合流でもしたんだろうか。

 事情を知ってそうな顔だ。


 

「リーナか」

「随分と暴れていたようだが、大丈夫だったか?特に先程の事とか」



 来て早々リーナは俺のことを心配してきたが、正直そこには触れてほしくはなかった。

 しかも、先程の事って、完全に見てたな、こいつ。

 リーナに言われ、俺はさっきの自分を思いだし、顔を暗くさせた。



「あれは忘れてくれ。思い出したくない......」

「そ、そうか?あれはあれで悪くないと思うぞ。普段とは違う貴様で。あの、ほら、何か新鮮だった」



 落ち込む俺にリーナは若干苦笑い気味にフォローを入れようとしてくれるが、その優しさが逆に痛い。

 笑ってくれてた方がいっそ清々しいな。

 段々心が暗くなってきた俺は、思い出したくないばかりに手で顔を覆う。



「そ、そんな落ち込むことはないぞ。誰にだって叫びたい時くらいはあるしな」

「もう止めてくれ。心が痛い.......」



 不器用過ぎるリーナの励ましが俺の心に追い討ちをかける。

 あー、動ければ今すぐ何処かに行きたい。   そして、穴にでも埋まりたい。

 


(もうあんなスキル絶対使わない......)



 羞恥心に駆られながら、俺は心の内に固く決意する。

 渾身の一撃(フルブラスト)のせいで動けない俺は、リーナの不器用なまでの励ましに羞恥心を更に煽られていると、サラはスカラの説得に難航していた。



「そもそも、制約の中では『多少なら世界を破壊するこを許す』となっていた筈です。こちらで決めた一定範囲以上の破壊を行えば強制的に中止にさせる。そうでしたよね?」



 少し強めな口調をしながら、サラはスカラに問い質す。

 確かに、これはやり過ぎたよな。

 俺は周りを見てこれまでの戦いを思い返しながら思う。

 山を一つ半壊させ、木は何本も薙ぎ倒し、一部が消滅している。



 多少俺も壊しているところがあるが、確かにこれはやり過ぎたかもしれん。  

 サラの言うことに俺はそう思っていると、スカラは認めないのか反抗的に応えた。



「私からしたらまだ全然壊してないだろ!」

「いや、何処がだよ」


  

 周りを見てみろ周りを。 

 ここら一帯半壊してるだろ。

 これを見てどこが全然壊してないように見えるんだよ。

 自信満々に言うスカラに俺はそう思ったが、リーナは逆に「あー」っと納得したようは声を出す。



「確かにそれもそうだな」

「え?そうなのか」

「スカラ様はよく神王様からの命令で堕神の捕獲に行ってるんだが、その時に約六割の確率で堕神と一緒に世界を破壊していく。そう考えると確かに全然壊されていないな」



 リーナからそう聞いて、俺はスカラを見て「うわー......」っと顔を引かせる。

 六割ってほぼ半分の確率で世界破壊するのかよあいつ。

 しかも、堕神もまとめてとか。

 犯罪者より犯罪犯してる気がする。



「本当、よくクビにならないな」

「ならないではなく、出来ないの間違いだけどな。まぁそれに、六割と言ってもスカラ様が行くところはほぼ崩壊した世界だからな。壊してもそこまで問題にならない」



 ちゃんとそこは狙ってやってるんだな。

 でも、考えてみれば当然か。

 じゃなきゃ、崩壊してない世界まで破壊されてしまう。

 リーナの説明を聞いてスカラの言うことも一理あるなと思うが、それでもサラは食い下がらなかった。



「例えそうであっても今は緊急事態なんです!勝負は即刻中止とさせて頂きます!!」

「あぁ!?ふざけんな!!まだ勝負は終わっちゃいねぇ!!」


  

 最初静かに始まった説得も段々と過激になり、サラとスカラはギャーギャーと声を荒げながら口論をしていく。

 端から見ればただの口喧嘩に思えるが、まだまだ終わりそうにないな。

 このまま十分経って動けるようになればいいんだが。

 


(頑張ってくれ、サラ) 



 このまま上手く時間を稼いでくれ。

 動けないが心の中で俺はサラにエールを送る。 すると、ずっとサラとスカラの口論を観察してか、俺は少し凄いと思ったところがあった。

 


