妹が王子様と結婚したがったので、譲ってあげました。なお苦情は受け付けません。
「婚約……ですか? まさか、うちのイネスがギルモンド王国の王子と……はは、それはなんとも光栄なお話ですな」
私の父、デステ侯爵は立派な腹をさすりながら笑った。彼には二人の娘がいる。
長女が勉強しか取り柄の無い私ことイネス。次女が美人で社交性も高いと評判高いカリスタだ。
この度、突如私に縁談の話が持ち上がった。相手は隣国ギルモンド王国のアルチュール王子。
なんでも、国内ではちょうど良い相手が見つからなかったとのことで、ギルモンド王国で使用されているギルモ語に精通している私に縁談の話が舞い込んだのだ。
以前ギルモ語で書かれた小説にドはまりした私は、原語で小説を読みたいという欲求からここ数年でこの言語をほぼ完ぺきにマスターした。
また、ギルモ文学に精通した人々と語り合いたいがために、親戚のツテを駆使してギルモンド王国の貴族が主催する文学サロンにも何度か足を運んだ。
その甲斐あって私のギルモ語スキルはぐんぐん上達し、今やおそらく公的な場で通訳もできると思う。
私は自宅の応接間でギルモンド王国からの使者と向かい合いながら、素直な疑問をぶつける。
「あの、どうして私なんでしょうか? もちろん、アルチュール王子との縁談のお話は大変光栄です。けれど、私はそちらの国の言葉ができる以外に取り柄がありません。他にもアルチュール王子とのご縁を望む令嬢はたくさんいらっしゃるのでは?」
すると、ギルモンド王国の使者はよそ行きの笑顔で微笑む。
「この縁談はアルチュール様のご希望であると同時に、第一夫人と第二夫人のご希望でもあるのです」
「未来の第一王妃と第二王妃の?」
「ええ。王家の他国とのつながりをより強固なものにすると共に、アルチュール様をともにお支えする同士を強く求めていらっしゃいます。」
(えー本当かなぁ。妻が増えれば増えるほどトラブルも増えそうだし、本当に彼女たちが第三夫人を求めたのかな……。あ、でも我が家は他国かつ、辺境の侯爵家であんまり政治的な力もないから、言う事を聞かせやすいとでも思ったのかな)
私は毎日本さえ読んで暮らせたらそれでいい。恋愛も、結婚にも興味はない。変わり者だと称される人生でも構わない。王子様に嫁ぐなんてめんどくさそうだし、できれば回避したい。
しかし父はそんな私のやる気のなさに気付いたのか、使者たちに見えないように私を強めに肘で小突いた。
「アルチュール王子とのご縁談は、我がデステ家にとってこれ以上ない光栄なお話でございます。この話、是非前向きに進めさせて——」
父がにこやかに話していると、突然応接間の扉がバーンと開け放たれた。
「お姉さまに縁談ですって⁉ それは本当なの? あら、まあ、まあ! これはギルモンド王国の方々——!」
騒々しく、かつ礼儀の欠片もなく入室してきたのは、デステ家の次女であり、私の妹でもあるカリスタだった。
「カ、カリスタ……!」
父のよそ行きの笑顔がにわかに引き攣る。
「カリスタ、今は大事な話の最中なんだ。席を外しなさい」
「ええっ、嫌よ! 私もギルモンド王国の方々にご挨拶をしたいもの。ごきげんよう。わたくしはデステ侯爵家の次女、カリスタでございます」
カリスタは金色の髪をなびかせ、美しい所作でカテーシーをした。
無礼者の入室に一瞬顔をしかめていた王国の使者たちも、彼女の美しさに表情が和らいだように見えた。
(カリスタは所作と見た目だけは美しいんだよなぁ。中身はカラッポだけど)
カリスタは父の方にくるりと向き直すと、普段と変わらない口調で父に問う。
「ねえ、もうお姉さまとギルモンド王国のアルチュール様の縁談はまとまったのかしら?」
「だから、今からその話を——」
カリスタは父の方へつかつかと歩み寄ると、父の両手をがばっと握りしめた。
「まだ本決まりじゃないんだったら、その話、私に受けさせて欲しいの!」
「カリスタ⁉ 何を言ってるんだ! これはイネスに来た縁談で……」
父はひくりと顔を引き攣らせる。
妹は生まれてこのかた、全ての我儘を通して生きてきた。姉のものは自分のもの、自分がしたいことは絶対にやる。そして父も母もそれを黙認してきた。
他国の使者がいる応接間で好き勝手に振舞うカリスタを見ていると、今まで妹にしてやられた記憶が次々に甦ってくる。
幼少期にお気に入りの人形を横取りされたこと。お気に入りの外国製のリボンを横取りされた上に汚されて、さらに勝手に捨てられたこと。気の合う友達を屋敷に招いて遊んでいたらいつのまにかカリスタが乱入してきた上に自分の話ばかりして、それ以降その友達はもう遊びに来てくれなくなったこと。
それらが脳裏をよぎるたび、腹の底からふつふつと怒りが湧いて来る。
(我が妹ながら、本当に嫌な女……!)
