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番外編 密偵のXXXX

注意!今回のお話は、かなり残酷な表現が含まれます。


何しろこのお話しの主人公はかなりの外道。

余りにアレなので、あえて名前は秘密となっています。

…そして、余りにアレな話しのため、番外編。

まさにどうしてこうなった。


…かぁー!

相ッ変わらずまぢいなあ。ここの酒は。

つーか昔のまんまで味ねえじゃねえかよ。

あん?「〈冒険者〉が言うには水みてえな酒がうまい」だあ?

これのどこがうまいんだよ?


文句あるならよその店いけ?わぁってるよ。

けど仕方ねぇだろ?

〈冒険者〉進入禁止の路地先にあって、

夜中もやってるこの店くらいだからな。

俺らが好き勝手話せるような場所はよ。


しっかしここも客減ったよな。

…いや、客って言うか、数が減った、か。

『密偵殺しの街アキバ』の異名はダテじゃねえよなあ。


ヤマトの裏社会で名を知られた連中が次々アキバで廃業してるからなあ。

フォーランドの『人喰い』にエッゾの『狼王』、

あと『情報屋』のジジイも廃業したらしいぜ?

は?ちげえよ。廃業だ廃業。〈冒険者〉に殺られたんじゃない。

アキバで暮らしてるよ。

つーか今更〈冒険者〉なんぞに殺られるような奴は裏社会で名前残せねえっつの。

何年この世に〈冒険者〉がいると思ってんだ。

多分〈冒険者〉は存在すら知らねえよ。


まあ、んなこと言ってる俺も廃業するしかなさそうだけどな。

アイギア最後の生き残りなんて言ってても終わるときゃああっさりだったな。


まあ、いいか。

おい、少し俺の話に付き合えよ。

愚痴りたい気分なんだよ。このクソッタレの街に対して。

いいだろ?

「お客様は神様です」なんてふざけた言葉が今のアキバの流儀らしいからな。


番外編『密偵のXXXX』



最初に廃業決め込んだのは『人喰い』の野郎だったな。

フォーランドの化物と恐れられた殺し屋っつうか喰らい屋な。

かれこれ30年で多分1000は喰ってるんじゃねえかな。

うん?フォーランドはとっくの昔に滅んだだろって?

ああ、そうだよ。あそこはニンゲンが住むにゃあ過酷過ぎる。

化物だらけの化物島だ。


だからよ、『人喰い』もニンゲンじゃねえ。

文字通りの意味でモンスターだ。

確か…〈化身巨人〉(スプリガン)だったな。

あの〈冒険者〉でも6人がかりでしとめるような、結構やばいモンスターだよ。

だが、人喰いはこう言っちゃなんだが、ニンゲンどもと共存した。

あの手のモンスターの中じゃはぐれモノだが、やたら頭が良かったらしくてな。

ウェストランデで後ろ暗い連中と手を結んだんだよ。

「気に入らない奴はいないかい?僕が、食べてあげるよ?」ってな。

お前は知らねえかもしれねえが、〈化身巨人〉ってのはな、

人間族のガキに化けられるんだ。

一度化けちまえば、〈冒険者〉にだって見分けはつかねえ。

ま、化けてる間は力も人間族並まで落ちるけどな。

ターゲットに何とかして近づいて、油断したところをぶち殺して、ごくん。

それで終わりって寸法だ。

そんで30年もやってるんだから、大したもんだぜ。


実はかれこれ10年くらい前によ、人食いの野郎と組んだんだ。

人間族の真似なんざ当たり前にできる俺が使用人、んで人食いが俺の弟。

それで潜り込んでな。

結果?聞くまでもねえだろ?その哀れな豪商は一家丸ごと一晩で奴の腹ン中。

俺は金目のものをごっそり。いい商売だったぜ。

そんときにな、聞いたんだよ。なんでニンゲンばっか食うんだって。

そしたらよ、あいつこう言いやがった。

「理由?決まってるだろ?うまいからさ。ニンゲンの作る食べ物は、不味すぎる」

まあ、確かにあの頃の食い物は味ねえからな。

それに比べりゃニンゲンの血や脂の味は奴にはマシだったんだろうな。


そう、マシだった。

それがアイツが廃業決め込んだ理由だからな。


ほら、例の円卓会議が出来た頃から、

この辺りで味のあるメシが出回るようになっただろ?

