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これは楽できるかもと思ったら更に事が難しくなるパターン!

 部屋に訪れた男は、もう直ぐ国王が来ると言う事を伝えに来ただけの様で、侍女にあれこれと指示を出し、私に「もう直ぐ参りますので・・・」と言うと、そのまま帰っていってしまった。

「あの・・・」

「なんでしょうか?」

私の呼びかけに、侍女が側に寄って来る。

「・・・・名前とか・・無いんですか?」

「私の名前ですか?・・・エーデルと申します。」

「・・・・その名前で呼んでいいですか?」

「・・・はい。」

私には、あまり「名前」を呼ばれるのを歓迎していないように見えた。私が呼ぶ事自体が嫌ならば、何も無理に呼ばなくてもいいと思い、凹むのを覚悟して聞いてみた。

「あの、私に呼ばれのが嫌なら・・・そう言ってもらってもいいんですけど・・・」

「それは・・・私が「あなた」を嫌いかと聞いているんですか?」

思わぬ逆質問に少し怯んだ。

(・・・・私の言い方って、そんなに・・・確認しないと通じないのかな。)

「・・・はい。」

「そんなことはないです。あの・・・「名前」が嫌いなんです・・・。私からも質問させて下さい。貴女はなぜここに来たのか分っておいでですか?」

(おおっとぉ、それは私が一番聞きたい!!)

急に食いつかれて戸惑いながらも、嫌われていない事で少し安心した自分がいた。

「何で来たのかは分らないんです・・・。何というか、気づいたらここに・・・っていうか、皆さんに囲まれている状態だったので・・・分からないんです。」

「・・・・そうですか。」

エーデルの質問の意図は測れなかったが、エーデルは、自分が小さい頃から此処に住み、また、働いているのだと教えてくれた。


コンコン


ドアがノックされ、先ほどの短髪の男が、今度は銀色の鎧を纏って現れた。鎧は日本の物に似ていて、シンプルな兜を横に抱え、歩くたびに細かな金属音を奏でていた。続いて現れた男は、短髪の男と大して年は離れていない様に見えたが、その服装から位がずっと上だとわかった。白い羽織には細微な唐草模様が施され、着ている服は日本服の様な前合わせ。それにも、金糸で贅沢な刺繍がしてあり、襟元をみる限り鮮やかな布地が6枚は重ねられている。下は袴のような形だが、長い飾り帯が腰に巻いてあり金色の飾りが揺れている。黒髪は長く、後ろの低い位置で結わえられている。

「・・・待たせてしまって申し訳ない。異世界の者よ。」

私は、慌てて立ち上がった。

「す、すみません。そんな事ありません・・・・」

そこから言葉が見つからない。声から、あのライオン・・・国王だと分かった。

(「お招きいただきありがとうございます」でもないし「早く帰せコラ」でもないだろうし。)

「まずは掛けて欲しい。少し長い話になると思う。」

「はい・・・」

(やっぱり・・・勇者とか・・言われるのかな。)

勧められるまま、椅子に腰掛ける。完全に対峙する形で座っているが、あのライオン時の面影はどこにもない。

(あの大きさで人の時はこの大きさかぁ・・・急にライオンに戻ったら大変だろうなぁ・・・ライオンだから「たてがみ」が長くて、だから人型でも髪の毛が長いのだろうか・・・)

そんな、どうでもいい疑問が先に浮かんだ。先に口を開いたのは国王だった。

「今回、無理やりこちらに呼んでしまった事を許して欲しい。」

深々と頭を下げられ、こっちが恐縮してしまった。

「いや・・あの、大丈夫なので・・・いや、大丈夫でもないんですけど・・・その、私は・・・」

私は言葉がすんなり出て来なかった。質問の答えを聞くのも、怖かったのかも知れない。

「・・・私は・・死んだからここに来たんでしょうか。」

「貴女は生きている、この世界で・・・。死んではいない。ただし、貴女が産まれた世界では存在が皆に認識されない者となっているだろう。」

「存在しない?」

「そう、時間の流れから抜けた貴女は、無かった者として扱われているだろう。皆の記憶からも、存在を記す全てから、消えている筈だ。」

「戻っても、誰も知らないと言う事ですか?!」

流石に焦った。

「戻れたとしたら、貴女は元の時間の流れに加わる事になる。そうすれば、以前と同じように生活出来るだろう。皆の意識の中にも、記された物にも戻る。」

(戻れたとしたら・・・?嫌な言い方が含まれてるような・・・)

「今まで・・・何人くらい、ここに来ているんですか?」

「2人だ。それぞれ、違う時間軸からだが。」

「それで・・・・何人戻ったんですか?」

「一人はこの国の為に戦い、戦死した。もう一人は敵国に行き、そのまま行方不明となっている。」

(んん?)