カリスタは私に対する遠慮も思いやりも何もない。
だからこそ、今回の縁談も自分のものにしようと思ったのだろう。
「だあってぇ、一度肖像画を拝見したことがあるんだけれど、アルチュール様ってとっても美男子でいらっしゃるでしょう? しかも王子様よ! わたくし、王子様と結婚するのが夢だったの!」
そんな夢があるのなら、せめて無礼にならないように自分の行いを省みてほしい。
しかし私がそんなツッコミをする隙もなく、カリスタはぺらぺらと自分の意見だけを述べ続ける。
「お姉さまだって、別にアルチュール様と結婚したい訳じゃないでしょう? お姉さまなんて、ただのギルモ語オタクなだけじゃない。それに、お姉さまが結婚したって、私が結婚したって、デステ家から娘がギルモンド王家に嫁ぐことには変わりないんだから! ねえ、使者の方々。わたくしもギルモ語はできるんです。お姉さまほどじゃないけれど、日常会話には問題ありませんわ! 貴族学院でも外国語はそれなりの成績を修めていましたもの。ねえ、使者の方々はどう思われます?」
「カリスタ……!」
父は顔を青くしながらカリスタを制止する。
「カリスタ、お前には別の縁談が来てるんだ! 魔木を専門とする植物学者のオルランドという青年で、伯爵家の次男坊で——。も、申し訳ありません。カリスタはすぐに退室させますから」
父は蒼白に近い顔でカリスタの肩を掴んだ。しかしカリスタはびくともしない。
「オルランド様なんて嫌よ! 魔木オタクで変わり者で有名じゃない! お姉さまこそオルランド様とお似合いだと思うの。ねえ、王国の使者の方々。わたくしにアルチュール様とお会いするチャンスを頂けませんか? きっと気に入っていただけると思いますの!」
すると使者のふたりは互いに目配せをした。
重い空気が応接間に充満する。
これはもうカリスタの無礼を理由に、縁談の話自体が白紙になるのでは、と私と父が確信しかけた時——
「我々としては、第三夫人にお迎えするのはカリスタ様でも構いません」
使者は驚くべきことを口にした。
カリスタが「きゃっ」と弾んだ声を上げる横で、私と父は口をあんぐりと開けた。
「カリスタ様もギルモ語がおできになるということなので、我々としては構いませんよ。第三夫人ですから公的な場に出ることはほとんどありませんし、ギルモ語が完璧である必要もございません。ただ、アルチュール様も第一・第二夫人のお二方も、とにかく健康な方をお迎えしたいとおっしゃっていまして……」
「はい! はぁい! わたくし、健康には自身がありますわ!」
カリスタは無邪気に手を挙げたあと、自分がいかに健康で、いかにスポーツにも長けているかというアピールをし始めた。
彼女の無礼すぎる振舞いは、王国の使者にとっては取るに足らないものらしく、縁談はカリスタの方でほぼまとまりかけていた。
ただ、父だけは納得がいかない顔で渋面を作っている。
(そうだよね……。父にとっては、私より末娘のカリスタの方が可愛いんだろうなって前から思ってたよ。可愛い末娘が他国に嫁ぐなんて受け入れられないよね……。それとも、父もアルチュール様のあの噂を知っているのかしら——)
父は唇を噛みながら、かすれた声でカリスタに問う。
