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衣裳部屋と悪魔。

 エーデルに案内された衣裳部屋では獣人や獣、人の容をとった者まで様様な者が働いていた。作られた衣装を保管する場所というよりは工房といった方がしっくりくる様だ。

「アミュールはいますか?」

「ここにおりますよ。」

エーデルに応えて布地の山を縫って出てきたのは、捻り上がった角を持った女性だった。深い紫色の瞳に漆黒のウェーブの掛かったロングへア、そして、真っ黒のワンピース。

(見た目が完全に悪魔っぽい・・・)

「こちらの方用の服を見せて欲しいのです。」

「あら、異世界の方ね!」

その言葉に作業場がざわつく。

(視線が・・・怖い・・・)

「・・・よろしくお願いします。」

「私はこの城で服飾を手掛けているアミュールと言います。「人」は悪魔と呼ぶ部類よ。」

(うわぁ、そのままだった。)

「あの・・・」

「大丈夫っ!貴女の魂は食べないわ!」

「え、いや・・・。」

「あら、違うの?」

「・・・あの、悪魔も「人」と仲が悪いんですか?住みかを追われた・・・とかですか?」

「まぁ・・・似たようなものかしらね。「人」の町での生活がとても困難になったとでも言っておこうかしら。」

「そうなんですか・・・。」

悪魔が生活困難になるとはどういうことなのだろうか。強力な悪魔祓いがいるということだろうか。

「そんな事より!私は応援するわよ!今夜の・・・」

「はい?」

「アミュール!」

「あら・・ごめんなさい。さぁ、作ってある服はこっちよ?」

(エーデルがアミュールを口止めした・・・?)

何を言いかけたのか疑問に思いつつも、エーデルが語気を強めて静止したのを改めて聞く勇気はない。作業場の横の部屋には3列に棒が渡してあり、服がずらっと掛けられている。壁際には、帽子や靴、扇子や髪飾りなど服飾品も沢山並んでいる。

「すごい・・・」

どれも綺麗な装飾がしてある。ビーズ、真珠に輝石。レースに刺繍・・・性能のいい機械があるとは思えない。全て手仕事なのだとしたら、ものすごい労力だ。

「来るのが女だと聞いてたから色々用意したのよ~。どれもこれも自信作だし、きっと気に入ってくると思うわ。さぁ、袖を通してみて!」

「何かもったいな・・・」

「じゃあ、最初はコレね!」

言葉を遮り、目の前にずずいっと真紅のドレスが突き出される。

「こんな高そうな物・・・私には・・・」

「貴女の為に作ったのよ?着れないとか・・・言わないわよね?」

「あ・・・はい・・着させていただきます。」

(アミュールの目が笑ってないぃぃ!)

カーテンで間仕切りされた小部屋でドレスに着替えた。その肌触りのよさに感激した。

「この生地、凄い滑らかなんですね!気持ちいい!」

「そうでしょう?生地を辺境の部族まで特注させたのよぉ~。今から着る服も絶対に気に入るわよ?」

「え?」

「どうしたの?」

「あの、一着あれば制服と交互に着れますし・・・」

「あら、やだ。この3列はすべて貴女用に仕立てたのよ?」

「えぇっ!」

アミュールは次の一着を手に取りながら言った。

「ねぇ・・・。すぐに帰れると思っているの?」

「・・・それは・・・」

「私は、それなりに時間が掛かると思っているわ。」

「はい・・・。」

「その間、煌びやかな物を着て楽しむくらい、いいと思わない?」

「え・・・」

「私たちが「申し訳ない」とまったく思わないと思ってる?」

「それは・・・」

「帰る術がないのに、自国の為に強制的に呼ばれる「生き物」に申し訳ないと思っている者もいるのよ?・・・それでも、すがるしかないの。それなら、せめて出来る限りの事をしようと思うと思わない?」

