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ペンギンさんと雪の夜

作者: はねひ

冬。海の近くのその街は、寒くなってもなかなか雪が降りません。

海があるところはないところよりもほんのすこし、あったかいからです。

そんなまちのとある動物園。

今年生まれたペンギンの子どもがいました。

名前をペン太郎と言います。ふわふわのグレーだった羽毛は大人と同じ黒お腹は白に生えかわりました。それでもまだ大人より背は小さいです。

ペンギンにも色々種類があって、ペン太郎は温かいところに住むペンギンです。

だから冬は寒いなぁ、と思っていました。南極に住むペンギンならむしろ元気になるのですが。


とびきり寒いある日、いつものようにひなたぼっこしながら動物園に来る人たちの話に耳を傾けていました。

「ねーママ、どうしてゆきふらないの?」

「このへんはあったかいからよ」

「うそだー、いまとってもさむいもん!」

「雪が降る所はもっと寒いのよ」

「えー」

そういえば、北の方の出身という飼育員さんも言っていたのを思い出します。このあたりは全然「ゆき」が降らないって。

こないだ来た子供たちも、ゆきがふらないかなーとか雪見たことある!とか自慢したりそんな話をしていました。


ペン太郎は何気なくお母さんに聞いてみました。

「ねえお母さん、ゆきってなあに?」

「ゆきっていうのはね、寒い日にお空から降ってくる白い粉だって聞いたことがあるわ。ふわふわしてて、触ると冷たいんですって。」

「飼育員さんが小さい頃食べたけど美味しかったって言ってたぞ」

お父さんもはなしに加わります。

「キラキラしててきれいらしいぞ!」

ほかのペンギンたちもよってきました。

「ゆきを投げっこして遊んだりとかするらしいぞ!」

「ゆきでにんぎょうもつくれるってさ!さっきこどもたちが言ってたぞ」

ペン太郎は考えました。

子供たちがみんな楽しみにしてるもの。真っ白で、ふわふわで、キラキラしてて、美味しい…。そんなもの見たこともないし想像したこともありませんでした。しっているどんなものにも似ていません。

たとえば、ママのお腹は白くてふわふわだけれど黒い点々がある。冷たくなくてあったかいし。

そしてみんなの話ではここではそれを見ることもできないらしいのです。

「ねえお母さん、」

「なあにペン太郎」

「ぼくもゆき見たい」

お母さんは少し困った顔をしました。

「お母さんとお父さんも見たことないの。昔々降ったことがあるらしいから、おじいちゃんになるまでには一度くらい見れるかもしれないわね」

「えー」

ペン太郎はそんなに待てない、と思いました。

そして一生懸命考えました。

もっと寒いところ、たとえば飼育員さんのふるさとのようなところに行くしかありません。

でも動物園のおりは高くて出られません。

むかしおりの外に出たいと言ったらお父さんに怒られました。

出ようとして飼育員さんに連れ戻されたこともありました。

「ぼくたちは一生ここから出られないんだ」

そうひとりごとをいったら、なんだか急にきゅうくつで苦しくなりました。

ペン太郎はごはんものどをとおらなくなって、そのことばかり考えてるようになりました。

そとの世界。自由な世界。真っ白でふわふわの雪……想像でしかないそんな光景があたまのなかから離れません。

いいなぁ行きたい行きたい、お外へ行きたい!