「カリスタ、お前は本当にギルモンド王国に嫁ぐつもりなのか……。ギルモンド王国は治安も良く、食料も豊富でいい国だが、さすがに他国だ。里帰りも容易じゃないんだぞ……」
「それくらい分かってるわ! でも、わたくしどうしても王子様と結婚したいの!」
「それに……ッ」
父は何かを言おうとしたが、王国の使者たちの顔をちらりと見て口をつぐんだ。
「それにそれに、こっちの国では貴族の不貞なんか珍しくないじゃない。愛妾がいる貴族だってゴマンといるし。それに対して、ギルモンド王国は貴族の不貞はご法度なんですよね? なんて清らかな国なんでしょう! わたくし、ギルモンド王国のそういった風潮も好ましく思っているんです」
カリスタがそう言うと、使者の2人は嬉しそうにウンウンと頷いた。
「さすがカリスタ様。ギルモンド王国についての理解が深くていらっしゃいますね」
「えへへ」
父はまだ何か言いたそうな表情をしていたが、それ以上はもう何も言わなかった。
こうして、カリスタとアルチュール様の縁談はとんとん拍子にまとまっていった。
早く新妻を迎えたいと言うあちらの要望により、カリスタは翌々月にはギルモンド王国へ旅立つこととなった。
◇
その後、元々カリスタに来ていたオルランドとの縁談は、スライド式に私の方に回された。
オルランドはカリスタの言うように魔木オタクの変わり者ではあったが、誠実で私のギルモ語オタク話にも根気強く付き合ってくれる、なかなか良い青年だった。
我がデステ侯爵家に婿入りするという話もすんなり受け入れてくれて、我が家も安泰である。
さて、カリスタの結婚が決まって2ヶ月。
今日はアルチュール王子が馬車で我が家に迎えに来ることになっている。そのままこちらの国の王族に謁見し、国をまたいだ結婚を報告してからギルモンド王国へと向かうという。
辺境の侯爵家には不似合いなほど、豪華な馬車が何台も連なって向かってくる様子はまさに圧巻だった。
デステ侯爵家から隣国の未来の王妃が誕生することは、豪華な馬車を見た誰の目にも明らかだ。
屋敷の窓からその様子を見ていたカリスタは、大変満足そうにニンマリと微笑んだ。派手好きでいつも自分が一番でありたい彼女にとって、嫁ぎ先の裕福さをこれでもかと見せつけるような馬車の大群は、とても好ましいものだったようだ。
今日は私の婚約者となったオルランドも駆け付け、皆でデステ侯爵家の屋敷前でアルチュール王子を待ち構えた。
王子たちを迎えるにあたり我が家は少々手狭なこともあり、このあとは屋敷に入らずそのままこちらの国の王族に会いにいき、その足でギルモンド王国へ行くそうだ。
ギルモンド王国は遠い。カリスタとも、次にいつ会えるかは分からない。
感傷にひたっている私や父とは対照的に、これでもかと着飾ったカリスタはテカテカの笑顔でアルチュール王子を待っている。
屋敷の前に到着したギルモンド王国の馬車の、列の前から三番目、ひときわ豪奢な馬車からひとりの従者が降り立った。それに続き、中からでっぷりと太った男も降りてきた。
「ああ、君がカリスタだね! 会えて嬉しいよ!」
50代とおぼしき太った男は、親し気にカリスタの方へと近寄っていく。
「……初めまして、カリスタ・デステでございます。あの、アルチュール様は……?」
太った男は明らかに仕立ての良い服に身を包み、胸元にはきらりと光るブローチを携えている。王族の中の誰かだろうか?
