特別編2 騎士のソフィア
本日は、2度目の冒険者視点。
今回もある意味中二テイストなお話。
テーマは『鋼尾飛竜』
それでは、どうぞ。
―――とぎれる。
この感覚には、もう慣れた。
この山だけで3回、今までで10回はくり返した『これ』
灰色にそまった世界でわたしが見ているのは…
目を見開いて、血まみれの、わたし。
着てるのは子供のころ好きだった、ひらひらした正義のヒロインの服。
それは『こっちの世界』ではわたしみたいな格とー家が着る布よろいで、
せー作級としてはけっこう強い。
Lvも手ごろってこー略本に書いてあったからお祭りのとき、
貯めてたお金と素材で作ってもらった。
思った以上に丈夫で軽くて戦いやすかったから、戦うときはずっと着てる。
けっこう自信あったのに、また負けたのがくやしい。
と中までは、いー感じだった。
ワイバーンの体力も初めて半分以下までけずれた。
けど、そこでMPがなくなった上に『どく』を受けて、
それから立て直しきれなくて、おし切られた。
まわりに持って来たのに使えなかったポーションが転がってるのが、さらにくやしい。
また、やり直しかぁ…
そう思ったら、げんなりした。
わたしは、1人でいどんでいる。この『飛りゅー山』に。
だから、こんなふうに“死んだ”ら大神でんでやり直し。
それが『こっちの世界』での、当たり前。
…あれ?空が赤いや?
だから、いいかげんあきらめて目を閉じた後、
また目を開けたら大神でんの天井じゃなくて、
夕方の赤い空が目に入ったとき、なにが起きたのか、分からなかった。
「…お嬢。いつの間に蘇生術の腕をそこまで上げたんで?」
最初に目に入ったのは、ハゲのおじさんときれいなお姉さん。
そのお姉さんが、ハゲのおじさんに言った。
「そうだったら嬉しいんだけど、違うわ。
あたしの腕って言うより、この子の資質の問題ね」
「資質?どういうことですか?」
「分からない?つまり…あら、目を覚ましたみたいね。もう、大丈夫なの?」
「…はい。えっと。ありがとうございます」
お姉さんに話しかけられて、わたしはとりあえずお礼を言う。
立ち上がって、ちょっと動かしてみる。ちょっといたいけど、問題なし。
うん、ふつーに生き返ってる。
そのあと、まわりを見てみて、わたしの命の恩人がどういう人たちなのか分かった。
6人のパーティーだ。
みんな、ハゲのおじさんほどじゃないけど、あんまり若くない。
学校の先生くらいの人たちだけのパーティーだ。ちょっとめずらしい。
お姉さんとハゲのおじさん以外はなんかひそひそ話してる。
何話してるのかは気になるけど、後回し。
お姉さんたちは命の恩人なので立ち上がった後、もう1回お礼を言う。
「あのままだったら、また、大神でんからやり直しになるところでした。
ここまで来るのも大変だから…その、本当にありがとうございました」
ほんとの気持ちだ。
アキバとここは、たとえわたしが本気で走ってもまる1日はかかるくらいはなれてる。
と中休みながらならば2日は覚ごしないといけない。
だから、それがないのは、ありがたい。
「…大神殿!?ってこたあもしかしてこの子は…」
わたしの答えに、なぜかハゲのおじさんがおどろいていた。
…なんだろ?そこおどろくところ?
「あなた、冒険者よね?」
わたしが不思議に思ってると、お姉さんが当たり前のことを聞いてくる。
「はい?そうですけど…」
当たり前だ。こっちの世界の人たち…
えっと、なんたら人は、飛りゅー山になんか入らない。
…そう、思ってた。
けど、その人たちはそれを聞いたら、なんだかおどろいていた。
なんだろ?
そう思ってると、お姉さんが言った。
「あたしたちはマイハマ近衛騎士団の第3小隊…ま、ようするに大地人よ」
え?
「え?大地人って…こっちの世界の人!?」
思わず声をあげる。
あ、そうだ、大地人だ。なんてことを頭の片すみで考えながら、おどろく。
「…一旦山を降りましょ?もう日も暮れるし」
そんなわたしに、お姉さんはにっこり笑って、言ってくれた。
『特別編2 騎士のソフィア』
1
山をおりて、朝でたホテルにもどって来るころには、
辺りはすっかり暗くなっていた。
「よかった。ご無事でしたか!
こんな時間まで戻ってこないので、てっきりまた…」
村でホテルにとまって、山に行って、
ワイバーンに負けて死んでそのままもどってこない…
それをくり返すうちにすっかり顔なじみになった、ホテルの店員さんのミヤ
(わたしと同じくらいの年なのに、ちゃんと働いててえらいと思う)
が出むかえてくれる。
「え~と、うん。だいじょぶだったよ?」
うそだ。本当は、お姉さんが助けてくれなかったら
そのまま、また死んでたんだけどそれは言わないことにする。
「騎士様方も、ご無事で何よりです!」
つぎに店員さんは、お姉さんにあいさつする。
「ええまあ。って言うか今日はそもそも本命とは戦ってないしね。
それより、食事はまだ出来るかしら?」
「あ、はい!大丈夫ですよ!」
「そう。それじゃあ、6人…いえ、8人掛けの席を用意して。
…えっと、貴女もそれで良いわよね?」
「あ、はい。大じょぶです」
うなづく。お姉さんたちはわたしをたすけてくれたおん人だ。
しんよーしてもいいと思う。
「分かりました!それではこちらへどうぞ!」
ミヤにあん内されて、食堂へ行く。
食堂は、いつも通りそこそこ混んでいる。
みんな、ワイバーン目当てで来た人たち。
飛りゅー山がいくらアキバに一番近いワイバーンの生息地と言っても、
日帰りできるきょりじゃないので、
ワイバーン目当てで来た人たちはみんなこのホテルにとまる。
そのおかげでこの飛りゅー山の村は、ずいぶんにぎやかになったって、
ミヤが前に教えてくれた。
「こちらの席をお使いください!注文がお決まりになったら呼んでくださいね!」
いつもの2人かけの小さい席じゃなくて、8人用の大きなテーブルにあん内される。
その席に、どかどかとお姉さんたちとわたしですわる。
それからてきとーに食べ物と飲み物をたのむ。
お姉さんたちはビール、わたしはりんごのジュース。
食べ物の前に飲み物が先にきたので、それをちびちびと飲みながら、
お姉さんたちを改めて、見る。
(大地人って言ってたけど…Lvはふつーだよね?)
