表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/40

第17話 帝国人のアクセレイ

本日は、とある方々にスポットを当てていきます。

ある意味ヤマトの国で一番アレなことになっている方々。


と言うわけで今回のテーマは「エッゾ帝国の中の人」

彼等の物語です。



ヒィィァァァァァァァ!


軋む様な悲鳴を上げながら、魔法銀(ミスリル)の剣を受けたゴーストが霧散する。

「よっしゃあああああああああああああああああああ!」

兜を脱ぎ捨て、禿頭と髭面を晒したフョードルが勝利の雄たけびを上げる。

(これで終わりだな)

その様を眺めながら、戦う力を持たぬ中年の元徴税官、

アクセレイ=アリエフはほっと息を吐いた。

「伝令!村はずれに追い込んだ喰屍鬼グールの殲滅は無事完了!

 こちらの被害は麻痺毒を受けたものが重装歩兵に1名のみ!

 それも天使様により治療は完了しました!」

きびきびとフョードルの副官である若い騎士がアクセレイに報告を行う。

そしてその報告が正しいことを示すように、アクセレイの耳にも

騒々しく部隊が戻ってくる音が届く。

「そうですか。婿殿に感謝せねばなりませんね…」

どうやらこの戦も無事に終わった。

そのことに安堵しながら、アクセレイはフョードルに歩み寄る。

「おう!アクセレイ殿か!見よ!勝ったぞ!」

「ええ。素晴らしい剣技でした。“狼殺し”の渾名は、伊達ではありませんね」

帝国中を巡る巡回衛視長時代、その剣で持って二刀差しのオスを8頭、

オスに守られたメスを2頭仕留めたことからついたフョードルのあだ名で呼ぶ。

「ああ、確かに狼どもと比べりゃあ、この程度は雑魚だわな」

そう言って笑うこの叩き上げの精鋭は、まさに今回の“任務”に

うってつけの存在だった。


そして、村はずれに展開していた部隊が舞い戻る。


「勝ったな」

「ああ、これで8つ目だ」

「春までに20の村を奪い返せと言う話だったか。あといくつだ?」

「12。この調子なら春までにはいけるだろう」

「後方支援の雑兵、また増えていたな」

「ああ、何でも戦に参加したものは優先的に良い畑をもらえるって話だ。

 代わりに給金は殆ど支払われないらしいが」

「いやいや、やはり戦士としては天使様だろう。あの癒しの魔法は凄すぎる。

 従者格だかなんだか知らんが、Lv80だと言うのも頷ける」

「分かってないな。常日頃から我等の世話をする家事妖精こそ、この部隊の要だ。

 あの手料理を食べられると言う理由で志願した雑兵もいると言うぞ」


戦いが終わり、弛緩した空気を漂わせ、あれこれと雑談している。


「ご苦労様でした。ヒロ殿」

アクセレイはその中の1人…

紆余曲折あって、アリエフ家の婿となった男に頭を下げる。

「そんな…頭を上げてください。元々、アクセレイさんに酷いことしたわけですし、

 それにこれも僕が好きでやってることですから…」

Lv90…無類の強さを誇る冒険者でありながら、ヒロの腰は低い。

どうやらかつて、アクセレイ達が娘を生贄に捧げる羽目に追い込んだことを、

今なお悔いているらしい。


(そこまで気にしなくて良いのですがね)

確かにまるで恨みが無いわけではない。

あの日、ススキノ郊外にあった屋敷を焼き払われ、

家族と使用人を守るため娘のアリョーシャがその身を差し出したことは

苦い思い出だし、あの後、アキバの善なる冒険者と供に、

囚われたままの娘を置いてススキノを離れた日は、己が不幸に涙を流したものだ。


しかし、その苦難の時代は終わった。


アリョーシャが生きて…

ヒロの嫁として帰ってきた以上、恨み続けても良いことは無い。

今ではアリョーシャとヒロは街にいる間はまるで庶民の恋人達のように

仲睦まじく過ごしていることを知っているし、帝国男爵としての

全てを奪ったのがあの魔人に従っていたヒロたちであれば、

今の栄光を与えたのも、『婿殿の義父』という地位をもたらしたヒロなのだから。


だが、ヒロ自身はまだ割り切ってはいないらしい。

少しの間、沈黙が舞い降りる。

そして、それはフョードルの演説で途切れた。


「諸君!我々は勝利した!勝利したのだ!