そういう風に思っているとは思わなかった。

「でも、勘違いしないでね?私が、こんな風にするのは見返りを求めるわけじゃないから、最終決断は貴女にあるのよ?この国の為に戦うのが嫌ならそれでもいいの。」

「・・・・また、呼ぶからですか?」

「まぁ、そうね。異界から呼ぶ行為は、とても力を使うから何時になるかは分らないけど・・・。それに・・・」

「それに?」

「・・・なんでもないわ。」

アミュールは苦笑いして、新しいモスグリーンのドレスを手渡してきた。

「はい!次はこれね。さくさく袖を通して頂戴!サイズが合わないものはすぐに直すわ。」

「・・・はい。」

苦笑いの意味を考えながら、手渡されるドレスや普段着を、機械的に着ては脱いでを繰り返した。私は結局、拝謁式の服装を決められず、アミュールにお願いして見繕ってもらう事にした。


 陽が沈みかけて空をオレンジに染める頃、ドレスを持ってアミュールとエーデルが部屋へ来た。

「さあ、着替えて頂戴!」

「失礼致します。」

対照的な入り方をする二人だったが、来ている服もまた対照的だった。エーデルはメイド服だったが、アミュールは漆黒のドレスに大きな羽根飾りの帽子を被っている。

「エーデルさんは式に出席しないんですか?」

「私は仕事がありますので・・・」

「エーデルも仕事なんか任せて出ればいいのに・・・。真面目なんだから困るわ。」

(皆悪魔的でも成り立ちませんけどね・・・)

「私はどれを着ればいい・・・」

「コレよぉ!!!」

バサッと広げられた服は背中のパックリと開いた真紅のドレスだった。ドレスの裾は膝丈から後方に向かって伸びており、後ろ側は腰から下にたっぷりとドレープがあるデザインだ。胸元にはたっぷりのフリルがあしらわれている。胸元で輝くのはルビーだろうか、濃いピンク色をしている。

「すごい・・・何か、お姫様みたいですね。」

「まあ、そんな感じよ。きっと似合うわ。靴はコレね。履いてみてくれるかしら?」

「はい。」

差し出された靴は同じ色目の真紅のパンプスだった。履いてみると足はぴったりと収まった。

「すごい・・・ぴったり。」

「でしょう?貴女の靴を研究させてもらったわ。すごい技術ね。」

「え。」

周りを見渡すとテーブル横においていた靴がない。

(うわ、あんなにぼろぼろの靴見られた・・・恥ずかしいな・・・)

「これで今までよりも、もっとよりよい物が作れるわ。」

そう言ってアミュールは微笑んだ。ドレスに着替え、エーデルに髪を結い上げられる。手伝いに来た他の侍女に支えられた大きな鏡に写る私はまるで別人だった。見慣れた顔の筈なのに、着ているもののせいかとても違和感があった。私は首の痣が消えているのに気付いた。

「あ、首の痣がない・・・。」

「湯には高い治癒効果がありますので、治ったんでしょう。」

私の髪を弄りながらエーデルが言った。

「・・・・すごいですね・・・」

「普通の事です。」

「そうですか・・・・」

普通。そう言われると、この世界の普通に慣れるのにどれだけ時間がいるのかと考えさせられる。結い上げた髪に、金色の髪飾りが差し込まれる。赤色の輝石が煌いている。

「この石ルビーっていうのよ?知ってた?」

アミュールが鏡越しに髪飾りを指して言った。

「そうなのかなって思ってはいました。私の誕生石っていう生まれた月に割り振られた石がルビーなんです。」

「そうなの?じゃあ、この服を選んで正解だったわね。この石は、どんな光も赤くするのよ?知ってた?」

「いいえ・・・そうなんですか?」

「そう。青い光も緑の光も・・・自らの中で赤に変えて輝きを増すのよ。きっと、その石の加護を受ける貴女もそうよ。」

「・・・そんな。」

(そんなわけない。7月生まれなんて星の数ほどいる、皆が皆同じようになるなんてない・・・)

そっとアミュールが肩に手を乗せ、私に寄り添った。

「・・・・大丈夫よ。貴女は私たちが護るわ。」

深い紫色の瞳に吸い込まれそうになる。ただ、何故か深い安堵感に満たされた。

「・・・・アミュールさん・・悪魔の力とか・・使ってます?」

「あら、バレた?」

「ちょっとおお!止めてくださいよぉ!」

「ふふふ。」

そんな、ちょっと楽しい時間は私の心を軽くしてくれた。でも、私の心はまだ決まっていなかった。

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