しゅーちゅーすると、お姉さんたちの名前とクラス、あとLvが見える。
お姉さんはソフィアさんって言うらしい。神なぎで、Lvは54。
ちらっと見た感じ、ソフィアさんと同じLvなのはあのハゲのおじさん
(武士でディアンさんって言うらしい)くらいで、あとはみんなLv50ちょい。
ワイバーンにいどむにはちょーど良いくらいのLvみたいだ。
そんなことを考えつつ、ジュースを飲んでいると。
「それじゃあ、自己紹介と行きましょうか。私は、ソフィア=セングウジ。
第3小隊の指揮役を任されているわ。従軍司祭…じゃ、分からないのよね。
冒険者風に言えば、ヒーラーをやってるわ」
ソフィアさんが自分から名乗る。
そう言えば、わたしはともかく、向こうはわたしのこと、知らないんだよね。
大地人の人たちはふつーはLvとか名前とか見れないらしいし。
それに気づいて、わたしは自己しょーかいする。
「えと、ナギです。格とー家です。『そろ』なんで、仲間はいません」
仲間。そう言ったら、スズの顔が思いうかんで、ちょっといやな気持ちになった。
わたしがそろ(わたしみたいに、1人で戦ってる人のこと)でやってるのは、
スズのことが大きい。
「ソロ…ってえこたあ何かい!?お嬢ちゃん1人でワイバーンに挑んでんのかい!?」
そう言うとハゲのおじさんが聞きかえしてきた。
「うん…じゃなくて、はい。
ワイバーンならLv70くらいあれば1人でもたおせるって聞いたから…」
ワイバーンはちょっと大きいモンスターで、ふつーはパーティーで戦うもの、らしい。
ただ、Lvは50くらいだから、慣れた人なら『そろ』でたおせるって聞いて、
わたしは1人で戦うことにした。
…スズが手伝うって言ったとき、いらないって言っちゃったし。
「Lv70くらい…ってこたあお嬢ちゃん、まさかLv70越えてんのかい!?」
「え?そりゃまあ。今、Lv72だよ…です」
ハゲのおじさんにきかれたから、答える。別にかくすことじゃないし。
こっちに来たころはLv40くらいだったから、ずいぶんと強くなったと思う。
「こんなお嬢ちゃんがあっしどころかムサシ様よか上だなんて…
冒険者ってえのはとことん常識が通用しねえぜ…」
ハゲのおじさんが自分の頭に手をやってしきりになでながら、ため息をついた。
それで気をとりなおして、ハゲのおじさんも自こしょーかいする。
「おっと、名乗りがおくれやした。あっしゃあディアン=サキモリってえもんです。
昔っからセングウジ家の護衛役を勤めてる家の生まれの、ケチな武士でさぁ」
なんか、変わったしゃべり方だ。ごえーってことはしつ事さんとか見たいな感じ?
…ダメだ。ぜんぜんに合ってない。ハゲだし、なんかケチらしいし。
気を取り直して、次いこう。
「守護戦士のアンディ=クロケットです。よろしくお願いします、ナギさん」
次は、ソフィアさんのパーティーで一番若そうな人。
かみが金色で、目が青い。けっこー格好いいと思う。
なんだか英語の時間に来る、外人の先生みたい。
「俺の名はブレーズ=K=トーラム。クラスは守護戦士だ。
よろしく頼むよ、お嬢さん」
次は、ソフィアさん以上、ハゲのおじさん以下くらいの年の人。
ちょっとはでな感じの赤いかみで、ひげとかのばしてて、いやらしー感じ。
ガーディアンってことはさっきのアンディさんと同じ?
ぜんぜん同じに見えないや。
「私はクリス=ジュノアという。ツクバの出の妖術師だ」
次は、やせたおじさん。イレズミが顔に入ってるから、法ぎ族かな?
ひょろっとしてる。
すー学の先生みたいな感じ…神経質って言うんだっけ?
そんな感じがする。
「エイリーク。元傭兵ゆえ、家名は無い。隊の弓手を務めている。
…冒険者の流儀に寄れば、暗殺者に分類されるようだがな」
最後は、クリスさんいじょーに笑わなないおじさん。
年はハゲのおじさんと同じくらい?でもかみは茶色でふさふさだ。
クラスは弓使い(アーチャー)ってなってる。
きーたことないけど、大地人専用クラスって奴かな?
とにかく、その6人が、そのマイハマなんとかきし団の人たちみたい。
それから、わたしたちは色々話した。
お姉さんたちのこととか、この山のこととか、ワイバーンのこととか、色々。
お姉さんたちは、マイハマのきしさんらしい。
国のえらい人の命令でま法のカバンを作るのにつかう皮を手に入れるために
ワイバーンを『とーばつ』に来たんだって。
わたしと同じだ。
マイハマって言えばたしか、悪いゴブリンと戦ってください!