 彼の地より悪しき冥府の道に堕した魔物を打ち払い!

 善なる勢力の手に取り戻した!」


大声で宣言したフョードルがぐるりと首を回す。

目に映るのは、泥だらけ、血だらけになりながらも満足げな、騎士と傭兵、

そして開拓民で構成された部隊の仲間達。

彼等の目は今、喜びに輝いている。これから来る、宣言を待ち受けて。

その期待を一心に受けて、フョードルが高らかに言う。


「諸君等の戦い振り、実に見事!その活躍により彼の地より悪は去った!

 今、この哀れなる村は再び善なる我等の手に戻ってきた!

 我等の血と汗を対価に!

 同じ善なる勢力として、彼の地で儚く散ったものたちの死は悼もう!

 されど、取り戻したのは我等なればこそ、この地の扱いは我等が決める権利を持つ!

 私は宣言しよう。この村を我等がエリザベート皇女殿下の名において…

 

 帝国領とする!」


歓声が上がる。新たなる“領土”の確保。

それは、かつてエッゾ帝国に暮らしていた帝国人にとって、

また一歩刻まれた新たなる希望だった。


『第17話 帝国人のアクセレイ』



がやがやと。

戦いを終えた兵たちが各々がすべきことをしている。

元々は人が住まう村だったこの地は、野営をするには良い場所だ。

村長の家だった場所の大きな暖炉は〈家事妖精キキーモラ〉の手で

久方ぶりに火が入れられてシチューを煮込み、かつて村の食糧庫だった

大きな蔵の中には藁が敷き詰められて一晩の寝床へと変貌していく。

手料理の心得があるものが焚き火で狩りで取ってきた獲物を炙り、

怪我をしたものは〈白衣天使ナイチンゲール〉の強力な魔法により

治療を受けている。

騎士や傭兵を支える雑兵…帝国で農業を営んでいた屯田兵たちは荒らされた

畑へと入り、土や水周りを調べて、春になってからのことに思いを馳せる。

彼等の顔は、一様に明るい。

夏の訪れと供に訪れた絶望からかけ離れた希望。

それをかみ締めているが故に。


そんな中、アクセレイとフョードルは“謁見”を行っていた。

雪虎の毛皮に恭しく包まれていた、通信の宝珠を台の上に置き、3人は膝を屈する。

宝珠に映し出されているのは、1人の美しい少女。

手入れの行き届いた黄金色の巻き毛と、磨きぬいたアメジストのような紫の瞳、

目もさめる様な真紅のドレスに身を包み、その上から帝国では最高級の品とされる

白と青の模様が美しい雪虎の毛皮のマントを羽織っている。


『…フョードルとアクセレイか。首尾はどうか?』


美しいが幼く、だが威厳に満ちた声でただ一言、少女は尋ねる。

それにフョードルとアクセレイは立ち上がり、直立不動で答えを返す。


「はっ!報告いたします!本日、我等は村の開放作戦を開始し、

 村に巣くっていたアンデッドと交戦してこれを撃破!

