クラスの祝勝会
100話か.........
場面は変わり、辺りが暗くなり始めた異世界の夜。
天上院輝率いる異世界組は、今一つの祝杯を挙げていた。
「それじゃあ、かんぱーい!!」
「「「かんぱーい!!!」」」
手に木製のジョッキを掲げ、中年の男は高々と叫ぶ。
その男に乗るように他の男達もジョッキを片手に歓喜の咆哮をあげる。
顔は既に出来上がっているようで、全員顔は赤く確実に酔っている。
いったい、何回目の祝杯だろうか。
この様子に天上院は苦笑いしていた。
「ははは、凄いな.......」
一応主役の身である天上院そっちのけで、男達、即ち冒険者はギルドの酒場で騒ぎ立てる。
酒はこの世界では天上院達の年齢でも飲める為、天上院達も同様に酒は飲むが、そこまで飲む気にはなれない。
少なくとも天上院はそう思っている。
ギルドの隅でチビチビと酒を飲む天上院だが、そこに見慣れた少女が天上院に声をかけた。
「天上院君」
突然声を掛けられた天上院は無意識に声のした方向に顔を向けると、そこには片方にシュシュをつけた黒髪の少女、天道美紀の姿があった。
「美紀、どうしたんだい?」
「ちょっと疲れちゃって」
酒のせいで頬をほんのり紅く染めた美紀は疲れ気味な表情をし、騒ぐ冒険者達の方を見る。
その中にはクラスの男子が何人か混ざっていて、魔法を使っての一発芸を披露し、宴会を更に盛り上げている。
「凄いね、皆」
「そうだね.....」
「よっぽど嬉しいんだよ。勝てたことが」
そう言って美紀は今日の戦いを思い出す。
召喚から半年。
とうとう天上院達の前に魔王軍の四天王と名乗る魔族が現れた。
目的は自分達魔族の敵となるだろう天上院達の始末で、王都に使役された数百匹のモンスターを率いてきたのだ。
そこで天上院達、並びに王都の冒険者達が一丸となり魔族に対抗し、数々の苦戦を強いられるものの、ついに魔族の四天王を倒すことが出来た。
これはその戦勝祝いの宴会で、見ての通り冒険者やクラスの生徒達はジョッキを片手にわいわいと騒いでいる訳だ。
「でもさぁ、あれは天上院君が四天王を倒したからモンスター達も動きが鈍くなって全部倒すことが出来たのに、その天上院君放ったらかしてどうなの.......」
主役が放ったらかしなのが気に入らないのか、美紀は不満を漏らす。
そんな自分の為に怒ってくれている美紀に、天上院は少し嬉しく思ったのか、優しい言葉で返した。
「そんなことないよ。皆が道を開いてくれたから魔族のところまで辿り着くことが出来たんだから。これは皆の勝利だ」
実際、クラスの皆や冒険者達がいなければ天上院があそこに辿り着けなかったのは事実だ。
自分は最後の一撃を入れたに過ぎない。
だから、この勝利は自分だけのものじゃない。 それを実感している天上院の言葉に美紀は分かっているのか、小さく頷く。
「まぁ、そうなんだけどね」
頷く美紀に天上院はふっと微笑み、手に持っていた酒を口に含む。
すると、隅で酒を飲む天上院と美紀の下に、今度はルリアーノが現れた。
「天上院さま~、美紀~、飲んでますか~?」
いつもは長い金髪を靡かせ優雅に振る舞う彼女だが、今は完全に酔った状態で若干呂律も回っていない。
このいつもと違う雰囲気のルリアーノに天上院は心配そうに話しかける。
「お、王女様?大丈夫ですか?」
「なにがですか~?」
心配そうに言う天上院にルリアーノは惚けるように首を傾げる。
そもそも何故王女であるルリアーノがギルドで一緒に酒を飲んでいるのかというと、それは勿論魔族との決戦に参戦していたからだ。
元々ルリアーノは魔法使いの才能を有していた実力者で、その強さは天上院達クラスにもひけをとらない。
したがって、同じ戦いを生き抜いた仲間であるからルリアーノも参加してるのだが、王女がこんなことをして本当に大丈夫なんだろうか。
完全に酒に酔いしれているルリアーノを見て、天上院はそう思う。
「ちょ、ルリ。あなたどれだけ飲んだの」
この酔ったルリアーノの様子に美紀も心配の声をかける。
普段は大人びた振る舞いをするルリアーノだが、今は目はとろんと垂れ、顔はほんのり紅く、ほんわかした雰囲気を纏っていて、普段とのギャップが凄い。
一応護衛兼監視役の騎士の人もいるが、基本見ているだけの彼等は酔ったルリアーノを見てあちゃーっといった顔をしている。
もしかして、酒に弱いのだろうか?