あいつ、円卓会議が出来て5日目に匂いに惹かれて入った、

川辺の宿屋で出された鶏の丸焼きがえらい気に入ったらしくてな。

毎日食いに行くようになった。…アホだろ?

まあ、そんなガキが毎日3人前はある鶏の丸焼きを1人で食ってるのに

スルーしてるあの店の女将も大概だがな。

それ以来『人食い』の奴は普段は数ヶ月に一度、その辺の〈大地人〉の密偵とか

いなくなっても誰も気にしない奴喰ってたのに、それにはまってからはさっぱりだ。

たまにモンスター以外何も通らないような場所行って

モンスター退治してるらしいぜ?

そんで戦利品売り払って金稼いで、メシを食うんだとよ。

てめえじゃ作れねえから。

どこの〈冒険者〉だよお前。


見たかったら簡単だぜ?

昼時、スミダの川のそばの宿屋か、橋のたもとに出来た、

豚の揚げ物食わせる店。

あそこで物凄い嬉しそうに1人で鶏の丸焼きか

山盛りにした豚の揚げ物食ってるガキ。

そいつこそ『人喰い』だ…

いや今は『鶏喰い』とか『豚喰い』とか言ったほうがいいのか?

多分ニンゲンは二度と喰わねえんじゃねえかな?

「アキバの料理と比べたら、他のものは全部、カスだ」

とか抜かしてたっつうから。



エッゾの『狼王』も、長年続いた名門の割に、あっさり名前捨てちまったな。


元々『狼王』ってなあな、エッゾの狼牙族どもの長なんだよ。

エッゾ中の狼牙族とつながってて、そいつらを纏め上げてる。密かにな。


元々あの辺りは寒いのに強い狼牙族が多かったんだが、

人間族がエッゾ帝国を作っちまった。

それから色々とぶつかりあうようになって…戦になった。

戦が起こったのは凄え昔だが、かなり酷い戦さだったらしいぜ?

亜人どものせいで暮らせる場所が減って、お互い生きるのに必死だったからな。

まあ、最後は数に勝る人間族が勝った。

それ以来人間族がいい場所を分捕り、狼牙族は

強いモンスターが多い僻地に追いやられ、

生き延びるのに前以上に必死にならなきゃいけなくなった。


〈大地人〉の癖にガキにすら武器持たせて鍛えてるとか、

強い奴は熊狩れるとか、あのあたりの狼牙族はかなりやべえぜ?

アイギアほどじゃねえけどな。


ま、そんな状況だからな。狼牙族の方もまとまる必要があった。

だからいつからか自分らの中で一番つええ奴を決めて、

密かに王と呼ぶようになった。それが『狼王』ってわけだ。

『狼王』の代替わりとか、かなりすげえぞ?

なにせ『狼王』狙いの強いやつらがサシで殺しあって

最後に勝った奴が王ってシンプルなルールだ。

降参は一応ありだが死人もバンバン出る。

ま、腕ばかりじゃなくて頭もそれなりに回るけどな。

一部エッゾの好事家貴族に密かにそれ見せて金取ったり、

あれこれ裏仕事引き受けてる連中もいたらしい。


ま、そんなろくでも無いことやってたからな、

エッゾの裏社会じゃあ大分知られた存在だった。

狼の武士には気をつけろってな。

俺も15年前、2代前の『狼王』をうっかり敵に回したときは大変だった。

あいつら、群れで襲ってくるからな。

ま、最後は俺が奴等の本拠地に忍び込んで

『狼王』に2発ほど〈絶命の一閃〉叩き込んで

仕留めてやったら代替わり始めやがったから、

その間にトンズラしたけどな。ま、それはいいや。


んで、その『狼王』の連中な、いつかは帝国奪って

俺らの国にしてやるって息巻いてたんだが、

残念なことになぁ。肝心の帝国がなくなっちまった。

アキバに住んでるなら知ってるだろ?

