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朱の呪紋士  作者: メアリー=ドゥ
第三章 疫病編
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第6節:互い違い


「この地に封じられた悪龍を解き放とうとしてる奴がいる。布陣の形からどこにいる奴がそれをやろうとしてるかも大体把握はしてるが……それ以上はね。アタシは面倒事が嫌いだから、どうにかしようって気はない」

「……教えろ」


 リィルの言葉に対して、ホツマは投げやりに答えた。


「街の中心に、この街の中核になってる学園がある。悪龍招来儀布陣の中心もそこだ。うちに被害が及ぶ前にどうにかしてくれるなら、ありがたいけどね。陣の構築に合わせて、疫病も広がり始めたけど、稼ぎを蓄えないと街を離れる事も出来ない。まぁ、難しいだろうけどね」

「……何故、そう思う?」

「須安が絡む件だからさ。邪魔をすれば、奴が大義の為に動く。そうすると、悪龍の件より面倒な事になるのは間違いないからね」


 ホツマが、意味ありげな流し目をリィルに投げた。


「あんたがやりあうかい?」


 彼女同様に凍りつくような美貌を持つがその顔の左半分が火傷の痕に覆われたリィルの顔には、何の表情も浮かんでいない。


「……ティアの不調が、回復するのなら」

「やめとくのが無難さね。上手く纏まりゃ、疫病はともかくティアの不調に関しては回復する。途中で口を突っ込めば、龍脈が乱れたまま全てが台無しになるよ。一番のお勧めは、すぐにこの地を離れる事だね」


 リィルは答えなかったが、その気がないのは明白だった。


「その、疫病というのは何なんですか?」


 二人の会話が終わるのを待って白抜炙が問い掛けると、ホツマは手を差し出した。


「アタシは理由があるからあんたに刺紋は教えるが、タダで情報をほいほい渡すほどお人好しじゃない。これ以上はカネを寄越しな」


 白抜炙がリィルの顔を見ると彼が頷いたので、相場だろうと思われるカネをホツマに渡すと、ホツマは不可思議な言葉を紡いだ。


ーーーーーーーーーー


フグンカムイ ヌ イツクサマザレ

ソイ ヌ ソラカケ フプタフトゥ ゾ キタル


ウィグルダエモン ウィターリイト タツテ

ウェディゴハダシュ ゾ トズル


コーダ・カフタ ヌ シムル

フプタフトゥ ゾ サレル


ーーーーーーーーーー


「……それは、一体どのような意味のある言葉なのですか?」

「この辺りに伝わっていた、古の民の警告さ。フプタフトゥという、目に見えぬ悪魔の伝承と、その退治法。書き出してくれてやるから、意味は自分で調べる事だ。一つだけ手掛かりをやるとするなら、湿枯(シメリガラシ)という陰魔について調べれば良い、と言っておこう」


 街に普通に存在する陰魔だ。

 これ以上の質問は無駄だろうと察して、白抜炙はホツマに対して頷くだけに留めた。


「さて、じゃ、ここからがようやく本題だ。まず紋を再度刻めるようになるまで、ルフにくっついて、基礎の復習をしな。あいつの練習にもなるし丁度いい。大極紋の話はそれからだ。後、ここを訪ねる時は事前に符で連絡を寄越すんだ。アタシも暇じゃないからね」

「はい」

「来る日は出来るだけ定める事。それはルフと二人で詰めな。7つ巡りで一度、アタシが進捗を見る。きっちり出来てると思ったら、そこから本格的にアタシが見るとしよう」

「宜しくお願いいたします」


 白抜炙は礼を失さぬように頭を下げて、リィルらと一度、その場を後にした。


※※※


「湿枯。それに学園か……」


 数日後、再度アレクと接触した白抜炙は、街の調査をしているらしい彼に問われて、自分の得た情報を伝えた。

 露天の軒先の長椅子に座り、この男と肉饅頭を食んでいる事が未だに信じられない白抜炙である。


「遥か昔に、街で同じ疫病が流行った事があるらしい。その時の伝承が残ってはいるが、俺には意味がさっぱり分からない」


 ホツマから預かった書き留めの内容を口頭で伝えるが、アレクは眉根を寄せて首を横に振った。


「異国の、それも古代の言葉なんて僕には本当にさっぱりだ」

「……貴族ってのは、知識と教養を持ち合わせてるもんじゃないのか」

「はは。戦闘以外に能があれば、こんな所に飛ばされてる訳ないじゃないか」

「威張るような事じゃねーだろ」


 爽やかな笑顔で言うアレクに、白抜炙は眉根を寄せた。

 普通に物が見えるようになったは良いものの、腹の立つ相手の表情まで見られるようになって、白抜炙はティア達と旅する間は平穏だった自分の心が、以前のように苛立ちを覚えるのを感じていた。

 元々短気な気質だ。


「仲良いね」

「誰がだ」


 ヴァルが、肉饅頭を食べながらのほほんと言うのに、白抜炙はますます眉をしかめる。


「へぇ、その龍喋るのか」

「貴重な龍みたいでな。手を出したら噛み付かれるぞ」

「そんな事する訳ないじゃない」


 小龍が喋るというのは珍しい事だ。

 声は聞こえなくても白抜炙の言葉からそれを察して興味津々なアレクに一応警告すると、ヴァル本人から否定が返って来た。


「まぁほら、頭を使うのは副官任せにしといても、大事な所でしくじらなければ別に問題ないしさ」

「この間も思ったが、お前が本当に俺たちの村を滅ぼした蒼将だと、段々信じられなくなって来る」

「それは誤解だって言ったじゃない。暴走したのはスケアだよ。僕は平和主義者だ」

「抜かせ」


 これ以上話していても苛立つだけだと、白抜炙は肉饅頭の最後の一欠片を飲み込んで立ち上がった。


「俺の連れは、龍脈の乱れよりも人死にが起こる可能性の高い疫病を気にしている。調査に進展があれば教えて欲しい」

「良いけど。疫病の原因が湿枯だっていうのは有益な情報だ。どういう理由かは分からないけど、調べてみるよ。ミショナは皇国領だし、龍脈の乱れの原因が学園にあるかも、っていうのも、僕たちの得た情報と一致する。ああ、それとさ」


 雑談を続ける気なのか、立ち上がった白抜炙を気にもせずにアレクが言う。


「君、こないだあった呪紋大会って見に行った?」

「いや。娯楽だろう? 俺も、それなりにやる事が多くて暇がない」


 実際、ルフに師事して思う以上に自分の腕が錆び付いているのを感じていた白抜炙は、本格的に刻紋の腕を取り戻そうと宿に篭っていた。

 路銀の為に街の外に陰魔を狩りに行くリィルの代わりにヴァルと共にティアの護衛をしたり、ルフに指導を受けたりと、それなりに予定が詰まっている。


「そうか」

「それがどうした?」

「いいや。君なら興味があるかと思っただけだよ」

「俺は呪紋については才がない。今は腕も錆び付いている。見た所で、益がない」


 そんな白抜炙に対して意味ありげな笑みを浮かべて、アレクも立ち上がった。


「まぁ、深い意味がある訳じゃない。次に会う時は、お互いに朗報があると良いね」

「ああ」


 そうして、白抜炙はアレクと別れた。

 


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