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朱の呪紋士  作者: メアリー=ドゥ
第二章 悪龍編
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第5節:紋者の定義(前編)

「試紋会、ですか?」


 共に姿を見せた錆揮とメイア。

 卓を囲んだメイアの言葉に、朱翼は首を傾げた。


「そう、年に一度、ミショナの学園主宰で開かれる、呪紋士の腕試し。私が呪紋士を探していたのも、それが理由なの。一緒に、試紋会に参加してくれない?」

「一緒に、と言うと?」


 朱翼の問い掛けに、メイアは言いにくそうに答える。


「……今回の試紋会は、二人一組での参加規定があるのよ。その相方を、探していたの」

「ご学友は?」


 悪意がない分、容赦もない……そんな朱翼の物言いに、ついにメイアが言葉に詰まる。


「その……皆先約が……」

「つまり断られた、って事だね」


 錆揮が口を挟み、メイアが睨む。


「ちょ、ちょっと誘うのが遅かっただけよ! 二人一組なんて今回初めての規定なんだから!」

「注意を怠れば害に遭う、典型的な見本だね」

「誰も教えてくれなかったんですか?」


 姉弟二人の口撃に、ぐっと奥歯を噛み締めるメイア。


「その辺にしといたらどーだろーねぇ……」

「二人とも察しなさい。教えてくれるほど親しい間柄の人間がいなかったのよ」


 無陀と烏にトドメを刺され、メイアは涙目になった。


「違うもん……親しい子くらい、居たもん……」


 膝を抱えてメイアが暗くなってしまうと、黙って立ち上がった弥終が無陀と錆揮の頭を順にしばいた。


「痛ッ」

「何すんだよ!」

「女性を苛めるな、馬鹿ども。次は全力で行くぞ、全力で」


 無陀達は青くなった。

 あの戦槌を操る弥終に本気で殴られたら、全力で死ねる。


「悪かったねぇ、お嬢さん」

「ごめん、メイア」


 慌てて謝る二人の横で、どつかれる心配のない朱翼はのほほんと言った。


「まぁ、参加する位は構わないですよ。私も、他の呪紋士には興味がありますから」

「本当に!?」

「ええ」


 ぱっと顔を上げたメイアが、輝かんばかりに笑み綻ぶ。


 朱翼は、彼女を新鮮な気持ちで見つめた。


 今まで、朱翼の周りに呪紋士と言えば師である須安しか居なかった。


 メイアとの手合わせは一方的ではあったものの、朱翼としても学ぶ事の多いものだった。


 特に目を引いたのは、術式の構築速度もさる事ながら、その連続性。

 それは皇国の呪紋士……スケアとの戦いでも感じた事だ。


 基紋を刻むというのは、呪紋を連続行使する場合に、その間を如何に短く出来るか、という部分にその真価がある。


 呪紋士には、得意な紋属があり、基本的にはその紋を基準に自身の戦術を構築する事になるからだ。


 故に、自らの得意な基紋を予め刻んでおく事で、自らの咄嗟の迷いを少なくする事が出来る。


 精神、描紋の両面における発動速度の向上が図られているのだ。

 戦場における優位性のみを考慮し、特化した呪紋士。

 それが特紋士だ。


 考えている最中に、朱翼はふと気付いて、訊ねてみる。


「無陀と弥終は参加しないんですか?」

「ほぇ?」

「ぬ?」


 二人はさも意外そうに朱翼を見る。


「この二人も呪紋士なの?」

「刻身士と紋具使いですよ」


 朱翼の返答に、メイアは首を横に振った。


「それは呪紋士とは呼ばないわ」

「何故です?」

「何故って……描紋を行使する者が呪紋士でしょう? 二人は既に定められた紋を使っているだけじゃないの」

「違いますよ。呪紋士とは『呪と紋に依って理を顕す者』を指す言葉です。二人は自身と導具に刻まれた紋を解し、使いこなしていますよ?」

「理屈はそうだけれど……」


 朱翼の言葉に、メイアは戸惑っているようだった。


「スイキ。貴女は変わってるわね」

「そうでしょうか? ですが、仮に呪を唱え、描紋を伴う呪紋の行使者を呪紋士とするならば、刺紋士や符術士も、呪紋士ではないのですか?」


 刺紋士は、紋を符や人体に刻むのを生業とする者。

 符術士は、符に予め刻まれた紋を行使する者だ。


 どちらも、呪唱、描紋のどちらかを必要としない者達だ。


「いえ、その二者は呪紋士よ。だって、紋の理を解しているじゃないの。でなければ紋は刻めないもの」

「では、誰かに作って貰った符を行使する符術士と、刺紋を行える刻身士なら、どちらを呪紋士と呼びますか?」

「それは……符術士かしら。学園にも何人もいるけれど、自ら作った符を使用している人は少ないと思うし」

「おかしな話ではないですか? 前者は紋を解しているとは言い難く、後者は確実に紋を解しています」

「言われてみれば、そうね……」


 そう言いながら、メイアは考え込んでしまった。


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