って言って、今はアキバに住んでるお姫さまの住んでたとこ。
船使えばかん単に行けるけど、とくに行く用事もないので、行ったことはない。
アキバくらいあるおっきい街だってソフィアさんが言ってた。
代わりにわたしは飛りゅー山のことを教えてあげた。
地図にのってないような道とか、雨がふったとき、雨宿りするのにいい場所とか、
なによりワイバーンに会いやすい場所とか。
多分アキバでも何回も来てワイバーンと戦ってるわたしより
今の飛りゅー山にくわしい人はいない。
ソフィアさんたちはわたしの話をちゃんと聞いてくれた。
エイリークさんが一番熱心だった。
これからワイバーンと戦うために情報はき重だからって。
そのあと、情報のお礼ってことで、ご飯をおごってもらった。
ちょっとうれしい。
2
ソフィアさんたちと色々話をしながら、たっぷり時間をかけて晩ご飯を食べたあと、
村の温泉であったまったら部屋にもどって、明日の準備をする。
がんばればわたしが3人くらい入れそうな、旅用のでっかいリュックを、開ける。
中にはごっちゃごっちゃに色々つまってる。
夜、外でねるための道具に、銅でできた丈夫なおっきいマグカップと
洗面器がわりのおけ、あと下着のかえ。タオルとせっけん、歯ブラシ。
それと夜用の、ずっと光り続けるカンテラ。
5リットルくらい入る、今は空のでっかい水とー。
水を通さない紙に包まれたかたくてボソボソしたパンと、
ビン入りのいちごジャム。
料理人じゃなくてもお湯入れるだけで食べられる、インスタントラーメン。
(料理人以外が具を入れよーとすると、変なぐちゃどろになっちゃうから注意)
そのお湯をわかすためのやかんに、たき火に火をつけるためのマッチ。
アキバからここまでの地図に、今まで買ったこー略本。
それと古い少年アキバが2,3冊。
全部入れると、わたしの体重より重い。
ぼーけん者のわたしなら、背負っても走ることくらいはできるが、戦とーはムリ。
…これぜんぶふつーに持ち歩けるっていうま法のカバンがほしいと思う、
一番の理由だ。
気を取り直して必要なモノを取り出す。
他のとごちゃまぜにならないようにしきられた場所に入れた、戦とー用の道具。
ワイバーンと戦ったから、今日使った分をほじゅーする。
わたしみたいな回復ま法が使えない『そろ』だと、
持って行くアイテムがとっても重要だ。
戦いのじゃまにならない程度のアイテムって持ってけるものがかなり限られる。
戦いが終わった後の回復と、味がしなくてくさらないから
飲み水代わりに一番よく使う、HPを回復するポーションは
ビンがじゃまなので2リットルくらいの水とーにうつしかえたのを、
さらに持ち歩き用の500ミリリットルくらいの小っちゃい水とーにうつす。
戦とーのまっただなかのときに使う、きんきゅー用の回復カプセル
(すぐにたくさん回復するけどふつーのより高い)は、ベルトポーチに。
試験管みたいなビンに入った、ダメージどく用のげどく薬も
回復カプセルと同じポーチ。
5分間だけこーげき力を強くする力のひ薬とぼーぎょ力を強くする
守りのひ薬は、別のポーチ。
モンスターが嫌がるにおいつきのけむりが出る、
とーそー用のけむり玉といっしょにしておく。
…よし、こんなもんかな。
大体、準備ができたので、ねよーとしたら、耳元で音がした。
わたしはとっさに耳に手を当てて、念話のリストを見る。
短いリストなのですぐにだれがかけてきたかは分かる…スズだ。
「はい」
いっしゅん、出ないですませようかとも思ったけど、出る。
…さけてるのは、わたしだけだし。
「あ、ナギちゃん…寝てた?」
いつものスズの声が耳に入ってくる。
少しだけ、風の音がする。どーやらスズも旅のと中らしい。
「うん、これからねよーと思ってたとこ…それで、どーしたの?」
分かってる。スズは悪くないし、今でも、これからも親友だ。
けど、やっぱり、少し声がかたくなる。
「うん…また、ナギが飛竜山に行ったって、ウーピーさんから聞いたから…」
スズの声に、ビクッとする。
きっとスズは…
「…だいじょぶだよ。今度は、勝つから」
…また、わたしが死ぬと思ってる。
「…本当に気をつけて。鋼尾翼竜は、ナギのLvだと
ソロ討伐はかなり厳しいってセガールさんが…」
「分かってるよ!」
「ひゃ!?」
思わず大きい声を上げたわたしに、スズがびっくりして悲鳴を上げる。
「…ごめん」
思わず大きい声を上げてしまったことをあやまる。
「…本当に気をつけてね」
そんなこと、知ってる。わたしは1人でいどんで、3回も負けて死んだんだ。
…まだゲームだったころ、ギルドのみんなに助けてもらって、
パーティーでワイバーンをたおしたスズなんかより、ずっと知ってる。
「…分かった。気をつける」
「…うん、頑張ってね。ナギ」
その言葉をさいごに、スズからの念話が切れる。
「…こんどは、勝つよ」
そうだ。勝たなきゃいけない。でないと…いつまでもスズに置いてかれたまんまだ。
3
朝。まだ日がのぼったばかりのころ。
わたしは、いつものように山の周りを走る。
だいたい1じかんで、1周。
向こうでもやってきた日課だし、経験値かせぎも出来るから、
野宿じゃないときは毎朝やってる。
わたしのサブクラスは〈体育家〉と言う、
ちょっと変わったクラスだ。
基本的に能力を使うには軽い装備…
ちょーどわたしがつかってる布よろいくらいまでじゃないとダメだけど、
Lvが上がるほど、走ったり、飛んだり、投げたり、泳いだりと言った、
体育でやるよーな能力が上がっていく。
いま、わたしのアスリートのLvは66だけど、
今の時点ですでにこっちの世界の馬より早く走れるし、
垂直飛びで3m、水平飛びで10mはかんたんに飛べる。
岩のかべだって楽勝でのぼれる。
Lv90のアスリートは、もっとすごい…らしい。
車より早く走れるとか聞いたことがある。
…あれ?
