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異世界で楽しくとか思ってたけどそんな美味い話ってないよって事!

ファンタジー恋愛物です。戦場の描写がありますので残酷な描写が含まれます。暇つぶしにでもお読みいただければ幸いです。

 オフィス内に電話の呼び出し音が鳴り響く。整然と並んだ机とパソコン、それに向き合うヘッドセッドをつけた女性達。ここはメーカーの「お客様センター」、顧客の疑問やクレームを一番最初に受ける大事な場所だ。商品を開発したりする部署とは違い、よく言って日陰で縁の下の力持ち的な立ち位置。仕事は結構過酷なもので、精神労働と言われる部類に入る。ここで私は今日もお客様からの電話を受けている。


プルルルルルルル・・・


赤ランプと共に電話が鳴る。間髪いれずに手が通話ボタンを押す。躊躇わず押す、この動作はもう職業病レベルだ。

「お待たせいたしまし・・・」

「鍋!」

「はい?鍋でござい・・・」

「あんたのとこの商品なんなの!!ぜんぜん美味しく出来ないの!チラシと違うなんて詐欺じゃない。社長出しなさいよ。」

言う言葉を最後まで聞かずに被せる被せる。また、このパターンだ。怒りに任せたお客様からの電話はよくある事だ。こういうお客様から、言いたい事を確実に聞き出して出来る限り対応するのが私の仕事なんだけど、正直もうしんどい。高校を卒業して以来、花屋・事務職・農業関係・・・と色々な仕事をしてきたが、この仕事が一番辛い。勤めて二年になるが、もうすでに限界を感じる日々だ。



「・・・あなたねぇ。代品が届くの明日ってどういうこと?私は今日使いたいから買ったのよ!すぐに届けるのが当たり前でしょう?」

「お時間を戴いてしまいまして申し訳ありませんが、本日発送しましても明日の午前中が最短となっておりまして・・・」

「じゃあ、あなたが持って来ればいいでしょう!なんなの、不良品を売っておいて、また時間掛かるって!」

「申し訳ありませんが、私が直接お持ちする事は出来ませんので明日の・・・」

「あなた、正社員?」

「はい?」

「アルバイト?パート?」

「・・・・パートですが・・」

「ああ、じゃあダメだわ。あなたとなんか話しても決定権も何もない電話番だもの!上司出して頂戴。あなと話しても時間の無駄だから。」

「・・・・少々お待ちください。確認して参ります。」

「確認じゃなくて出してって言ってるでしょ!何回も言わせないでよ、これだから嫌なのよ、ちゃんとした勤め人じゃない人って。」

 上司と話したそのお客様は、私が言った事を上司から言われた事で納得したらしい。代品は明日の午前中。言っている事は私と同じなのに、役職がある人と非正規雇用、その差で、こんなにも扱いが違う、それが現実だった。

「お客様納得したから、録音聞いたけど、佐々木さんの対応はとても良かったと思うよ。傾聴出来ていたし、クッション言葉も最適だった。この人は上司に一言言いたかっただけかもしれないな。」

「・・・そうですか。」

いい評価をもらっても気は晴れなかった。一生懸命働いているのに、正社員と同じ仕事内容、時間なのに・・・。怒鳴りたかった。気持ちのままに、嫌味の一つでも言ってやればどんなにすっきりした事か・・・ただ、それが愚かな選択だという事は理解しているわけで・・・。働く人は皆そういう嫌な事を飲み込んでいるんだ、仕方ない事だと・・・いつものようにストレスを飲み下した。こういう時、私は決まって異次元とか二次元に逃げたくなる。まあ、行ける訳もないから、帰って好きな漫画とアニメに浸るわけだけど。





「お先に失礼します。」

「お疲れ様でーす。」

「ご苦労様ー」

いつも通り、人も疎らになったオフィス内に声を掛けて回り、駐車場に向かった。月が出ていて、外は明るく夏の風が吹いている。昼間より気温が下がったとはいえ、やはり暑い。

「素子さーん!途中まで一緒に行きましょう。」

「奈々ちゃん、お疲れ様ー。あれ、今日は残業組だったの?子供大丈夫なの?」

「今日は旦那が保育所行ってくれたので大丈夫です!」

「そっか。毎日大変だね。」

「素子さんも早く結婚すればいいのに、子供めっちゃかわいいですよ?」

「まぁね・・・」

(相手も居ないのに無理をおっしゃる・・・)

