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朱の呪紋士  作者: メアリー=ドゥ
第二章 悪龍編
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第39節:そして。

「やれやれ、失敗ですか」


 アジの死と悪龍招来儀の失敗を錆揮と共に見届けたホムが、残念そうに言った。

 彼は、フラドゥの死を知った途端に錆揮に休戦を申し出たのだ。


 日蝕は、いつの間にか晴れ、黒陽が覗いていた。

 尋常ではない長さの日蝕は、おそらくは悪龍の力によるものだったのだろう。


「ま、アジ程度ではこんなものでしょう」

「……一体お前は、何が目的なんだ?」


 錆揮の問いかけに、ホムは肩をすくめる。


「真理の探究です。言ったでしょう? ま、あえて言うなら間者とでも思っていれば良いです。雛を見届ける目の一つですよ」

「見届ける……? まさか」


 錆揮の疑問に答えるように、悪戯っぽい笑みを浮かべたホムは、しれっと姿を消そうとする。


「あの方が刻んだ君の紋も、非常に興味深かったですよ。では錆揮くん、また会う日まで」

「逃がすと思うか!」


 と、錆揮がホムを捕らえる為に手を伸ばすが。


「《土隠(ノムレット)》」


 つぶやいたホムの体が土に沈み込んで、錆揮の手は空を切った。


『はは、君はまだまだ未熟です。紋を使いこなせるようになったら、また会いましょう!』

「くっ……」


 まさか、ホムが須安に繋がる者だとは思わなかった。

 後で朱翼に報告しなければ、と思いながら眼下を見下ろすと。

 幻鐘が倒れていて、メイアが駆け寄っていた。


 赤銅は、いつの間にか消えている。


 他の皆も、朱翼の元へ集まり始めていたので、錆揮は幻鐘に近づいた。

 錆揮は様子を見て、どうやら失神しているだけだと判断すると、そのまま背負い上げた。


「ゴメン、メイア。歩ける?」

「ええ……」


 フラドゥの事が気になっているのだろう、沈んだ声で彼の遺体に一度目を向けたメイアは、少しだけ見つめた後に、振り切るように視線を逸らした。


「……好きだったの?」


 錆揮が尋ねると、メイアは首を横に振った。


「いいえ。大切な友人ではあったけど……自分でも、今の気持ちがどういうものか、分からないわ」

「……大切な人を手にかけるのは」


 錆揮は言って良いものか迷ったが、結局言葉を口にする。


「死んでしまいたいくらい、辛い事だったよ。フラドゥも、そうだったんじゃないかな」

「……経験があるの?」


 メイアの問いかけに、錆揮は答えなかった。

 代わりに、別の事を口にする。


「俺は。貴女がそんな経験をしなくて済んだ事が、良かったと思うよ」


※※※


 集まった【鷹の衆】に、朱翼は起こった事を説明した。

 メイアに聞かせる話ではない。


「このまましばらくすれば、街の龍脈は正常に戻ります。アジの悪竜招来儀は間違っていました。放っておいても悪龍は目覚めなかったとは思いますが、その瘴気のみが溢れ出したでしょう」

「陣を、一度完成させる必要があったのね?」


 朱翼の言葉に、烏は彼女が何をしたのか気付いたようだった。

 目を伏せて、謝罪する。


「すみません」

「責めはしないけれど。……一人で背負いこむのはやめなさい」

「はい」


 無陀がメイアたちが近づいてくるのに目を向けて、話題を変える。


「しかし、腹が減ったねぇ。結界を張ってた学長がいなくなったし、そろそろ誰かに見られるかもしれねーし、退散しねーかねぇ?」


 無陀の提案に、誰も反対しなかった。


 街の宿に戻った朱翼たちは、泥のように眠った後に食堂での噂に耳を傾けたが……幸いにして、アジとフラドゥの死に朱翼たちが関わっているという話は広まっていないようだった。

 数日を旅の支度に当てた朱翼たちだったが、メイアが村での食事に招待したいというので、旅立つ前の日に夕食を共にする事になった。




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