〈冒険者〉に襲われまくってな、あの辺りは、

〈冒険者〉のクズどもの楽園になっちまったよ。

クズといえど〈冒険者〉は〈冒険者〉だから、半端なく強い上に不死身だ。

あっという間にまともな統治なんぞ不可能になった。

あいつらも最初はざまあみやがれって手を叩いて喜んでたらしいんだけど、

そのうちとうの自分らも襲われるようになって、焦りだした。

まあそりゃそうだ。

幾らあの辺りの狼牙族が強いっつっても、〈冒険者〉と比べちゃあなあ。

ただ、今の『狼王』はおつむの方も優秀でな。

密かに狼牙族をアキバに潜り込ませるようになったんだよ。

ほら、秋ごろから少しずつやってただろ?

アキバのでけえ騎士団で作った部隊をススキノに送り込んで、

移民希望の〈冒険者〉をアキバまで護衛するって奴。

そいつらについてきた〈大地人〉ってのは結構多いんだが、

そんなかにあいつら、ススキノに逃げ込んだ狼牙族を紛れ込ませたんだ。

んで、色々調べたり働かせたりして、これからを決めた。


エッゾは捨てる。これからはアキバで暮らすって。


元々ひでえ土地で何とか生き延びてきた連中だけあって、

あいつらは強い。群れになればエッゾからアキバまで

女子供守って来るのくらい、お手のもんだ。

ススキノの〈冒険者〉も数減ってるから、

うまく迂回すれば会わずに移民もできるってな。

実際今の『狼王』も一緒の第一陣なんざ、

女子供入れて200人もいたのに、

旅で死んだのたったの20人っつうんだから、半端ねえよ。


まあ、普通だったらんなことしたら

アキバに着く前にイースタルの領主連中にぶっ殺される。

なにせ相手は100人からの武装した連中だ。

ほっといたらトンでもねえことになる。

しかし、そこがあいつらのワル知恵ってやつでな。

怪しげな狼牙族で自称移民でも、アキバに行くっつったら、

領主連中もそうそう文句はいえねえんだよ。

例の条約があるからな。

下手なことして〈冒険者〉と戦うなんて、真っ平だってな。

まあ、あいつらもその辺はわきまえてモンスター殺して

その肉を食うとかして、略奪はまったくしなかったらしい。

まあ、アキバの〈冒険者〉は亜人どもはともかく

善の勢力相手に略奪するのは無茶苦茶嫌うからな。

これから世話んなる奴等の心象悪くしたくなかったんだろう。


噂だがすでに何百人もこっちに向かってきてるらしい。

まだまだ送り込むんだろうな。

エッゾにゃあ数千人くらい狼牙族がいるから。


んでこの前の祭りの後、ようやく着いたやつらはアキバの近く、

アメヤ街道のすぐ近くに、村作りやがった。

円卓会議にも届けは出したらしいんだが、二つ返事で認められたってさ。

一応モンスターもいる場所だったはずだが、ほぼ狩り潰したんだと。

今じゃうじゃうじゃ戦士のいる狼村なんざモンスターもちかよりゃしねえ。

いまんところは残った廃墟改造しただけの城と掘っ立て小屋が並ぶ

汚えところだが、エッゾから着いた残りの移民連中とか、

噂聞きつけたイースタルやウェストランデの狼牙族も集まって、

そろそろ街って言ってもいいくらいのでかさにはなってる。


アキバの街にも相当数狼牙族送り込んで、色々仕事させてるらしいぜ。

〈冒険者〉は雇うときに種族気にしねえってんで、

金稼ぐにはもってこいっつってな。

ただ、最初はどんな汚い仕事でもやるつもりだったらしいんだが、

そっちのアテは外れたみたいだな。

まともな仕事だけで食ってけるくらい稼げるから。

んでその金でアメヤの村を暮らせる場所にする準備したり、

次の収穫までのつなぎの食糧買ったりしてるみてえだな。