毎晩毎晩、ペン太郎はこっそり夜空を仰いではため息をつくようになりました。


そうしているうちにクリスマスの晩になりました。

でもペンギンたちにクリスマスはあまり関係ありません。

お父さんとお母さんたちはいつもどおり眠っています。

ペン太郎もいつもどおり夜空を仰ぎます。きょうはまたいちだんと寒い夜でした。


誰か、空からぼくをつかんで引っ張り上げてくれればいいのに。

たとえばそう、お空を飛べる鳥さんとか……

などと思っていると、なんだか近づいてくる白い影がありました。

一羽のコウノトリでした。くちばしに空のゆりかごをくわえています。

コウノトリはせわしなくキョロキョロしながら通り過ぎようとしました。

その瞬間、ペン太郎は叫んでいました。

「まって!まって!」

「ん?ああ?」

コウノトリはびっくりして急旋回していっしゅんよろめき、降りてきてゆりかごを置きました。

「なんだ、オレいますごく忙しいんだけど」

「ぼくをここから出して!」

「あ?なに言ってんだおまえ。でちゃいけないだろ、お父さんお母さんにおこられるぞ」

「どうしてもでるの!でたいの!」

「ダメだダメだ!じゃぁな」

そういってコウノトリはふたたびゆりかごをくわえて飛び立とうとします。

「わぁああああ行っちゃだめ、出して出しておねがいだから出してー!」

ペン太郎が泣きわめきそうになると、コウノトリは顔を青くしてまた戻ってきました。

「静かにしろ!オレいまひとに見つかるわけにいかないんだよ!」

「やだやだ出してよう」

ペン太郎は涙目でむっとした顔でコウノトリを見つめました。今にも叫び出しそうです。

「だから……」

コウノトリはまだ何か言おうとしてます。

「うぁぁあ……」

「あああわかったもう頼むからやめてくれ!わかったわかった出すだけだからな!後は知らないからな!」

コウノトリは急いでペン太郎をゆりかごの中に座らせるとつるをくわえて飛びたちました。



「うわぁ~すごい!!」

ぐんぐん開けて行く視界。動物園がどんどん小さくなって遠ざかります。

とおくに月明かりに照らされたお山がうっすらりんかくを見せています。

ペン太郎はもう大興奮で身を乗り出しあっちをキョロキョロこっちをキョロキョロ。

ゆりかごがぐらぐらゆれてコウノトリはもう大変です。静かにしろ、と言いたいのですが口がふさがっているのでふごふごとしか言えません。

少し離れたところにキラキラ光るきれいなところがありました。街の明かりです。

「ねえあそこ、あそこがいい!あそこでおろして」

「んん」

コウノトリさんは街からすこし離れたところにそっとペン太郎をおろすと、ぶつぶつと文句を言いました。

「まったくこどもってのはどいつもこいつも……」

「鳥さん、ありがとう!」

ペン太郎はペタペタと走っていきました。

「おう気をつけろよー……ってこんなことしてる場合じゃねぇ!」

コウノトリさんはふたたび慌ただしく飛びたっていきました。


こうして、ペン太郎は見事お外に出ることに成功したのです。

目を覚ました両親がペン太郎を探し回るのはもう少し後になってからです。


ペン太郎はワクワクしながらいろんなところを見て回りました。

「すごいすごい、あっちもこっちもいい匂いする―、ピカピカキラキラしてるー!」

クリスマスの夜。

街はいつもよりもキラキラとしていて、あちこちでごちそうがつくられていたのです。

ペン太郎は人間に見つからないようにしながらもよくよく見てまわりました。

ペタペタと街中を歩いてケーキ屋さんの裏をまわると、一人だけ楽しくなさそうな小さな人影。

その男の子は、壁を背にうつむいて静かに泣いていました。

ペン太郎はくびをかしげます。どうして、この子だけ楽しそうじゃないんだろう。

ペン太郎は自分が泣いているときお母さんがそうしてくれるように頭をなでてやろうと思って、ペタペタと近づいていきました。