走ってると中で、おじさんに会う。
たしか、昨日のきしさんの1人。確か…エイリークさんだ。
「…ナギと言ったか。随分と朝が早いのだな」
村から少しはなれた飛りゅー山をじっと見ていたエイリークさんが
わたしに気づいて、声をかける。
「あ、はい。わたし、毎朝走らないとおちつかなくて。
それより、こんなとこで何してるんですか?」
あいさつして、ついでに何をしてるのか聞いたら、
エイリークさんはうなづいて答えた。
「ああ。鋼尾翼竜の調査だ」
「調査?」
「ああ、鋼尾翼竜がどの辺りまでを縄張りとしているかをな。
昨日も、鋼尾翼竜の生態を調査していた。
利用する水場、寝所、そしてそれらを利用する時間帯…
鋼尾翼竜は仮にも竜種。人の身で勝とうと思えば万全を喫する必要がある。
…我等は死んだら蘇ることなど出来ないからな」
…そっか。そー言えば大地人は大神でんで生き返れないもんね…あれ?
「あれ?でも、そ生ま法使えば生き返れるんじゃないの?
たしか、ソフィアさんがふつーに使えたとおもったけど」
ソフィアさんはそ生ま法が使える。
Lv54だから当然だし、実さいそれでわたしは生き返った。
けど、エイリークさんはわたしの言葉に首をふる。
「大地人は死んだら、冒険者ほど容易くは蘇れないんだ。
元より蘇生の術は奇跡の技。
隊長ほどの使い手であっても、そうそう成功するものではない。
更に如何に癒し手の腕が良くとも死体の状態が悪ければ復活することは無いし、
時間が経ち過ぎても蘇ることはない。
死人が出て、癒し手に余裕があれば試してみることはあるが、
成功したと言うのはほとんど聞かないな」
「…そっか。それでわたしが生き返ったとき、おどろいてたんだ」
そー言えば、わたしがよみがえったとき、ハゲのおじさんがおどろいてたけど、
それならわかる。
「ああ、既にお前の死体は冷たくなっていた。
普通ならばどう見ても手遅れの状態だった。
…正直、あの状態から蘇るとは思わなかった。
改めて冒険者の肉体は強靭だと思い知らされたよ」
そう言いながら、エイリークさんは笑う。ちょっとさびしそーに。
「…さて、そろそろ俺は戻るとしよう。ではな」
そう言うと、エイリークさんは村に戻っていく。
わたしはそれを見送った後、また走り出した。
大地人は死んだらぼーけん者みたいにはよみがえれない。
それでも戦う、わたしより弱いきしの人たちは…ものすごく強いのかもしれない。
そう思いながら。
4
ギャア!ギャア!
うるさい。
私はようやくどくのいたみを消して、立ち上がった。
4回目のワイバーンとの戦い。
また、負けそーになってる。
…まずい。
もう、こーげき力を上げるひ薬とぼーぎょ力を上げるひ薬の効果は切れてる。
こーげき自体はできるだけかわしてたおかげで、HPはけっこー残ってる。
だけど…MPがもーない。
かくとー家は、HPがものすごく高い代わりに、MPがものすごく低い。
MPが切れても、ザコなら何とかなる。
ふつーになぐったりけったりすれば、1回や2回ならたおせる。
けど、こいつはワイバーンだ。とーぜん強い。
ワイバーンの残りHPは昨日と同じくらい。
けど、分かる。昨日もこの辺りでMPが切れた。
となれば、ここからたおすのはむずかしい。
無理をすれば…また、死ぬ。
…にげるしか、ないかな。
そう思って、ポーチのけむり玉を取り出そうとした、そのときだった。
「〈飯綱切り〉!」
「〈雷帝の槍〉!」
「…〈アサシネイト〉」
頭に雷、羽に真空波。そして胸に矢。
強力なこーげきがとんでくる。
ギャアアアアアアア…
ワイバーンが悲鳴を上げて、たおれる。
たおしたのは…
「良かった。何とか生きてるみたいね」
ソフィアさんが、わたしに近よって、回復ま法をかける。
ボロボロだった体の、きずが治ってく。
「こいつが鋼尾翼竜か…やっぱでけぇやな」
「うむ。今回は奇襲がうまく行ったから良かったものの、
真っ向から戦えば苦戦は免れぬだろう」
「これをもう1頭か…次は、こう上手くは行かないだろうな」
「あ、でも今回は、これってナギさんの獲物を奪ったことになりますよね?
参ったな。前にお師匠様が言ってたんですよね。
お師匠様も含めて冒険者のなかには横槍を嫌う人もいるって」
「だが、あの場で助けに行かなければ、ナギはまた、
無残な屍を晒すことになっていたかもしれない。
どう見ても危機的状況であったからな。
となれば、今回のことは間違ってはいないさ。
無論、レディに謝罪を求められれば紳士として謝るがね」
ワイバーンの死体のそばで、他のきしの人たちがガヤガヤやってる。
エイリークさんがでっかいナイフで、ワイバーンの死体から皮や角、
キバなんかを切り取っている。
「ごめんなさいね。どう見ても、貴女が危なそうに見えたから」
「…いえ、いーです」
どーせ『そろ』では、今回も負けてた。
だったら、余計な真似じゃない。
それくらいは分かる。
…ほんと、どーやったら『そろ』であいつをたおせるんだろう?
わたしは、そろでアイツをたおさなきゃならないのに。
5
もう回復アイテムもないので、どのみち今日はもう無理。
そんなわけでわたしは、またふもとの村にもどってきた。
ごはんを食べて、今はおフロ。
この村では温泉があるので、そこに毎日入ってる。
「はー…」
思わず出たため息はお湯が気持ちいーからってだけじゃない。
「どーしよう…」
あのあと、わたしはソフィアさんから、皮を分けてもらった。
ずっとほしかった〈ダネザックのま法のカバン〉をつくるのにひつよーな皮。
これさえ手に入ったら、もうワイバーンと戦う必要はない。
ないんだけど…
「目標、達成してないんだよね」
そう、ワイバーンとそろで戦うのは、わたしなりに決めた目標だった。
というか皮がほしーだけなら、水しょーといっしょに生産ギルドで買ってる。
わたしがワイバーンと戦うのは、スズに追いつくための第一歩…のはずだった。
「勝てそーにないしなあ」
だけど、今日ので分かった。
ワイバーンにそろで勝とーと思ったら、もっとLvを上げなくちゃならない。
…あと、どれだけ強くなったらワイバーンを1人でたおせるんだろう?
