意外にもこれって実は世界の危機でした
家に着き買い物袋を母さんに渡してから、俺は早速リーナに電話を掛ける為自分の部屋に帰った。
「ふー、涼しい」
部屋の中は出ていく前にクーラーを付けていた為、涼しくなっている。
あー、やっぱ涼しい部屋はいいなぁ。
暑い空間から涼しい空間に入るこの瞬間のひんやりした感じも悪くないが、やっぱりこの部屋からは出たくないな。
少しの間クーラーの涼しさを堪能していると、メルがさっきの確認を取ってきた。
「マスター、リーナ様に電話は掛けないのですか?」
「ん?あぁ、そうだったな。掛けるか」
メルに言われ、クーラーの涼しさの前に一瞬忘れていた俺は携帯を取り出し、リーナの番号に掛けた。
ぷるるるるる、ぷるるるるるーーーーー
携帯を耳に当てリーナが出るのを待つが、電話に出る気配がない。
気付いてないのだろうか?
暫くしても出てこないので、一度掛け直そうかと思い電話を耳から離した直後、呼び出し音が消え代わりにリーナの声が聞こえた。
『も、もしもし!』
電話からは、何故か口調がおぼつかないリーナの声が聞こえる。
どうかしたのだろうか、いつもより声が上ずっている。
少し不思議に思った俺だが、構わず話を続けた。
「もしもし、俺だけど。今ちょっと大丈夫か?何か出るの遅かったけど」
『い、いや、大丈夫だ。まだ少しこの携帯の操作に慣れてないだけだ』
そういえば、リーナのいる天界って携帯なかったな。
それなら仕方ないか。
リーナの言葉に俺は思い出し、納得する。
すると、理由はそれだけでないようで、リーナは言いづらそうに言った。
『そ、それに、この電話とやらで話すのも初めてだから、少し戸惑ってな』
僅かばかりの恥じらいを感じさせる声でリーナは言う。
そういえば、確かにリーナが電話で話すのを見たことなかったな。
普段は学校にいれば話せるし、態々電話をしなくてをメールをすればよかったりする。
電話をする機会なんてそうそうなかったんだろう。
そんなどうしたらいいか分からないとばかりな雰囲気を醸し出すリーナに、俺は一つアドバイスを送った。
「そんな緊張する必要ないぞ。通話ならお前だってしたことあるだろ?それが携帯でやるってだけだ。そんなに気負うなって」
『........言われてみれば、それもそうだな』
俺のアドバイスにリーナは納得したのか、やがて冷静さを取り戻した。
軽く咳払いをして、いつもの調子に戻ったリーナは用件について聞いてくる。
『それで、急に電話をしてきていったい何の用なんだ?』
「あー、それなんだけどなーーーーー」
用件を聞くリーナに俺は少し間を空け、聞きたい人物の名を口にした。
「ーーーーーー突然だけど、スカラって神を知ってるか?」
『ガシャーンッ!!』
俺がその名のを口にしたと同時に、電話の向こうで何かが割れる音が鳴り響いた。
あれ?いったいどうしたんだ?
いきなり聞こえだした破壊音に俺は首を傾げると、先程とは違う意味で緊張したリーナの声が聞こえてきた。
『き、貴様、今なんと言った.......』
「いや、だからスカラって神を知ってるかって聞いたんだが」
『その名前を何処で聞いた!?』
スカラと聞いた途端、鬼気迫る様子でリーナは叫ぶ。
何をそんなに焦ってるんだろうか。
耳元で急に叫ばれ、俺は思わず携帯から耳を遠ざけ、さっきあったことを話した。
「聞いたって言うか、本人に会ったぞ」
『会った!?今会ったと言ったか!?』
いつも通り冷静に話す俺とは違い、リーナは若干裏声になりながら仰天する。
まさか実際に会ったとは思っていなかったのか、リーナの慌て振りは尋常ではなかった。
『あ~、どうするどうする!?先ずはメトロン様に報告するか?それとも応援要請を送った方がいいのか?』
電話越しだが、電話の向こうでリーナがオロオロしてるのが手に取るように分かる。
そこまでやばい奴だったんだのか、あいつって。
この普段見られないリーナの慌て振りに俺はそんなことを思ったが、取り敢えずはリーナを落ち着かせることにした。
「おーい、リーナ。大丈夫かー?取り敢えず落ち着けー」
『え?あ、あぁ、すまない。つい取り乱した』
俺の言葉で我に帰ったのか、リーナはスーハーと深呼吸をして落ち着きを取り戻した。
平常心を取り出したところで、俺は改めてスカラについて聞いた。
「なぁ、スカラって何者なんだ?あいつは神なんだよな?」
そう聞く俺に、リーナは緊迫した雰囲気を出しながら頷いた。
『そうだ。スカラ様はメトロン様と同じ神だが、ただの神ではない』
緊迫した雰囲気そのまま、リーナは少し間を空けてから告げた。
