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それはまるで中間管理職のように・・・(1)

私は、手早くアセナにもらった小瓶の中身を掌の傷に付けると、直ぐにアミュールに着せられるまま、次々とベッドの上の衣装を試着した。

衣装はどれも華美で、細やかな刺繍にたっぷりのドレープ、それに加え、飾り簪やら羽飾りの帽子やら・・・と、完全に機動性は無視したものだった。

「ね、ねぇ。こんなに派手じゃなくても良いんじゃないかな・・・。」

「何言ってるのよぉ、着飾ってなんぼよ!それに、竜王は光るものが好きだとか。」

(カラスじゃあるまい・・・)

不安が顔に出たのか、ケラケラとアミュールが笑い飛ばす。別なドレスを手渡され、試着にかかる。

「大丈夫よぉ、そんな顔しないで!食べられたりしないからぁ、んもぅ、本当に素子は可愛いわねぇ。」

「いや・・・きっと誰でもこんな顔をすると思うよ・・・」

長い裾に、引き摺るのを前提とした飾り帯が、これまた金魚の尾ひれのように着いている。アミュールは「これもいまいち」と言う顔で次を探し始めた。ドレスを脱ぎながら、つい口から零れた。

「・・・やっぱり、地位がある人と会うからドレスとか正装じゃないといけないんだよね。」

私は、「正装」こそが最もだと思いながら問いかけたのだが・・・。


「え。」


「ん?」

「えぇ、まぁそうね。ドレスがいいと思うわ。」

「・・・アミュール?ちょっとなんで顔を反らすの?」

さりげなく顔を反らし、ドレスを漁るアミュールに詰め寄る。

「ほらー、眼を見ちゃうとまた魅了しちゃうかもしれないじゃない?」

「・・・・・・アミュール?」

疑念の視線に変わる。ジリジリと詰め寄る私に、不満そうな声でアミュールは答えた。

「分かったわよぉ、そんな目で見ないでぇ。半分は私の趣味ですぅ、可愛い服を着せたいの!素子も女なら解るでしょう?」

「・・・着飾りたい願望は解るけども・・・。着せたいって・・・」

「着飾ってる方がいいじゃない?可愛い物とか綺麗な物に囲まれた方が良いじゃない?」

渡されるドレス待ちで、ほぼ裸の私に今度は逆にアミュールがぐいぐい寄ってくる。

「ほらぁ・・・女の子の柔肌に乗せるなら、柔らかく美しい物の方が良いじゃない?」

アミュールの長い爪が滑るように鎖骨をなぞる。

「ひっ・・・」

「いやぁーん、そんな声で喘いじゃってもう素子ったら♪」

「いやいやいや!喘いでないから!違うから!」

必死に否定するも、アミュールは話をすり替えた挙げ句に、とても楽しそうだ。

そんな押し問答というか、じゃれあいをしていると不意に後ろの扉が開く音がした。振り返る前に声がかかる。

「着るものは決まったか?」

「ーッ!」

「あら、国王。」

咄嗟に足元にあったドレスを抱えた。

「おや、どうした?」

国王に問われるが、狼狽し直ぐに言葉が出てこない。

「国王が急に入って来たからびっくりされてるのですわ。」

「ああ、そうか!いつもノックせずとも足音で皆分かっていたものだから・・・素子には聞こえないんだったな、申し訳ない。」

急に力が抜けた。

「・・・皆さんは、聞こえるんですね・・・足音。」

 「ノックをしなかった」その理由として、本来ならば何とも納得できないものだが、ここに来てわりとすんなり受け入れている自分がいる。

国王は狼狽する私を他所に、アミュールと一言二言交わすと、徐にドレスの山からロイヤルブルーのマーメイドラインのドレスを引っ張り出した。

「このドレスなんかどうだろうか。素子に似合うと思うが?」

「あ、はい。」

国王に差し出されたドレスを受け取る。

「・・・・・」

国王のにこにこと柔らかな笑顔が向けられる。

「あの・・・・」

「どうした?」

「見られていると着替えられません・・・」

「・・・気にすることもあるまい。私は「獣」だ、そうだろう?」

「~~~ッ!私は気にしますッ!!」

優しい言い回しではあるが、どこか悪戯心が垣間見えた。私は、国王にずかずかと歩み寄ると力づくでぐいぐいと後ろを向かせた。

「あらぁ、必死ねぇ。」

アミュールも含み笑いだ。

「当たり前でしょ!わ・・・私にとっては・・その・・っていうか、国王も人が悪いですッ!」

「私にとっては国王も異性であって・・」そういう言い方が、一番しっくり来たが、口に出すのははばかられた。すっかり忘れかけていたが、この世界を去るときに後任に任命するのは私が結婚相手と選んだ人・・・。実際に結婚生活があるのかどうかは言及されなかったが、少なくとも特別なパートナーを選ぶという事だけは確かなのだ。その事が過ぎったせいで余計に意識してしまった。

