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実際するとなると乙女ゲームの内容はかなり過酷。

部屋に戻るとすぐにエーデルがやってきて、汚れたドレスを持っていった。それと、向こうの世界の事を聞いたらしく、室内を掃除して靴を履かなくてもいいようにしたと笑顔で言ってくれた。私は深ぶかと頭を下げ、「ごめんなさい」と「ありがとう」を言った。替わりに渡された部屋着は、ペールグリーンのシンプルでゆったりした半そでのワンピースだった。私は着替え終わると、これと言ってすることもなく、ベッドでごろごろしていた。柔らかいシーツと掛け物は手織りだろうか、端はしに可愛らしい小花模様があしらわれている。レースの天蓋が目に入る。

(・・・可愛いなぁ。本当にお姫様状態・・・・。国王は何を考えてあんな事言ったんだろう。私がそれで釣られたと思われるのも癪だな・・・。)

「結婚か・・・・」

(まさか、異世界でまで、その問題に突き当たるとは思わなかったな・・・・。しかも、獣人から選ぶとか・・・。まるでゲームの世界みたい・・・。)

「・・・命を懸けてのゲームなんてごめんだけど・・・」

よくよく考えれば、恋愛なんてずたぼろに傷つくかもしれない事を、サラッと遣って退ける度胸は私にはない。それが出来れば、向こうの世界でも彼氏の一人でも出来ていた筈だ。ふと、机の横に無造作に置いた剣が目に入る。

(そういえば、あの光はなんだったんだろう・・・よくある怒ると出るパターンなのかな・・・。魔法の様な力が出たって事は・・・私も、この世界の「人」と一緒ってことかな・・・)

私は、そんな事を考えている間に眠りに落ちていた。

 異世界に来て一日目だが、私の神経が図太いのか、色々あって疲れすぎたのか夢も見なかった。次の日の朝、いつもは目覚めが悪い私が一発で起きる事が出来た。

「遊ぼうおおおおおおおよッ!!」

ドスッー

「ぐッ!・・・うぅ・・・・」

目を開けると私に馬乗りになり、遠慮なくゆさゆさと揺らす見覚えのある少女がいた。

「えっと・・・ウィーレ・・ン・・?」

「お早う!素子!!」

「おはよう・・・重いんですけど・・・」

「遊ぼう!昨日約束した!!」

昨日の記憶を遡る・・・。

(そう言えば、明日って私が言ったんだった・・・。)

「・・・・・あぁ・・そうだったね。」

「忘れちゃ駄目えええ!」

「忘れてない!忘れてないからっ・・・よ・・避けて・・・」

ウィーレンに暴れられ、私はベッドから眠い目を擦りながら出た。

(体がだるい、これは・・・確実に疲れが取れていない。)

「んーーーーーーっ。」

「んーーーーー」

私が背伸びをするとウィーレンも真似をして手を上に上げる。

「あー・・・お腹空いた・・・・」

(そういえば、お茶菓子しか食べてなかったな。)

「とってこようか?」

「あ、ほんと・・・・・」

頼みかけて止まる、自分の常識が通じない所だと思い出す。

「あのさ、どこから持ってくるの?」

「向こうにごはんがある!」

意気揚々と外を指差される。指された先には広大な緑が広がっている。確かに、食べ物はあるだろう。

「わかった・・・。うん、ありがとう、ウィーレン。気持ちだけもらっておくね。」

(取って来るじゃなくて獲って来るの方でしょ・・・確実に・・・)

「いらないの?」

「・・・まずはエーデルに聞いて見る。ありがとうね。そういえば・・・」

今が、何時なのかと気になった。こちらに来てから時計を見ていない。

「今は・・・何時くらいなんだろう・・・」

寝不足と感じたが、もしかして寝すぎて眠いのでは・・・そんな考えが浮かんだ。

「ウィーレンは今何時か分る?」

「なんじ?」

(だめだ・・・。時間の概念がないかも・・・)

「いいや、何でもない。ウィーレン・・・悪いんだけど、エーデルを呼んでくれないかな?」

「わかった!」

ウィーレンが走って部屋を出て行ったのを見送り、私はバルコニーに出て空を見上げた。まだ、太陽は高い位置に差し掛かる手前ぐらいだった。

(お昼前ってことかな・・・ちょっと寝すぎたかも・・・)