「あ。「聖剣 レバイバー」の続編決定しましたよね!週刊「アニメトップ」の特集見ました?」

「え、そうなの?最近雑誌もアニメチャンネルとかもチェックしてなくて・・・帰ったら見てみる。」

「もう、すっごい楽しみなんですよー。声優の北田さんがメウス役で出るって書いてあったんですよ!」

「え!?そうなの?うわ、絶対見る!!」

奈々ちゃんは3つ年下の後輩で、漫画やアニメ大好きの話の合う貴重な同僚だ。でも、もう結婚して子供も産んでる。そのくせ、産んだ後も体系をキープしてて、可愛くて、愛想良くて、気が利いて。「良き妻であり、良き母であり、その前に自立した可愛いい綺麗な一人の女であるべき」という私には到底無理ゲーな目標を掲げる一人だ。何に対しても努力家で、爪の垢を煎じて飲んだら、なんとかなるんじゃないかとしみじみ思う程だ。

「じゃあ、また明日。」

「また明日ー!お疲れ様です!絶対チェックして下さいねー。」

「絶対見る!お疲れ様ー。」

いつもの会話だった。ロックを解除してカバンを助手席に放り投げるようにして運転主席に座った。もっと若かったならスルーした会話も、25歳を過ぎるとじわじわとダメージがある。今まで彼氏が出来なかったわけではないが、漫然とした中に「さよなら」をする結果になった。そして、そのまま「今」に至る。ため息まじりにドアを閉めかけたその時だった。

 

にゃーーん


どこからか猫の鳴き声がした。

「・・・猫?どこから?」

私はそのまま車から降りて周りを見回した。車の下とか、怪我でもしていて近くに横たわっていたら大変・・・そんな思いからだった。

「あ・・・」

少し離れた所に、駐車場の街燈に照らされて、一匹の猫がこちらを見て佇んでいる。猫が、しなやかな身のこなしで、ゆっくりと近づいて来る。怪我をしている様子ではなく安心した。動物好きの私は、当然の如くしゃがみ込んで手を差し出し、「おいでおいで」と手招きした。近くなると、目が右は金色、左は青色のオッドアイの白猫だと分かった。猫は毛並みも良く、飼い猫なんだと推測出来た。

「おいで~お・・・」

「我声に答えし者よ・・・」

「・・・は?!」

「王国への道は開かれた。共に参られよ。」


ひゅぅー


猫の口からだろうか中二病的なセリフが聞こえた次の瞬間、足元から抜ける風を感じた。視線を落とす間もなく、周りが一層暗くなる。

「!?」

目に映ったのは、煙突のように上にぽっかり開いた穴と夜に染まる空、そして、ちらっと見えた自分の白い車のボディの端っこ。

「落ちて・・る・うぁあああああああああああ-」


自分が落ちていると認識してすぐだった。遠くの方から自分の絶叫に混じって音が聞こえた。


 ドスンー


どすん。それが最適な表現だろう。それなりに重い私の体が、硬い所にそれなりの高さから打ち付けられた。何故それなりの高さかと言うと、耐え切れない様な激痛に襲われたわけでは無かったからだ。高いところから落ちた感覚だったのに、痛みは鉄棒から落ちたときに似ていた。まぁ、あのときから比べれば重くなっている分、衝撃も大きいわけだが。

「痛っーーーー」


「ついに来られたぞ!」

「うおおおおおおー」

「ヴァアアアー」

私の言葉をかき消す、慟哭。

(ヴァァ?!???)

ハッと顔を上げると目に飛び込んで来たのは、どこかのアニメや漫画で見たことあるような無いような獣人達だった。自分より遥かに大きい獣人達に囲まれていたのだ。二次元で親しんでいた(筈の)獣人達がリアルに目の前にいる。獣臭い・・・言うなれば犬臭い。動物の臭いが充満して、苦手な人なら即鼻を塞いだだろう。一口で私の上半身は無くなるだろうという程の大口を開けて、狼だろうか、犬型の獣人が遠吠えをしている。皆一様に興奮しているらしく、蹄を持つ獣人は、これでもかと言わんばかりに地を蹴っている。

「・・・・えっ・・と・・・・・・・・・」

人生史上最大のキョドりだろう、言葉が出てこない。汗が吹き出る、目が泳いでいるのも分かる、っていうか人間こんなときは目からの情報収拾に頼るんだと実感した。前も後ろも左右も、外見が私(人間)と近い者が居ない。よくよく見れば、捻り上がった角を持っていたり目が何個もあったり、悪魔や魔物と言われる様な外見の者もいる。そんな人外の者達を見ていて一つ思った。そんな興奮した様子の獣人達だったが、自分との間の距離を詰める様子は無い。「餌」としての認識ではない様だった。