「にしても、凄いなサラの奴。スカラ相手にあんな態度を取るとは」



 スカラは【破壊神】という異名で周りから恐れられている。

 あのリーナでさえもスカラの名前を出して動揺していたというのに、よくもまぁあんな度胸があるなと思う。

 サラを見て俺は感嘆すると、リーナが関心気味に言った。

 


「サラは私達天使の中でも肝が据わっているで有名でな。たまにこういうことも任されるんだ」



 確かにあいつ初めて会った時も気が強かったな。

 俺との力の差を前にしても事情を聞くまで魔法陣破壊するの許さなかったし。

 リーナの言葉に俺は共感を覚えた。



「絶対まだ終わらせねぇ!!」

「だーかーらー!!緊急事態なんだってば!!」



 未だ続くサラとスカラの口論。

 どんどん過激さを増していき、最早サラは神を前に敬意すら払っていない。

 そういえば、緊急事態ってなんのことなんだ?

 リーナの不器用なフォローと、サラの度胸のある口論のお陰ですっかり忘れていた。



「なぁ、リーナ。緊急事態って何があったんだ?脱走がどうのとか言ってたが」



 すると、俺の言葉を聞いて思い出したのか、リーナは緊急事態について話し出した。



「実は、天界にある【無限牢獄】から脱走者が出たんだ」

「【無限牢獄】?」



 また何か物騒な名前だな。

 名前を聞いて第一に俺はそう思った。   



「【無限牢獄】は数ある囚人、主に堕神などを処罰する場所だ。そこに入った者は二度と出られることなく、無限の苦痛を味わうことになる」

「その【無限牢獄】ってところから逃げ出した奴がいるってことか?」

「そういうことだ。どうやって出たかは分からないが、その脱走者はたまたまこの世界に逃げて来たらしいんだ」  



 リーナの説明を聞いて、俺は少し難しい顔をする。

 【無限牢獄】。そんなところから脱走してくる奴ってことは、余程の極悪人なんだろうな。

 しかも、寄りによって何でここに逃げ込んでくるんだ。

 運が悪いにも程があるだろ。



「全く、今日はついてないな......」



 一人ため息混じりに俺は呟く。

 今日というか、ここ夏休みに入ってからろくなことがない。  

 どうしてこう、運が悪いのだろうか、俺は。

 まだまだ終わらない厄介事に嫌気が差すと、リーナは更なる情報を付け加えた。



「しかも、その脱走者はただの脱走者ではない」 


  

 神妙な顔つきでリーナは気になることを口にする。

 


「どういうことだ?」

「聞いて驚くな。脱走した奴の名前はーーーーーー」



 その瞬間、リーナその名前を口に出そうとした時、突如聞いたことのある声が辺りに響いた。



「ーーーーーーお久しぶりですね。人族の男よ」



 頭の中で響くようにして聞こえるその声は、俺だけでなくリーナやスカラ達にも聞こえていたようで、全員話を止め辺りを見回す。

 辺りには誰もいない。

 【気配察知】にも特に反応もない。



 この不思議と聞き覚えのある声に、俺は誰だっけと記憶の中を探していたが、次の瞬間その正体が分かった。



「会いたかったですよ。あなたに復讐出来る日をどれだけ待ちわびていたか」



 その声が聞こえたと同時に、目の前の上空が歪み始め、捻れるように一つの穴が生まれた。

 その穴の中からは、一人の男が顔を出し、俺に向かって語りかける。



「お前は.......」

  


 その顔を見た瞬間、俺はこの声が誰であるか直ぐに思い出した。

 見た目はボロく仮面にはヒビが入っているが、その姿はかつて堕神となってこの世界に逃げ込んできた元【増悪神】ーーーーーーゲルマだ。

 

おまけ


【無限牢獄】



「【無限牢獄】って無限の苦痛が与えられるんだよな?」

「あぁ、そこに入った者は死ぬことなく、その罪が消えるまで永遠に暗闇の中で苦痛を味わうことになる」

「それはやばいな」 

「やばいなんてもんじゃない。そうなるくらいならと自殺する奴までいるくらいだ」

「だったら、スカラに間違って殺される奴って結構幸運なんじゃないか?」

「..........確かにそうだな」



ーーーーーーーーーーーーー



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