「よくお休みになられましたか?」

「呼んできたよ!」

「ありがとう、ウィーレン。」

エーデルを連れてウィーレンが戻ってきた。

「寝坊しましたよね?すみません。」

「お疲れかと思いまして、起床のお知らせには上がりませんでしたので・・・」

「そうだったんですか?すみません・・・。明日からきちんと起きます。」

はたして目覚まし無しで起きられるのか分らないが、この国の為に働くと言っておいて、初日からこれでは先が思いやられる。

「着替えとお食事をお持ちいたします。その後で、国王とお会いになられたら如何でしょうか?」

「そうだ!」

(そうだよ!結婚相手探しについては無理って言わないと・・・)

「・・・・いの一番に会わせてと言われるかと思っておりましたが・・・」

「眠る前までは、いの一番に言おうと思ってた・・・。」

「ふふふ、そうですか。まずは手水をお持ちしますので身支度を整え下さい。」

「はい。」

私は顔を洗い、寄越された服に着替えた。服は前合わせのでパンツスタイル、白いアオザイの様な感じだった。とても動きやすく、日々こういったものが着たいと言おうかと思ったが、それもまた、わがままかと考えて、あえて何も言わなかった。新たに簪を貰い、髪をまとめた。まだ、ウィーレンに無くされた簪は見つかっていないが、あれもゆくゆくは探さないといけないだろう。

 ウィーレンはエーデルが持って来た、パズルの様な玩具で一人遊び始め、私は静かな朝食を取れる事となった。テーブルに運ばれたのはパンとスープ、それから豆の添えられたサラダだった。

「パンなんですね。」

「他の穀類もありますよ?」

「あ、不満とかではないので気にしないで下さい。私、好き嫌いあまりないので・・・虫とかでなければ・・・。」

「ふふふ、虫以外ですね、かしこまりました。「人」の世界に学んだ食事となっていますが、何かあればおっしゃってください。終わった頃にお迎えに上がります。」

「はい、ありがとうございます。」

私はぺろりと食事を平らげた。終わるのを待っていたかの様にウィーレンにせがまれ、大して隠れる所もない部屋でかくれんぼをしていた。

「みつけたーー!」

「あー・・・見つかったあー・・・」

「じゃあ、次は素子が鬼ね!」

「ねえ、ウィーレンこれやってて面白い?」

すぐに見つかっては交代するかくれんぼは、正直何が面白いのか私には分らない。

「おもしろい!見つけたのに食べないのおもしろい!!」

「はい?」

「だって、見つけても食べないし・・・ごはんじゃないのに、何の為に見つけるの?」

「・・・・・・何のため・・・だろう。遊びだからなぁ・・・・。」

「ずっと見つからないのも駄目なんでしょ?」

「うん・・・そうだね・・。見つけられるのが前提だからね。」

「おもしろい!不思議っ!!遊ぶの楽しいよねっ!」

(やばい・・・逆質問にのまれた。)

「何の為に・・・か、ただのかくれんぼなのに哲学的な何かが・・・。」

「ん?」

「何でもないよ。ウィーレンはきっと本質が見えてるんだね。」

「素子変なのー。」

「・・・変って。真面目モードなのに。」

そんな他愛もない話をしていると、エーデルがドアをノックして入ってきた。

「お食事はお済でしょうか?」

「はい。ご馳走様でした。」

「お口に合いましたか?」

「もちろんです!」

「それは良かったです。皆が集まっていますので、参りましょう。」

「え・・・」

私は自分から話したい!とせがんだものの、皆集まっているという単語に怯んでいた。

(国王にだけ、文句言えればそれでいいのに。皆って・・・きっとマラク達だよね。)

連れて行かれたのは近くの部屋だった。そこは、与えられた部屋に案内される前に見た事のある、大部屋だった。大きなテーブルとそれを囲む椅子、その椅子にウィステリア達が座っていた。奥に国王が座る形で、私の為の席は皆の向かい側。集団面接状態だった。

(うわ・・・・・)