……といっても男の子の方がペン太郎よりも背が高かったのですが。






昨日の晩、サンタさんは来なかった。

おまけにお父さんもお母さんも居なかった。

お母さんはお腹が大きかった。

クリスマスイブのご馳走を食べようとした時、急にお腹が痛くなって苦しそうにしてお父さんが車で病院に連れていった。

僕はだいじょうぶお留守番してると言って残った。

お母さんは今日になっても帰ってこなかった。


今日はクリスマス。お昼過ぎ。

ちゃんとおうちに鍵をかけてあったかい帽子とマフラーと上着、いつもおかあさんに言われるみたいにして家を出た。

そして街をさまよった。

病院に行けばよかったのにって言われそうだけど、なんだか行きたくなかった。

本当はお腹の子がいなければ今年の冬はみんなでスキーに行くはずだったんだ。

去年の冬、僕がどうしても雪が見たいって言ってお父さんとお母さんがそう約束してくれたんだ。

なのに赤ちゃんが来るから行けなくなったってどういうことだよ。

おばあちゃんが連れてってくれるっていったけど僕はおかあさんとおとうさんと行きたいんだ。


街の人たちはみんな楽しそうだった。

美味しそうな匂いがして…ああ赤ちゃんさえいなければ今日は本当はおうちでお母さんのご馳走食べてたんだ。

病院になんか行くもんか、赤ちゃんの顔なんか見たくもないや。

みんなが赤ちゃんを待ってる病院は、なんだか、とっても行きづらい場所に感じた。

お父さんから何度か家に電話が来たけどその度にだいじょうぶって言った。


こわかったんだ。赤ちゃんが出てくるのがこわかった。

最近お母さんは一緒にボール遊びしてくれなくなった。

あかちゃんが出てきたらそれこそきっとぼくのことなんて忘れてしまうにちがいない。

…行かない。赤ちゃんなんか楽しみじゃないもん


サンタさんが来なかったのは、きっと僕が赤ちゃんを可愛がれない悪い子だからだ。

そう思ったらものすごく悲しくて胸が重たくなった


大丈夫、なはずだったぼくはいま、なぜだか泣いていた。

もうすっかり夜だった。

朝ごはんは自分でよそって、昨日ののこりのおかずを食べた。

食べたけどお腹がすいていて、もっと美味しいものが食べたい。

いま、通りを少し外れたケーキ屋さんの裏の壁にもたれてる。

悔しいけれど泣いていた。この顔がもどるまでは大通りには出られない。


ぺたぺたと足音がした。

うつむいていた顔を上げる。

「あ」

首をかしげてじーと見上げる小さく丸く可愛い目。

ペンギンだ。本物だ。動物園で見たことがある。あのときもお母さんと一緒だったな、と思ったらまた涙が出てきそうだった。


ペンギンは三角のお手手を一生懸命伸ばして背伸びしている。何がしたいのかわからないけど、可愛らしかった。

「どうしたの?まいごになちゃったの?」

ぼくははしゃがんで手を伸ばした。ペンギンは逃げない。そしてめいっぱい背伸びして、あたまをなでなでしてくれた。

可愛い。ぼくは思わずそのペンギンをそっとぎゅっとした。あったかかった。

なんだかほっとした気分になっていた。目のところをさわると、涙がかわいてすこしざらざらしていた。

「ペンギンさん、どうしてこんなところにいるの?迷子なの?」

もう一度聞いてみる。

「きゅーーー」

ペンギンさんは可愛い声を出しながら首を横に振る。

「家出?」

「きゅ?」

ペンギンは首をかしげている。

「それとも冒険したかったの?」

ペンギンはこくこくこくと首を縦に振った。可愛い。

「一緒に行こう、いろんなところ見せてあげる!じっとしてればぬいぐるみに見えるからきっと誰にも見つからないよ!」

ぼくは我ながら名案だ、と思いながらすっかり元気になって、可愛いペンギンさんをよいしょ、と抱きかかえた。ペンギンは嬉しそうにパタパタ羽をふっている。


ぼくは街のいろんなところを案内してまわった。

クリスマスの街はきれいでワクワクする。お母さんがいれば…という気持ちがすぐに出てくるのでそのたびにあたまをぶんぶんふって考えないようにした。

