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プロローグ1

「てめえ! 抵抗すんなよ」武藤康夫は、みすぼらしい路上生活者の右腕を正面に捻りあげる。「痛い痛い」歯糞まみれの黄色い歯を剥き出しにし抵抗をいっそう強めた。

ゴキャっとなり腕が一周すると、康夫は大声を上げて笑った。「ざまあみろ馬鹿!」はあぁと声にならない声を上げへたり込む彼の頭を平手ではたいた。

きっかけは、彼が大声で歌を歌っていた事、たまたま通りがかった康夫は殴り倒し、そして前述のように利き腕を捻じり折った。

康夫は不特定に暴力を振るうが、一つの信念がある。それは必ず相手の心を折る事、必ず。

「よお、おっさん。てめえさ、でっけえ声で歌ってたけどよお、気にいらねえんだよ」

彼は、体液を垂れ流しながら、「もう、やめて、許して……」年齢からすると孫とも言えるような康夫に、必死に謝る。

土手の泥が目に入るのも構わず額を地面に擦り付け。

「許す? 関係ねえよ、もう一本腕折るから出せよ」

「嫌だ、嫌だ、嫌だ」彼の左腕を掴み、それは必死に抵抗するけれど、あっさりと。

乾いた小枝を踏み割ったような音が夕暮れの土手に木霊した。

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