おっとり令嬢は入れ替わって凛々しい侯爵に溺愛される
「あなたと婚約したい」
凛とした声で端正な顔立ちのバイロン侯爵が紅茶を手に宣言した。デイジーは、驚きのあまり、新緑色の大きな瞳を上下させた。まだ会って2回目だ。今日は会って三十分しか経っていないのに何を考えているのか。
「はい?」
目の前の彼、アーチーを凝視して、問い返す。アーチー・バイロンは黒の短髪に紺色の瞳が印象的な凛々しい美丈夫だ。お見合いで顔を合わせた時は、自分との身長差にデイジーは驚いた。二十センチは差があるだろう。顔を上げてじっとアーチーの顔を見ていると、彼はふっと苦笑して視線をデイジーに合わせてくれた優しい男性、だ。デイジーは普段であれば喜んでこの話を受けたであろう。自分がアメリアと入れ替わってなければ!
***
「お姉さま、私の振りをしてお見合いをして!」
自分にそっくりな双子の妹アメリアに泣きつかれたデイジーは戸惑う。デイジーとアメリアはあまりに違い過ぎた。
「まあ、あなたと私が入れ違うなんて無理よ」
困惑しつつもおっとりと言い返すデイジーにアメリアがにやりと笑う。
「そんなの、大丈夫よ! 私たちそっくりなんだから!」
アメリアの言葉の通り、デイジーとアメリアは一卵性双生児だ。二人は紅茶色の髪に新緑の大きな瞳の可愛らしい顔立ちも華奢な身体つきもそっくりな美少女だ。黙っていれば見分けがつかない。
「お願い! お姉さま! 私、好きな人がいるの!」
アメリアはデイジーの胸に縋り付いて、涙を流した。デイジーは思わず、頷きそうになるが首を横に振る。
「バイロン侯爵はあなたに一目惚れしたのよ。お見合いの席でお断りしなさい」
アメリアに甘いデイジーが珍しく毅然と諭した。アメリアは姉の言葉に更に泣き出した。
「無理よ! お父さまはバイロン侯爵とのお話に乗り気なの!」
デイジーは、スペンサー王国に住むゴア伯爵家の長女だ。今年十八になって成人したばかり。幼い頃は身体が弱く、ベッドに寝てばかりだった彼女は、本が一番の友人だ。大人しくおっとりとした優しい性格だ。対して、アメリアは身体が健康で外で飛び回るのが好きな元気で友人の多い性格だ。
この見合い話が持ち込まれたことの発端は、夜会でバイロン侯爵とアメリアがワルツを一緒に踊ったことだ。明るく気立てのいいアメリアの性格に惚れ込んだバイロン侯爵は、人づてに見合いを申し込んできたのだ。だけど、アメリアには両想いの恋人がいた。双子の幼なじみのダニーだ。ダニーは優しいほわっとしたスコット男爵家の長男だ。双子のゴア伯爵家と領地が隣で幼い頃から一緒に育った。デイジーにはアメリアの気持ちが分かる。凛々しい美丈夫と評判のバイロン侯爵よりも地味なダニーを選んだ気持ちが。
「ねえ! 私、ウィンストン州でダニーと結婚式を挙げるから。その間の時間稼ぎでいいのよ!」
「ウィンストン州!」
妹の言葉にデイジーは思わず叫んだ。ウィンストン州は教会があるのだ。親に認められない若い恋人たちを祝福する教会が。教会に駆け込んで式を挙げれば、合法的に二人は夫婦とみなされるのだ。
「アメリア、その私がお父さまにそれとなく話してあげるから」
デイジーは、アメリアの手をそっと握り、励ます。
「無理よ! デイジーも知っているでしょう? お父さまの性格を!」
アメリアは悲鳴を上げた。
「……わかったわ。私があなたと入れ替わって時間を稼ぐわ」
デイジーがふうとため息を吐いて、頷く。
「お姉さま……」
新緑色のつぶらな瞳を潤ませて、アメリアはデイジーに抱き着く。
デイジーは、アメリアと入れ替わりアーチーと見合いをする。
その間にアメリアは家出をする。
その段取りで二人は入れ替わったのだ。
***
当日。
デイジーはアーチーと見合いをした。
初夏の風が気持ちいい6月の日。
バイロン侯爵家のガゼボで最初は仲立ちの侯爵夫人を挟んで紹介された。
「こちらがアメリア・ゴア伯爵令嬢ですわ」
アメリアに扮したデイジーはドレスの裾を掴み、カーテシーする。
「アメリア嬢、顔を上げて」
アーチーが許可を出すと、デイジーは真っ直ぐに彼を凝視した。アーチーは黒髪に紺色の瞳の端正な顔立ちである。
(す、素敵な方! ああっ、顔をじっと見るなんて失礼な! でもでも、アメリアならそうするわ!)