「…やっぱそろでたおすまで、がんばったほーがいいのかな…」
そう、つぶやいたときだった。
「あら?ソロで倒すのが目的だったの?」
ゆげのむこーから、女の人が来る。
「わっ!?ソフィアさん?」
あらわれたのは、タオルを体にまいた、ソフィアさん。
「こんばんわ。今日は良い夜ね。隣、良いかしら?」
「ひゃ、ひゃい…」
返した返事が上ずった。
この人は、たぶん…
「…何故そこまでソロに拘るのかしら?よければ、聞かせてくれない?」
思った通り、ソフィアさんが何気ない感じでわたしに聞いてくる。
ちょっと考える。言ってもいいか…答えは。
「…わたしは、強くならないといけないんです。
でないと…スズに置いてかれたまんまだから」
ソフィアさんなら、いい。
そう思って、わたしはポツポツと話し始めた。
昔のことと、スズのこと。わたしなりの、なやみを。
スズは、わたしのおさななじみだ。
よーち園で一番仲良くなって、同じ小学校に行って、いつもいっしょだった。
6年間ずっと同じクラスってわけじゃなかったけど、
家が近かったから放課後はよく遊んだし、
『家族ぐるみのつきあい』で、夏休みの旅行とかはいつも同じとこに行ってた。
夏休みの絵日記だって、スズのを写せばだいたい同じになるから
よく写させてもらってた。
スズは毎年来年はちゃんとやるんだよって言ってたのも、いー思い出だ。
それが、ちょっとずつ変わってきたのは、中学に入ってから。
毎年運動会で女子リレーのアンカーをやってたわたしは陸上部。
本が好きなスズは文芸部に入った。
陸上部と文芸部じゃ終わる時間もちがうし、文芸部には朝練も無いから、
自然と平日は行きも帰りも別々になった。
それに…
「スズは、わたしよりも1年早くぼーけん者になったんです」
そこが、今の、大きなちがい。
スズがエルダー・テイルを始めたのは、中学に入ってすぐ。
入学のお祝いでスズのおばーちゃんからパソコンを買ってもらってから。
始めてからしばらくは、休みの日とかもやってて、
いつの間にかわたしの知らない人の名前が出てくるよーになって、
さみしかった。
そして、わたしが始めたのは、2年になるまえの春休み。
4月のたん生日のお祝いでパソコンを買ってもらってから。
すっかりハマッてたスズと、前々から約束してた。
わたしがパソコン買ってもらったら、いっしょにやろーって。
じっさいに、エルダー・テイルは面白かった。
スズや、スズのギルドの人だって言うこわい顔のおじさん
(昔の映画に出てくる人の顔だって言ってた)が色々教えてくれたし、
それに、ゲームは昔からけっこー好きだったから。
スズといっしょにあちこちのクエストやったり、Lv上げたり、
ゲームの中でスズとだべってたりして、すぐ1ヶ月が過ぎて…そして。
「わたしもぼーけん者になって…あれのとき、わたしはまだ、Lv40でした」
大人のぼーけん者が『大災害』とよんでるあれ。
ゲームのキャラクターまんまで、こっちの世界にとばされたあと、わたしはきづいた。
当たり前だけど、こっちの世界では、Lvが大きいってことは、強いってこと。
こっちに来て最初の1ヶ月。
Lvが高い人がLvが低い人にいばったり、ひどいことしたりするのを、何度も見た。
わたしはLvが高い人ばっかりのスズのギルドで助けてもらえたから、
だいじょぶだったけど、わたしぐらいの子とか、
もう少し年上のお兄さんお姉さんが、『どれー』にされてたのも知ってる。
もし、わたしもギルドで助けてもらわなかったら、
わたしも『どれー』になってたかもしれない。
そんなひどいことは、ぼーけん者の、やっぱりLv90の強くてえらい人たちが
会ぎするまで、つづいてた。
「…Lv90のスズに完全にかなわなかったんです」
わたしのLv40とスズのLv90。その差は比べ物にならないくらい、大きい。
それこそ、子供とプロの格とー家以上の差がある。
じっさい、わたしはこっちにきたころ、
うでずもーでまるっきりスズにかなわなかったし、
体力だってスズの方がずっと上だった。
しかも、スズのクラスは森じゅつかい。
ものすごく強いま法が使える。
…とてもじゃないけど『同じ仲間』とか言えるような感じじゃなかった。
「わたしは強くなくちゃならないんです。スズといっしょにいられるくらいに」
わたしより1年長くぼーけん者をやってたスズが強いのは、
陸上部で1年がんばってきたわたしが、
あっちの世界でスズよりずっと足が速いのと同じだからいい。
けど、それでは『仲間』じゃない。わたしは…足手まといにしかなれない。
それがいやで、わたしは6月、わたしみたいな中学生でも
やってけるよーになってからずっと1人でがんばってきた。
ときどき死ぬくらい危険なとこでLv上げをして、強くなった。
だけど、それでもまだLvは72。スズには及ばない。
だから…
「だから、ワイバーンくらいは『そろ』でたおせないとダメなんです。
スズのギルドの人たちなら…スズも含めてみんな
『そろ』でたおせるって聞いたから」
スズがいるのは、アキバで一番強いギルドの〈D.D.D〉に
さそわれるくらい、強いギルド。
とーぜん、ギルドの人たちはみんなわたしより強くて、すごい人たちだ。
そして、その中の1人としてやっているスズも、
8月のときに後ろの方で荷物運びだったわたしとちがって、
ギルドの人たちといっしょにゴブリンの群れと戦ったらしい。
昔みたいに、いつもいっしょだったころにもどりたいから、
わたしは今は『そろ』で戦ってるのだ。
「なるほどね…」
わたしの話を最後まで聞いて、ソフィアさんはうなづいて言った。
「…ねぇ。ナギ、私から1つ提案があるんだけど、聞いてくれる?」
そう言うと、ソフィアさんはその『てーあん』を言う。
「あのね、ナギ…私たちは、もう1頭、鋼尾翼竜と戦うつもりなんだけど…
そのとき1度だけ、私たちと組んで見ない?」
わたしが、予想してなかった『てーあん』を。
6
次の日。
わたしは、ソフィアさんたちといっしょに飛りゅー山をのぼっていた。
ワイバーンとーばつの協力。
あの『条件』がなかったら、断ってたと思う。
それを断らなかったのは…
「あの…ほんとーにこれで、『わたしに足りないもの』が分かるんですか?」
ソフィアさんは言った。
このじょーたいで戦えば、『わたしに足りないもの』が分かると。
「そうよ。私たちのお師匠様も言ってたわ。
『Lvが高いだけで強いと思ったら大間違い』って」
そう言ってソフィアさんはわらう。
―――冒険者の秘術を使って、私と同じLvで参加して欲しいの。
それがソフィアさんの条件。ひじゅつってのはよく聞いてみたら
『しはんシステム』のことで、わたしはソフィアさんと同じ
Lv54でパーティーに加わった。
これで何が分かるんだろう?
