表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
朱の呪紋士  作者: メアリー=ドゥ
第一章 巣立編
20/118

第19節:【鷹の衆】

【鷹の衆】の全員が集まった。


 その数、二十余名。

 元々御頭に拾われた者達の集まりだ。

 そう大した数ではないが、この人数でも村一つ制圧する程度なら造作もない程度には、各々が技量を有する集団だった。


「村は完全に制圧されています。村を囲う防壁に、軍旗が揚がっていました」


 御頭が相手の要求を伝えて皆に意見を求めるのと同時に、口火を切ったのは烏だった。

 錆揮を連れ帰ったのは烏だ。

 村の様子がおかしい事に気付き、偵察に向かった時にぼんやりと歩いている錆揮を見つけたらしい。


「面白くねー話だねぇ」


 無精髭を抜きながら、口をへの字に曲げて無陀が言う。


「相手は皇国軍。流石に分が悪いんじゃねーかねぇ」

「何で皇国が朱翼を狙うんでしょうね?」


 衆の一人が言うのに、弥終が答えた。


「朱翼は美しい。欲する気持ちは分かる。とても分かる」

「そんな理由で村を焼き払う訳ねぇだろ。ふざけてる場合か」

「ふざけているつもりはない。毛頭ない」


 こんな時でもお馬鹿な弥終の言葉に、白抜炙は苛立ちをぶつけた。


「ちょっと黙ってろ」

「ここで仲違いしていても仕方がないでしょう」


 溜息を吐く御頭に弥終は頬を掻き、白抜炙は大きく鼻から息を吐く。


「私達の選択肢は三つ。村を見捨てて逃げるか、数も分からない皇国軍に牙を剥くか、あるいは大人しく朱翼を引き渡すか、よ」

「逃げるだけなら、どうにかなりそうだねぇ」


 無陀が誰よりも先に意見を述べる。


「村の美しい華を見捨てるのはあり得ない。そう、あり得ない」


 無陀の言葉に、弥終が反対を口にした。


「朱翼を引き渡して、相手が大人しく村を開放する保証がありますか?」


 続く烏の言葉に、御頭が首を横に振る。


「ないわね。でも、引き渡さなければ村人を全員殺すと言っているわ」

「近くで血の臭いを嗅ぎましたが、すでに大半が殺されていると思われます。それでも救いに行かれますか?」

「一人でも生きているならその人に対する責任が私達にはある。違うかしら?」


 御頭の言葉に、烏は反論せず、全員黙ってその言葉を肯定した。


 やがて皆の視線が、自然と白抜炙に集まる。

 無陀ら三人以外で御頭に最も近しい一人であり、朱翼を囲っている白抜炙に。


「責任はある。だが、皇国軍を相手に取るのは厳しい」

「なら、逃げる?」


 御頭は、まだ自分の意見を言っていない。

 全ての意見が出揃ってから判断しようとしているのは、御頭は村だけではなく【鷹の衆】にも責任があるからだ。

 白抜炙はそれを理解していた。


「朱翼。お前自身の意見は?」


 白抜炙が、錆揮を慮るように傍で背中を撫でる朱翼に問いかけると、彼女は口を開いた。


「……私が行く事で、皆が救われるのであれば」


 錆揮が、朱翼の言葉に弾かれたように顔を上げる。

 彼にしてみれば、認められた事ではないだろう。

 白抜炙もそれは同じだ。


 だが白抜炙は朱翼のいつもと変わらない顔に、かすかな諦念があるのを見て取った。

 彼女の周囲では、いつも彼女を巡って争いがある。

 自らの意思とは関係なく。


 御頭が言っていた通りの事態。

 俺がもっと気をつけていれば、と白抜炙の胸中に後悔が湧くが今はそんな場合ではない。


「一旦朱翼を逃がし、村を取り返す」


 葛藤の末に白抜炙が口にしたのは、第四の選択肢。


「朱翼は渡さねぇ」

「この上戦力を分けるってのか? ますます勝ち目がねーねぇ」


 苦言を呈するのは無陀だ。

 皆が嫌がる事を率先して言うのは、彼が自分の役割を自分でそうと定めているからだ。


「俺は残るが、皆に戦う事を無理強いは出来ねぇ」

「あら。いつから貴方が【鷹の衆】の纏めになったのかしら? 勝手に結論を付けて良いとは言ってないわよ」


 御頭が、白抜炙に対してぴしりと言う。


「だが、今回の件は俺の責任だ」


 朱翼を連れ帰ったのは白抜炙であり、守ると決めたのも自分。ならば火の粉を被るのも、自分だけでも良い。

 しかし御頭は首を横に振った。


「決めるのは私よ。そして、私は【鷹の衆】全員で決める事を望んでいるの。……ねぇ、白抜炙」


 白抜炙が御頭に目を向けると、彼女は【鷹の衆】を見回して誇らし気に笑みを浮かべる。


「私の子達の中に、臆病者はいないみたいよ」


 言われて白抜炙が周りを見ると、【鷹の衆】全員が笑みを浮かべていた。


「仲間を売るような事は最初っから考えちゃいねーよ」

「大体何様なんだよ、皇国軍ってのはよ。俺らに喧嘩売ってただで済むと思ってんのかって話だよ」

「村には世話になったんだ。見捨てる訳ねーだろ」

「白抜炙。あんま俺らを舐めんなよ」


 口々に言う【鷹の衆】の面々に、白抜炙は唖然とした。

 朱翼も、錆揮も、驚いたように目を見張っている。


「て事だねぇ。ま、白抜炙をからかうのもこの辺にしとこーかねぇ」


 無陀がにやにやと言い、弥終も頷く。


「攻めて来たんだから追い返せばいい。そうでしょう? 御頭」


 烏の問いかけに、御頭は笑顔で頷いた。


「意見は決まったわね。じゃ、奴らに目にもの見せてやりましょう」


 御頭の号令に、【鷹の衆】は一斉に答えた。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