すると、男は驚くべきことを口にした。
「僕がアルチュールだよ、カリスタ! はは、手紙でしかやり取りをしていなかったからね。一目見るだけでは分からなかったかな? 僕のほうは一目で君だと分かったよ。ああ、美しく可愛いカリスタ‼」
上機嫌でカリスタの手を取る太った男……もといアルチュール。
(私が聞いていた話より、さらに太ってるわね……)
私は元々ギルモンド王国の貴族が主催する文学サロンに出入りしていたこともあり、アルチュール王子をはじめ、王族の噂は幾度となく耳にしていた。
まず、ギルモンド国王は70代半ばであるものの、とてもお元気であるということ。
その息子であるアルチュール王子は50過ぎで、食べるのが趣味で少々ふっくらされているということ。
国内外でよく見かける王族の美しい肖像画は30年前のものであるということ。
ちなみにその肖像画の王は髪のふさふさとした精悍な40代であるが、今はつるりとした頭の好々爺になっているらしい。
肖像画の中で美しい笑みを浮かべる美青年は若き日のアルチュール王子だ。30年前は本当に誰もが息を呑むほどの美青年だったらしいが、今や見る影もない。ちなみに頭は薄いが、袖からのぞく手の甲にはふさふさと毛が生えている。
毛深い手にぎゅっと自身の手を握られたカリスタは、小さい声で「ヒィッ」とこぼした。
(あー王子って聞いて、若い男性を想像してたんだろうな。彼らの肖像画はどこで見たか分かんないけど、それが30年前のものって誰も教えてくれなかったんだろうなぁ)
私も、カリスタが大いに勘違いをしているのではないかと思い、何度も彼女にアルチュール王子について話をしようとした。しかし、父が頑なにそれを止めたのだ。
「真実を知って婚約破棄でも言い出したら、無礼ではすまない。国際問題だ。そうなったら我が侯爵家は終わりだ」
というのが父の言い分だった。
父もアルチュール王子の現在についてはよく知っていたので、カリスタが応接間に現れたあの時、必死に止めようとしたのだ。面食いなカリスタの好みからは、あまりにもかけ離れているのは明白だったから。
でも、アルチュール王子が現在太ったハゲオヤジになっているなんてことは、あまりに不敬すぎて王国の使者たちの前ではとても口にできない。
幸いなことに、アルチュール王子自体はとても穏やかな人格者らしく、カリスタが嫁いだあとに向こうでいじめられたりすることはないだろう。第一夫人や第二夫人もとても穏やかで優しい人だというのは貴族の間でも有名だ。
しかし——
では、どうして50代のアルチュール王子が、今更第三夫人を迎えようとしたのか。それは彼に子供がいないからではない。彼には既に男女を含む5人の子供たちがおり、皆健康であるという。
それなのに第三夫人を迎えるよう、第一・第二夫人が強固に説得したのかというと——不貞が許されないギルモンド王国において、性欲の強すぎるアルチュール王子の夜の相手をするのが、もう限界だったから——というのがギルモンド王国貴族の間でささやかれている噂だ。
噂の出どころは城で働く者たちらしいが、なかなかエグい裏付けもあり、おそらく本当のことだろうと思う。
配偶者に操を立てることが何より大事とされるギルモンド王国は、王族といえど愛妾を囲う文化はない。そのため、男が夜の相手を求めようとするならば、どうしても妻が必要になる。
そんな訳で、アルチュール王子とその妻たちは、若くて健康で、アルチュール王子の夜の無茶ぶりに耐えられる令嬢を探していたのだ。
そんな王家の内情はギルモンド王国内の貴族には筒抜けだったため、国内ではもう花嫁が見つからなかった。いくら王子とはいえ、性豪の中年に娘を嫁がせたいと思う家はギルモンド王国内にはいなかったらしい。
