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朱の呪紋士  作者: メアリー=ドゥ
第二章 悪龍編
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第1節 金がない。


「金が、ねーねぇ」


 無陀(ムウダ)が言った。

 【鷹の衆】が住んでいた山より南西に向かった森の街道。

 野営で焚き火を囲む五人を包むのは重苦しい空気だった。

 森林は深く、焚き火の周囲以外は闇に包まれている。


「ええ。あなたが使った所為でね」


 無精髭に緑の旅装。

 両腕に風紋を刻んだ双短剣使いの小男の言葉に、(カラス)が冷たく言った。


 高い位置で黒髪を一括りにした外套を纏った女性だ。

 両手に拳を保護する細い皮帯を幾重にも巻いて手首までを覆っている。

 彼女は、地脈の五行素を取り込んで体内で練る技を持つ闘士という修行者である。


「何でこいつに預けたのさ」


 錆揮(ショウキ)が目を細めた。

 まだ幼い年頃の少年だ。

 こちらも黒髪で、長く伸ばした髪をうなじの辺りで結っている。

 普段は見えないが、太陰紋と呼ばれる刺紋を全身に刻まれている。


「責任を持つと言ったので、任せたのですが。


 朱翼(スイキ)が、感情を感じさせない目で淡々と言う。

 彼女は顔と頭を覆う頭巾を巻いていた。

 その下には、鳥の民と呼ばれる人々のみが持つとされる朱い眼と髪が隠されている。

 彼女は錆揮の姉だった。共に山師と呼ばれる養父に育てられた姉弟である。

 呪紋士であり、腰には式粉という媒介を納めた五連の筒状をした紋具を下げている。


「見通しが甘い。見通しが」


 最後に弥終(イヤハテ)が言った。

 細身の体格に似合わぬ、巨大な戦搥を肩に立てかけている。

 戦搥の打面には表裏逆の土紋が刻まれていた。

 それを呪と共に地面に叩きつけて転写する事で、様々な土の事象を顕す紋具遣いだ。


「キュイー!」


 最後に、無陀の肩に乗った緑鱗の小竜、一葉(イチヨウ)が、羽根でぺしぺしとその頭を叩いた。


 今、彼らがいるのは、和繋国の西に位置する皇国滞在領だった。


 和繋国を治める那牟命王は、忌地とされた、かつて八岐大国(やまたいこく)と呼ばれた地の跡地に国を起こした旋風の覇王である。

 大陸の中央に位置し、四の大国と隣接する新興国。

 武力を是とする小国であるこの国がその存続を許されているのは、龍の後継たる那牟命王の強大な力もさる事ながら、その国の有り様に理由があった。


 一つには、常在戦場の掟という弱肉強食の領土統治。

 『那牟命王の逆鱗に触れぬ限り、国土内での他者との闘争に一切の咎め無し』というこの掟は、領民を害さないという前提で全ての異国、あるいは組織に自由な軍事行動を認めるものだ。


 即ち、国土内での小規模戦争を認めるという掟。


 その他においては、他国の者が和繋国の領土を領主として治める代わりに、様々な技術交換を一切の制限なく行う事、という国土内の発展を目的とする教育政策。


 全ての和繋国の臣民は、どの国の領土であっても、和繋国の許可が下りれば技術を学ぶ権利を行使出来る。

 これを拒否する権限は、他国の領主にはない。

 自国のみ利そうとする輩は、もれなく那牟命王の強大な力によって滅ぼされている。


 故に那牟命王が自身の統治権を振るうのは、今はただ王都周辺のみ。

 関所などを設ける権利は領主に与えられており、それが著しく物流を阻害する高額でなければ那牟命王は何も口を出さない。


 無陀は、【鷹の衆】の御頭に言いつけられたお使いなどで何度も、関所を通過していた。

 その金額は今まで上がったことがなく、無陀は油断していたのだ。


 彼らがいる所の間近には、村がある。

 ミショナと呼ばれる大都市に属する村で、ミショナから1日掛からない距離にあり、そこで一泊してミショナで斡旋屋の依頼を受ければ、旅費くらいは稼げるからだ。


 が。


「いや、まさか通行税があんなに高くなってるとはねぇ……」


 どよん、と濁った目で、無陀が肩を落とした。

 その、小さな声の言い訳に。


「だから無駄遣いするなって言ったでしょう」


 烏が容赦なく止めを刺した。


 そう。

 どうせすぐに着くから、と、無陀は浮かれて関所前の歓楽街で酒を呑んだ。

 お姉ちゃんに相手をされて、いい気分だった感は否めない。


 気付けば、関所を通過して村で一泊する以上の路銀は残っていなかった。

 なんとかなるだろ、とたどり着いた関所で、それを全て支払う羽目になったのだ。


 故に、村がすぐ側にあるのに野営をしており、皆の冷たい視線に晒されているのだった。


「一人だけ美しい華と遊ぶからだ。一人だけで」


 弥終だけは、他の連中と違う理由で怒っているようだが。


「文句ばかり言っていても仕方がありません」


 空気を変えようとしたのは、朱翼だった。


「とりあえず、村に立ち寄って何か路銀を得る手段がないか尋ねましょう。保存食は二食分。このままでは、空腹のまま働く事になります」

「そうね。罰として無陀だけ働かせても、得られる金は知れているでしょうし」


 この場に(シロ)のが居りゃーなぁ、と無陀はぼんやりと思った。

 奴なら、俺と一緒に遊んで怒られてくれただろうに。


「とりあえず、寝よか。起きてても腹立つし腹が減るだけだし」


 錆揮の言葉に、全員がうなずいた。


「寝ずの番は貴方よ、無陀」

「……まぁ、しゃーねーねぇ」


 今日ばかりは反論もなく、無陀は諾々と受け入れた。







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