ワイバーンたおすだけなら、わたしはLv72のままのが良いと思うんだけど。
「…隊長。発見しました。鋼尾翼竜です。
現在、こちらに気づいた様子は無し。奇襲可能です」
1人だけ、先に行っていたエイリークさんがもどって来て、ソフィアさんに言う。
ソフィアさんはうなづいて、てきぱきと指示を出す。
「では、大まかな方針としては奇襲から入るパターンで行きましょう。
エイリークは弓で奇襲。こっちに引きつけた後は戦線を離脱して頂戴。
いざってときにはマイハマに報せる役を任せるわ」
「了解した」
「ブレーズはいつもどおり。アンディはブレーズの補佐をお願い」
「任せてくれたまえ」
「了解しました!」
「鋼尾飛竜には雷の術が有効らしいから、
クリスは雷の術と足止めに風の術を中心に攻撃。
くれぐれもターゲットを取らないようにヘイトには注意して」
「分かった。任せてくれ」
「ディアンは…貴方の判断に任せるわ。勝手にやって頂戴。いつも通りにね」
「へい」
ソフィアさんが一通り指示を出しおえて、わたしの方をみる。
「それで、ナギ。貴女は…」
考えてみたら、だれかをリーダーにして戦うのははじめてだ。
わたしはどんな指示を受けるんだろう?
じっと待つ。そして。
「…回避スキルは全部禁止。私が合図したらひたすら攻撃に徹して頂戴」
…え?…ええ!?
「ちょ、ちょっとタンマ!それって…」
むちゃくちゃだ。かわさないと、勝てない。
そう言おうとしたわたしにソフィアさんはさらに言う。
「大丈夫。私を信じて。必ず、勝たせるから」
そう言われたら、もう何も言えない。
「それじゃあ始めましょうか」
そしてソフィアさんが何でもないことのように言って、ワイバーン狩りが始まった。
7
「命中した!こっちに向かってくる!接敵はおよそ30秒後!武運を祈る!」
ピュンッて音を立ててでっかい弓でワイバーンをうったエイリークさんが、
ソフィアさんに言って、急いでワイバーンが入れないような
せまい洞くつにかくれる。
「よし!始めるわよ!ブレーズ、お願い!」
「任せてもらおう!」
ソフィアさんのしじにブレーズさんがうなづいて、
たてを構えながら、大きい声を上げる。
「遠からんものは音に聞け!近くば寄って目にも見よ!
我が名はブレーズ=K=トーラム!汝、鋼尾翼竜に挑むものなり!
汝、真の強者なれば、まずは我を倒し、その屍を越えてみよ!」
なんかむずかしーことを大声で言う。
ワイバーンには意味分からないはずだけど、エイリークさんを追って
行こうとしてたワイバーンがこっちを向いて、ブレーズさんをこーげきする。
Lv50ちょいのブレーズさんだと、まともにくらったらけっこーいたいはずだけど、
たてを構えてまちかまえてたブレーズさんは、あんましダメージ受けてない。
ああそうか。たしかあれ、ガーディアンのスキルだ。
ダメージはあたえられないけど、『へいと』とかゆーのを
ためるって聞いたことがある。
…かくとー家にも似たような技があるけど、こーゆー使い方するものだったんだ。
「ブレーズさん!右からの攻撃は僕が!っく!…〈アンカー・ハウル〉!」
アンディさんが右からのしっぽこーげきをたてで受け止めて剣を構える。
こっちはけっこーダメージが大きい。でも。
「2人とも、その場で4秒待機して!〈範囲中回復〉!」
ソフィアさんが2人に回復まほー。
1度に2人に同時にかかるま法できずを治す。
「行くぞ!〈疾風刃〉!」
「いきやすぜ!〈一の太刀〉!」
ワイバーンのしっぽこーげきが終わってすぐ、クリスとハゲのおじさんがこーげき!
クリスさんの風のま法がワイバーンの羽にあたってよろめいたしゅんかんに、
ハゲのおじさんの刀がすごい勢いでワイバーンを切りさく!
「今だ!はぁ!」
そのこーげきでワイバーンがハゲのおじさんの方を向いたしゅん間、
今度はアンディさんがハゲのおじさんに負けないくらいの勢いで
剣をふり下ろして一気にダメージをあたえる!