後はどっかの〈冒険者〉の家門と組んで、特定のモンスター狩って、

肉だの皮だの売る商売やったり、〈大地人〉の行商護衛したりしてる。


んで、『狼王』は今じゃ『アメヤの村の村長様』だと。

次の代から腕っ節じゃなくて頭の良さで決めるって。

…あいつらな、今はいつかアキバの〈円卓会議〉に俺らの、

狼牙族の席置いてやるなんて言ってるらしいぜ?

方向性がエッゾ帝国ぶっ潰すから俺らの国は自力で建てるに変わっただけで、

狂いっぷりは相変わらずなんだよなあ。あいつら。



『情報屋』は他の2つと比べりゃあ、普通だな。

その辺の騎士くれえならサシでも負けねえだろうけど、もうジジイだしな。

だがな、ある意味一番敵に回したくない密偵だったな。

いや、密偵とも違うか。

『情報屋』のやつはな…吟遊詩人なんだよ。

ほら、天秤祭でやってた音楽の祭りでやたら張り切ってたしてたジジイ。

〈大地人〉部門で第2位だったとか言う話だったな。1位?知るか。

まあ、この道一筋60年とか平気で言い放つとんでもジジイなんだが、

60年もイースタルでのたくってただけあって、あらゆる情報にやたら詳しい。

自分の足で稼ぎ出した情報も豊富だし、

奴の弟子やら弟子の弟子やらが腐るほどいる。

そいつら全員、旅から旅の吟遊詩人だ。それぞれが情報持ってる。

…そう、『情報屋』ってえ名前の通り、あのジジイの情報網は半端ない。

あちこちで捨て子や貧民の孤児拾っては吟遊詩人として育ててたお陰で、

弟子どもからは師匠とか言われて尊敬されてるが、ありゃかなりの狸ジジイだぞ。


いやさ、20年以上前、まだ密偵仕事始めたばっかの頃によ、

ヘマしてやばいことになったんだよ。

幾ら俺が強くても、社会丸ごと敵に回して生き残るなあ、難しい。

そんでにっちもさっちも行かなくなったとき、『情報屋』に助けてもらった。

あちこちに声かけて、一応は俺も一息つけた。ここまでなら、美しい話だ。

…そのとき『情報屋』に要求されたのが

「アイギア滅亡の真相」じゃなかったらな。

分かるか?あのジジイ、俺を嵌めやがったんだよ。

俺から話しを聞くためだけに。


それがやつのやり口だ。


『情報屋』はいい歌作るためならどんなことでも平気でかます。

面白そうな話持ってる奴からは俺にかましたみてえに何が何でも聞きだすし、

悲恋の歌作りたきゃ2人の仲引き裂くようなこともする。

死んだ方が盛り上がるって思ったら、死ぬように持ってかせる。

その方が歌にしたとき面白いからってだけで、

現実の方捻じ曲げやがんだよ。マジで。


で、こいつも廃業した。

もう年だったとか色々あるけど、決め手になったのは、あいつの弟子らしい。

いやな、最後に育てた弟子が謡う歌が、儂より面白いとか言ってたんだよ。

情報源が違いすぎるともな。

ああ、その弟子な、イースタルの英雄とか呼ばれてる〈冒険者〉に取り入って、

そいつらの冒険を歌にしてるみたいなんだよ。

…まあ、俺が働いてる騎士団の正騎士部隊なんだけどな。


「まさか人生の最後の最後で『事実はときに物語より奇なり』を

 思い知らされるとは」


とか言ってしょぼくれてな。

今はアキバで〈冒険者〉相手に歌の伴奏やったり、

歌教えたりしてるらしい。

生涯で相当数の弟子育てただけあって、

教えるのやたらうまいんだよな、あのジジイ。


ま、そんなわけでヤマトでも名を知られた密偵どもが次々廃業してな、

アキバは密偵殺しの街なんて呼ばれるようになった。


…あん?俺?その化物みてえな連中全部知ってるとか何者だって?