「そういうものか・・・。やはり人は解らないな。」

はははと軽い笑いを交えて、背を向けた国王は応えた。

 手渡されたロイヤルブルーのドレスは、私のサイズに合わせて作られただけあって綺麗なラインで身体を覆った。現実世界でドレスなんて着たことはないが、和装を着た時と似て、それだけで気が引き締まる。それは、異世界に来てからも変わらなかった。

 アミュールが裾や腰の生地の縫製具合を確認する。

「いいみたいねぇ。どうかしら?気に入った?」

「はい。動きやすいですし。」

「ほう、見立て通りだね。」

国王に褒められてちょっと調子に乗った。姿見の前で後ろ姿を確認しようと、くるりと回ったときだった。靴を履いた時に合わせてある裾は、裸足の時には長すぎたようで軸脚に簡単に絡まった。

「あ・・」

よろめいた次の瞬間には、国王に支えられていた。

「す、すみませんッ」

「気をつけなさい・・・君の代わりは居ない、大切な身体なんだからね。」

至近距離で国王の瞳に捕らえられる。心臓が跳ね上がり、返事が出てこない。

「返事は?」

「あっ、は、はい・・・」

あっと言う間に顔に血が上った。

「あぁーんっ、国王ったら抜け駆けしないでぇ!」

アミュールが、がばっと私を抱えて国王から引き離す。

「アミュー・・」

 

はむっー


「ひぃあっ!!」

不意に耳を甘噛みされ、身体が硬直した。

「何もしてはいないさ。」

「してますぅ。そうやって抜け駆けするなら、私も待ちませんからね。」

固まる私にお構いなしで話が進んでいく。

「うーん・・・今の何が抜け駆けになるのか・・・。」

「んもぅ・・国王ったら鈍感なんだからぁ。・・・それとも、ソレも計算の内なのかしらぁ?」

「ははは、そう目くじらを立てるな。素子?」

「は・・い」

「嫌だったか?」

「えっ・・嫌ではないですけど・・・」

「そういう事だ、アミュール。不快にさせたわけではない、大目に見てくれ。素子、出発前に必要な物はしっかりアミュールに見てもらうといい。アミュール、よろしく頼んだよ。」

 まるで嵐のように過ぎ去った国王を見送り、後には珍しく膨れっ面のアミュールと私だけが残った。

「・・・・あ、アミュール?」

「素子は満更でもなさそうね?」

「えっ、いや・・・あのねぇ・・」

「あーあ、折角我慢していたのに・・・」

アミュールの肩に伸ばした手は、逆に取られて力強く引き寄せられた。

「アミュールっ!ちょっと待って!!」

その瞳は、暗く深い紫。そして、私を捕らえて放さない。

「私だって素子と仲良くしたいのに・・・。ああいうことされると、流石に頭に来るわぁ。素子がこっちがいいって言うから、女の容をとっているのに・・・。」

ぞくりと背筋に走るものがあった。アミュールの名前を呼ぼうとしたが、麻痺したように身体が言うことを聞かない。

「・・・あぁ、なんて美味しそうな素子。」

アミュールの長い爪が唇をなぞる。

「このまま・・・事におよんだら怒る?」

「あ・・・・・・・っったり前でしょおおお!!」

途中から自由になった身体からありったけの声がでた。

「怒らないでよぉ。私が悪いんじゃないものぉ。」

「っっはぁ・・・・・。なんか、物凄い緊張疲れが・・・・。」

どっと襲ってきた疲労感に思わずため息をつく。途中から自由になったのは、間違いなくアミュールが術を解いたからだろう。私は、アミュールの方に向き直った。

「・・・アミュール・・、私はアミュールの事が好きだよ。添えの事は・・・何ていうか、まだ何も考えてないの。だから・・」

アミュールが人差し指を私の口に当てて話を遮った。

「困らせてごめんなさい。私が悪いのよ、この話はここで終わり。ね。」

アミュールは私の返答を待たずに、侍女達を呼ぶと着替えを置いて、選んだドレスとその他を手早く引き上げさせた。

独り残された部屋で着替え終わると、ふと薬をつけた掌の傷が治っている事に気付いた。

「・・・魔法・・」

そんな言葉が口をつく。つけて数分で傷を跡形も無く治す薬。そんな物が存在する世界・・・。椅子に腰掛けて、何をするでもなくぼんやりしていた。嵐の様なドレスの試着と国王の襲来を終えた、剣を扱う練習を一日しただけでここまで疲れて、更に、「人」が嫌いなドラゴンを説得に連れて行かされる。

「・・・だめだ。なんかパンクしそう・・・。」

机に突っ伏して考えるのを止めた途端に意識は吹っ飛んだ。





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