 当方の被害は軽微!ご命令あらば明日にでも次の村の開放を開始できます!」

「開拓民の報告によればこの地の畑は拓かれてから日が浅くて痩せておらず、

 帝国の開拓民であれば相当量の収穫が見込めるとのことです。

 また、近くの森には〈大牙猪〉が棲みついており、腕の良い狩人を用意すれば、

 そちらでの収穫も相当量見込める、とのことです」


緊張しながら、報告する。

長年、帝国に仕えてきた彼等は知っているのだ。


『なるほど。中々に良き村を手にしたか。喜ばしい。

 なればしばしゆっくりと休み、準備を整えよ。

 兵達に酒を振舞い、宴でもするがよい。

 どの道、今の残りの糧秣では些か進軍に無理が出る。2日ほど待て。

 行商に食糧と矢を運ばせている』

「「はっ!」」


この幼き少女が、『皇家』の血を引くものであり、

並の領主すら上回るほどに為政者の才を持った正当なる『皇女』であることを。


イースタルの更に北に位置する雪と鉄の国、エッゾ帝国。

彼の国には、覇王の血族が存在する。


帝国の始祖、アル=ラーディルの直系の子孫たるラーディル家…すなわち皇家。


歴代皇帝の実子のみが一員であると認められるそれは、

帝国において最も尊き家であるとされ、帝国の一切を取り仕切る。

その権力は絶大であり、帝国において皇家に逆らうことものなど

蛮族の狼どもくらいである。


皇家に生まれたものは、性別に関係なく、皇帝の座の継承権を有する。

故にいつ皇帝の座に着くことがあっても良いよう、厳しく鍛えられるのだ。

軍事、政治、税制、地理、歴史教養、礼儀作法、

皇帝に相応しい堂に入った立ち振る舞い…

皇家の一員であれば皆、学ぶ。その異質さが彼女らを生む。


皇女。


女の身ながら皇家に生まれたがために、

為政者として必要な全てを叩き込まれた女傑。

彼女らは一様に“姫”と呼ばれることを何よりも嫌う。

皇女にとって姫とは男に縋るしか生き方を知らぬ、か弱きものなのだ。

そして、その矜持を示すように皇女は皇帝直属の部下として婿を取って

帝国の重役を担い、男と同じかそれ以上に勇猛かつ英知に満ちた治世を担う。

いずれ訪れるやも知れぬ、皇帝の座についた日に困らぬように。


アクセレイの現在の主、シブヤの帝国人を纏め上げるのも、皇女である。


エッゾ帝国第一皇女、エリザベート・L・ラーディル。

先帝を父に、現皇帝を兄に持つこの13歳の少女が、側室であった母方の縁を頼りに、

帝国の宮殿を離れ、幾多の帝国貴族を襲い子女を攫った恐るべき魔人、

カオルの手を逃れてカイの国に落ち延びたのは、秋の初めのこと。


それから、母方の祖父の許しを得てシブヤに移り住んだエリザベートは、

その幼さからは想像もつかぬほどの政治手腕を見せ、

瞬く間にアキバの善なる冒険者と供にアキバに落ち延びた帝国人たちをまとめあげ、

一大勢力とした。


第二帝国と称しているその勢力に属するもの、実に2,000。


アクセレイやフョードルの“婿殿”を初めとした、帝国人と婚姻をした

冒険者が作る家門『帝国の番犬』を召抱えた第二帝国はアキバ勢力圏に住まう、

まとまった大地人勢力としてはかなり大規模であり、

帝国人にとって最大のライバルとなる『アメヤの村の民』をも越える。


その彼等第二帝国が行っている作戦が、エリザベートの命令のもと、

長年巡回衛視隊を率いていたフョードルが準備する『再入植計画』である。


エリザベートがアキバに落ち延びる前、イースタル南部にあるザントリーフで、

大規模な戦があった。相手は緑小鬼の軍勢数万。

それは密かに侵攻を進め、あわやイースタル自由都市同盟を

崩壊させかねない事態に陥らせ、その軍の侵攻の過程で、相当数の村が滅びた。


隠密裏に行動していた緑小鬼たちに滅ぼされたのは

大半が名も無い小さな開拓村だが、それでも井戸が掘られ、

土地は畑として整備され、大分荒れてはいるものの建物とて残っている。

それに加えて開拓村は領主の力が足りず庇護を受けられなかった…

誰の支配も受けていない村であり、その住人が死した今、

完全な空白地帯となっている。


エリザベートが目をつけたのは、その元開拓村であった。