しゃあねえなあ。ついでだから話してやるよ。

ただし、他には漏らすなよ。あと、長えぞ。



俺は、さんざ言ってるがアイギアの生まれだった。

アイギアって知ってるか?ウェストランデの山ン中にある、

狐尾族の村でな、今じゃあ『亡霊の村』っていわれてる場所だ。

狐尾族の集落の割には栄えてたな。血塗れだったけど。


あそこはな、俺がガキの頃は『影の村』って言われててな、

ウェストランデ密偵の原産地だったんだよ。

もう、盗みだろうが殺しだろうがこなせるよう村のガキを仕込む。

んでウェストランデの貴族に汚い仕事こなす腕を売る。

確か貴族どもは『忍び』とか呼んでたな。


ガキの頃から徹底的に仕込むから、1人1人が精鋭の兵。

特に長はお前本当に〈大地人〉かって聞きたくなるくらい強かった。


仕込む途中や貴族からの仕事でどんどん死ぬけど、

それを上回る数、ガキ作ってな。

村の民には狐の面を被せて、名前もつけやしねえ。

俺もそうよ。今の名前は密偵になったあと、適当に俺がつけたやつだ。


んで、その忍びになることで喰ってたのがアイギアだったんだが、

あるとき、風向きが変わった。


半蔵…代々アイギアの長はそう呼ばれるんだが、

そいつがな、18年前までフォーランドを支配してた死霊の王と手を結んだ。

「生と死を操り、その身を〈冒険者〉にする秘術を与えてやろう。

 〈冒険者〉の肉体とアイギアの技を使い、

 ウェストランデをその手におさめたくは無いか?」


そう言われて。

半蔵の奴も最初は半信半疑だったらしいんだが、

捨て駒に実際やらせてみて、マジだと分かった。

年はとらねえ育ちははええ。

とどめにゃ死んでも村に密かに作った魔法陣からまた生えてきやがる。

こうなりゃあ、まさに〈冒険者〉…無敵の化物の誕生だ。


そうなりゃあウェストランデにへこへこする必要もねえ。

半蔵は自分も含めたアイギアの民全部、偽〈冒険者〉に変えて、

ウェストランデの国盗りを始めやがった。

吟遊詩人どもが『服部半蔵の野望』とか呼んでる、一代反乱劇の幕開けだ。


あん?ってことはお前も〈冒険者〉なのかって?