「お連れしました。」

「ありがとう。昨日は良く眠れたか?」

国王が、昨日の爆弾発言など何てことないという様な笑顔を向けてくる。

「・・・・よく眠れました。」

「不機嫌そうだね?まあ、座りなさい。」

「・・・心当たりはないんですか?」

「そうだな・・・特にはないが?」

エーデルに椅子を引かれ席に着いた。

「私・・・この国の為に一生懸命働かせて戴きますが、国王の後を継いだり、結婚相手を探すと言うのは承諾できません。」

「その事で怒っているのか?・・・そうか。まあ、本題に入る前に、この国で大きな役目を担っている者達を紹介しよう。聞いてもらえるね?」

「・・・はい。」

国王が、自分に近い位置から順に紹介し始めた。最初は、あの短髪の青年だった。

「まずは、私の護衛とこの国の軍団長をしてくれている「アセナ」だ。」

「よろしく。」

「・・よろしくお願いします。」

(話を聞いた手前、とても気まずい・・・。軍団長では、女の私はいらないだろうな・・・)

「隣が「シンハ」、軍師兼医者だ。私の指示で君を見つけ、呼んだのも彼だ。」

「よろしくお願いします。」

「こちらこそ、よろしくお願いします。」

「次がアミュール。私達が人の容を取る時の服飾は、彼女に一任してある。他にも、城内の装飾は全て任せてある。」

「うふふ、よろしくねぇっ。」

「よろしくお願いします。」

「そして、その隣が「ウィステリア」。諜報機関の長官として「人」の国の情報入手を担っている。他には、城内の住民に対する初頭教育係と言ったところか。」

「教育?!」

会ってすぐに首を絞められたり、嫌味を言われた私には衝動的に見えた彼が「諜報機関の長官」で「教育係」と言う話がそれこそ、二度見するくらいに衝撃的だったのだ。

「何だよっ!何でそこにびっくりすんだよ。」

「え・・・あ、ごめん。」

「ははは、ウィステリアとは随分仲が良いな。」

「ええ、まあ・・・話す機会があったものですから・・・。」

「最後が「マラク」だ。私の補佐兼執行役だ。私の代理として人との交渉の席にも出て貰っている。」

「どうぞ、よろしくお願いします。」

「はい。こちらこそ、よろしくお願いします。」

「以上が、君を支える一番近い者となるだろう。」

「はい・・・」

「この中から、素子が選んだ者を添えとして側に置いて欲しい。」

「は・・・・・はあ?!何をっ・・・」

「皆、有能で力のある者達だが?」

「違うっ・・そういうんじゃなくて!相手に不満とかじゃなくて・・・・。私はっ・・・結婚できないです!」

「それは、何故?我々が人ではないから?」

国王の顔には、困らせようなんて表情は微塵もなかった。あるのは純粋な疑問だろう。

「違いますっ!!何故って・・・。逆に、何で結婚っていうか、その「添え」を選ばないといけないんですか?別に、国王に万が一の事があったらを考えて、今、国王がこの中から選べば良いじゃないですか!」

本来なら種族が違うという事が拒否の一番上にくる理由だろうが、私にとってはそれよりも、昔の嫌な思いを再度味わうかもしれない方が嫌だった。

「素子。私は、昨日君に話したように、平和的に解決する為に、この「人」との問題は「人」対「獣」では解決出来ないと思っている。将来には「人」対「半獣」の構図になるだろう。」

「「人」対「半獣」・・・?」

「君が、昨日広間で最期を看取った子がいたね?」

「・・・はい。」

「あの子は「半獣」だ。半獣は「人」と獣の間に出来た子を言う。」

「人との間に・・・?」

「この世界の動物を「人」は次の様に分けた。「人」「獣」「獣人」「半獣」という四つだ。あくまで「人」の作ったくくりではあるが、それに当てはめると我々の様に、人の容を取れるものは「獣人」のくくりとなる。「半獣」と呼ばれるものは完全に人の容を取る事は出来ない、そして「獣」となる事も出来ない。獣人よりも「人」よりでね・・・力も不安定だ。」

私は、人が他種を持ち込んだせいで誕生した「ハイブリッドかめ」の事を思い出していた。私の記憶にあったのは、元々は首を仕舞った後に腹側の甲羅が閉じて敵から身を護っていた亀が、持ち込まれた別な種との交雑の結果、甲羅を閉じる事が出来なくなってしまい、純粋な固体が減り、更に全体数も減らしている。という記事だった。