落ち延びた帝国人には、冒険者に襲われて土地を捨てざるを得なかった、

相当数の開拓民が含まれる。

彼等の技術は高く、既に開拓が済んでいる滅びたての廃村ならば、

僅かな援助で村を復興させるだろう。

税を払うことを条件に畑を与えると言えば、

村に移り住むことを望む開拓民は、決して少なくない。

無論、そのままでは住めない。

緑小鬼の略奪に晒された村の建物は建て直しが必要だし、

何より亜人に殺された無念を抱えた魂や骸が、

アンデッドと化して廃村を彷徨っていたり、

近隣のモンスターや亜人が住みかとしていたりする。

移り住むにはまず、それ等を叩き潰す武力が必要となる。

…落ち延びた帝国人に含まれる騎士や傭兵、

そして兵士はその武力としてうってつけだった。


雪と氷が支配する純白の冬を知る彼等帝国人にとって、

雪すら滅多に降らぬイースタル南部の冬は、その行軍を止めるほどのものではない。

故にこの冬の間、彼等は潰れた開拓村の“確保”に乗り出したのだ。


『わらわからの話は以上だ。お前達が朗報をもたらすこと、期待しているぞ』


その言葉を最後に、皇女より通信が途絶え、水晶は輝きを失う。

「宴か…確かにここ1週間で2つの村を連続して落としたからな、

 そんな暇は無かった」

「丁度良い。宴もそうですが、兵を休ませる間、

 ここを前線として使えるよう、補修をしますか。

 それに、狩りでもして干し肉でも作っておけば、更に行軍できましょう」


エリザベート直々に選んだ、隊の指揮官2人は優秀である。

彼等は2日後、帝国から依頼で補給物資を運んできた行商に会うまで、

勤勉に活動し、兵たちを慰労した。



3日後。

狐尾の護衛を連れた行商から糧秣を受け取り、ついでに村に滞在している間に狩った

猪の牙と毛皮を売り払うと、アクセレイたちは再び行軍を始めた。

「ふむ、あれか…うん?」

山肌から森に囲まれた中にぽっかりと開かれた村を、

アキバで開発された遠眼鏡で覗き込んでいたフョードルが首を傾げ、

アクセレイに遠眼鏡を渡す。

「…あれは、生きている人間に見えますね」

アクセレイも遠眼鏡を覗き、フョードルの言わんとしていることを知る。

「うむ。人型だが、行動が不死の怪物のそれではない…」

覗いた先に見えたのは…良くある村の風景だった。

子供達が遊びに興じ、女たちが雑談しながら炊事や洗濯に精を出す。

若い男達は狩りにでも出ているのか、殆ど見えない。

彼等は帝国や、自由都市同盟で一般に使われているものとは違う、

独特の装束を纏っている。

男も女も皆、頭に布を巻き、ゆったりとした格好をしていた。

「もしや、あの村が滅んだと言うのは、間違いだったか?」

「…いえ、少なくとも一度は滅んだようですね」

観察を続けていたアクセレイが首を振り、フョードルに返す。

「ふむ?どういうことだ?」

「建物が荒れ果てすぎています。古くから住んでいる民で、

 まともな神経なら、補修もせずに使うはずが無い」

酷い有様だった。ところどころ、半分が崩れた建物や、穴が空いている。

にも拘らず、そこの“住人”はそれを気にしていない。

村の広場にテントを張り、そこで暮らしているらしい。

建物を直すどころか、建物を崩し、残骸を薪代わりにしている様子すらある。

「…分からぬな。これは…」

「婿殿の出番ですね」

そう判断すると、アクセレイは隊の中に混じっているヒロに声をかける。

「ヒロ殿。少しよろしいですか?」

「…はい。なんですか?」

ヒロが歩み出て、アクセレイの前に立つ。

そのヒロに、アクセレイは一つ依頼をした。

「実は、ヒロ殿に、あの村を偵察していただきたいのです」

そして、詳しい情報をヒロに言う。

村に、女子供が住み着いていること。

そして、あの村は一度滅んだのは間違いなさそうであることを。

「…偵察ですね。分かりました」

事情を聞いてヒロは頷くと、鞄から一冊の本を取り出す。

「…〈召喚:偵察魔眼〉」

集中し、一言唱えると、本が勝手にめくれ、とあるページでとまる。


ずるりとその本から黒い触手が這い出す。

そして、触手の先についているのは、大きな眼球。

奇怪な魔法生物の名は〈偵察魔眼(ウォッチャーズアイ)