だから、国境をまたいだ先にある辺境の我が家へ縁談が舞い込んだのだ。
当初私に白羽の矢が立ったのは、私がギルモンド王国の貴族が主催する文学サロンに出入りしており、ある程度人柄や家柄が担保されていたからだろう。別に、アルチュール様本人に私が気に入られた訳ではない。
使者のふたりが言っていたように、ある程度若くて、健康で、多少ギルモ語ができる貴族の娘であればだれでも良かったんだと思う。
アルチュール王子にぎゅむっと手を握られて、口をアワアワと震わせているカリスタを見て、私の横に立っていたオルランドがそっと囁く。
「……あれが性欲おばけと名高いアルチュール王子かい?」
「オルランドッ……しずかにッ……」
「先日、僕の働く魔木研究所に、ギルモンド王城で働く薬師から問い合わせがあったんだよ」
「問い合わせ?」
オルランドは目を閉じ、うんうんと頷く。
「精力増強に効果のある魔木は何かと聞かれてね……。最近、ギルモンド王国では乾燥させた魔木を粉末にし、それで製薬する研究が盛んらしくって」
「ちょっと待って、精力増強? ……それって、アルチュール王子が今以上に精力を増しちゃうってこと……?」
背筋につつつ、と冷たい汗が走る。
「もしくは、精力増強薬をつくってカリスタに飲ませるのか……」
オルランドは遠い目をして言った。
どちらにせよ、カリスタはしばらくゆっくり眠れないかもしれない。
自分が思い描いていたのと異なる結婚相手の登場に落胆を隠せないカリスタに対し、父はホクホク笑顔でカリスタの背中を押す。
カリスタの結婚に伴ってかなりの額の結婚支度金が我が家に舞い込んだらしく、すっかり懐の温かくなった父。
彼はカリスタに立派な嫁入り道具を用意してなお余りあるお金を前にし、母と豪華な旅行の計画を立てている。
「カリスタ、アルチュール様を全身全霊でお支えするんだぞ!」
母も、父の横で嬉しそうに頷いている。
カリスタは助けて、と言わんばかりに悲壮感たっぷりの目を私に向けてきた。
半泣きのカリスタは、はたから見れば家族との別れを惜しむ令嬢の姿にしか見えないだろう。
しかし私には『王子様って言ったじゃない! なによ、この太ったオッサンは!!』という超面食いなカリスタの心の声が聞こえてくるようだ。
(ふふふ、いい気味だわ! 人のものばかり横取りするからこうなるのよ)
厄介な妹が他国へ嫁ぐことになり、やっと私も平穏な生活が送れると思うと、自然に涙が滲んでくる。しかも、アルチュール様は歳が離れすぎているのと、見た目がアレなのと、性豪すぎて厄介という点を除けば、身分も経済的にも申し分ないし、人格的にも優れた人物らしい。なかなか良い結婚相手だと思うし、私の良心も全く傷まない。
私はうれし涙を拭いながら、「カリスタ……元気でね……!」と健気な姉ふうの声掛けをしておいた。これで周囲の心象もバッチリだ。
「あ……」とか「う……」とか声にならない声を発しつつ、カリスタは馬車へと押し込まれていく。
(元気でね! 里帰りは特にしなくて大丈夫だよ!)
私は帰ってくるなよ、という念をこめつつ、馬車の列が見えなくなるまでずっと手を振っていた。
それは厄介な妹との決別でもあり、ずっと妹にやられっぱなしだった自分との決別でもあった。
馬車が完全に見えなくなり、手を下ろした私にオルランドが囁く。
「妹さんが遠くに行ってしまって、さぞ悲しいだろうね。慰めにはならないかもしれないけれど、最新の魔木研究の話でも聞くかい?」
私の婚約者はだいぶ風変りだ。慰め方も独特だし。でも、とっても優しい。
私はオルランドの手を取り、屋敷の中へ入っていった。
私の新しい日々は、まだ始まったばかりだ。