「アーチー・バイロンだ」
心地のいい低い声がデイジーの耳にこだました。
(まあ! 何て美声!)
普段ならば、頬を紅潮させていただろう。だが、自分は今、アメリアだ。
「初めまして。私、アメリア・ゴアと申します」
デイジーは出来るだけ凛とした声を出す。アーチーは軽く首を縦に振った。合格らしい。デイジーは身体の力が抜ける。
「それでは若いお二人で」
この見合いを仲介した侯爵夫人が席を外した。
「えっ」
デイジーは思わず青ざめる。
(ええ~! バイロン侯爵と二人っきり? 何を話せばいいの~!)
心の中で絶叫するが、顔は引き攣りながらも微笑んでいた。デイジーは伯爵令嬢だが、アーチーの方が身分が上だ。ひたすらアーチーが口を開くのを待つ。パーラーメイドがティーワゴンに載ったケーキやデザートをテーブルに並べた。
「アメリア嬢」
「はいっ!」
「立っているままでは足が疲れるだろう。座ろう」
確かに靴はヒールで立っているだけで痛い。デイジーはこくりと頷き、アーチーが座った後に椅子に座った。
(アメリアが良くて見合いまで持ち込んできたのにそれだけ?)
デイジーは俯いて、がっくりと肩を落とす。それが1回目の見合いの終わりだった。
2回目はバイロン侯爵家のパーラーでパーラーメイドがいる中で行われた。
「アメリア嬢」
「は、はい!」
「紅茶が入った」
それから三十分無言だ。さすがのデイジーも沈黙に耐え切れなくなり、失礼を承知で口を開いた。
「あのっ! 失礼ですが」
「何だ?」
「ご趣味はっ!」
「剣と乗馬だ」
頑張って口を開いたのに一言で終わり、だ。
「あ、あの私の趣味は読書です」
言葉を紡いでから、デイジーは両手で口を塞ぐ。アメリアの趣味は乗馬と友人とのお茶会だ。デイジーは自棄になる。こうなれば、振られてしまえとデイジーとして振舞うことにした。
「あ、あの、私、建前上の趣味は乗馬ですが、馬に乗れません。それにお茶会も苦手です!」
「……」
アーチーは目を見張り、ぶはっと笑う。
「夜会で出逢った時のあなたと大分違うな」
「その、あの、大きい猫を被ってました! ごめんなさい!」
ゴア伯爵家の令嬢で有名なのは、アメリアである。デイジーは身体が弱く人づきあいも苦手だったので、存在自体をあまり知られていない。だが、デイジーは入れ替わりがばれたかと青ざめた。しかし、アーチーは笑い続けた。
「本当のあなたは噂とは違うんだな。だが、気に入った」
優しい眼差しで視線をデイジーに合わせて、低くしてくれた。
(嘘を信じてくれた! 入れ替わりに気づいていない!)