かわいいペンギンさんをなでているとその気持ちもまぎれた。

でもそのうち疲れてきて、人のいないところへ行きたくなった。


そしてとある路地裏に入った時。

白いおひげのおじいさんにあった。

へんなパジャマ姿でうろうろしている。おひげをなでながらぶつぶつ何か言っている。

「こまったのうこまったのう…」

このひと、なんかどっかで見たことがあるような。




おじいさんは、ぼくたちを見つけるとびっくりした顔をしていた。

「なんと!こどもたちにこんな姿を見られてしまうとは!不覚!」

などと言っていた。


「おじいさんどうしたの?なんでそんなかっこうをしているの?」

ペンギンを抱えたままぼくは聞いた。

おじいさんはゆったりと顎からでているりっぱなひげをなでた。

「一仕事終えたんでほんとうは帰ればよかったんじゃがたまにはゆっくりしてもいいかなと思って寝てたんじゃ。疲れたしの。

そしたらお友達と乗り物と服が消えてたんじゃ。

お友達がいないと帰れないし探しても見つからないしこんな格好じゃ恥ずかしいし人に見られるわけにいかないからこまってたんじゃよー」

おじいさんはまゆを下げて心底困った顔をして、ふぉっふぉふぉと笑った。

「それにしてもきみたちはこんなじかんに何をしているんじゃ?子供はもうおうちにいる時間じゃよ」

「……お家に帰っても誰もいないから。」

ぼくが言うとペンギンも何か答えていた。

「キュー!キュ、キュキュー!」

「おお、ペンギン君は街を案内してもらっておったのか。大冒険じゃのう、ふぉふぉふぉ」

「あれ?おじいさんこの子の言うことわかるの?」

「ああわかる、君にはきこえないのかい?」

……僕は耳を澄ませてみる。

「キュー!、キュー?」

ペンギンは何か言ってくれてる。

「……わからないや。」

そうかそうか、といっておじいさんはまた笑う。

「しかし困ったのう、お友達と乗り物が見つかればおうちに送ってやれるんじゃがの。みつからないのじゃ。とほほ。」

「どこをさがしたの?」

「え、あのへんとそのへんと…じゃよ」

「ぼくこのまちには詳しいんだ!いつも来てるから!」

そのあとにお母さんと、と言いかけて、やめた。


ぼくはおじいさんにもまちを案内しはじめた。

ペンギンはおじいさんの肩の上にちょこんと乗った。


ぼくらはあやしい三人組みだったとおもうけど、何故か誰にも見つからなかった。

まるで誰にも見えてないみたいだった。




時間は少し巻き戻り、クリスマスのお昼ごろ、ちょうど男の子が家を出たくらいの時間です。

とあるまちはずれの秘密の空き屋。今日はこっそり泊まっているとある動物たちとおじいさんがいました。

動物たちが何やらわいわいお話しています。

「おじいさん起きないね」

「よくねむるよねー」

「ねるのすきだよねー」

「前なんてさ、夏まで寝てたよね」

「あのときはびっくりしたよね、冬まで寝過ごしたとかんちがいしてお仕事始めちゃったもんね」

「あー、ぼくらが違うよって言おうとしたけどもう煙突落っこちた後だったもんね」

「そうそう、あのときは踊ってごまかしたんだよね シャラランって」

「楽しかったねー懐かしいな―」


と、窓の外を外を見るととある鳥がこっちを見たかと思うと目があいました。

鳥は動物たちに気がつくと血相を変えて近づいてきました。


「おいトナカイたち!!」

「あ、コウノトリさんひさしぶりーこんにちはー」

「お前たち全員空飛べるだろ!ちょっと手伝ってくれよ!」

「え?なになに?なにを?」

「人探し!人探し!こどもだよ!あかちゃんがいなくなった!もう生まれる時なのに!」

「なんだそりゃ大変じゃないか」

「早くしないと産まれられなくなっちゃうわ!」

トナカイたちもざわつきました。

「よしきたみんな探しにいくぞ!」

「おじいさんは…よく寝てるから寝かしておこうか。」

