第5節:紋者の定義(前編)
「試紋会、ですか?」
共に姿を見せた錆揮とメイア。
卓を囲んだメイアの言葉に、朱翼は首を傾げた。
「そう、年に一度、ミショナの学園主宰で開かれる、呪紋士の腕試し。私が呪紋士を探していたのも、それが理由なの。一緒に、試紋会に参加してくれない?」
「一緒に、と言うと?」
朱翼の問い掛けに、メイアは言いにくそうに答える。
「……今回の試紋会は、二人一組での参加規定があるのよ。その相方を、探していたの」
「ご学友は?」
悪意がない分、容赦もない……そんな朱翼の物言いに、ついにメイアが言葉に詰まる。
「その……皆先約が……」
「つまり断られた、って事だね」
錆揮が口を挟み、メイアが睨む。
「ちょ、ちょっと誘うのが遅かっただけよ! 二人一組なんて今回初めての規定なんだから!」
「注意を怠れば害に遭う、典型的な見本だね」
「誰も教えてくれなかったんですか?」
姉弟二人の口撃に、ぐっと奥歯を噛み締めるメイア。
「その辺にしといたらどーだろーねぇ……」
「二人とも察しなさい。教えてくれるほど親しい間柄の人間がいなかったのよ」
無陀と烏にトドメを刺され、メイアは涙目になった。
「違うもん……親しい子くらい、居たもん……」
膝を抱えてメイアが暗くなってしまうと、黙って立ち上がった弥終が無陀と錆揮の頭を順にしばいた。
「痛ッ」
「何すんだよ!」
「女性を苛めるな、馬鹿ども。次は全力で行くぞ、全力で」
無陀達は青くなった。
あの戦槌を操る弥終に本気で殴られたら、全力で死ねる。
「悪かったねぇ、お嬢さん」
「ごめん、メイア」
慌てて謝る二人の横で、どつかれる心配のない朱翼はのほほんと言った。
「まぁ、参加する位は構わないですよ。私も、他の呪紋士には興味がありますから」
「本当に!?」
「ええ」
ぱっと顔を上げたメイアが、輝かんばかりに笑み綻ぶ。
朱翼は、彼女を新鮮な気持ちで見つめた。
今まで、朱翼の周りに呪紋士と言えば師である須安しか居なかった。
メイアとの手合わせは一方的ではあったものの、朱翼としても学ぶ事の多いものだった。
特に目を引いたのは、術式の構築速度もさる事ながら、その連続性。
それは皇国の呪紋士……スケアとの戦いでも感じた事だ。
基紋を刻むというのは、呪紋を連続行使する場合に、その間を如何に短く出来るか、という部分にその真価がある。
呪紋士には、得意な紋属があり、基本的にはその紋を基準に自身の戦術を構築する事になるからだ。
故に、自らの得意な基紋を予め刻んでおく事で、自らの咄嗟の迷いを少なくする事が出来る。
精神、描紋の両面における発動速度の向上が図られているのだ。
戦場における優位性のみを考慮し、特化した呪紋士。
それが特紋士だ。
考えている最中に、朱翼はふと気付いて、訊ねてみる。
「無陀と弥終は参加しないんですか?」
「ほぇ?」
「ぬ?」
二人はさも意外そうに朱翼を見る。
「この二人も呪紋士なの?」
「刻身士と紋具使いですよ」
朱翼の返答に、メイアは首を横に振った。
「それは呪紋士とは呼ばないわ」
「何故です?」
「何故って……描紋を行使する者が呪紋士でしょう? 二人は既に定められた紋を使っているだけじゃないの」
「違いますよ。呪紋士とは『呪と紋に依って理を顕す者』を指す言葉です。二人は自身と導具に刻まれた紋を解し、使いこなしていますよ?」
「理屈はそうだけれど……」
朱翼の言葉に、メイアは戸惑っているようだった。
「スイキ。貴女は変わってるわね」
「そうでしょうか? ですが、仮に呪を唱え、描紋を伴う呪紋の行使者を呪紋士とするならば、刺紋士や符術士も、呪紋士ではないのですか?」
刺紋士は、紋を符や人体に刻むのを生業とする者。
符術士は、符に予め刻まれた紋を行使する者だ。
どちらも、呪唱、描紋のどちらかを必要としない者達だ。
「いえ、その二者は呪紋士よ。だって、紋の理を解しているじゃないの。でなければ紋は刻めないもの」
「では、誰かに作って貰った符を行使する符術士と、刺紋を行える刻身士なら、どちらを呪紋士と呼びますか?」
「それは……符術士かしら。学園にも何人もいるけれど、自ら作った符を使用している人は少ないと思うし」
「おかしな話ではないですか? 前者は紋を解しているとは言い難く、後者は確実に紋を解しています」
「言われてみれば、そうね……」
そう言いながら、メイアは考え込んでしまった。