(・・・目の前は、お花畑じゃないけど・・・きっと脳溢血とかそんな感じで・・ストレスとかが原因で倒れて・・・死んだのかな・・・寝るわけないし・・・。ありえる、結構なストレスだったし、不摂生な生活だったのも手伝って・・・・)

運動不足に日ごろのストレス、鬱々とした精神衛生の悪さ・・・思い当たる点が多い。

「御前であるぞ。控えろ。」

若々しい男性の声が響き、囲んでいた獣人達が慌しく引いていった。職業病で声から年齢を探る私は、20代!と勝手に都合のいい映像をはじき出した。はっきりした発声と声色からちょっとイケメンを期待して。そして、打ちのめされた。そこには、見慣れた目玉模様の飾り羽がひらついていた。孔雀が一羽、トコトコと近づいて来る。鳥人でもなんでもなく、そのまま孔雀。

(孔雀かよっ!ってか、なんのひねりも無くそのまんま鳥じゃん!!)

獣人達の間を分ける様に出てきた孔雀は、翼をふわりと広げて奥の方へ促すように向けた。

「よく参られました異世界の方。歓迎致します、どうぞ王の御前へ。」

孔雀が促す先には、一段高くなった一枚岩があり、その上に大きなライオンが寝そべっていた。動物園で見るライオンの様に横になり、上半身を起こして、じっと、静かにこちらを見ている。私は気づいてしまった。

(ちょっと・・遠くに居る割には、大き過ぎるんじゃないの、アレ。)

周りとの大きさの対比がおかしい!ライオンが大きいのでなければ周りが小さすぎる。

「さあ、こちらへ。」

再度、孔雀に言われ立ち上がろうとしてパンプスのヒールが折れている事に気づいた。

「あ・・・」

完全に取れている。歩けない訳ではないが、5センチの差は、そのまま歩けば、かなりぴょこぴょことした歩き方になる。しかも、もしかしたら全力疾走で逃げなければいけないかもしれない今、これはとても不利な状況だった。孔雀は私の足元をちらりと見ると顔を上げて言った。

「それは・・・「靴」というものですね。それが無いと貴女様も歩けないのですね?」

「え?」

(いや、歩けるけど。普通に・・・)

その、心の突っ込み前が終わる前に孔雀は「少々お待ちを」と言い残し、獣人達の中に消えていった。取り残された私は、また、獣人達の好奇の視線に晒され、蛇の前の蛙の様に刺激しない事だけに終始した。

(うぅ・・・気まずいっていうか・・・何ていうか・・・)

少し場の空気に慣れた頃だった。ふと、床が滑らかな事に気づいた。床は手に触れる感覚から磨かれた石のだと分った。

(屋内の様だけど・・・周りが見えるっていう事は灯りが点いてるってことだよね・・・)

その時だった。

「お待たせ致しました。」

先ほど、獣人の中に消えた孔雀の声がした。そのまま戻ってくるだろうと獣人達の足元を探した。が、目に映ったのは煌びやかな衣装を纏った足だった。

「・・・・・足・・?」

視線を上に持っていくと、鮮やかな緑「ピーコックグリーン」の服を纏う青年がこちらに向かってくる。青年は私の前で片膝をつくと、手を差し出して言った。

「歩けないのなら私が抱えましょう。さあ、お手を。」

整った顔に繊細なまつげ、漆黒の髪は少しウェーブがかかり柔らかく揺れ、肩に掛かっている。ピーコックグリーンに金糸の刺繍模様は、とても煌びやかで、それこそ孔雀のような華やかさだった。

「どういたしました?人の容を取りましたが・・・」

(やばい・・・かっこいい・・・2・5次元が目の前にいる・・・)

自分の今を想像してどっと汗が吹き出た。目の前に手を差し伸べるイケメンがいる、綺麗で端正な顔で笑顔をこちらに向けて!!一方、こちらは一日の仕事上がりでそれなりに汗もかいていて、化粧もよれてて、小鼻のテカリもあって、髪だってただの一つ結びで手汗が・・・。そんな中、冷静な部分の思考が一気に回りだしたようだった。自分を良く見せたい、という考えがこんな時まで出てくる。そして、それが私の緊張を解いた。

(こんな状況でも私ってこうなんだ・・・。相手によく見せたいとか・・・)