「そうだね、どうせすぐには起きないよ」

コウノトリは部屋の中に目をやります。

「お、その赤い上着あったかそうだな。赤ちゃん見つかったらくるむ布が欲しかったんだ、借りてくぜ」

「え、あ、それおじいさんの…まぁいっか。」

「じゃぁ各自別々の方向で!」

「よっしゃ、オレはソリ弾いてくぜ!」

「ちょっと、ソリはいらないんじゃない?」

「バカヤロウ、ソリはおれのアイデンテティなんだよ!」

「なんだもうお前は勝手にしろよ」

「じゃぁコウノトリさんおれらに任せて!」

「おうよ頼んだ恩に着るぜ!」


こうして動物たちはバラバラにお空に飛んで行きました。

おじいさんが起きてぼうぜんとするのはそのしばらく後のことでした。





今年の春が来る少し前のこと。

その女の子はコウノトリさんに送ってもらってお母さんのおなかの中に入りました。

その家はとても楽しそうでどうやらお兄ちゃんがいるみたいです。

女の子はお母さんのおなかの中でお父さんやお兄ちゃんに会えるのをとても楽しみにしていました。


そしてだんだんお腹の中が窮屈になってきました。

ちょうどクリスマスイブの夜でした。ごちそうのいい匂いがします。よし、外に出よう!と思った時。ふと思い出しました。

お腹の中からでたらお腹の中で考えたこととか、だいたい忘れちゃうらしいのです。お腹の中に入る前、誰かが言ってたのを聞きました。

女の子はならば産まれる前にやっておきたいことがありました。


コウノトリさんはこっそり生まれる子供の様子を見に来ていていました。

女の子はコウノトリさんを見つけるとお願いをしました。


「コウノトリさんコウノトリさん!」

「なんだ、おまえもうすぐ生まれるんだろ、頑張れよな」

「ねえねえおねがい、ちょっとだけ連れてって欲しいところがあるの、前みたいにお空を飛んで連れてって。身体ここにいたままこころだけ飛べるんでしょ?あたし知ってるんだから」

「あ?なにいってんだだめにきまってるんじゃないか。おまえもう生まれるんだろ?産まれてから連れてってもらえよ」

「だめなのうまれてからじゃきっと忘れちゃうもん」

「うまれなきゃおかあさんとかみんな困っちゃうだろ!」

「だめーいまいくのーつれてってつれてってつれてってーーーーーーーーーー」

「あーだからー……」

「つれってくれなきゃわたしうまれないもんずっとおなかのなかにいてやるもんっっ!ああああああーーーー!」

女の子はお母さんのおなかの中でジタバタ暴れます。お母さんはお腹を抱えて痛がり始めました。

「あああお前やめろお腹けるのやめろ!わかったわかった、ちょっとだけだからな?すぐかえるんだからな?」

コウノトリさんは女の子の心だけ、ふわふわっと外に出してやりました。

女の子は浮かんだまキョロキョロすると、すぐ飛べることに気が付きました。

「ありがとう、すぐ戻るね!」

そして目にもとまらぬ速さでしゅばっとどこかへ飛んで行ってしまいました

「おいオレが送って…っておい!どこ行った!あまり遠くへ行っちゃだめだ!」

コウノトリさんはあわてて後を追いかけました。




トナカイが女の子の赤ちゃん(のこころ)を見つけたのは、とある雪国でした。

ゆきだるまの目の前で女の子は泣いていました。

トナカイさんがはなしかけました。

「もうすぐ生まれる赤ちゃんはきみだね。みんな探してるよ、帰らないと」

女の子はめそめそ泣きながら何度もゆきだるまに手を伸ばします。

「ゆきだるまさん…もってかえれないの…」

身体を置いてきてしまった女の子の手は雪だるまに触ることができず、なんどやってもすりぬけてしまいました。

トナカイがなんとか女の子を保護して、他のトナカイとコウノトリを呼んできて、コウノトリが(こころなのでよく考えたら寒くなかったんだけど)赤い上着でくるんでやりました。

コウノトリはいいます。

「おまえほんとにしんぱいかけたんだぞ?一体何してたんだ?