「おっと!まだ俺は倒れていない!余所見はやめてもらおうか!」
そしてブレーズさんがまた大きい声でワイバーンの注意を引いて、
ワイバーンはブレーズさんにこーげきする。
…すごい。
なんていうか、この人たち、ものすごく強い。
体が5つあるけど心はひとつとか、そんな感じだ。
これが…パーティーの強さってこと?
「よし!ナギ、貴女も攻撃に移って!一気に攻め落とすわよ!」
「は、はい!」
ソフィアさんの指示にしたがって、わたしもこーげきする。
まずはスタンスを不意打ちに強い〈ヴァイパースタンス〉にして、
足に力をこめて…ジャンプ!
「ワイバーンキック!」
そのまま飛びげり。アスリートの力も加わって一気に3mくらい上の頭をける!
「タイガークロウ!」
次は下に向かって、爪でひっかく!
タイガークロウを使った格とー家の爪は、包丁より切れる。
光るわたしの爪がワイバーンのうろこといっしょに、ワイバーンの皮を切る!
すたっと地面に着地したしゅん間、今度はワイバーンの足の爪がわたしにせまる。
わたしはとっさに〈ファントムステップ〉でよけよーとして…
「おおっと!あぶねえ!」
ハゲのおじさんがとっさに間に入って爪を刀で受け止めた。
「ナギのお嬢ちゃんは攻撃に専念してくんな!
ナギのお嬢ちゃんへの攻撃はお嬢とあっしが届かせねえからよ!」
ダメージを受けて、軽く血を流しながら、ハゲのおじさんが笑う。
その笑顔を見てたら、なんか分かった気がする。
わたしに、足りなかったものは…ああ!?
「まずい!よけて!」
ワイバーンがしっぽをしまいこむ動きをしたのを見て、わたしはあわててさけぶ。
何回か戦ったから分かる。あの動きから来るのは!
「っく!…ぐぅ!?」
よけきれず、しっぽのつきさしこーげきをくらったブレーズさんが
その場にうずくまる。
「ブレーズ!?」
動きをとめたブレーズさんに、ソフィアさんがあわてる。
「ソフィアさん!ブレーズさんどくにやられてる!すぐに治して!」
あいつのしっぽのどく。あれは…ものすごくいたい。
こー略本には大体1秒当たり20点のダメージを受けるって書いてあった。
HPが10,000点をこえてるわたしでも10分もたない。
ぼーけん者じゃない、ふつーの人ならあっという間に死ぬくらい強いどく。
それは、昔とちがって食らうとまともに動けないくらいいたい。
3回目は、あれのせーで死んだ。
「…っく!〈大祓えの祝詞〉!」
ソフィアさんが神なぎのま法でブレーズさんのどくを消す。
「…うぐ!すまない!」
どくが消えて動けるようになったブレーズさん。
でも、立て直すまでには時間がひつよーで、それをワイバーンは待ってくれない。
「げ、限界です!これ以上は、持ちません!」
動けないブレーズさんの代わりにこーげきを受けつづけたアンディさんがやばい。
「…あっしとしたことが!?」
ハゲのおじさんが足をおさえてる…どくにやられた!
「まずいわ!このままじゃ…」
そうだ。ワイバーンはソフィアさんたちがたおせるギリギリくらいの強さ。
…1回くずれたら、全めつもありうる。
エイリークさんが言ってた。
大地人は…そせーまほーはまずきかないし、大神でんで生き返ることもないって。
「―――うおおおおおおおおおおおおおおおお!」
それにきづいたら、わたしはとっさにさけんでいた!
たださけんだんじゃない。格とー家の『へいと』をかせぐ技、
〈ワイルドロアー〉を使ったのだ。
ワイバーンが、おこった目でわたしを見る。
それをにらみかえしながら、わたしはハゲのおじさんに
こしのポーチのげどく薬を投げる。
「それ、使って!ワイバーンは、わたしがひきつけるから!」
「すまねえ!恩にきりやす!」
そしてもう1回〈ワイルドロアー〉。ワイバーンの目が完全にこっちを見る。
「来い!わたしが、あいてだ!」
〈バタフライスタンス〉で構えて、さらに〈ファントムステップ〉
よける力を上げて、持ちこたえる。
ソフィアさんたちが、また戦えるようになるまで。
8
「くぁ…っつ!」
とっさにこしのポーチからげどく薬を取り出して、
回復カプセルといっしょにのみこむ。
一気にHPを回復して、どくを消したしゅん間に、
また体当たりではじき飛ばされる。
「ナギ!?」
「いいから!わたしは、もう少しだけなら持つから、他の人を早く!」
回復ま法をかけようとするソフィアさんに言い返す。
「…っく、〈快癒祈祷〉!」
そしてソフィアさんがボロボロになってるアンディさんに回復まほーをかける。
…そう、それでいい。
わたしは、苦戦していた。
当たり前だ。今、わたしのLvは54になってる。
Lv72でもかなわなかった相手に『そろ』で勝てるはずがない。
持ってきた回復アイテムを使って、もちこたえるのがやっと。
たぶん、もーすぐ死ぬ。
…でも、だいじょぶ。
ソフィアさんに生き返らせてもらうか、さいあく大神でんで生き返れるから。
なんとなく、分かった。
わたしに足りなかったもの。それは…思い切り。
こいつは、けっこー強い。強いから…
ダメージで死ぬまえに勝てるよーにせめなきゃだめだった。
『そろ』のレベル上げと同じよーに、安全に、死なないのをゆー先して
戦ってたんじゃ、けっきょく勝てない。
死ぬかもしれなくても一気にせめて、やられる前にたおすしかない。
それが『ソロでワイバーンをたおすのに必要なこと』
そして、回復アイテムがつきる。
ぜったいぜつめー…じゃ、ない!