ヒロのような召喚術師が使う魔物の1つである。

その能力は…


「…偵察に行って来てくれ。透明化して、あそこに見える村まで」


ヒロの言葉を受けて、すぅ…と魔眼が透き通る。

ふわりと風が動き、魔眼はふわふわと飛んでいった。


偵察魔眼は、その名の通り“偵察”に特化した魔物である。

攻撃手段こそ貧弱で、眼球を被う触手で攻撃するか、

魔眼による催眠くらいしかないが、浮遊移動、透明化、熱や暗闇、

魔力の流れなど大抵のものは見通せる特殊視覚、

そして術者との視覚の共有能力などを併せ持った偵察魔眼は、

大災害以降、まさに先を見通す目として、

召喚術師に人気のモンスターの1つとなった。

そして、目を閉じて魔眼を通しての偵察を開始する。

透明化して、密かに辺りを見渡す。

程なくして、森の中でヒロはそれを見つける。

「…男の人たちです。こっちに近づいてきてますね。

 うん?あれってターバンか?顔が隠れてて種族はちょっと分かりません。

 あ、でも、剣を2本下げてますね。もしかして武士か盗剣士かな?」

「なんだと!?」

その言葉に、思わずフョードルが声を上げた。

情報が揃い過ぎている。その正体は…

「まさか…狼どもなのか!?」

「狼ども!?それは、本当ですか!?」

フョードルの上げた声にアクセレイもぎょっとする。

戦とはついぞ縁の無かったアクセレイとて、知っている。

帝国における狼どもとは、如何に恐ろしい存在かを。


帝国に置いて、狼どもといえば…恐るべき蛮族である狼牙族である。

かつて、亜人が現れた後、戦のために作られたとされる狼牙族。

当時、古王朝の崩壊に伴ってエッゾに移り住んできた民が

北の大地を戦場としたことで既にエッゾの地に土着していた狼牙族と戦い、

勝利したことで帝国は始った。

そして、帝国により厳しい環境に追いやられて生き延びてきた狼牙族は、

帝国をして魔物とすら称されるほどの戦に通じた民となった。

幾多の帝国人が、狼どもの縄張りに入り込んだり、村ごと略奪にあって惨殺され、

名だたる将軍の何割かは戦に破れて狼どもに討たれてきた。

2年前の戦では、傭兵を主としたとはいえ5倍の兵力を持った帝国の征伐軍を下し、

先帝の弟であった皇家の1人も討たれたほどだ。


「噂とは違うが、確かに奴等ならば村に住まう

 魔から奪い取ることも出来るであろう」

2年前の戦に参加し、“幸運”にも生き延びたフョードルが

冷や汗を流しながら、言う。

本来帝国に住む蛮族である狼どもが、イースタル南部にいる理由にも、

心当たりが無いではない。

今代の狼どもの長…『狼王』がアキバの近くに拠点となるアメヤの村を作り、

帝国に住む狼どもを呼びよせていることは有名な話だ。

既に第2陣までがアメヤの村に集い、村の民の数は500を越えた。

