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私は、あなたと信頼関係を築けません

作者: しぃ太郎

※派手な復讐や甘い恋愛要素はありません。

静かな決別を描いた短編です。



 図書室の日当たりのいい一角。

 ここが私たちのお気に入りの場所だった。


「エド。エレオノーラ様の事なんだけど……」

「あぁ、その話か。アンナは気にしすぎだよ。それに彼女は公爵令嬢だ。文句なんて言えないよ」


 エドガーはこちらに視線も寄越さない。

 そのまま、読書を続けていた。


「でも婚約者は私だわ……」

「君のためだよ。敵に回しても良いことなんてないだろう?」


 私がさらに続けようとすると――、

 高らかな足音が近づいてきた。


 まただ。


「エドガー様!こちらに居たのね」


 声と共に現れた人は、私には目もくれずに、エドガーの隣に座った。

 仕方なく、私は礼をとった。


「エレオノーラ様、ご挨拶させていただきます」

「あら、エド様の婚約者の――。あ、ごめんなさい、勝手に愛称なんて。馴れ馴れしいかしら」


 エレオノーラ様は、口元に手を当てて謝っている。

 儚げな彼女によく似合った仕草だった。


「別に、愛称くらい構いませんよ。なぁ、アンナ」

「……ええ」


 私は静かに頷いた。

 エドガーの言葉は正しい。たかが愛称だ。

 けれど――。


「あら、よかったわね。エレオノーラ」

「ミレーユ。ええ、ずっと呼んでみたかったから嬉しいわ」


 彼女の後ろにいた女性が朗らかに声を上げた。

 エレオノーラ様のご友人――ミレーユ様。


 二人とも私よりも身分が高いご令嬢だ。

 敵に回してもいいことはない。

 そんな事は分かってる。


 どこからから囁き声が聞こえてくる。


『やっぱりお似合いね』

『今度のお気に入りはあいつか……』

『あれじゃあ、婚約者の立場がないわね』


 目の前に繰り広げられる光景を黙って見守るしかない私。

 これで何度目だろうか。

 エドガーに視線をやるが、エレオノーラ様を拒否する仕草は見えない。


 そして、ここの誰もが彼女に口を出せなかった。

 狭い学園内で、彼女に意見を言える人は限られている。


 私は、そっと椅子から立ち上がり。

 足早に部屋を出ていった。


 ――誰も、味方がいない。

 エドガーはずっとあの調子だ。話し合いなんて出来なかった。


『私のため』

『身分が高い令嬢だから無下に出来ない』

『将来のためだよ。公爵家と繋がりが出れば君のためになるから』


 エドガーはいつもそう言う。

 その言葉の数々が、ずっしりと胸を重くする。

 後少しだ。後少し私が我慢すれば。


 エレオノーラ様のただの気まぐれだ。

 そう何度も自分に言い聞かせても、心が晴れなかった。


(エドガーの馬鹿。きらい。みんな嫌いよ)


 大声で叫びたかった。

 でも。

 エドガーは婚約者としての義務は果たしてくれている。

 贈り物もくれる。

 定期的にデートもしている。

 さっきみたいに、邪魔されなかったなら理想的な人だっただろう。

 エドガーは悪くない。


 エレオノーラ様の権力が強すぎる。

 そのうちに収まるだろう。

 そう思っていなければ、自分を保てない気がした。


 ◇◇◇


 最近は一人でランチを食べることが多くなった。

 人目につかない裏庭。


 そこで、一人でサンドイッチをつまむ。


 エレオノーラ様に睨まれたくない友人たちは、自然と離れていった。

 仕方がない。


「でも、いつまで続くの……」


 自分でも気づかないうちに声に出ていた。

 視界が滲んでサンドイッチが塩辛い。


 誰もいない。

 何も見えない。

 何も聞こえない。


 孤独なのに、安心してしまう。

 私は、少しだけ気を抜いて、そのサンドイッチを食べ続けた。 


 そろそろ、午後の講義が始まる時間だ。

 そう思い、膝の上のランチボックスを片付けていると。


 人の足音が近づいてきた。

(嫌だな。こっちに来ないでほしい)

