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冷徹の女王な生徒会長を助けたら、彼女始めだした件について

作者: 富良井戸

 ──本当になんとなく、だったのだが、意外と上手くいってしまうもんだな。



 昇降口に張り出された、昨日の生徒会選挙結果を──当選者として刻まれる俺の名前を見ながら、俺はなぜかため息をついていた。


 「当選したのに深いため息だね」


 隣で呟くのは、親友の梶山(かじやま)

こいつも当選者のところに名前が書かれている新生徒会役員で、俺を生徒会選挙に誘った張本人。

 ……もしこいつがいなかったら、俺は生徒会選挙なんて面倒くさいこと、やろうなんて思わなかっただろう。

 そう言う意味では感謝すべきなのかもしれない。


 「……やっぱり、会長は氷谷(こおりたに)先輩なんだね」


 でかでかと会長の当選者として刻まれた名前を見ながら、梶山が言う。


 「……冷徹の女王、だったか?」

「学校情勢に興味を示さないあの桐生が、氷谷先輩の二つ名を知っている──?

……君、偽者だな」

「失礼だなおい。そんくらい知ってるよ、めっちゃ怖いらしい、みたいな」


 たしかに自分から情勢を把握しようとは努めないが、クソほど騒がれているような情報の一つや二つ、自ずと入ってくるものだ。

 そして、氷谷先輩の二つ名──「冷徹の女王」は、そのクソほど騒がれているような情報の一端だったという話。


 「仕事の遂行のためなら、どんな犠牲も厭わない。血も涙もないと言われつつも、一部では返り血まみれとも囁かれる……」


 梶山が、オカルティックな都市伝説でも語るような口調で言う。

ずいぶんスプラッターな生徒会になりそうだと軽く流し、大して気にしていなかった俺とは背反した、戦慄とも悲観ともいえる表情を浮かべた梶山は、弱々しくぼやいた。


 「……もしかしたら、とんでもないことが起きるかもしれないね」


 ──俺は適当にあしらった……が、このときはまだ、この言葉が大当たりであることなど知るよしもなかったのである。



 「第78期生徒会の発足に際して、まずは簡単に自己紹介から始めましょう」


 特別棟の最上階、ずいぶん奥まった場所に生徒会室はある。

 そのせいか、生徒会の評判は「なんか怖そう」というのが大半であり、まずはその状況を打破しなくてはいけないと思うのだが──、生憎この会長様では逆効果な気がする。


 「……こういうときは、まず新入りの一年生からするのが礼儀というものじゃない?」


 冷徹の女王の瞳が、シャープに俺たちを刺す。

新入りの一年生──つまり、俺と梶山と、大久保(おおくぼ)という女子。

 これ以上冷徹の女王を怒らせないように、と先陣を切ったのは梶山だった。


 「梶山といいます。生徒主体の学校改革を積極的に行っていきたい所存です。何かとご迷惑おかけするかと思いますが、何卒よろしくお願いします」


 ……乾いた拍手が生徒会室内に響く。

梶山は演説もそうだったが、話す言葉がいちいち硬い。

 そのせいか会長の目は鋭く梶山を睨んでおり、やがて、


 「ずいぶん具体性に欠けるけど──まあ、いいわ。早く、次」


 と不機嫌にさせてしまう始末。

パワハラ上司か?と思いつつ、大して話したこともない大久保と目を見合わせ、彼女が先に話すらしいことを察する。

 大久保はおずおずと話し始めた。


 「大久保、です。生徒会という組織には前々から興味があり、この度役員となりました。