…そして第3陣がアキバに向かっていると言う話もまた、聞いている。

もしそれが、越冬のため、あるいは定住のために滅びた村を手に入れたのだとしたら。


「…一旦引いた方が良いですね。帝国の兵もそう多くは無いのですから」

「うむ」

2人の意見はすぐに一致した。

連れている帝国兵で、まともに戦える騎士や傭兵は50ほど。

残りは人足代わりの雑兵に過ぎない。

男女の区別すらない戦人揃いの狼どもと戦える戦力とはとても思えない。

向こうの戦力は未知数だが、もし狼どもならば、

多少の数の差では勝つとは保証できないし、

よしんば勝ったとしても得るものは少ない。

引くのが得策である。

そんな話をしていたときだった。


「かかれ!帝国より豊穣の地を守るのだ!」

リーダー格らしき、二本の剣を下げた男の声が響く。

その声と供に、次々と布で顔を被った男達が帝国兵たちに切りかかる!

「貴様等!何者だ!?」

そのリーダー格の男に抜刀し、盾を構えて突進しながら、フョードルが叫ぶ。

「知れたこと!我等は貴様等帝国に抗うものだ!」

それに慌てず、二本の曲がった片刃の剣を振りかざしながら、男が答える。

そして切りあいが始まる。

「やはりか!この忌まわしい狼どもめ!」

互いの腕は互角。男の剣は早く、一見フョードルを推しているように見えるが、

守護戦士たるフョードルの守りは熟練しており、その守りを貫きかねている。


「クソッ!邪魔するな!」

「させないよ!ようやくこの人たちが手に入れた安息の地を、

 アンタみたいな冒険者のクズに渡すか!」

ヒロもまた黄金のランプを手にした女に推されている。

相手も冒険者の召喚術師なのか、傍らには燃え盛る、

下半身の無い巨人がヒロを襲う!

ヒロも召喚術を使い、戦装束に身を包んだ戦乙女を召喚して応じているが、

劣勢で推されている。


…そして。

(おかしい)

1人蚊帳の外に立つことになったアクセレイは、違和感を感じていた。

何かが掛け違っている。それは。

(狼どもは…こんな格好だったか?)

アキバに行けばアメヤの村の民…引いては狼どもの姿は容易く見れる。

…正直、襲ってきた民達の着ているものとは似ても似つかない。

(いや、このような姿の民…それ事態に見覚えが無い!)

アクセレイは、その頭の冴えを見せる。

元より、帝国ではその知力を持って皇帝に代わり税を集める徴税官を務めた身だ。

とっさの頭の回転は速い。

(…まさか、このものたちは!)

故に、真実に到達し、その言葉を叫んだ!


「フョードル殿!このものたちは…恐らく異邦人です!

 我等の…エッゾ帝国の敵ではない!」


「…異邦人!?」

「…エッゾ帝国!?」


アクセレイの言葉に、フョードルと男は驚愕し、同時に動きを止める。

そして同時に叫ぶ!