「一人も・・・戻っていないんですね・・・。」

「そうだ。」

「戦争・・・しているんですか?」

「そうだな。戦争と言う事になるだろうな・・・。もう、数十年になるか・・・。」

「な・・なんで、私は呼ばれたんですか?」

「この国の為に力を貸して欲しい。」

「・・・」

(ちょーーーーっとぉ!!!訳分からない!私が何の役に立つっていうの?完全に雑魚キャラなのに!運動部で活躍してたの何年前だと思ってんの?戦術立てる頭なんか持ってないし、第一こんな冴えてない見た目でハニートラップも出来ないし、え、もしかして、おとり役とか??それより、死ぬかもしれないって現実よりかなり過酷じゃん!!私は苦労しに来たっての?)

「あ・・・あの・・・帰りたい・・とか・・」

「それは・・・敵国から情報を引き出せば、出来るかも知れない。」

「な・・なんでっ・・・」

「帰る為の装置や知識は敵国が持っているからだ。」

「え・・・」

「すぐには信じて貰えなくても構わない。今から、どうしてこうなったのかを全て話そう。それを聞いて考えてからでいい。返事を貰いたい。」

目の前の真剣な眼差しは、まっすぐに私を見ている。

「・・・分かりました。」

国王はゆっくりと一呼吸置いて、話し始めた。

「今まで見た事で分かると思うが、この国は人が獣と呼ぶ者達の国だ。」

「はい・・・」

「建国したのは46年前になる。」

「え・・・あ、若い国・・・だったんですね。」

「そう・・・この国は、建国からさほど経っていない。この国を建国するきっかけは、敵対している「人」との抗争からだった。」

国王が軽いため息をつき、続けた。

「昔から、我々と「人」は自然の中で、恵みを分け合い生きて来た筈だった。・・・だが、いつからか「人」は森深くへまでも進出するようになった。当然、そこに住む我々とまみえる事も増えた。」

「・・・縄張りを荒されるということですか?」

「それも一つある。だが、それ自体はしょうがない事でもある。我々、獣同士でも荒したり荒されたりはあることだ。まったく、関わらず生きられるものではない。「人」の飼う家畜が、我々の食事になる事もあれば、我々が「人」の食事になる事もある。・・・しかし、森への進出が進むと「人」は、あたかも自分達だけの物の様に木を切り、そこに畑を作り、柵を作り・・・囲った。囲われた土地の実りは「人」が独占し、立ち入る我々の同胞は、ことごとく「罠」や「人」の手で殺された。」

それは、私が生きてきた世界にも、ことごとく当てはまった。

「私達は、生きる為に肉を食らう。「人」もまた同じだろう。」

「はい。」

「だが、殺された同胞達は「人」が肉を食らい生きる為に殺されたのではない・・・。彼らの亡骸は長く、森と「人」の住みかとの境界に吊るされていた。それが、我々への「威嚇」になると「人」は思ったのだろう。そんな事が永く続いていたある日、事件が起きた。」

「事件・・・ですか?」

「そうだ。森の境界で「人」の子が殺されたのだ。」

「・・・・それは・・・」

「「人」は我々が殺したのだと怒声と張り上げた。その「人の子」の様子を見た者の話では、体が裂かれ、無残な殺され方だったと聞いている。」

「あなた方ではない・・・という事なんですね?」

「もちろんだ。必要があれば我々は「人」を攻撃する。だが、あの時は、それまで「人」の攻撃に散々晒されてきた境界に近づく獣は少なかった。肉を食らう獣はなお更、近づく者など居なかったのだ。それに・・・」