「おにいちゃんが…おにいちゃんが私のせいでゆきだるま作れなかったからぷれぜんとするの!ゆきだるまもってかるの!」

そう言って、女の子はわああと泣きました。

「そうか」

コウノトリはよしよし、と頭をなでて、ゆきだるまをひとつもらってソリに乗せ、トナカイみんなと帰りました。




コウノトリたちは無事病院のお母さんのところに女の子を送り届けました。

「この雪だるまはおまえんちの庭に届けとくからな!きっと兄ちゃん喜ぶぜ!」

「ありがとう!私きっとうまれたら忘れちゃうけど、お兄ちゃんによろしく!」

「頑張って生まれるんだよ~!」

コウノトリとトナカイたちに見送られて女の子はお腹の中へ帰っていきました。

東の空がほんのり白くなってきていました。


そしてゾロゾロと空家へ戻るとへとへとになった2人と1羽がぐうぐう眠っていました。

ペン太郎が物音で目を覚ました。

「キュー!!キュー!」

ペン太郎はとなりの男の子とおじいさんをパタパタとたたいて起こします。

「ふわわ、また眠ってしまったのう……おお、お前たち戻ったのか!」

「ん、あー寝ちゃった…え、おじいさんが探してたお友達って…」

男の子はトナカイたちとコウノトリを見つけて目を丸くしました。

「あれ?おまえは確か…」

コウノトリさんはじっと男の子を見つめて言いました。

「病院へお行き、妹さんが産まれたよ」

「ほんと!?」

と男の子は一瞬ぱっと目を輝かせて、すぐに曇らせた。

「……でも病院は…」


その横でおじいさんは服を着替えていた。

「ふぉふぉふぉ、やっぱりこの衣装は落ち着くのう」

男の子はおじいさんを見て目を丸くしました。

真っ赤な布に白いもふもふのふちどり。

「サンタさん!?」

「いかにも。いつ正体を明かそうかうずうずしていたんじゃがの。普段は人間には姿を見られない魔法をつかうからの、会えるなんてラッキーじゃぞ!」

サンタのおじいさんは得意げにしています。

しかし、男の子はみるみる目に涙をため、ボロボロ泣きだしてしまいました。

「ごめんなさいごめんなさいぼく悪い子でした。だから来てくれなかったんでしょ。ぼくが悪い子だって知ってたんでしょ。」

サンタさんはオロオロしました。

「わるいこじゃないよ、ちょっとまっての」

サンタさんはソリに積んであった紙束を取ると、ペラペラめくります。

「えーと、ほらこれこれ、……配る家が沢山だからリストにしてあるんじゃ。君んちは、プレゼントはお父さんに預けてある!」

「え」

男の子はきょとんとして泣きやみました。

ペン太郎も首をかしげています。

「さいきんはセキュリティがしっかりして煙突もない家が多いんじゃ。きみのお家もそうじゃろ?無理やり入って泥棒に間違えられてから、そういうお家は前もってお父さんやお母さんなどに渡して代わりに枕元に置いてもらうんじゃ。お父さん、クリスマスイブは家に居なかったんじゃろ?」

