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それはまるで中間管理職のように・・・(2)

 少し肌寒く感じて目が覚めた。

「・・・ん・・」

寝足りない。目覚めて直ぐの感想だ。私はいつの間にか机に突っ伏して寝ていたようだ。窓の外はまだ真っ暗で、時計がないので何分程寝たのかすら分からない。ふらふらとバルコニーに向かう、左でそっと窓を押すとキィ・・と幽かな音を立てて大きな窓が開いていく。同時にひんやりした風が吹き込んできた。

「寒・・・」

スッと意識がはっきりしていく。

 空にはまだ星たちが恐ろしい数瞬いていた。冷たい夜風が長いスカートの裾をなびかせて行く。静かな黒い森は、夜の暗さが手伝ってどこまでも広がっているように見える。

「・・・・・・・・・ふぅ。」

軽くため息をついて部屋に戻ろうとした時、森の上を低空で飛行する動物が目に入った。飛び方が鳥ではない、短い距離で急な旋回を繰り返す、それはコウモリだった。

 何をしているのかと見ていると、その内の一匹が体制を崩した。と同時に黒い森にパーンッという乾いた音が響いた。

「!!」

咄嗟にその場にしゃがみ込んだ。遠くの方で鳥だろうか他の獣だろうか、ギャアギャアという鳴き声が聞こえる。

(・・・何・・破裂音?銃声?・・・撃たれたの?)

そっとバルコニーの手すりの影から森を見やる。

(・・・そうだとしたら「人」が来ているの?)

考えを巡らせていると、程なくウィステリアが防具の留め具を締めながら部屋に入ってきた。

「素子!」

「ウィステリア!」

ウィステリアはバルコニーにしゃがみ込んでいる私を見ると、目の色を変えて駆け寄ってきた。

「怪我したのか?」

「違うけど・・・」

一瞬にして苛々した表情に変わる。

「じゃあなんでそんな所に座り込んでんだよ!」

「銃声が・・・したから?」

「馬鹿かっ!銃声がしたら中に入れよ!」

ごもっともな意見で反論も出来ず、私は半分ウィステリアに引っ張られて部屋の中に戻った。

 ウィステリアが開けっ放しにした廊下を、重々しい鎧に身を包んだ獣人達が忙しなく行ったり来たりしている。

「銃声を聞いたなら分かるだろ。「人」がすぐ側まで来ている。お前はすぐに竜王の元へ発ってもらう。これは国王の命令だから言うこと聞けよ。」

「・・・わかった。でも、攻めてきているなら城にいる他の人達はどうなるの?」

「ここの子供はお前よりは強いから大丈夫。」

「・・・・」

そう言い切られて反論出来なかった。

「大丈夫だよ、攻めて来た「人」はもう全滅しているから。」

「え?」

いつもの調子に戻ったウィステリアが事も無げに恐ろしい事を言う。

「数も少なかったし・・・。夜の森で、俺らに敵うわけ無いだろ?」

冷たい光を宿す眼に、「人」を手に掛けてきたのだという考えが過ぎる。確かウィステリアは偵察部隊だ。真っ先に敵に近づくのは彼であり、相手が襲ってきたなら応戦するのだって不思議ではない。


「ウィステリア、怪我は無いの?」

「は?何だよ、今更。」

私はどちらの味方か。

「ううん、無事ならいいんだけど。用意するから手伝って。」

「・・・わかった。お前夜目が利かないだろ?灯りつけろよ。」

腑に落ちないと言わんばかりの顔で私を見るウィステリアだったが、手早く蝋燭に明かりを灯すと、再度私の無事を確認するように視線を向けて来た。

「どうしたの?」

「いや、別に。」

ウィステリアの視線に、私は覚悟を新たにした。私は・・・ウィステリア達と行動を共にしようと誓った筈だ。手の中で半獣の子供が息絶えた時に。


(私は今「中立」ではない・・・)



 アレビンゲーテに貰った防具をウィステリアに手伝って貰ってようやく身に着けた。先刻、ドレスを選んだばかりだったが、こんな状況ではロイヤルブルーのドレスよりも深紅の防具だ。軽いがやはり行動域は制限される感がある。


