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朱の呪紋士  作者: メアリー=ドゥ
第一章 巣立編
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第21節:一致していた思惑

「【鷹の衆】が動くようだ」


 アレクがそう告げるのに、スケアが訝しげに問い返した。


「部下からの報告は上がっていませんが。何故分かるのです?」

「第三の目があるのさ」


 アレクは目の前にある卓の上に広げた地図に目を向けてから、スケアに指示を出した。


「指揮は任せる。上手くやれ」

「どちらへ?」

「遊撃だよ。一番厄介な相手を抑えに行く。君はその間に、雛を確保するんだ」

「ああ、例の呪紋士ですか? 承知致しました」


 スケアが頭を垂れるのに、アレクは頷いて、藍樹に乗るとその場を飛び立った。

 目の上のたんこぶと蒼龍の姿が見えなくなるのを待って、スケアが言う。


「さて。そうしたら、人質はもう必要ないわね」


 スケアは部下に、荷物を纏めてから屋敷に火を放つように命じた。


「宜しいのですか?」


 部下の問いかけに笑みを向けたスケアは、一言。


「異教徒など、生かしておく必要はないでしょう?」


 スケアの言葉に、部下は表情を変える事もなく頷いた。


「御意」


※※※


 自分たちが監禁されている周囲の壁が炎に包まれて行くのを見ながら、村長は溜息を吐いた。


「あのアレクという者、一角の人物に見えたが部下が酷い」

「どうも、集団と頭の意志統一が図られていないように見えますね。……彼とは別の頭があるのでしょうか」

「最初に単身屋敷を訪ねてきた副官の女であろう。狂的な目をしておった」


 村長の言葉に、横に座るトモエも落ち着いた様子で答える。


 先程嗚咽を漏らしていた女性達も。

 痛めつけられた男衆も。

 皆が一様に騒ぎ立てる事もなく、その場に座り込んで逃げる気配すらなかった。

 もはや演技は必要がないからだ。


「だが、あの程度なら、アレクと副官にさえ気をつければ真陀様方なら負ける事もなかろう」

「加勢は如何致します?」


 【鷹の衆】の名を出した男衆が訊くと、村長は首を横に振った。


「我らの役目は終わった。お主だけなら役にも立つかも知れんが、如何せん歳であろう?」

「もう少し、見守りたい気持ちもありましたがね」


かつては一軍を率いた男衆の言葉に、村長は寂しさを含んだ笑みを浮かべる。


「ここまで長らえただけでも僥倖よ。二度の危機に、あの方は予め我らに御手を伸ばされなかった 。今を機と見たのであろう」

「出来れば、年若い者達は逃がしてあげたかったのですが……マドカも死んでしまったのでしょうね」


 錆揮の表情から娘の死を悟っていたトモエは、静かに悲しんでいる。

 そんなトモエを痛ましく見る村長は、煙の立ち始めた中でそれでも語り続けた。


「お前は何故、去らなかったのだ」


 村に若い者は、いない訳ではないが少なかった。

 子を生した者達は、ほとんどが村を去る事を選んでいたからだ。

 トモエは……かつてはその聡明な頭で国を支えた女は、僅かに目を伏せた。


「私の命は既にあの方と真陀様に預けておりました。逃げる選択はありません。娘だけでもと思いましたが、錆ちゃんを想うあの子は村を出る事を選ばなかったのです」


 その場に居る全員が、一様にマドカの死を悼む。


「今、この時の死を受け入れる事。それが須安様の最初の頼みだったのですから、仕方がありません」


 村の住人は、全員が【御子の争乱】で王都に住んでいた者達だった。

 玉帝に仕えていた者も多く、村長とトモエはその中でも王室に近しい場所で働いていた。

 特に村長は、かつて八岐大国で右大臣に任じられていたのだ。


 彼らは無数の軍勢によって滅びに瀕した自国で、玉帝と運命を共にしようとしていた。

 それを説得し、連れ出したのが須安だ。

 彼らは須安の話を聞いて協力者となった。


 この村は、須安の作った村。

 そこに御頭が【鷹の衆】を率いて現れ、短くとも平穏な時間を過ごした。


「平穏を与えていただき、須安様のお役に立てた。後は雛が無事に巣立ち、大成する事を願うのみ」


 全員が、瞑目するように目を閉じる。

 炎は、もう間近に迫っていた。


「雛の巣立ちに、幸多からん事をーーー」

 

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