「きたまえ!私が相手をしてやる!」
ワイバーンがわたしから目をそらす!
「お待たせ!たて直しは完了!今〈四方拝〉を使ったわ!一気に仕留めるわよ!」
「うん!」
ブレーズさんが止めてる間に、わたしは、
いや、わたしたちはいっせーにこーげきする!
「喰らえ!〈雷帝の槍〉!」
クリスさんが、こーげきまほーでものすごい雷をおとす!
「往生しろや羽トカゲ!〈燕返し〉!」
ハゲのおじさんが、2本の刀をすごい早さでふって、ワイバーンをきる!
「ナギ!」
「うん!」
ソフィアさんの声にあわせて、こーげき力を上げる
〈ライオンスタンス〉をとって…とつげき!
つかうのは…わたしの一番のコンボ!
「〈ワイバーンキック〉!」
後ろを向いたワイバーンのせなかをおもいっきりける!
でも、これでおわりじゃない!
「〈ラビットスタンプ〉!」
そのまま、ワイバーンをもう1回、今度は真下をける!
〈ラビットスタンプ〉もけっこー強いキック技だけど、
これも次の技のためのつなぎ!
「〈メテオ…」
〈ラビットスタンプ〉のはんどーで高く飛び上がり、
空中でわたしは両手をにぎりこむ!
がっしり組んで、後ろにまわした手が、光りだす。
これは、わたしの使える中で一番強い技!
ギィヤァァァァァァ!
このわざは強いけど、すきが大きい。
よけられない空中でしか使えないし、力をタメなきゃうてない。
そしてワイバーンが思いっきりわたしに向かってかみついてくる…
さいしょに、わたしが死んだときと同じように。
けど…だいじょぶ!
だってわたしは…今日は『パーティー』だ!
ワイバーンのキバがとどく前に、ソフィアさんのはった
かべがはじけてワイバーンが顔をそらす!
わたしは、ノーダメージ!体勢もくずしてない…いける!
「…インパクト〉!」
わたしは、じゅーぶん力がこもった両手を振り下ろす!
前に試した時は、岩でも一発でくだいた両手が
ワイバーンの頭を思いっきりぶったたく!
ギャァァァァァァァ…
そして、わたしのこーげきを受けて、ワイバーンが長い悲鳴を上げて…
「…終わった、わね」
地面におちたワイバーンを見て、ソフィアさんが笑った。
9
「ごめんなさいね。本当はもっと華麗に勝つ予定だったんだけど」
帰り道。
わたしがせおってきたカバンをソフィアさんたちの馬車に積んでもらって、
わたしはソフィアさんの馬に乗せてもらっていた。
これから、わたしは〈ダネザックのま法のカバン〉を作ってもらいに行く。
そー言ったら、ソフィアさんたちはいっしょに行かないかと言ってくれた。
もちろんOKした。
「いえ。いーです…ワイバーンにも勝てたし…色々分かったから」
今回の、ワイバーンたいじは本当に色々勉強になった。
ワイバーンに負けつづけたおかげで『そろ』での戦い方が分かったし、
ソフィアさんみたいにパーティーを組むとどーいう戦いが出来るかも分かった。
そしてなにより…
「…楽しかったですから。ソフィアさんたちといっしょに戦うの」
ハゲの…ディアンさんにブレーズさん、アンディさんとクリスさん。
エイリークさんに…ソフィアさん。
スズたちじゃない。ぼーけん者でもない。
大地人のきしの人たち。この人たちといっしょに、ワイバーンをたおした。
これはわたしの思い出。わたしが、この世界に着てから初めての、
『だれかといっしょにする』ぼーけん。
だから…
「帰ったら、スズに話そうと思います。ワイバーンと戦ったときのこと。
それから、スズに聞こーと思います。スズがしてきた、ぼーけんのこと」
きのー、山から下りてからいっぱい話した。
スズもきのーから山にのぼってたらしい。
何でもギルドのみんなでま王をたおしたって。
ま法のカバン手に入れて帰ったら、会うやくそくをしてる。
スズのぼーけんの話を聞いて、
わたしのぼーけんの話をしたいって、わたしから言った。
「そして、またぼーけんしたいと思います。
スズみたいにアキバから出て、色んなぼーけんをしてみたい」
わたしには、わたしなりのぼーけんがある。
色んな人と知りあったり、モンスターと戦ったり、色々できる。
わたしがスズがどんなぼーけんをしたか知らないのと同じで、
スズも、わたしがどんなぼーけんをしたのか、知らない。
知りたいのだ。スズがしたぼーけんや、わたしもスズもまだ知らないことを。
そうしたいなら、アキバばっかにいちゃダメだ。
「…そう。だったら、マイハマを訪れることがあったら、
セングウジの屋敷に遊びに来て頂戴。いつでも歓迎するわ」
ソフィアさんが笑顔で、わたしに言う。
「それでしたら是非サキモリの家にも遊びにきてくだせえ。
お嬢の屋敷たあ比べ物にならねえ小汚ねえあばら家ですが、
精一杯もてなさせてもらいますんで」
「だったら私の屋敷にも着たまえ。息子達に紹介しよう」
「うちもよければ…まだ、子供も1人しか居なくて恥ずかしいですけど」
「生憎と私は宿舎住みで独身だが、歓迎しよう。
騎士団の案内くらいは出来るだろうからな」
「そのときは、ジロの奴も誘うか。
あいつ、確か甥っ子が格闘家だと言っていたからな」
ソフィアさんに続くように、他の人たちもみんなわたしに言う。
「はい!必ず!」
それがうれしくて、わたしは笑う。
もしかしたらよーやく、始まったのかもしれない。
わたしの、わたしだけのお話が。
本日はここまで。
ちなみに飛竜山は、埼玉県に実在したりします。
さらに、今回出てきたスズは今までに出てきたとある冒険者だったり。
最も名前は微妙に違いますが。