 しかし、その人物は、やはり私に用があるらしい。


「君が、アンナ嬢かな?……エレオノーラがいつもすまない」

「いえ」


 彼女の兄、フランシス様。

 正直に言うと会いたくなかった。

 彼女を唯一止められる人物であり――。

 今までの横暴を許していた人物だからだ。


「君には……」

「慰めの言葉はいりません。……何も解決しないでしょう?」


 彼は、ぐっと喉を鳴らして黙り込んだ。

 いい気味。

 少し気が晴れた気がした。


「失礼しました。お気遣い感謝いたします」

 そのまま立ち上がり、校舎へ向かう。

 引き止める言葉は無かった。


 ただ、木々の静かな揺らめきが聞こえてくる。

 それだけだった。


 ◇◇◇


 学園の廊下を、いつもの通りエドガーの半歩後ろを歩いていた。

 前から来たのは――。

 こっそりとため息をつく。

 エレオノーラ様だ。

 取り巻きを連れている姿もいつもどおりだった。ミレーユ様もいる。


 それなりに広く作ってある廊下でも、彼女たちはお構いなしだ。

 私は、そっと横に避ける。

 他の生徒も同じように端に避けていた。


 しかし。


 彼女の取り巻きの一人が、私に肩で当たってきた。

 その拍子によろけて軽くエレオノーラ様にぶつかってしまった。


 一瞬の出来事。

 大袈裟に倒れ込む彼女に理解ができなかった。

 思わず、動きを止めてしまう。


 ――バサッ!


 教科書が散らばり、周囲の生徒が足を止めた。


「……キャッ!……う、うぅ。酷いわ……」

「エレオノーラ様!」


 エドガーも慌てて、彼女を抱き起こした。


「エド様、今ので足を挫いたようです。どうか、保健室まで連れて行ってくれません……?」


 胸に縋るエレオノーラ様。

 ――軽く、肩が当たっただけだった。

 私のせいだった?

 わからない。


「でも……。アンナ様は謝りもしないのね。いつも嫉妬して酷いことばかり。さっきだって……」


「アンナ、早く謝ろう」


 エレオノーラ様を支えながら、エドガーが私を促す。


 何を?

 わざとではなかった。そもそもが、私が悪いの?

 彼女の友人が私に当たって来たせいだった。


 拳を強く握り込む。

 謝る為に、口を開こうとするが。

 けれど、震えた唇からは、小さな音しか出なかった。


「ほら、みんなが注目している。早くしよう。君が謝るだけだ。それだけでこの場は収まるんだから」


 エドガーが、責める。

 私が謝らないといけないと。

 周囲の視線が集まる。

 これから、私が謝罪するのを待っている。

 

 謝れ……?

 わたしが……。




「エレオノーラ、もうやめなさい。お前の行動に、何件も苦情が来ているんだ」


 そこで制止の声が響いた。

 エレオノーラ様の兄君、小公爵のフランシス様だった。


「これ以上は庇いきれない」

「お兄様!これは、違います……!」


 フランシス様は、答えずに、私の方を向いた。

 そして軽く頭を下げる。


「これ以上、迷惑は掛けさせない。アンナ嬢……すまなかった。妹の処遇は、責任をもって対処するつもりだ」


 彼は、一礼してエレオノーラ様の腕を掴んで去っていった。

 それを、慌てて追いかけていく彼女の取り巻き。


 エドガーが恐る恐るといった様子で私に声をかけてきた。


「あ、あのアンナ。良かったな、これで元通り……」

「……いえ。もう無理です」


 想像以上に低い声が出た。

 そのまま、視線をあげる。目の前にはずっと婚約者だった男。

 ただ、それだけの存在だった人がいる。


「私は、あなたと信頼関係を築けません」


 一拍をおいて、ゆっくりと告げた。

 彼の、いつもの台詞を。


「終わりにしましょう。あなたのためですよ」



 ◇◇◇


 目の前でカタン。と、椅子が動いた。ふと顔をあげると――。


「まだ気にしているんですか?平気なんですよ」


 フランシス様は静かに首を振った。


「あの後の話をしようと思ってね。エレオノーラは父が領地へ送ったよ。このまま退学処分だ」


 公爵家も今回の件を重く見たらしい。

 令嬢としては致命的だ。その後の彼女の人生は推して知るべしだろう。


「それだけを伝えに来たんだ。邪魔をしたね」


 彼は静かに席を立ち、離れて行った。



 また静寂に包まれる図書室。

 暖かい日差しが差し込むこの席に座り、一人で本を読む。


 パラリ、とページをめくる音が心地よかった。





 

※同じ作者の軽めラブコメもあります。

よろしければこちらもどうぞ。

・ヤンデレ幼馴染とツンデレ猫、今日も平和です(たぶん)

・公爵令嬢ローゼリアの勘違いシリーズ

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― 新着の感想 ―
性悪エレオノーラ何がしたかったのか。 今までも婚約者がいる男に目をつけてちょっかい掛けてたのは周囲の反応から十分わかる。 もしかしたら高位のご令嬢による質の悪い遊びかな? エドガーは自分がタゲられたの…
あんなとエドガーの間に必要だった信頼関係がまだ未成熟だったのが致命的だったなと感じました。 アンナの疲弊も理解できますが、ではエドガーの立場で庇い反発できるかと問われるとかなり難しい。まだ必要な信頼関…
異世界恋愛というよりはヒューマンドラマかと思います。婚約イコール恋愛ではありませんし、現代の何処かの国の財閥系しか通わない学園ともとれるので異世界の説得力がありません。
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