男の子はこくこくとうなずきます。

「ならだいじょうぶ、お家に帰ればきっともらえるよ」

男の子はぽかんとしていました。

「じゃぁ、ぼくがあかちゃんいらないって言ったから来なかったんじゃないんだね」

「そうじゃ、それに……きみのプレゼント。何をお願いしたかおぼえているかの?」

男の子は覚えています。

自分が欲しいんだとうそついて、可愛い大きなくまのぬいぐるみをお願いしたのです。

本当は生まれてくる赤ちゃんへあげたくて。

だけどだんだん、生まれたらお母さん取られてしまうんじゃないかという不安の方が大きくなってしまったのでした。

「あと妹さんからのプレゼントもあるぜ!」

コウノトリは窓の外に置いてあるソリを指しました。

「わぁ、雪だるま!」

まだ夜なので、雪だるまはほとんど溶けずに残っていました。

それでも昼が来るころにはなくなってしまうでしょう。

男の子は目をキラキラさせて窓に貼りついて見ています。

ペン太郎も初めて見るだるまに感動してキュキュキュ!とバタバタしていました。


サンタさんは男の子とペンギンをソリに乗せ、病院まで送ってあげました。コウノトリも一緒です。


両親は赤ちゃんが生まれて家に連絡がつかないのでとても心配して探しまわっていました。もう少しで警察に電話するところでした。

いきなり病院に現れた男の子を見るとびっくりして、お父さんもお母さんも泣いて無事を喜びました。

男の子もお父さんとお母さんに抱きついて喜んでます。

「赤ちゃんが生まれたからってお前のこと忘れるわけないだろう」

「そうよ、これから一緒に赤ちゃんを可愛がりましょうね。お兄ちゃん。ほら、目を開けたわ」

男の子は、おそるおそる、妹の顔をのぞきこみました。

赤ちゃんは男の子を見ると、ふにゃぁと笑いました。

手を伸ばしてみると恐ろしく小さく、ふにゃふにゃしてるのに指を握り返してくる力は少しだけこころづよいな、と思いました。

「まもらなきゃ、ぼくがまもってやる。」

男の子がそういうとお父さんは

「いい男になったな」

といって頭をなでてくれました。



病院の窓の外から、サンタさんとトナカイ、ペンペンたちもそれを見ていました。

男の子はこっちに気付くと、両親にばれないようこっそりてをふって、「ありがとう」と声に出さずに言いました。

「さて、そろそろわしらはおいとまするかの。」

「オレも帰るかな~。やれやれ、子どもに振り回されたとんだクリスマスだったぜ」

と、サンタさんはペン太郎に聞きました。

「ペンギンさんはゆきをみたいんじゃったかの?連れて行ってあげようか?」

ペン太郎は少し考えて、首を横に振りました。

「ううん、ぼくもお家に帰る」

なんだかペン太郎もお父さんとお母さんに抱きつきたい気持ちでいっぱいにだったのです。

「そうか、来年また来るからその時にでも声かけておくれ。プレゼント配り終わった後なら、雪国に連れて行ってあげるよ。ふぉっふぉっふぉ」

サンタさんはそういっておひげを触ります。

「ほんとう!わーい!」


そうして、ペン太郎はソリで動物園へ送ってもらいました。すっかり夜が明けて、お母さんとお父さん、ほかのペンギン仲間はペン太郎を探し回って大騒ぎしていました。空からソリで降りてきたのを見るとびっくりして、よかったよかったとくちぐちに言いました。お父さんとお母さんはサンタさんとトナカイとコウノトリに何度も何度も頭を下げました。


そして帰っていく彼らが見えなくなるまでみんなで手を振りました。


ペン太郎は、お母さんとお父さんの胸に交互に顔うずめてぬくぬくしました。

ひととおり怒られた後です。

「雪もみたかったけど、お父さんとお母さんのお腹ってふわふわであったかいね」

「もう、ほんとうに心配したのよ」

「無事で本当によかった」

お父さんとお母さんんおなかはきっと雪よりもふわふわしているにちがいありません。

来年のクリスマスはサンタさんに連れてってもらおう。

お父さんとお母さんも一緒に連れてってもらえるようにお願いしよう。

ペン太郎は、ひそかにそう思って、顔をうずめながらにっこりしたのでした。







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