…いや、違うな。

確かに俺も含めたアイギアの民は育ちも早いし、

年もとらねえが、一番肝心な能力が足りなかった。

死んでも、蘇る。それはいい。だがな…不完全なんだ。

俺も理論は余り分からねえが、

蘇るたびにハクって奴がどんどん減るらしい。

そうなるとおつむがぶっ壊れて最後にゃ

命令を聞くだけのクグツになっちまう。

そうなるまでに耐えられる回数?たったの2~3回だよ。

つまり命がほんの数個増えただけなんだよ。

もっとも、身体だけなら無限に蘇るけどな。


それが分かって、俺らは恐れた、

クグツに成ったら死んだも同然だからな。

だが、半蔵にとっちゃあ都合がいい。

何しろ奴に取っちゃ心がねえから今以上に

死ぬの怖がらねえ、無敵で不死身の兵隊だ。

つーかそれが分かってからだよ、

半蔵が俺らを今以上に死ぬように仕向けるようになったのは。


悪いことは重なるもんでな。

ウェストランデの貴族連中、自分らじゃ手に負えねえってんで、布告を出したんだ。

〈冒険者〉たちに、俺らを村ごと潰せってな。

本物の〈冒険者〉と、偽物の俺ら。

絶対に俺らが勝てない戦争の幕開けだ。


もちろん、そんな簡単に負けたわけじゃあなかった。

俺達は〈冒険者〉のつくる百人隊…

この前のザントリーフの戦でも作られた

最強の〈冒険者〉騎士団を3度も撃退した。

数に頼んで捨て駒同然に〈絶命の一閃〉乱発して、

村のあちこちに仕掛け作って、村で育てたモンスター放ってな。

だがな、次から次へとやってくるんだ。

3度目が終わる頃にはアイギアの民は殆どが半蔵のクグツになってた。

それにな、俺は奴らが不死身の〈冒険者〉だっての、

あの戦のときにとことん思い知らされたぜ。


3度の戦いのうち、一番被害がでかかったのは、2度目だった。

半蔵がズタボロに追い詰められながら

何とか敵の団長が率いる最後の小隊しとめた時だ。

そんときにな、今にも死にそうになってる団長がこんなこと言ってんだよ。

「…大体情報は集まりましたね。これなら次回は攻略できるでしょう」

あいつら、死にそうになりながら、

もう次に襲うときのこと考えてんだ。

本質が違いすぎる。本気で怖かった。


そんな状態だからな、4度目の襲撃受けたとき、俺はアイギアを見限った。

どう考えても死なす気で、たった1人で偵察に出されたんだが、そんときに逃げた。

普通はな、んなことやったら村の掟に従って処分される。

見せしめに10人でも20人でも死ぬまで密偵ぶつけられて、殺られる。

けどな、俺はそれは心配してなかった。

なぜかって?

