表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
朱の呪紋士  作者: メアリー=ドゥ
第一章 巣立編
18/118

第17節:常在戦場の掟

「村が、占拠された……!?」


 白抜炙に会うなり、開口一番そう言った御頭に対して彼は呻いた。


「何が目的で?」

「相手の要求は、朱翼の引き渡しよ」


 御頭の返答に、白抜炙は絶句する。


「だから言ったでしょう。気をつけなさいと」

「朱翼は、誰にも顔を晒していない筈です。それは徹底していた」

「徹底?」


 低い声で言い返す白抜炙に対して、御頭の目は冷徹だった。

 彼を睨むでもなく、ただ淡々と事実のみを語る。


「あの子は、水浴みをしに一度も外に出なかったの? あるいは、森で偶然であった村の者に、目の色を晒さなかったと?」

「……!」

「私達は、村の者と懇意にしていたわ。中には、村へ出向いて酒を呑む程に仲の良い者もいる。そんな誰かが(したた)か酒を呑んで、記憶もないままに口を滑らせる事はなかったと、そう言えるのかしら?」

「俺は……! 衆の者達も、それ程に愚かじゃねぇ」

「急を要したとはいえ、朱翼を子患の始末に連れて行ったのは迂闊に過ぎた」


 白抜炙の焦った口調を遮って、御頭はさらに重ねる。


「あの時、村に余所者が一人居たわね。私は会わなかったけれど」


 山師の女だ。

 知り得た記憶が、白抜炙の頭に蘇る。

 あの女は言わなかったか。


『村に降りれば、商いも―――』


 子患が須安によって殺された時、風に煽られて朱翼の頭巾が剥がれていた。

 あの時に見られたのか。

 そして、烏は言っていなかったか。


『山師の中には、噂を集める者が―――』


 白抜炙は、自分の迂闊さに奥歯を噛み締める。


「あの女が……ッ!」

「今から衆会を開くわ。食堂に来なさい」


 衆会は、物事を決める時に【鷹の衆】総員の了解が必要だと御頭が感じた時に開かれる。


「……何を話し合うんだ?」

「相手の要求を呑むかどうかを、よ」

「朱翼を売るのか? そんな事は許さねぇ」


 怒りのままに口にした言葉に、御頭は目を細めた。


「あら。何故貴方の許しが必要なの?」


 失言だ、と気付き、白抜炙は背筋が冷えるのを感じた。

 御頭は、白抜炙に負けない程に怒っている。

 しかし、やめる訳にはいかなかった。


「朱翼は、仲間じゃないのか?」

「あの子を連れて来た時。戦利品だ、と言ったのは誰? 物を渡して解決するのなら、そうするのが当然でしょう。物は、人ではないのだから」


 御頭の言葉に、冷えかけた白抜炙の頭に再び血が昇る。


「その言い方なら、朱翼は俺の物だ!」

「今回の村の危機を招いたのは誰だと思ってるの? 仲間なら、あの子自身に責任を取らせるわ。物なら、貴方が責任を取って朱翼を差し出しなさい」

「誰が渡すか。あの時は、他に選択肢がなかったんだ」

「選択肢がなかったから、どうだというの。一度救ったからそれで不問に伏せ、と焼かれた村の者達に言ってみる?」

「ッ……だが、大の為に小を切り捨てるようなやり方は、俺達のやり方じゃない筈だ」


 御頭は溜息を吐くと、いきなり白抜炙の胸ぐらを掴み上げて壁に叩き付けた。


 強かに頭を打ち、一瞬意識が飛び掛ける。

 咄嗟に自分を持ち上げる御頭の腕を掴むが、ビクともしない。


「小の為に大を切り捨てるのも、私のやり方じゃないわ。あのね、白抜炙」


 御頭は、白抜炙の目を覗き込んで言った。


「少し落ち着きなさい。そういう選択も含めて、今からどうするかを話し合うんでしょう」


 言われて、白抜炙は自分が落ち着きをなくしていた事にようやく気付く。


「……悪かった」


 白抜炙が、狼狽えるのと引き換えに冷静さを取り戻したのを見て取り、御頭が手を離した。


「来なさい。私もまだ詳しい状況は分かってないのよ」

「御頭」

「何?」

「この話を持って来たのは誰です?」

「……錆揮よ」

「無事なんですか?」

「怪我はしてない。ただ、何も喋らないわ。酷く虚脱していて、ふらふら歩いているのを烏に見つかったの。返り血を浴びて、一通の文を持っていた」


 そこに、今回の要求が書いてあったのだろう。


「相手は誰か、分かっているんですか?」


 答えるべきか否か。躊躇う様子を見せてから、御頭は言った。


「……皇国よ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