『スカラ様はこの世に四人しかいない、肆神の一人だ』
「肆神?」
また随分と安直な名前だな。
肆神と聞いて俺は第一にそう思った。
『肆神とは、神の中の王、神王様の次に地位の高い神のことだ。神は基本、神王様、肆神、神と三つの位に分けられるんだが、スカラ様はその肆神の中でも上位の強さを持っている』
まじかよ、やばい奴とは思っていたが、まさかそこまでやばいとは。
リーナの説明を聞いて、俺は軽く驚く。
『それに加え、スカラ様は少し特殊な方でな』
「特殊?何が特殊なんだ?」
『神は基本一人につき、一つ以上の世界を管理することが義務付けられているが、スカラ様に管理する世界はない』
リーナが言うスカラの特殊性に俺は不思議に思う。
前にも聞いたが、神は基本一つの世界を管理をしなくてはならない。
それが神の主な仕事であり、義務だから。
「なんでスカラには管理する世界がないんだ?」
疑問に思い俺はリーナに聞いてみた。
きっと何か深い事情でもあるんだろうか。
そう思った俺だが、その答えは至極単純で分かりやすいものだった。
『スカラ様に管理なんて無理だからだ』
そのリーナの答えに、俺は一瞬訳が分からないと言った感じで無言になったが、構わずリーナは話を続ける。
『あの御方の神名は【破壊神】。その名の通り破壊が得意なスカラ様には管理は向いてないんだ。性格に難があるせいで、過去に何回世界を間違えて崩壊させかけたことか......』
呆れ気味に、ため息をつきながら、リーナは言う。
しかも、小声で『しかも理由がイライラしてつい、とか.....』と聞こえ、そちらの苦労さに俺は苦笑いをし、同時に理解した。
世界崩壊させちゃ管理なんて出来る筈がないもんな。
「よくそんな奴が神なんてやれるな」
もうそれって堕神扱いされてもおかしくないレベルな気がする。
しかも、故意じゃないところがまた嫌な所だな。
いつかの堕神になったゲルマより厄介そうだ。
『あれでも実力はかなりのものだからな。それに管理しない代わりに別の仕事がある。適材適所というやつだ』
そうでもなければやってられないだろうな。
それに世界を崩壊させる力など野放しにはしていられない。
そういう意図もありそうな気がする。
「確かに、そんなの放っておいたら世界が破滅するな」
『そういうことだ』
軽くハハハと笑う俺だが、笑う声とは裏腹に背中に冷や汗を流す。
俺、そいつに喧嘩を売られたんだよな.......。
「なぁ、もしそいつに勝負を挑まれて、それから転移とかで逃げようとしたら、どうなる?」
『?そんなの機嫌を損ねてその世界に八つ当たりするだろうな?』
『それがどうかしたか?』と電話からリーナの声が聞こえてくるが、俺はそれを無視し頭を抱え天井を見上げる。
まじかー、正直勝負無視ろうと思ってたのに......。
傍迷惑過ぎる破壊神の気まぐれに俺はどうしたもんかと頭を悩ませる。
すると、俺が無言なのと、さっき出会ったと言っていたことを思い出したのか、リーナは恐る恐る聞く。
『お、おい、貴様、まさか.........』
「..........はい」
もう言わなくても分かる。
若干の震え声のリーナに静かに頷く俺。
電話からは『ハハッ......』と乾いた笑い声が聞こえ、脳裏に崩壊していく地球が想像される。
(やるしかないのか、地球の平和の為に)
ラスボスでもないのにこんな台詞を言うことになるとは、神の気まぐれとは恐ろしい。
電話越しからはリーナは現実を直視し始めたのか『うわ~』と絶望の声が聞こえる。
その気持ち分かるぞ。俺もさっきまでそんな感じだったから。
軽く絶望の声をあげるリーナに共感すると、俺はこのままではどうしようもないと思い、「やるしかないのか」と覚悟を決める。
どのみち戦うんだ。なるようになれ。
明後日に迫るスカラとの戦いに嫌気が刺しながら、俺はこれからの対策を考えるのだった。
おまけ
【修復】
「スカラの仕事ってどんなことやってるんだ?」
「基本的には堕神となった神の捕獲や、既に崩壊した世界を処理するとかだな」
「意外とまともだな」
「まぁ、それでも神の捕獲途中世界を崩壊させかけたりはしてるが」
「よくそれで世界が無事だよな」
「崩壊しかけた世界はこちらでどうにかしてるからな」
「出来るのか?」
「当然だ。崩壊した世界は全て我々が完全修復している。完全に崩壊していれば無理だがな」
「だからスカラも破壊を止めないんじゃないのか?」
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