「迫害を受けて逃げてくる、その者達を受け入れるのも、この国の役割の一つなのだよ。私は、今に増え行く「半獣」の彼らがこの国の代表になると思っている。」

「・・・・」

「万が一の時は早い段階で、「人」に、この国の上が人、または「人」に近い者だと認識して欲しいのだ。私の不足の事態が「人」に伝われば、一気に攻め込まれる危険もある。そうなった時に、「人」に一番話が通じる者が代表の方がいいだろう?人である素子の添えならば、人の考えや思いにもより深く通じ、更にこの国の代表として獣の立場も語る事が出来るだろう。」

「・・・・・・・それは、そうかも知れないけど・・・」

「別にすぐ決めて欲しいと言っているわけではない。皆と生活を共にしていれば、よりよく相手の事も分る。理解し合ってから決めればいいだけの事だ。」

「国王?素子が言いたいのはきっと別の事なのです。素子のいた世界では、強いオスばかりがモテるのではないのではなくて?「愛」という人の感情の無い「添え」が無いとしたら、どんなに理解しても無理ですものね?」

口を開いたのはアミュールだった。

「素子が、この中の誰も愛せない場合はどうします?」

「ふむ・・・・。「愛すること」が「添え」の絶対条件となるならば、か・・・。それならば致し方あるまい、その時は、素子が半獣の者の中から一人選ぶ事としよう。」

打開策が出たものの、やはり私が、まず、この中から一人選ぶ事を前提として考えなければならないらしい。

「素子~、何もそんなに気負わなくていいのよぉ?」

「アミュールさん・・・」

「身体の相性もあるでしょう?」

「--ッ!?ちょっとっ!!!」

「うふふふ。冗談よ、半分は。駄目なら駄目でいいのよ。やってみましょう?」

「アミュール!そんな軽い気持ちでいい役割があるのか?!」

アミュールに噛み付いたのはアセナだった。一気に空気の緊張度合いが上がる。

(ひぃぃぃ、めっちゃ怒ってる)

「・・・あらぁ、アセナ。他にいい案があるなら聞くわよ?「人」の不可思議な力に、素子無しで対抗できるならね。」

「くっ・・・・」

国王が慣れた調子で止めに入った。

「・・・止めなさい。あくまでも私は、平和的に解決する策を模索しているのだよ?素子、君もまずはやってみてくれないだろうか?」

「・・・・はい。」

アミュールが打開案を出してくれた事で、私は了承せざる終えなかった。やってみて駄目ならば・・・それは、結構際どい発言だったと思う。この、国の存亡も掛かる事態を想定してる、いや、もう存亡が掛かっていると言っても過言では無い中で「駄目モト」発言はかなり勇気のいる事だと思う。アミュールの出してくれた助け舟を無駄にする事は出来なかった。

「では、素子。」

「はい。」

「まずは、明日からアセナに剣の使い方を教えてもらうといい。」

「・・・・はい・・」

お飾りに貰ったんではないと思っていたけれど、アセナに教えてもらうのは気が引ける。

「アセナもいいね?」

「はい。」

「よし、それではこの場を解散とする。以上だ。」

国王が立ち上がり、それに伴い皆それぞれ部屋を後にした。最後に出る国王に続いて私も部屋を出る。ふいに国王に入り口で呼び止められた。

「素子。」

「はい。何でしょうか?」

「今度からは、昨日みたいに敵に突っ込んだりしないでおくれ?」

「あ・・はい。すみません。」

「君は我々の大切な人なのだから。いいね?」

「・・・はい。」

去っていく国王の背中を見つめながらとても複雑な心境だった。

(・・・・まるで恋人に言うようなセリフをさらっと言うんだよなぁ。)

でも、国王の大切な・・・ではない、この国の為に大切な・・・という事だ。

(・・・はあ・・・選べって言われてもなあ・・・・なんか、向こうのペースにすっかりハマってしまった感がすごいする・・・)

私は結局了承してしまった事を悔やみながら、とりあえず部屋に戻った。


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