生徒会報などを基調とした、生徒会の広報力に力を入れていきたいです。よろしくお願いします」


 また、乾いた拍手。

さっきの梶山よりいくぶん良いんじゃないか、と思い会長の顔を見ると、なぜかさっきより不機嫌そうな色が滲んでいる。


 「ありきたりね」


 大久保が肩をすくめる。落胆したようだった。


 次は俺、か。


 ……しかし、この会長、何でもかんでも批判してきやがる。

ならいっそ、堅苦しくもなくやる気すらない、ありのままを喋った方が心証良いのでは。

 俺は博打だな、と思いつつ、なるべくゆっくり噛み砕くように話し始める。


 「桐生です。生徒会に入ったのは、この梶山に誘われたからで、それだけが理由です。

なので生徒会について大した興味もなく、仕事も一切把握していません。

ですが、選ばれた身として最低限の努力はしようと思ってます。どうぞ、よろしくお願いします」


 ──どうだ。

こういうタイプの人って、むしろこう言う気だるげで捻くれてる奴の方が好き、みたいなのは、ラノベとかでもよく見るだろ。

 相変わらずの乾いた拍手は若干の困惑を孕んでいたが、会長の表情は──



 ……今まででいっちばん険しいものだった。



 険しい越えてもう怖すぎる。

眉は歪み、目は大きく開かれ、口はわずかに開かれている。

 普段は整った顔立ちのクールビューティーな氷谷先輩だが、そこにいるのは阿修羅か何か。


 「……しね」


 ああっ! ちょっ、今……!

いくら俺がクソだったからと言って、言っちゃいけないこと言った!

この会長、パワハラ…!!


 「こほん、副会長の則本(のりもと)です。生徒会は二回目なので、会長の補佐をしつつ自分の構想も具現化できるよう、器用に立ち回りたいと思っています。

どうぞ、よろしく」


 見かねた副会長──ハンサムな則本先輩が自己紹介を始める。

 氷谷先輩と同級生のはずだが、さすがにこんな激怒した様子を見たのは初めてなのか、いくぶん焦りが見えた。


 「えぇっと……副会長の進藤(しんどう)です。

去年はできず終わった事業も多いので、今年はすべての事業を滞りなく行えるよう、みんなで頑張っていきたいです。

よろしくね!」


 次は清楚系の進藤先輩。

黒髪ロングは艶やかで、おどおどはしているが仕事はバチバチに出来そうな人だ。


 ──そして。


 「……氷谷よ。申し訳ないけど、この時点でやる気のない人間には、ぜひ脱退をお勧めするわ」


 自己紹介でもなんでもない言葉を紡いだ阿修羅は、わざとらしく俺を一瞥する。


 ……ああ、終わった。


 いや、全面的に俺が悪いんだけどさ、言い訳の余地もないんだけどさ。

 俺はぺこっ、と反省を込めて頭を下げる。



 「……とにかく、やるからには今までで一番良い生徒会にしなくてはいけない。覚悟をして臨むように」


 氷谷先輩の言葉には覚悟が滲んでおり、自然と背筋がしゃきっ、としてしまうような力があった。



 ……一体、俺は何をやっているのやら。



 その日は挨拶だけで解散、ということになり、各々生徒会室を後にする。

 俺も梶山と一緒に帰ろうと、ドアの方へ歩き出した──が、進路は途端、氷谷先輩によって断たれた。


 「君はちょっと残って」

「……はい」


 お呼び出しコース。

喜ぶべきか、喜ばぬべきか……、たぶん、間違いなく後者。


 他の役員全員が去って行くのを待ち、やがて二人きりの生徒会室が作られると、氷谷先輩は椅子に座って話し始めた。


 「……あなた、さっきの挨拶は何? どういう意図? ウケ狙い?

