インテルメディオ(幕間) 〜11 years ago 〜
午前九時五十分。伊奈田小学校の裏門横に、一台のライトバンが停車した。車から降りたのは上下ともにグレーのジャージを身につけた茶髪の中年男。手にはスーパーの白いビニール袋を下げていた。男はにたにたしながら小学校の門をくぐり、体育館の横を通って校舎に向かった。花壇のところで一人の若い教師とすれ違ったが、男を父兄の一人だと思った教師は、軽く会釈をしてやり過ごした。
小学校の教室では、ちょうど二時限目の終わりを知らせるチャイムが鳴った。十分間の休憩時間にトイレに立つ児童、教室の後ろでおしゃべりを始める児童、次の授業の準備をする児童、それぞれに短い休憩時間を過ごしていた。そこに、教室のベランダ側の入り口から見知らぬ茶髪の男がにたにたしながら入ってきたかと思うと、手にしたビニール袋から刃渡り三十センチの包丁を取り出し、いきなりそこにいた女児三人を刺した。女児の胸から吹き出す血が、びゅーと飛び散り、教室の壁や机の上に真っ赤なドット模様を描いた。
子供たちは何が起きたのかすぐには理解出来ず呆然としていたが、短い無音の数秒を過ごした後、誰かが「逃げろー!」と叫び声を上げたのをきっかけに逃げ出した。室内に踏み込んだ男は逃げ遅れている児童を追いかけて、さらに一人、また一人と斬りつけて、そのまま廊下へ出た男は、廊下に出て隣の教室に入った。隣で何が置きたのかを知らない児童たちを捕まえた男は、そこでまた五人の児童を次々と刺した。あふれる血しぶきに騒然となった教室は、またしても血の海と数人の倒れた児童を残して無人となった。
男はさらに次の教室に入ろうと廊下に出たところで、騒ぎに気づいて駆けつけた教師にしがみつかれたが、それを振りほどいて教師の胸を刺して逃げた。
「どこだぁ。子供はどこに行った」
そう呟いた男は、中庭に逃げて行く子供たちを見つけて後を追った。だが、手前の部屋に隠れている四人の児童を見つけて「見つけた!」と言って斬りつけた。そこでようやく駆けつけてきた数人の講師が男を取り押さえて、騒ぎに終止符が打たれた。
「疲れた……疲れたなぁ……」
男はそう呟いて、おとなしくなった。たった十数分で児童十人が命を奪われ、一五人の児童と教師二人が重軽傷を負わされた。
男は小学校がある同じ市内に住む三十七歳、無職だった。中流家庭で産まれたが、中学生の頃から家庭内暴力を繰り返し、高校進学するも中退、精神病院に入院した。退院後は運送業、建築業、自衛隊、不動産業などに就職するが、いずれも長続きせず、病院への入退院も繰り返していた。その間四回婚姻して、すべて離婚。婦女暴行、ストーカー行為、暴行など違法行為と、逮捕、入院を繰り返していた。事件後の裁判では責任能力が問われる場面もあったが、人格障害と判断され、悪夢のような態度や発言を繰り返した末に死刑判決を受けた。