「それに?」

「獲物の臓物は一番旨いところだ。食わずに置くのは愚かというものだろう・・・。」

背筋に冷たい汗を感じた。目の前の褐色の瞳が鋭い光を纏ったような気がしたからだ。急いで話を戻す。

「・・・そ・・それで、どうなったんですか・・・」

「「人」は我々の駆逐を始めた。」

「え・・・」

「「人」に害を成すものを害獣と位置づけ、金をかけ殺す事を奨励したのだ。金は「人」にとっては、とても大事な物らしくてね。今までとは比べ物にならない程多くの「人」が森へと入ってきた。貴女の世界でも金は大事な物なのだろう?」

「そうですね・・・。私の世界では、お金がないと死んでしまうと言っても過言ではありません。」

そう、食べ物も住処も全て金が必要で、だから私は必死に働いていたのだ。

「やはり、そうなのか。・・・「人」が入ってきた森では、我々の同胞がそれぞれ抵抗をした。力の無い者は逃げるしかなく、戦う術のある者は戦った。しかし、戦えば戦うほど「人」という生き物は、抵抗する我々に非があるような言い分を持ち、まったく引く気配は無かった。」

(・・・何か・・・正論過ぎて、人である自分が嫌になってきた・・・)

「そんな時、私の元に状況を憂いた者達が知恵を貸してくれと訪れたのだ。」

「・・・国王は、どこから来たんですか?」

「ここよりもずっと奥深い場所だ。「人」などは辿りつけないだろう。」

「・・・そうだったんですか・・・」

「私は考えた。どうしたら打開出来るかと・・・摂理より外れる一方的な殺戮を止めたい・・・と。そうして、まずは「人」と対話しようと考えた。私は、「人」の言葉と文字を理解した。」

「・・・勇気があるんですね・・・」

「そうか?」

「・・・私なら、自分達をどんどん殺してくる生き物と話をしようと思いません。・・・怖くて・・・。」

「「怖い」というのは命を守る上で大切な感覚だ、当然と言えば当然だが・・・私は「人」を恐れていない。」

(そうでしょうとも・・・あの巨体に人が敵うはずないしね・・・)

「私は4度、特使を派遣した。」

「4回ですか?」

「そう、最初は「人」が慣れ親しんだ者の方が良いと考え、鹿に「親書」を頼んだ。従来通り、「人」の言葉を話さない方が良いと思い、話せない鹿をあえて選んだ。鹿は境界で「人」に接触はしたが、直ぐに追われて逃げ帰ってきた。鹿の話では、自分の姿を見るなり、石をたくさん投げられたと言う。「人」は草を食む我々を見ただけで、柵の中にある「作物」を盗られまいと攻撃してくる事を理解した。」

(心が痛い・・・・確かにそうだ、盗られそうだと思ったら攻撃する・・・)

「二回目は狼に頼んだ。狼は「人」の目に触れた事もあり、抵抗する術を持つから直ぐには「人」も攻撃しない。そう考えたからだった。狼は「人」に解るように「親書」を置き戻ってきた。しかし、これも失敗だった。「人」は「親書」を読んだが、我々にそのような知識があるとはどうしても思えないようで、「親書」は暖炉にくべられた。そして、三回目は「人」の言葉を理解した鷹に頼んだ。鷹には「人」を取り纏めている「城」に住む「王」に渡すよう言ってあった。」

「・・・それで・・・どうなったんですか?」

ごくりと唾が自分の喉を過ぎるのを感じた。短髪の男とエーデルは、表情一つ変えずに私達の話を聞いている。

「鷹は「人の王」に「親書」を届け、自らの口で「森に住む者からの提言だ」と言って置いた。」

「・・・・・」

「その時「人の王」の傍らに居た「祭祀」と呼ばれる「人」が「化け物だ」と声を荒げたそうだ。そのまま、騒然となる中「祭祀」から「悪しき書物」とされた「親書」は焼き捨てられた。ここでも、私は理解した。「人」は自分の理解を超えるものや知らないもの・・・特に「そうあって欲しくないもの」には、理解しようとするのではなく拒絶するのだと。」

