常識破りな二人
夜兎が気絶してから直ぐの事、リーナは夜兎の頭を膝に乗せ、地面に座り木にもたれ掛かっていた。
(これが、膝枕というやつか.......)
初めての膝枕にリーナは少しドキドキしている。
前に同じことをさやがやっていて、聞けば夏蓮もやったことがあると聞いたのでリーナもやってみたが、これは何とも言いがたい感じがすると、リーナは思った。
(お、思ったより、近いな......)
顔を横にしているが、意外と近い距離感にリーナは緊張しながらも、夜兎の顔をまじまじと見つめる。
森の中で木にもたれ掛かりながら一人の男を抱える天使。
そこに一筋の光が差し込むそれは、さながら有名な絵画にでもありそうだ。
そんな綺麗な一枚絵を飾るシチュエーションではあるが、当の本人であるリーナは今はそれどころではない。
(な、撫でてみても大丈夫だろうか.....)
目の前の夜兎に集中し過ぎて、周りが見えていないのだから。
気持ち良さそうに寝息を立てる夜兎を見て魔が差したのか、リーナは変な欲求に駆られる。
気絶してるのか疑いたくなる程安らかな表情をしている夜兎に、やがて欲に負けたリーナは夜兎に向かって手を伸ばし始めた。
「す、少しだけ......」
そーっとゆっくり手を伸ばし、リーナの指先が夜兎の髪の毛に触れる。
触れる瞬間、少し怯えるように手をビクッとさせたが、リーナは夜兎の頭に手を置き、頭を優しく撫でる。
その感触は新鮮なもので、初めての動物を触る様にリーナは「おぉ....」っと感動にも似た声をあげ、目を輝かせた。
「意外にもサラサラしてるな」
ゆっくりと頭を撫でるリーナは、サラサラな夜兎の髪を体感していると、次第にふふっと頬を緩ませる。
これが、あんな力を持つ人間とは到底思えんな。
気絶する夜兎の顔を見て、リーナは思う。
これだけ見ればただの青年にしか見えない夜兎だが、中身は神にも近い実力を持つ。
普通ならそうは見えないだろうな。
(こいつには、色々と驚かされてばかりだ)
初めて会ったときはお互い敵同士だったのに、今ではお弁当を一緒に食べ、一緒に海にまで遊びにいく程の仲になっていた。
こいつのやること成すとこ全てが驚きの連続で、自分の中の常識を何回覆されたことか。
「今回も何をしでかすのか」
少し困ったような、柔らかい笑みを浮かべながらリーナは夜兎の頭を撫で続ける。
何をするのかは分からないが、きっと自分の想像がつかないような事をするのだろう。
(さっきはああ言ったが、こいつなら勝てるかもしれないな)
これまでの経験から、リーナはそう思えてくる。
スカラは常識破りな相手だが、夜兎もまた常識破りな人物だ。
常識に囚われないもの同士の戦いなど、誰も予測は出来ない。
きっと夜兎ならやってくれるだろう。
そう思うと少し気持ちが楽になってきたのか、リーナは更に夜兎の頭を堪能する。
(しかしながら、これは癖になりそうだな.....)
サラサラな夜兎の髪の毛の感触に気持ち良さそうにリーナは撫で続けると、やり過ぎたのか夜兎はもぞもぞと体を動かしてきた。
「んぅぅ........」
(っ!?)
いきなりもぞもぞと動かれ、リーナは吃驚して咄嗟に手を退ける。
すると、もぞもぞと動いていた夜兎は内側に寝返りを打ち、またそのまま動かなくなった。
(こ、これは.......!?)
内側に寝返りを打たれたことで、夜兎の顔はリーナのお腹の方を向いている。
そのお陰で夜兎の鼻息が直に当たり、よりよく顔が見えるようになった。
外側だけでも満足しているのに、今のリーナには刺激が強すぎた。
(か、顔がよく見えるな......)
少し緊張しながら頬を紅く染め、リーナは夜兎の顔を観察する。
暫くしてから大分慣れてきたのか、リーナはまた夜兎の頭を撫でようと手を伸ばすが、夜兎の無意識な追撃はこれで終わりではなかった。
「んぅ.......」
「ひゃい!?」
内側を向いていた夜兎は、突然リーナのお腹に抱きつき、顔をギュッと埋め出した。
お腹から感じる熱、圧力、息遣い。
いきなり顔を押し付けられ、リーナは小声で変な声を出しながら、両手を上にあげる。
(な、なんだ!?いきなり!?)
夜兎が起きるため大声はあげられず、リーナは心の中で叫ぶ。
何でこんな状態になるんだ!?
恥ずかしさや微妙な嬉しさが混ざり合い、リーナの思考は停止し、顔を真っ赤にする。
(ち、近いというか、息が......)
お腹に顔を押し付けられたせいで、衣服を抜けて夜兎の呼吸が直接感じる。
(ど、どうしたら.......)
あたふたと辺りをキョロキョロするリーナだが、膝の上に夜兎がいるせいで身動きが取れない。
手を上にあげて固まったまま、リーナはどうしようもなく途方にくれていると、ふと自分に抱きついて落ち着く姿を見せる夜兎が目に入る。
(こ、これはこれで悪くは......って何言ってるんだ私は!?)
気持ち良さそうな夜兎を見て、リーナはそんな気持ちになったが、ないないとばかりに頭を振った。
(何故こうなったんだ.......)
