表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/19

例えばの話は所詮たとえ話その2

第2訓練場は、拓けた体育館ほどの広場とその横に森が続く形となっていた。

「それぞれ対人訓練をしろ、異世界の者とレナーダはこちらへ。」

アセナに言われて、私とレナーダは他の班員から離れた位置へと移動した。

「まず・・・今日は剣の扱い方から指導する。・・・経験は?」

一応。と言った様子でアセナに聞かれた。

「・・・無いです。」

「分った。・・・レナーダ。持ち方を見せてやれ、それから、基本の扱い方だ。」

「はい。」

レナーダが腰の剣を引き抜く。シュッっという音と共に、キラリと光を反射して銀色の刃が現れる。レナーダが持ち手が私に見える様に身体を斜めにしてくれた。しっかりと握られた持ち手の部分の皮は、しっかり使い込まれているらしく褐色になっている。

「・・・利き手を前に、両手でしっかり握って。」

アセナの声が「こいつ分かってるのか」と言わんばかりだ。

「はい・・」

私の返事もとりあえず聞こえていますレベルの「はい」だ。

「基本の形を指導する。剣を抜いて、前に構えて。」

アセナに言われるままに、剣を抜こうと強く持ち手を握り、引っ張った。

「-ッ!」

腰の位置から一気に抜こうとすると、腕の長さが足りないのか剣先が鞘に引っかかった。

(ちょっと・・・何このよくあるハプニングみたいなやつッ・・・恥ずかしい・・・)

苦笑い・・と思ったが、場の雰囲気は完全に「なにこいつ」といった状態で、とても笑って誤魔化すような雰囲気ではなかった。しかし、私自身どうしていいのかわからない。まごついているとレナーダが見かねたのか鞘を繋ぐ革紐を調節してくれた。

「・・すみません・・・」

レナーダは何も言わず立ち位置に戻った。

「もう一度。」

「はい・・」

スッっという微かな音と共に刀身が光を浴び、煌く。剣は沈黙したまま、ただの剣だった。

「・・・・・基本の形をレナーダに続いて真似て覚えろ。」

「はい!」

アセナの号令の元、「基本の形」とやらをお昼ごろまで延々と反復練習した。案の定、それだけで私の腕の筋肉は疲弊激しく、掌にはまめが出来て、中指の付け根のまめはもう水ぶくれになり破ける寸前だった。

 アセナから休憩を言い渡され、私は一人木陰へと入った。日の下での慣れない運動にじっとりと汗ばみ、それ以上に腕やら脚やら筋肉が悲鳴を上げていた。周りを見ると、いつのまにかレナーダの姿も他の人たちの姿もない。訓練中聞こえていた声や金属のぶつかる音も消えていた。

(休憩所とかあったのかな・・・喉渇いた・・・)

水をもらって、椅子に座れるなら・・・とも思ったが、特に話し相手も居ないし、あの無表情な中にいるのも辛かった。もっとも、どちらかと言えば私が行った事で場がしんと静まるのが嫌だった。

「はぁ・・・」

気付くとため息をついていた。掌を見ると、小刻みに手が震えている。此処まで筋肉を酷使したのも何時以来か覚えていない。

「弱いなぁ・・・」

こんな程度で・・・と心底思った。ジンジンと痛む手は、まるで今までの「楽」な生活のツケのようにも感じられた。

(駄目駄目ッ!住んでる世界が違うんだから・・・なんでも全否定するのは良くないッ!)

木にもたれ掛かり、そのままズルズルと座り込んだ。ふと、足元に見知らぬ蟻に似た生き物が列を成しているのが目に入った。

(・・・ありんこだ。・・・・ここにも居るんだ・・なんか・・キラキラしてて綺麗。)

その生き物はきれいに隊列を組んで進んでいく、形は蟻そっくりだが体表は黒ではなく、玉虫色だ。見る角度でキラキラと色を変え、とても綺麗に映った。

(私・・・本当にどうしたんだろう。まともに考えれば・・こんな世界ない。私が昏睡かなんかで見ている「夢」の可能性の方が遥かに高い・・・。)

疑問が再燃する。

(例えば・・・何か明確な理由があって・・・この世界に呼ばれたとしたら・・・。私が選ばれる理由がある筈・・・。逆に、誰でも良くて・・・偶然選ばれたとしたら・・)

答えがすぐにでない問題が頭を埋め尽くす。


「あの・・・」


「ハイッ!」

急に声を掛けられ、返事する声が裏返る。

「あ・・レナーダさん・・」

そこにはレナーダが心配そうに立っていた。

「休憩終わりですか?」

そろそろと立ち上がる私に、レナーダが何か差し出した。

「い・・いいえ、あの・・・飲み物とか・・・」

レナーダは木で出来たカップに水を持って来ていた。喉が渇いていた私に、受け取らない理由は無かった。

「あの・・・わざわざ、その・・すみません。ありがとうございます・・・。」

純粋にお礼を言えば良かったのだが、申し訳なさが先に立ってしまった。渡す方も受け取るほうも、きょどきょどしていて、急におかしくなってしまった。

「・・ふふふ。すみません、ありがとうございます。」

我慢しきれなくなって笑った私につられるようにレナーダも少し微笑んだ。

 水は冷えていて、文字通り五臓六腑に染み渡るといったところだ。

「・・・皆さんは・・・その・・休憩所とかに行って休んでいるんですか?」 

「はい・・・都度、水場に行くんですが・・・」

私も行きたいと言っていいのか少し躊躇した。

「あの・・駄目じゃないならでいいんですけど、私もそっちで休んでもいいですか?」

口に出した瞬間、レナーダがうろたえた様に見えて、失敗したと思った。その様子は完全に「どうぞどうぞお越しください」では無かったからだ。

「あっ・・あの、忘れてくださいっ・・その・・」

「え・・いや、いいんです・・。歓迎しますっ・・案内しますから・・」

私の言葉を遮ってレナーダが言った。

「・・・あ・・はい。」

レナーダの言葉には何か含まれていた。すんなりとは行かないと思われるその言いぶりに、引っかかる物を感じつつ、私はレナーダの後に続いた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