「・・・すみません・・・」

「何故謝る?」

「・・・私も・・・人なので・・・」

居た堪れなかった。向かいに座っているのは人の形はしていても、獣人代表で・・・言っている事は嫌でも理解できる。非は人間にあるように思えた。

「まあ、そうなのだろうが・・・。そんな貴女に、救いを求めているのは我々だ。」

ふっと微笑む国王の顔が優しくて胸を打たれた。「人」に酷い目に合わされているのに、「人」である私にそんな風に微笑めるなんて・・・。

「城の中で追われたが、無事に帰った鷹から話を聞いて、私は最後に自ら「人の王」に会いに出向いた。」

「え。自分でですか?!」

「そうだ。私が行ったのだ。この容で「親書」を持ってな。」

「はぁ・・・」

「私は、それまでの失敗から「人」は自分達と「同じ」でないものを受け入れるのには、相当の時間を要すと考えた。私は「人」の容をとり、従者も連れて行った。「人の王」がするのと同じ様にして、馬に豪華な装飾をした馬車を引かせてな。」

「会えたんですね?」

「もちろん会えた。私は森の代表として「人の王」に「親書」を渡し、我々の提言を申し上げた。書かれていた内容は二つ、「我々への摂理に似合わぬ一方的な殺戮を止めて欲しい」「森の独占にあたる事を控えて欲しい」この二つだった。」

「「人の王」は何て言ったんですか・・・」

「・・・我々の提言を笑い飛ばしていたよ。「人の王」の言い分はこうだった。「この土地はもともと我々、人の物であり、生まれでた我々人に神が下さった物だ」「権利とは高度な知能のある者、人にあるもので、野山を這う獣にあるものではない」「自然の摂理というならば、弱肉強食、弱いものは強いものには敵わぬ。その為、強い我々人が獣を狩ることは何らおかしい事ではない」。提言が、まったく受け入れられない事を知った私は、その場で自らの国の建国を宣言したのだ。」

「建国を宣言・・・」

「そうだ。私は「人」対「獣」の図では最早解決は出来ないと考えた。「人」が神から地を貰ったと言うならば、もともと、そこに住む我々もまた、そこで生きろと神に言われたと考えられる。権利が、高度な知能のある「人」にあるのだとすれば、私は人の容になれ、尚且つ、人と変らない知能もあるわけだから、その権利を有するだろう。強い者のみが勝つというのならば、私は強い。また、弱いといわれる者達が抵抗してはいけないという訳ではないのだから、今後はあらゆる力を持って抵抗する。・・・その、抵抗の一環が「建国」なのだ。」

「・・・・・・人に勝つんですか?」

「勝つ・・・。どうだろうか。「人」はいつも勝ち負けという区別をしたがるが・・・。」

憂いを帯びる、褐色の瞳がふと遠くを見る。

「私は、昔の様に暮らしたいだけなのだが・・・。それを・・・自分の望みを通す事が勝ちというならそうなのかもしれない。」

「そうですか・・・」

「私は、そうして「人」の前で建国宣言をして帰ってきた。それから、城を築き、「人」の容を取れる者を中心に、それぞれ役割を担ってもらった。この話が内外に知れ、私の考えに賛同してくれる者達も、たくさん集まった。そういった者達を中心にこの国は成り立っていったのだ。」

「・・・よく無事に帰って来れましたね。」

「本当の姿をチラッと見せたからな。それからは静かだった。」

(あれ見せたら誰だって静かになるよ・・・っていうか、確信犯じゃん・・・)

「問題はそれから数年ほど経ってからだった。それまで私達は平和そのものだった。森への進行も止まり、無意味に殺される同胞も減っていた。我々は、形だけは国として維持していたが、ほぼ、本来の生き方をしていられたのだが・・・・」

「何があったんですか?」

「「人」の中に、今まで見たことのない者達や技術が混じり始めたのだ。」

「見た事がない?」

「そうだ。剣をここへ。」

国王の言葉に、テーブルの上へその剣とやらが運び込まれてきた。

「これは奪った物の一部だが・・・、異世界の者にはどのように見える?」

「・・・剣・・。何か刃先がぼんやり光ってる・・・?」

(気のせいじゃない・・・光ってる・・・)

「持ってみて欲しい。」

「あ、はい。」

国王に言われ、剣の柄を握った時だ。

「えっ・・・」

剣が目に見えて光を帯び、風が剣と自分の周りに渦を作った。

「!?」


ガシャー


思わず床に剣を落としてしまった。

「あ、すみません・・・」

拾おうとして手が止まる。

(・・・これ・・どこを持ったらいいの・・・)

「・・・驚かせてすまない。やはり、そうか。」

国王は何てことなく、ひょいと剣の柄を取って持ち上げた。

「ちょっと・・・驚きました・・・・・・」

(心臓が止まるほどびっくりしてるんですけどね・・・・)