「あ、あの・・・先ほどの、孔雀さんですか?」

「「くじゃく」・・・そうですね。そのように「人」は呼びますね。」

「そうですか・・・。すみません、自分で歩けます。ただ、靴脱いでいいですか?」

「・・・構いませんが・・」

確認するのもおかしいかと思ったが、改めて肯定されると不思議な気分だった。疑ったところでどうにもならないのは分かっているし、自分は孔雀だったと言うこの青年の言葉を今は信用するしかない。

 孔雀だった美麗な青年は手を差し出したまま、きょとんとしている。「手をとったら」「その世界の物を食べたら」二度と戻れない・・・そんなシチュエーションも色々アニメとか漫画で見たけど、死んだかも知れないと思った私は、服で手汗を拭い「最期くらい「良い思い」したっていいかな。」くらいの感覚で青年の手を取り立ち上がった。血の通った温かさが手に伝わってきて、更にリアル感を高める。靴を脱ぐと、ストッキングがこれでもかと言わんばかりの伝線をしていた。もう、ストッキングとしての役目を果たしていない。これはもう履けないな・・・そんな事がふと頭を過ぎる位だったから、私の脳みそは冷静だろうと思われた。

 立ち上がると、周りが洞穴のような場所だとわかった。所々に松明が掲げてある。獣人に火を使える獣、これだけ揃えば現実でない事は確かだった。白っぽい岩肌に、松明の明かりが反射していて、以外に明るく、足元も見える。床も綺麗に削ってあって、角ばったところは無く、裸足でも十分歩ける。脱いだ靴を片手に持ち、青年の後を付いて行く。青年を見てふと思った。

(・・・暗かったら鳥族は夜目が利かないから、松明をあげてるのかな・・・あぶないもんね・・・)

そんな、どうでもいい考察だけは瞬時に出来た。靴を手に持ち、青年の後に続く。着いて歩く私を見て、周りの獣人達がどよめく。

「なんてことだ・・・足の物を取っているぞ・・・」

「おおお」

(何?どうゆうこと・・・)

私はざわつく音の中、会話を聞き取ろうと必死に聞き耳を立てた。しかし、靴を脱いだ事に驚いている事と好意的に受け止められてる事以外は分からない。ただ、敵意をむき出しにされるよりは100倍ましだ。そんな事をしている間に、ライオンへとどんどん近づく。

(熊ぐらいの大きさ・・・ほ・・北極熊ぐらい・・・・・・ゾウぐらい・・・・・キリ・・ン・・・・・・・・・・・・・・こ・・これは、だめな大きさじゃ・・・)

近づく度に、その大きさが嫌でも分かってくる。何とか国物語とかライオンが出てくる映画があったが、それの比ではない。

「国王。お連れしました。」

「よくぞ参られた。異世界の者よ。」

ゆっくり体を起こすとその大きさは際立った。言葉を失う私に、首を下げ、覗き込むように国王と呼ばれるライオンが語りかける。

「どうした?異世界の者よ、人の言葉を話す私が怖いのか?」

「え・・・」

長時間は話せないほどの急勾配加減で見上げなければいけないそのライオンは、以外に若い落ち着いた低い声で話しかけてきた。

(人の言葉とか以前に大きさが怖いとか言ったら・・機嫌を損ねて、食べられたりする?・・・動物と会ったときは・・・目を見ながら静かに後ずさり・・違うコレは熊の対処法じゃんっ!ああああ私ぜんぜん落ち着けてない!!)

冷静だと思われた私の脳は、冷静さを取り戻したのではなく、単にパニックから安堵感を無理やり作ろうとしていただけの様で、結局は回転率がとても低い旧型のパソコン状態だった。

「いいえ、怖いとかはないです・・・喋る白い犬とかいたし・・・・二階建ての家くらいあるんですね・・・身長・・・」

(うわぁああああ、私のバカアアアアア!何言ってんの!!刺激っていうか威嚇にも何にもなってないけど、二階建ての家の例えとか理解してくれんの?意味不明過ぎるっ!しかも、身長って動物に使わないし、ライオンの大きさ示すの何だっけ体長?体高?)

「・・・そうか。」

(あれ・・・薄い反応・・・)

「客人用に部屋を用意してある。案内させよう・・・・そこで話をするとしよう。」

「・・・・・・・・・・え。どこに・・・」

(何か反応してよ、怒らせてない?大丈夫なの??っていうか、話が見えない。)

「さぁ、こちらです。」

(何・・・この・・死後の世界・・・)

「あ、はい。」

青年の柔らかな笑顔にちょっと癒される。

(ダメダメ!この人は孔雀だった!!)

必死に自分に言い聞かせた。



 

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