……だとしたらスベったも良いところだし、まず面白みが一つも理解できないのだけれど」


 氷谷先輩は俺を睨む。


 「……いや、その。ありきたりとか、堅苦しいとか、そういうのは求められてないのかな、って思って。

ありのまま、を、話した次第です……」


 ──何とも情けない。

さっきまで飄々とした態度で捻くれをかましていたとは思えない。

自分が恥ずかしくてたまらなかった。


 「……そう、でも、あなたのあれはもっと求められていないわよ」


 そう言うと、氷谷先輩は徐に席を立って、急に俺との距離を縮めてくる。


 「──やる気がないならやめて。そうじゃないなら、ちゃんとして。わかった?」


 ……俺は鼻先を抓まれる。

氷谷先輩の指は華奢だったが冷たく、温もりというのは一切なかった。


 「……ふぁい」


 その指のせいでいくぶん気の抜けた返事になったが、氷谷先輩は鼻を解放してくれない。


 「……はあ、まあいいわ、さっさと帰りましょう」


 ため息をつくと、俺の鼻をもぎ取るかのような強さで引っ張り、その後でようやく解放される。

 ……鼻先がヒリヒリと痛い。

しかしドアの前に立つ氷谷先輩が「早く出ろ」と言わんばかりの目で睨んできたので、鼻をかばうのもそこそこにして俺は生徒会室を出た。


 ──生徒からの評判がイマイチなのも肯けるくらい、本当に生徒会室は僻地にあった。



 初動こそ散々だったものの、生徒会活動は順風満帆だった。

 もちろん氷谷先輩には、


「桐生くん、やる気がないならここから去ってくれる?」

「あなたは仮にも生徒会役員なのよ?」

「……気持ち悪い」


 といったパワハラを浴びせられたが、他の先輩は優しいし、同級生も一緒に頑張ってくれた。

 もちろんあの自己紹介の件で、「お前マジか」みたいな空気は結構残り続けていたけど、10月に発足してから一月経つ頃には、それも払拭されていた。



 「……今日はここまでね。

今月は幾分忙しくなるから、各々スケジュールをしっかり確認して、タスクに取りかかるように」


 活動終了時刻を知らせるチャイムが鳴るなり、それまでパソコンに何かを打ちこんでいた氷谷先輩が声を上げる。


 ……今は文化祭事業と校則協議事業を両立させる必要がある時期で、皆少し忙しそうにしていた。

 例に漏れず俺も、文化祭運営においてはそれなりにタスクがあり、やや仕事に追われつつある。

 取りあえず残りは家でやることにして、勢いよく伸びをしてから席を立つ。


 ──今日は梶山が欠席。体調を崩したんだとか。


 一緒に帰る人もいないのでさっさと生徒会室を後にして、昇降口に向かう。


 ……と、その途中で、俺は忘れ物に気づく。


 「明日課題提出か」


 教室に置きっぱなしにしていた課題の存在を思い出したのだ。

 特別棟と一般棟を繋ぐ連絡通路はいくぶん暗く、無人の教室も埃っぽい空間。

十数ページある煩雑な課題を引き出しから取り出し、また昇降口へと歩き出す。


 ──最近は、調子が良い。


 生徒会だって中々よく頑張っているし、勉強も手応えあり、事実成績は右肩上がりだった。


 ……今日は、久しぶりに自分へのご褒美でも買おうか。


 とは言っても基本はスーパーに売ってるようなスイーツ止まりなんだけれど、それもまたいい。

 いつもの帰路とは逆方向、スーパーを目指して歩く夕方、まさかこの決断が大事件を生むなど知らず、俺は心なんかを躍らせていた。



 スーパーは学校から十分ほど歩いたところにある。

 狭い路地を抜けて駅前通りに繰り出し、それから川沿いを数分歩いたところ。

 そのスーパーは惣菜が美味しいのだけれど、オリジナルブランドのスイーツもなかなかのクオリティ。

 さて今日はなんのスイーツを買うか、と考えていると、あまり面白くはないシチュエーションに遭遇した。



 「だーかーら、私は貴方に興味ないんです、早くそこをどいてください」

「ええ、いいじゃねえかよ、だって暇なんだろ?」



 ──ナンパだ。


 しかも、女子の方はうちの高校の制服を纏っている。

彼女にコスプレの趣味がない限り、同じ高校であるということだろう。

 後ろ姿に若干の見覚えがあったが、しかしそれが誰なのかという確信には至れない。


 ……男子の方は、他校?

見たことのない学ランを着崩していて、それが微妙にダサい。


 女子の顔は見えず、男子のニヤニヤとしたお気色の悪いご尊顔だけを拝む。

 口調からして、女子の方も相当困っているのだろう。



 ……仕方ない、一肌脱ぐか。



 「なあ、早く行こうぜ? じゃねえとお前……どうなるかわかるよな?」

「だから、貴方に構ってられない……」 

 