「・・・こういった武器を急に使うようになったのだ。」

刃先を見やり、国王が軽く剣を振り下ろす。ヒュンッと風を切る音がした。軽く扱っている様に見えたが、かなりの力が掛かっていると容易に想像できた。しかし、光も発しなければ風も出ていない。

「風が・・・」

「そうだ。我々にはこの剣を握っても、あの光も風も作り出せない。ぼんやり光っていると言っていたが、その状態も我々には感じられない。この武器について送った偵察部隊の話によれば、異世界から「人」を呼び、その「人」がもたらしている技術らしい。」

「・・・ちょっと、待ってください。私には、そんな技術はないです!今だって・・・」

「・・・知っている。我々が呼び出した者で、これを知っている者はいなかった。それに、「人」が呼び出した「異世界の人」には必ず、額に輝く石があるという報告もある。」

「・・・・じゃあ・・・私は・・・」

(魔法みたいなのまで出て来た・・・もう、私に出来る事なんて・・・・)

「貴女には「人」の国との交渉や戦闘に出てもらいたい。貴女は正真正銘の人だ。彼らと話も通じるだろう。」

「・・・国王の様な出来た方が話しても、埒が明かないのに・・・私に何とかできるわけないじゃないですか。」

「しかし、貴女は人だ。聞いてもらって解っただろう?「人」は我々の話は聞かないのだよ。どんなに、こちらが歩み寄ろうとしてもね・・・。」

「・・・・・・」

「それに・・・我々は異世界から呼ぶ技術を「人」の国から盗みようやく完成させたが、戻る術はまだ完成していない。戻るには「人」の国から、情報を入手し、その技術を確立する必要がある。どちらにせよ、「人」の町には行かなければいけない。」

(・・・・やっぱり・・・帰れないの解ってて・・・わざと呼んだんだ・・・)

「じっくり考えてからでいい。返事を聞かせて欲しい。」

「・・・・・」

うつむく私を置いて、国王と短髪の男は部屋を出て行った。残ったのは侍女のエーデルだけだ。

「エーデルさん・・・」

「何でしょうか。」

「ちょっと、一人になりたいんですけど・・・ダメですか?」

「わかりました。部屋の外におりますので、御用の際は声をお掛けいただくか、そちらのベルをご利用下さい。」

エーデルの目線の先には、金色の持ち手の付いた卓上ベルがある。

「・・・すみません、ありがとうございます。」


バタンー


一人になった部屋で盛大にため息をつく。

「はあああぁー・・・・ああぁ~、何でこんな事になったの・・・」

(国王っていい人かもって思ったけど撤回!撤回!!!帰る方法無いのに呼ぶってどうゆうこと?異世界・・・・ここが異世界・・・。そりゃあね、行きたいと切望した時もあったよ・・・でもさ、呼ぶならもっと若いときに呼んでよ・・・高校生の時とか、もうノリにノッてて最高だったじゃん。なんで、25歳過ぎて体力も肌質も落ちかけてる時に呼ぶの?っていうか、正直まだ信じられないし・・・異世界とか。100歩譲って、呼ばれたとしたって何で今なの?)

「・・・・いつ呼ぶの~・・・今でしょ~・・・・・・・・・・・・・・・・」

(あぁ、言ってて悲しい。もう死語だしね・・・)

「あーーーーーーもうーー・・・・・」

戻る術もない、結局やるしかない。そんな状況に、天を仰ぐ。

「・・・・天井・・綺麗だなぁ・・・。」

ふと、目に入った天井は、とても繊細な模様で彩られていた。この天井も、あの机の装飾も彼らが造ったのだろう。一から学び、ここまで美しく仕上げるのはきっと、すごく苦労しただろうと思った。あの話からすれば「人」が確実に悪い・・・。国王達の言い分は、現実世界の動物が知能を持ったら言っただろう言葉だ。

(・・・でも・・・片方の言い分だけ聞いて判断も出来ない・・・)

もやもやとした気分を、少しでも晴らそうとバルコニーに向かった。途中、破けたストッキングを思い出し、脱いでポケットに突っ込んだ。素足で床に触れると、石の筈なのに柔らかい様な印象さえあり、不思議と心地よかった。

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