…遠目で確認したら、その4度目の連中な、

あの2度目に襲ってきた連中とまったく同じ顔ぶれだったんだ。

実際俺が逃げ出した次の日だよ。

半蔵が仕留められてアイギアが滅亡したのは。


…いや、滅亡はしてねえのか。

今でもアイギアの民は生きてる。

「村に入るものは、殺せ」

その、半蔵の最後の命令を守り続けるクグツどもが、今でも襲ってくるからな。

年もとらず、揃いの狐の面をつけて、忠実にな。



それからはまあ、ヤマト中回って色々やった。

盗みも殺しもお手のもの。

アイギア仕込みの技もあったしな。

ただ、絶対に死なないようにしてた。

死んだら消えるですまねえ。

アイギアで永遠に彷徨う羽目になるからな。


んで、それから25年して、俺は依頼を受けた。


因果なことに相手はウェストランデの大貴族。

そいつがな、〈冒険者〉が円卓会議なんぞ作って

不穏な動きを見せてるアキバに潜入して、

情報を集めて来いってな。

俺は引き受けた。報酬が良かったからな。


そんでアキバに潜入して…

かつてアイギア滅ぼした騎士団のところに、使用人として潜り込むことにした。

〈大地人〉の口利き屋の鑑定は俺のたった20レベルっきゃねえ

サブ技能の方を鑑定させることで乗り切り、肝心要の暗殺者の技は隠しきった。


…んだけどなあ。

あいつらさ、雇い入れる使用人は全員顔を合わせて決めるんだ。

団長とか、幹部級の騎士様とかそうそうたる顔ぶれで、

たかが使用人ごときをな。


それでよ、俺の番が回ってきたんだが…

な~んか、やばい雰囲気なんだよなあ。

みんな俺の方見て、不思議そうな顔しててよ。

なんなんだとか思ってたら、団長が答え教えてくれた。


「…拝見したところLv63の暗殺者のようですが、今までご職業は何を?」


いやあ、あんときゃ焦ったね。

〈冒険者〉の奴ら、普通に見えるみてえなんだよ。

俺が職を2つ持ってるのも、かたっぽがアイギア仕込みの暗殺者なのも。

とはいえ、俺もダテに何十年も生きちゃいねえ。

とっさに生き残る算段考えて行動を取った。


懐に呑んだ苦内抜いて「覚悟!」とか叫んで〈絶命の一閃〉。

相手は団長、アイツなら間違っても死ななそうだったからな。


どういうことかって?考えてもみろよ。

アキバ最強の騎士団の騎士6人相手に俺1人で勝てるわけねえだろ。

演出だよ演出。次につなげるための。

…まあ、まさかその団長に無傷で弾かれるとは思わなかったがな。

いやさ、質問した時点で密かに使ってたらしいんだ。

〈ストーン・オブ・キャッスル〉っつう、守護戦士の奥義。

流石に自慢の一撃が完全に防がれたときは唖然とした。

だが、すぐに次に移った。

あんまし黙ってるとそのまま黙って殺られそうだし。

3人がかりで押さえつけられながら、叫んだんだよ。


「おのれ!村の、アイギアの仇!」


ってな。もう迫真だったぜ?涙とかボロボロ流してな。

あいつらの顔が一斉に引きつるのが見えたし。

…団長だけは眉一つ動かさなかったけど。

「…MAJIDE?」

妙に低い声で女が話しかけてきたからな、色々言った。

お前らがアイギアを滅ぼしたとか、今でも仲間が無念で彷徨ってるとか、

最後の生き残りとしてお前達と戦う義務があるとか、

そのためにウェストランデの密偵になったんだとかそりゃもう。


適当に。もちろん、嘘だ。


そもそも俺、25年も前に生き残りたくて逃げ出したくらいだぜ?

あんなクソッタレの故郷に今更未練なんぞあるわけねえだろ。


アイギア密偵は死ぬのなんざ日常茶飯事。

10人行きました、8人帰ってきました。上出来ですね。

なんてのが普通の場所だぜ?

死んだ間抜けの仇討ちなんざ命賭けてできるかっつの。


アイギア最後の生き残りってのも少しでも腕を高く買わせるためのハッタリよ。

むしろあの時あいつらがとどめ指さなかったら村の掟に従って

殺されてクグツにされてたんだから、感謝してえくらいだぜ。

なんてことは、おくびにも出さねえ。

あいつら戦闘の経験値はやたら豊富でも人生の経験値ってのが足りてねえからな。

騙すのは意外に簡単なんだ。

「いかん!全俺会議的に無罪放免主張!ついでに完全雇用希望!」

「むむむ、故郷に殉じ、単身特攻するその精神はあっぱれ!

 是非とも寛大なる措置を求めるでござる!」

「ククク…あの時我らが滅ぼした村の生き残りか…

 え、これ俺らが完全に悪者じゃね?」

「いかがいたしましょう?隊長ミロード

 逃がすとまた襲ってくるかも知れませんが、

 原因が私達にもある以上、殺すのは心情的に…」

「…では、監視もかねて採用で。ただし、次はありませんよ?」

「採用MAJIDE!?」

まあ、そんなわけで、捕まっちまってしょうがねえからって顔しつつも

無事雇用されたってわけだ。



それからはもう、実に真面目にお仕事こなしたぜ?