立てかけてあった剣に手を掛ける。まだ、絶賛筋肉痛の私には、初めて持った時の何倍も重く感じられる。剣の宝飾が鈍く私を写した。

「行くぞ?」

「うん。」

剣を腰の防具にくくり付ける。きっと、まだ使うことが出来ないだろうその武器は「ここにいる」と言わんばかりの存在感で私の傍にあった。


 ウィステリアに誘導されて広場に出る。松明が掲げられ、明かりの取られたそこには、鱗がまばらに生えた馬が数頭、鞍を着けて用意してあった。筋肉質でがっしりした体躯に、心臓の脈動を伝えるかのように血管が浮いている首筋。綺麗に編まれた鬣には細やかな飾りが付けられ、その間から宝石のような青い瞳が覗いている。

「綺麗にしてるね・・・。」

「そりぁ、竜王の所に行くしな?それなりの格好ってやつ?」

「そっか・・・。」

(折角、ドレス用意してもらったのに無駄になっちゃうのか・・・)

奥の方で、獣人二人とアセナが何やら話しこんでいる。

アセナの姿に先刻のウィステリアとの言い争いの場面や立ち聞きしてしまった内容が過ぎり、とても気まずい気持ちに襲われた。しかし、避けて通れる人ではない。

「アセナ!素子の用意出来たよ!」

ウィステリアの声にアセナがちらりとこちらを見る。そのまま、アセナは獣人達との話を切り上げてこちらに歩み寄ってきた。獣人達は私達に一例すると、サッと馬に跨り、掛け声を一つ掛けて疾風の様に門を出て行った。

「早かったな。・・・もっと時間がかかると思っていたが。」

「これでもお待たせしたと思っています。あの・・・」

「なんだ?」

アセナはきっとこれが「普通」なのだろうが、どうしても威圧的に思えてしまう。

(一番最初はこんな感じじゃなかったんだけどなぁ・・・作ってたんだろうなぁ)

「薬・・・ありがとうございました。お陰様で傷がすっかり良くなりました。」

頭を下げる私を無言で見るアセナ、しかし、次に彼から発せられた言葉は思っても見ないものだった。

「そうか・・・。さっきは声を荒げてすまなかったな。以後気を付けよう。」

「・・・・・・・・・・」

思っても見ない言葉に目を丸くしてアレクを見上げる。

「どうした。」

「いいえっ・・何でもないです。」

(余計に怖い・・・・うぅ・・・)

「で?どのルートで竜王の所まで行くの?」

ウィステリアに問われ、アセナは少し考える様な素振りをしてから話始めた。

「まず、お前。馬に乗れるのか?」

「え?」

「乗った事はあるのか?」

「・・・・えっと・・・、無いかと・・・。」

「どっちだ。はっきり答えろ。」

「無いです。乗れません。」

「では、お前は私と乗れ。ウィステリアは単騎で先行しろ。」

明らかにムスッとした声が返る。

「なんでアセナが素子と乗るんだよ。」

「乗りたくて乗るんではない。支えながら乗るとなれば、お前では身長的に難しいだろう。」

(・・・・なんだろ、切ない・・・)

「分かった・・・」

ウィステリアのこの上ない不満そうな声に笑いそうになるが、直ぐに自分の置かれた立場を思い知る。

「文句はないだろう?」

「無いです・・・」

あったとしても言える立場でもない。

 私とアセナが乗る馬が一頭、私達を先行して護衛するウィステリアの馬が一頭、野営の準備物だろうか荷物をくくり付けられた馬が三頭、計五頭が列をなして出立する事となった。

「先に乗れ。」

「・・・はい。」

いつの間にか、完全に私に対して命令口調のアセナに言われて鐙に脚を掛けた。蔵を掴み、勢いをつけて上ろうとするが、なかなか上れない。

「よっ・・・、・・・・くっ・・・」

必死に踏ん張って登ろうとしていると「もういい。」と、ぴしゃりと後ろから声が掛かる。

「すみません・・・」

アセナが軽々と馬に跨る。

「手を・・・」

馬上から手を差し出され、その手を取った。ひょいと引き上げられる、かなり重い筈だが、そんな事を感じさせない。その風貌から凛々しい騎士といった所だろうか。

「ありがとうございます・・」

「さっさと鞍を掴め。行くぞ。」

「あ、はい。」

私の言葉など聞いていないと言う様に、アセナはすぐに広場を後にした。

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