離すに離せず、どうしようもないと感じたリーナは、顔を紅くさせながら空を見上げる。
その時、夜兎の口から微かに「抱き枕........」と呟いていたが、思考が停止したリーナには気づく筈もなかった。
ーーーーーーーーーーーーーーー
スキルを創って目が覚めてから先ず感じたのは、地面が少し柔らかかったということだ。
「んぁ?」
目を開けるとそこは何処かで見たような布だった。
何だこれ?どっかで見たような......。
半目になりながら俺はじーっと見つめていると、その布の持ち主が見かねたのか声をあげた。
「いつまで、そうしているつもりなんだ」
いきなり上から声が聞こえ、俺は目線を上にあげると、そこには何やら不機嫌そうな顔をしたリーナがいた。
何であいつ怒ってるんだ?
不機嫌そうなリーナを見て俺は不思議に思ったが、取り敢えず起き上がろうと顔を上げた。
「悪い。スカラの方はどうだ?」
「まだ気付いてはいない。それに音の大きさからしてまだ遠くにも行ってないだろう」
今の状況をリーナから聞いて、俺は「そうか」と言ってスカラのいる方を見つめたが、ふとリーナの顔が紅いことに気付いた。
「リーナ、お前体調でも悪いのか?顔が赤いぞ」
そう言って俺は座ったままリーナに顔を近づけると、リーナは途端に慌てながら首を横に振った。
「な、何でもない!気にするな!」
「いや、だがこんなに赤くーーーー」
「何でもないんだ!!」
鬼気迫る勢いで拒否するリーナに、俺は言いくるめられ「そ、そうか」と言って話を終わらせる。
微かにリーナから「全く、貴様のせいで思い出してしまう.....」という声も聞こえたが、本当にどういうことなんだろうか。
よく理由は分からんが、まぁその様子なら大丈夫か。
そう思い俺は立ち上がると、早速造ったスキルを見てみた。
【テンション魔法】はその名の通り人の感情の振り幅を操る魔法。
気分を上げたり下げたりでき、それだけ聞けば大したことないように聞こえるが、この魔法はそれだけではない。
この魔法、実はテンションを上げるにつれて技の威力を増すことが出来る。
やる気が出れば実力以上の力を発揮できるというが、そういうことなんだろうか。
そして、テンションを上げれば威力が上がるなら、またその逆もある。
テンションを下げれば、下げるほど技の威力を軽減させることができる。
気分も下がれば出来ることも出来ないというが、これもそういうことなんだろうか。
確かスカラのスキルは感情に左右されやすい。
これを使ってスカラのスキルを封じろとでも言いたいんだろうか。
俺は一通り【テンション魔法】の使い方を覚えると、次に気になっていたものに目を移した。
スキル創造(制限付き)
造りたいスキルを念じれば造ることが出来る。その分造る物に応じて魔力消費が高く、魔法以外のを造ると一度使えば消滅してしまう。
つまり元の【魔法創造】に少し加わった程度か。
魔法はいつも通り造れるが、そこに直ぐに消えるがスキルも造れるようになったと。
ただ使えば消えるため造るときは慎重にならなければいけないな。
魔力消費が激しいから連発は出来ないし。
とまぁ、見たところこんなところか。
一頻りスキルも確認し終わり、俺は先ず魔力を回復させようと、未だ地面に座っているリーナに頼み込んだ。
「リーナ、悪いがまた魔力を分けてくれ。スキルを造ったせいで魔力が0なんだ」
そう言って頼み込む俺に、ぼうっとしていたのか一拍子遅れてリーナは気付き、慌てて立ち上がった。
「ん?な、なんだ!?どうかしたのか!?」
「いや、だから魔力がないから分けて欲しいって言ったんだが..........お前本当に大丈夫か?」
心配そうに見つめる俺に対し、リーナは恥ずかしげに目を逸らすと、懐から何やら瓶を取り出した。
「な、ならこれをやるから飲め」
「なんだこれ?」
リーナから渡された瓶を、俺は受け取る。
中は緑色の液体で見た目毒みたいな感じがするが、俺はこれがなんなのか直ぐに分かった。
「これ、ポーションか?」
「正確には魔力回復薬だ。それを飲めば全回復するぞ」
「こんなこともあろうかと、持ってきておいた」と言うリーナに、俺は準備がいいなと思いながら、魔力回復薬を口にする。
味は大して不味くなく、栄養材を飲んでる気分だ。
一口で飲み終わり、俺は身体に魔力が戻ったのを確認する。
「よし、これで行けるな」
「行くのか」
魔力が戻ってこれで戦えるというところで、リーナは俺に言う。
「あぁ、流石にあれをいつまでも放っておくわけにはいかないしな」
今でも遠くから破壊音が聞こえる。
いつまでもここにいるわけにはいかない。
俺はそう言うと、現状を理解しているリーナは潔く俺を見送った。
「気を付けるんだぞ。今のスカラ様は気が立っているかもしれないからな」
「分かった」
リーナからの忠告を聞き入れ、俺はいざ行こうと歩き出そうとするが、何か忘れていたかのように俺は足を止めリーナの方を向いた。
「リーナ、さっきのやつもう一個ないか?」
「魔力回復薬か?それならあるが、どうする気なのだ?」
「ちょっと思い付いたのがあってな」
俺の言うことにリーナは何だろうと思い首を傾げるが、そんなリーナに対し、俺は面白そうとばかりに口許をつりあげる。
おまけ
【髪の毛】
「貴様の髪の毛って意外と触り心地がいいんだな」「なんの話だ?」
「い、いや、何でもない」
「そうか」
「.......」
「.......」
「......なぁ」
「なんだ?」
「さっきから、俺の頭に向かっている手を退けてくれ」
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