使用人の仕事こなして、後から入った同室の開拓民上がりのガキに

文字教えてやるとかして使用人とも仲良くなって、

騎士団の秘密盗んで、時々思い出したように

分かりやすく殺気を騎士連中にぶつけて。


お陰で騎士連中の間じゃあ密かにかつて騎士団に故郷滅ぼされて

復讐に燃えるアイギア密偵の生き残り、ってことになった。

他の〈大地人〉の使用人には秘密だけどな。

俺の高すぎる暗殺者技能とかも簡単にスルー。

レベルが違いすぎるから警戒も全然されねえ。

むしろ少しは警戒しろって思ったくらいだ。


そんでしこしこと情報集めて、まとめてた。

もちろん、文章になんぞのこさねえ。

俺の頭の中にだけ、残した。

情報を持ち帰るのは、丁度騎士団の監視が薄くなる祭りの日。

その日にウェストランデの他の密偵と合流。

そして見事にお仕事完了。

…の、はずだった。


最後の最後にやらかしたのは、本当に失策だった。

あれのせいで俺は、密偵を廃業するしかなくなったからな。

…しっかしなあ、合流に来たウェストランデの使者が

あの騎士団の連中に襲われるたあなあ。

いやさ、最終日に姿をくらましたとき、

同室のガキが騎士団の騎士に探してくれって言ったらしいんだ。

…それ、マジでやるか?たかが〈大地人〉の使用人の頼み聞いて。

俺のために4人も割いてよ。

んで俺を街の外で見つけたとき、あいつら勘違いしやがったんだよ。

使者を俺を始末しようとする、密偵だって。

まあ、完全にカタギの雰囲気じゃなかったし、

俺と対峙するためってんで、精鋭を5人も連れて俺を囲んでたからな。

勘違いするのは分かる。

けどよぉ、やるならやるでしっかり殺せっつの。


「彼女は拙者たちのもはや仲間!

 手を出すのなら拙者たちがいつでも相手になるでござる!」

「仲間MAJIDE!」

「…相手は西の大国か…面白い。我らが獲物には、相応しい」

「それは流石にどうかと思うけど、全俺会議的にも助けるで全会一致だこの野郎!」


とか散々ぶちのめした後に言われたら、俺、完全に裏切り者じゃねえか。

使者はすげえ目で俺のこと睨みながら、後悔するなよとか言って去るし。


…ウェストランデ丸ごと敵に回して、俺が生き残る道は、

齧りついてでもあいつらについていくことしか無くなった。


コレで『アイギアの雌狐』と呼ばれた俺も密偵としては廃業。

これからは、ただのしがない使用人決定だよ。


…おっと。もうこんな時間か。

そろそろ帰るぜ。夜が明ける。

風の匂いからして、今日は、晴れだしな。


ああ、今働いてる騎士団でな、決まってんだ。


晴れた日の朝は全員で騎士団の連中の股布洗えって。

これでも俺は騎士団じゃあ出来るメイドで通ってるんだよ。

朝まで飲んでて遅れましたは、通用しねえ。

じゃ、勘定はここに置いていくぜ?


…しかしよ、ここは本当にやばい街だ。

『生き延びる根性』って奴をどんどん削っていきやがる。

『生きる気力』なんて生易しいもんじゃない、

何がなんでも生き残ろうとする、意思。

そういうもんが無くなっていくんだよ。

そこまでやらなくても生き延びられるから。


毎日、ちゃんとしたメシが出てくる場所で木の根を齧る奴がいるか?

あったかい布団がある場所で、野宿しようとする奴がいるか?

充分に何でも持ってるのに、他の奴から殺して奪おうとするか?


そういう話だよ。


俺や俺の言った連中は特殊だが、普通の密偵だって次々廃業している。


人食いみてえに居心地が良すぎてこの街に定住決め込んだ奴。

表の顔としてやってたはずの商売が面白くなっちまった奴。

抱いた女にガキ作られた程度で、カタギになるの決め込んだ奴。

密偵になるしかなかったようなクズのくせに、

クズじゃない生き方を手に入れちまった奴ら。


そんな、連中。


いつだったか、アキバの街でよ、狐尾の女を見かけたんだ。

尻尾と耳丸出しで赤子抱いて、嬉しそうにしてるんだけど、

そいつ、やっすい白粉の匂いが骨まで染み付いてやがんの。

売女だよ売女。生まれが悪くてロクな生き方選べなかった類の。

そんな奴があっさり…なんてえの?普通の生活手に入れてやがんの。

文字も計算も出来ねえのに〈冒険者〉の店で雇われ女給やって、

女手一つでガキ育てるとか、考えられねえよ。

この街以外じゃ。

なんかそれ見たら…ちょっと泣けてきた。


っと、湿っぽくなったな。じゃあな。気が向いたら、また来るよ。

本日はこれまで。


最後に、津軽あまにさん。キャラをお借りしました。

事後報告となり、申し訳ありません。

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