「──お待たせ、早く行こう?」



 今来た風を装いながら、女子の方に近付いていき、その顔をのぞき込む。

 女子には申し訳ないが彼氏の振りをさせていただくわけだ。もし顔見知りだったら気まずいし。


 ナンパに困り果てていた同校の生徒は──



 「……あっ」



 クールビューティーを形容したような、冷たくも美しい瞳、整った顔立ち、ロングヘア。


 それは間違いなく氷谷先輩だった。


 氷谷先輩は別のナンパが来たと思ったのか、あるいは俺が登場したのにビックリしたのか、一瞬目をまん丸くさせたが、すぐに俺の意図に気づいたらしく、


 「もー遅いよ? この分はきっちり返してもらうんだから」


 と、彼女の演技を始める。


 「……俺の彼女に、何か用すか?」


 俺はそっと氷谷先輩の肩を抱いて、男子を思いっきり睨む。

 彼ははっ?とかえっ?とか、相当な困惑を見せた後に「こんちきしょう!」と時代遅れな捨て台詞を吐いてどこかに走り去っていった。


 「だっせえな」


 俺がふと呟くと、氷谷先輩は珍しく微笑む。

ふうっ、と息を吐いた後で、俺の方に向き直る。


 「……ありがとう、桐生くんがいなかったら、今頃、私──」


 そう言って口を噤む氷谷先輩の表情には、恐怖が滲んでいるように見えた。

やっぱり、いくら先輩でも怖いものは怖いのだ。


 「いやいや、先輩もナイス演技でしたよ」


 ……肩に乗せていた手をどけて、そう言ってみるも、先輩の表情は晴れない。


 何となく気まずくなって、気をつけてくださいね、とか当たり障りのないことを言ってから、その場を後にしようとする。


 「待って」


 氷谷先輩の声に振り向くと、先輩らしからぬ紅を頬に浮かべて、


 「ありがとう、嬉しかった。

その、私も──。とっ、とにかく、明日からもよろしくね」


 笑顔を咲かせる。


 まあ、頼れるリーダー(パワハラ気質という欠点はあれど)のためなら、あれくらいお茶の子さいさいというものだ。


 「はい。よろしくお願いします」


 明日も明日で生徒会は仕事があるので、たぶんそのことだろう。

 氷谷先輩が見せた笑顔が思いがけず可愛くて狼狽えるかと思ったが、何とか平然を装って、今度こそその場を後にする。



 ──今日のスイーツは、アイスシャーベットにした。



 翌日、昼休み。

いつものように梶山と食堂に行こうとすると、教室のドアの方で誰かが俺を呼んだ。


 「おーい桐生、お客さんだぞー」


 ……客?

ふとドアの方に目をやると、そこに立っていたのは氷谷先輩。


 「会長じゃん、なんかあったの?」

「さあ」


 席を立ってドアの方に小走り。

仕事のことで何か用だと思って「どうしたんですか?」なんて聞いてみたのだが、氷谷先輩はいつものような毅然たる態度を置いてきたように、少しもじもじとしている。



 「お、お昼……一緒に食べよ?」



 ……はい?

いやいや、どうしたんすか急に。顔赤いし、もじもじしてるし、いつもより猫なで声だし。

 手には二つのお弁当箱が握られており、俺はこのお誘いを断ることは禁忌だと、直感的に理解する。



 「……いい、ですけど」



 きっと、何か話したいことがあるのだろう。


 ……だがわざわざお弁当を作ってきたのは、どういう意図なのか──?


 色々思うところはあったが、ひとまず梶山に謝って、俺と先輩は中庭に繰り出した。

 仕事熱心な先輩のことだ、何かしらわけがあるはず。



 ……その時はこう思っていたものだが、今となれば鈍感過ぎる俺をぶん殴りたくなる。

 先輩が顔を赤らめて昼を誘ってくることの異常性に、俺はまだ気付いていなかった。



 「桐生くん、これ」


 氷谷先輩から渡されたお弁当箱を開けると、そこには何とも美味しそうな、それでいて健康的な食品達が並んでいた。


 「うわっ、すごい」


 いつも食堂でラーメンだの、どんぶりだのを食べているので、こう言うのはありがたい。


 「頑張って作ったの、良かったら、食べて」


 言いながら、先輩も自分の弁当箱を開ける。

中身はほとんど同じだったが、盛り付けに関しては、俺に作ってくれたものよりいくぶん雑に思えた。


 「……どうしたの? そんなに私のこと見て」


 氷谷先輩は俺の視線に気付くなり、穏やかな微笑を湛えて小首をかしげる。



 ──かっ、かわいい。



 いつも意識してこなかった──というか、俺の中では怖い上司だったんだが、先輩はやっぱり美少女で、たまにこういう可愛らしさもあるのだ。

 そりゃ、あんな輩にも絡まれる。


 「いや、弁当、ありがたいなと思って」

「──そんな御託並べて。ほんとは、こうしてほしいくせに」


 先輩は微笑を悪戯なものに変えると、俺の膝の上に置かれた弁当から卵焼きを箸で掴み、俺の口の前に運んでくる。


 ──こっ、これは…!