「馬鹿な!?シブヤ以外にも異邦人がいると言うのか!?」

「エッゾとはなんだ!?貴様等は、帝国…オスマニアの軍ではないのか!?」

隊長格2人の叫び。

それが一瞬両部隊の戦いを止める。

それに重ねるようにアクセレイは叫んだ。

「まずは話をしましょう!私たちは、戦をしに着たのではない!」



「先ほどはすまなかった。

 侵略者でも、ましてオスマニアでもないのなら、貴君らは客人。

 アラルの民の長として、ご無礼は、重ねて謝ろう」

顔を被っていた布を外し、浅黒い肌を晒した人間族、

アラルの民の長、アンワールは頭を下げる。

「いえ。気になさらないでください。

 我等も、最初は貴方がたを狼ども…敵だと思っていたわけですから」

非は互いにある。故にアクセレイもまた、頭を下げた。

「しかし…本当なのか?このものたちは、異邦人だと言うのは」

事情を軽く聞き、困惑しながら、フョードルが尋ねる。

「ええっと…多分間違いないと思います。

 多分、中東サーバの人たちじゃないかな?格好がそれっぽいし…」

ちらちらとアンワールとその傍らに立つ、冒険者の女を見ながら、ヒロが答える。

「そうよ。この人はアラビカ…中東サーバの大地人よ。

 あたし達は妖精の環を通ってきたの。

 知り合いがいなかったから、あたしが昔いた欧州サーバじゃないのは

 分かってたけど、まさか日本サーバだったなんてね」

その視線を感じながら、日焼けした肌と金髪が印象的なLv90の召喚術師、

コゼットが肩を竦める。

「にしても本当なの?アタシとアンワールみたいなのは

 特別だと思っていたのだけれど。冒険者と大地人が共存って」

にわかに信じがたい話に、コゼットが再度聞き返す。

大地人とごく少数の冒険者が共存している例はそれなりにあるが、

まさかそれが1,5000なんて数…国単位で成り立つとは思っていなかったのだ。

「まあ、お互い信じがたい話でしょう。ここは一つ、お互いのことを話しましょう」

そしてエッゾ帝国のことを話しながら、アンワールから話を聞く。

その話は、こうだった。


ユーレッド大陸の中央付近…中東サーバ、アラビカには、1つの帝国がある。

名をオスマニア。大帝が収める巨大な国である。

オスマニアはアラビカの冒険者が少なかったことに加え、欧州と中東をまたに駆けて

荒稼ぎをしていた商売を司る巨大ギルドと手を組んだことで、

アラビカにいた冒険者を従え、強大な力を得た。

元々強い軍を束ねた国だったが、それに冒険者という戦力が加わり、

力を更に増したのだ。


そして、その武力を背景に、オスマニアはアラビカの統一に乗り出した。

その過程で、アンワールたちアラルの民は戦に破れて焼け出され、

逃げ出すこととなった。

秘宝たる〈魔神のランプ〉を手にするためにアラビカを訪れていたときに

大災害に巻き込まれ、助けられた縁でアラルの民の下で用心棒をしていた冒険者、

コゼットの説得に応じ、家財一切を抱えて、一斉に妖精の環に飛び込んだのだ。


出た先が、水と木々に満ち溢れた豊穣の大地であったこと、

そしてすぐ近くにうち捨てられた廃村があったのは幸いであった。

アンワールたちは秋の間近くの森から食糧を得て蓄える生活をしていた。

いつ、ここにオスマニアの手が伸びるか分からないため、

近隣の地との交流は絶っていた。

そして今日、コゼットが帝国の軍を見つけ、戦うこととなったのだ。


「なるほど…我々エッゾ帝国と似たような状況ですね。

 最もそちらにはアキバは無かったようですが」

「冒険者の取り仕切る、冒険者と大地人が共存する街か…俄かには信じがたいな」

アラビカでは大帝直属の冒険者は、大地人に対し威張り散らす存在であった。

冒険者にとっての主要施設を莫大な財力で押さえ、

支配する大帝にこそ頭が上がらぬものの、

並の大地人に対しては全てを上回る異形の存在として、好き勝手にやっている。

「とにかく、我々は皇女殿下と円卓会議に報告のため、一度戻るつもりです。

 …よければ、使者を立て、アキバに一度赴いた方が良いかと。

 この地では色々足りぬものもあるでしょう」

「…そうだな。少し時間を頂きたい。考えたい」

そう言うと、手を出し、互いに握手を交し合う。

「生憎と、生きるために必死でロクなものが無いが、ささやかな宴を開くとしよう。

 貴君等はこの地で初めての友だ。互いの仲を深めておきたく思う」

「ならば物資については、こちらが出しましょう。

 幸い行商から補給を受けたばかり。肉やパン、酒も充分ありますから」

フョードルの言葉にアクセレイも頷きでもって答える。

似たような境遇の、されど逞しく生きる、遠き国の民。


このセルデシアの広い大地で彼等に出会えた幸運を喜びたいと考えたのだ。


かくて、一つの邂逅が平和に成し遂げられる。

それは、ある種の奇跡であった。

本日はここまで。


ちなみに『狼ども』ことエッゾの狼牙族については、

別の話で何度かやっていたり。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