この異常な程に酔った様子をしているルリアーノを見て、天上院はそう感じる。
すると、酔ったルリアーノは楽しそうにふふっと微笑を浮かべながら、いきなり美紀の手を取った。
「さぁ、美紀も一緒に飲みましょう~」
「え?い、いや、私はお酒苦手だし....」
「いいから行きますよ~」
「ちょ、ちょっとそんな引っ張らないでってば!?」
「飲みましょう~」
半ば強引に手を引かれながら、美紀はルリアーノに連れていかれる。
ルリアーノに引きずられるような感じで連れてかれる美紀は、天上院に助けを求めるが、天上院は苦笑しながら美紀に手を振った。
あれに介入すれば自分も連れていかれかねない。
そう危惧した天上院は美紀を見送ることに決め、助けはでないと悟った美紀は諦めたように項垂れ素直にルリアーノについていった。
多分、この戦いで一番喜んでいるのはルリアーノだろう。
天上院はそう確信する。
当初、ルリアーノには自分達を身勝手に呼んだ罪悪感と責任があった。
自分の国の事情のせいで勝手に誘拐してしまった。
だから、責任を持って育てなければならない。
死なせてはいけない。
そんな思いがルリアーノにはあったのだろう。
実際、ダンジョンで三鷹蓮が死んだ時、一番悲しんだのはルリアーノだし、もう一度ダンジョンに行こうとしたのを止めたのも、騎士ではなく彼女だった。
そんな責任感を背負っていた彼女は、とうとう四天王の一人を倒せたことが、堪らなく嬉しいのだ。
この中で誰よりもそう思っているだろう。
その召喚した責任の荷も一つ降り、ああやってはしゃいでいるルリアーノを見て、天上院は優しく微笑んだ。
(頑張ってたな。王女様)
両手にジョッキを持ち、美紀に強引に飲ませようとするルリアーノに、天上院はそう思うが、一つだけ違和感がある。
(あれは、なんだったんだ?)
天上院がそう思ったのは、魔族の四天王と一対一で対峙した時だ。
皆の協力もあってなんとか魔族の下に辿り着けた天上院は、魔族と死闘を繰り広げていた。
使役スキルが中心の魔族だったが、四天王というだけあって自身の力も相当だった。
互いに一進一退の攻防をするなか、途中天上院は誤って体勢を崩し、魔族に隙を与えてしまった場面がある。
自分が体勢を崩したのを見て、魔族はチャンスだと思い、持っていた短剣で天上院に止めを刺しに行く。
その時、天上院は自分の死を直感した。
このままじゃやられる。
そう感じた天上院だったが、異変はこの時起きた。
体勢を崩した自分に止めを刺そうと動く魔族に、天上院は咄嗟に目を瞑ったが、体にダメージが来ない。
どうしたんだと、天上院はゆっくり目を開けると、そこには自分に刃物を突き付けたまま固まっている魔族の姿があった。
固まる魔族に天上院は目を見開いて驚いたが、日々の特訓がここで来たのか、天上院は反射的に動き魔族の心臓に剣を突き刺し、魔族はその場で倒れた。
こうして、天上院達は無事戦いに勝つことが出来た訳だが、あの不自然ともいえる魔族の行動に天上院はずっと頭の中で引っ掛かっている。
(誰かの仕業なのか?)
天上院はそう考えたが、そうだとしても、いったい誰が何のために自分に手を貸したのだろうか。
何故自分達の前に姿を現せないのか。
考えれば考えるほど訳が分からなくなる。
自分達の前に姿を現せない理由でもあるのかと天上院は考えるが、それじゃあ埒が明かない。
(.......止めよう)
一旦考えるのはよそう。
天上院は頭をふるふると横に振る。
理由はどうあれ、勝ちは勝ちだ。
今はその喜びを感じておこう。
ジョッキの中の酒をぐいっと飲み干し、天上院は頭の中の考えを捨てる。
するとその時、天上院の下に二人の酔っぱらいが近づいてきた。
「天上院く~ん」
「天上院さま~」
ルリアーノに酒を飲まされ、完全に酔った美紀とルリアーノは、若干呂律の回らない口調で天上院に声をかける。
「ふ、二人とも?どうしたんだい?そんな満面の笑みで僕の両手を掴んで」
まるで慣れた作業の様に、流れる動作で美紀とルリアーノは笑顔で天上院の両手を掴む。
突然のことに天上院は嫌な予感がしつつ、顔をひくつかせる。
「そんなところで立ってないで~、天上院君も一緒に飲もう~」
「そうですよ~、天上院さま~」
「い、いや、僕は遠慮しておこうかな.....なんて」
あははと乾いた笑みを浮かべる天上院だが、そんなので離して貰える訳もなく、天上院は二人に引きずられる様にして連れていかれる。
「さぁ、飲みましょうか~」
「今日は無礼講だもんね~」
自分の声など最初っから耳に入っていないのか、拒否すらされずに天上院は引きずられる。
これは駄目だ。美紀達に引きずられながら、天上院は諦め、がっくりと肩を落とす。
「いやー、案外楽勝だったなぁ!!」
「意外とあの魔族四天王では最弱とかだったりして!!」
途中、何処からかそんな声が聞こえ、天上院は「......まさかな」と思い聞き流す。
あれで最弱と言われたらこれから先が思いやられる。
口許に酒の入ったジョッキを押し付ける美紀とルリアーノに、天上院は対処に追われ続けながらそう思った。
異世界召喚から半年、天上院達は魔王討伐にまた新たな一歩を踏み出す。
だが、まだ彼等は知らない。
先程天上院が聞いた言葉が現実になることを。
おまけ
【二日酔い】
「うっぷ.....気持ち悪い」
「あ、頭が.....ズキズキする」
「二人ともあんなに飲むから」
「天上院君が背中擦ってくれたら治る気がする....」
「わ、私も.....」
「はいはい、分かったよ」
すりすり
「あ、それと、そのまま抱き締めてくれたらもっと治りがよくなる気がする.....」
「わ、私も...」
「それはないでしょ」
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