 「はいっ、あーん」



 「あーん…?」


 ……ぎこちなく口を開き、言われるがまま、卵焼きを食べさせてもらう。

 程良い甘さの卵焼きはやっぱり美味しくて、思わず声が出た。


 「美味しい…」

「ほんと? それはよかった」


 氷谷先輩は優しく微笑み、自分の弁当に手を付け始める。

 俺も、先輩の弁当をありがたくいただく。



 ……いやっ、なんだこの空間!

もうこれカップルじゃん! えっ、なに、先輩の意図読めないんですけど……!


 

 弁当を食べている間は、会話が途切れる。

 やがて弁当を平らげると、先輩は徐に立ち上がって言った。


 「今日、生徒会の後って空いてる?」


 「まあ、暇ですよ」

「じゃあさ、二人でお出かけしよ?」

「──えっ?」


 こ、今度は放課後デートのお誘い……?!


 ……もう、何が何だか分からない。


 今日は集中して頑張ろうと思っていたのに、結局生徒会の仕事さえままならなかった。



 放課後デートは近くのショッピングモールで行われた。


 氷谷先輩の服を見たり、本を見たり、なんだかんだ楽しい時間だったと思う。


 ……しかし、相変わらず氷谷先輩の意図が読めない。

 何を目的としてこんなことをしているのか、見当すらつかなかった。


 フードコートで夕飯も済まし、帰路について先輩の家まで送る途中、俺はついに聞いてみることにした。



 「先輩、どうして弁当作ってくれたり、放課後デートとかしてくれたんですか?」


 

 先輩はきょとん、とした顔を浮かべてから、若干の微笑を湛えて言う。



 「──だって、あなた私の彼氏なのでしょう?」



 ……んん?

んっ、彼氏? 彼氏って、あの彼氏?


 「……昨日、言ってたじゃない。『俺の彼女に~』って」


 先輩は頬を赤らめ、口元に手を当て回想する。


 

 ──完全に理解した…。

先輩は、昨日のあれを告白だと受け取っているのか。


 「ありがとう、嬉しかった」「明日からもよろしくね」。


 助けてくれた感謝だとばかり思っていた言葉の意味が、みるみるうちに変わってくる。


 「……先輩」


 ここは、ちゃんと誤解を解かなきゃな。

先輩を勘違いさせたままってのも、気が引ける。




 「──そ、そうだったんだ」


 昨日の俺の意図を説明すると、先輩は落胆を滲ませたあとに顔を赤くした。


 「はっ、恥ずかしい……」


 そこに冷徹の女王感なんてなく、可愛らしさだけが渦巻いている。


 先輩はごめんね、とか気持ち悪いよね、とか謝罪ばかりをしてきたが、しかし先輩が一瞬でも「彼女」としていてくれて、すごく楽しかったのも事実だった。



 ……俺はとあることを思いつく。


 

 赤くなって、顔を覆い隠している先輩を、そっと抱き寄せる。


 「──先輩」


 顔を上げた先輩の目は潤んでいた。



 「──ありがとうございます。嬉しかったです。」



 ……そう切り出すと、先輩の目が大きく見開かれる。



 「俺も──。……とにかく、明日からもよろしくお願いしますね?」



 俺は悪戯に笑んでみる。


 「そっ、それって──」


 俺はあの時の先輩のように、笑顔を満面に咲かせて。



 「付き合いましょうか、ちゃんと、正式に」


 

 ──うん!と言って俺の胸に飛び込んだ先輩の身体は、いくぶん熱かった。


 冷徹の女王感なんて、どこにもなかった。

そこにいるのは、ただの可愛い女子高生──もとい、俺の彼女だった。

 かっこよくも可愛らしい、最高の彼女だった。

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