アーチーは笑いが収まり、口を開いた。
「私も本を読むのは好きだ。本は自分の世界を広げてくれる」
デイジーは俯かせていた顔をがばっと上げて、アーチーの話に食いついた。
「お、同じです! その、私も貴族令嬢としての狭い世界に生きているので、読書で色んな世界を知って、自分の世界を広げてます!」
デイジーは新緑の瞳をきらきらさせて、大きな声で話した。アーチーはそんな彼女を真っ直ぐに見つめていた。
「君とこんなに話が合うとは思わなかった」
ふと、柔らかな声で言ったアーチーの表情に、微笑が浮かんでいた。
「私は、貴族の令嬢と話すと、どこか壁を感じてしまう。義務のような挨拶、取り繕った言葉……。でも、君と話していると不思議と、心が楽になる」
デイジーの胸がどくんと鳴る。
「さっき、趣味を聞かれて答えてくれた時のこと、君が、自分を隠さず話してくれたことが、私は嬉しかった。君が何者であるかではなく、君自身の心を見た気がしたんだ」
一拍置いて、アーチーは凛とした声で告げた。
「私は君と婚約したい、アメリア嬢。もっと君のことを知りたいし、共に人生を歩みたいと感じた」
デイジーは言葉を失った。嘘をついている自分が、このまま受けてはいけないと分かっている。でも、彼の瞳に浮かんだ真剣な光に心が揺れた。
「こ、婚約ですか? あの、もう少しデートしたりお茶会をしてからでは駄目ですか? 早すぎる気がします。もう少しお互いを知ってからでないと……」
2、3回はデートをしてから破談にしようとアメリアと打ち合わせをしていた。これでは早すぎる!
「いや、君と本の話で盛り上がって決めたんだ。私は女性とあんな風に話せたことはなかったから」
アーチーの言葉にデイジーの顔は熱を持ってしまい、頷きかけたが、正気に戻った。
(わ、私も同意ですといいたい! 私がアメリアならば!)
デイジーは首を左右に振り、否定の言葉を口にする。
「失礼ですが、このお話はお断りさせて頂きます」
そうデイジーは、速攻で断わりの言葉を口にして、バイロン侯爵邸のパーラーを出ていこうとした。だが、アーチーに手を掴まれる。
「バイロン侯爵?」
「アメリア嬢、私は君が好きだ。最初は、明るく快活な君に惹かれた。だが、本当は繊細で優しい君の内面を知り、更に好きになった」
アーチーの告白にデイジーの顔は紅潮して、新緑色の瞳を見開いた。アーチーの紺色の瞳と出逢う。二人の影が重なった。羽根のように優しい口づけが繰り返された。幾度目かの口づけでデイジーは我に返り、アーチーの頬を叩いた。
「!」
「いきなりキスをするなんて、紳士のすることではありません!」
デイジーは、ドレスの裾を翻して、ゴア伯爵家の紋章の入った箱馬車に乗り、王都のタウンハウスへと戻った。
***
箱馬車がゴア伯爵家のタウンハウスへと到着した。御者が降りて、デイジーの手を引いてくれた。デイジーは馬車を降りて、ゴア伯爵家へと戻った。
「お父さま、お母さま、今戻りました」
アメリアに扮したデイジーが戻ると、ゴア伯爵家のタウンハウスは大騒ぎの最中だった。ダニーと結婚したアメリアが戻ってきたのだった。
「アメリア! ダニーとの結婚は認めない! お前にはバイロン侯爵との話が持ち上がっているのだ!」
「お父さまの許しはいりません! 私たちはもう教会で結婚を認められたのです!」
アメリアが父親に反発して反論した。その瞬間、父親がアメリアの頬を平手打ちしたのだ。ぱあんという音がその場に響き渡り、デイジーはその音の力強さに思わず瞳を閉じた。
「アメリア!」
アメリアが頬を打たれた。ダニーが、よろけたアメリアを横から支える。
「私は家を出ます。ダニーの実家へ行きますわ」
きっと父親を睨みつけて、毅然とアメリアは言い返す。
「アメリア!」
デイジーが叫ぶと、その場の空気が変わった。皆の視線がデイジーへと集中したのだ。
「デイジー! お前もアメリアに力添えしていたのだな! まさかお前がアメリアに扮していたとは!」
父親がデイジーを睨みつける。その視線にデイジーは怯えた。
「あ……」
その視線の強さにデイジーは動けない。デイジーを庇うようにアメリアが前に出た。
「お父さま! 私が嫌がるお姉さまに無理矢理頼み込んだのですわ! 大体自分の子どもの見分けもつかないのに、怒るのはおかしいですわ!」
アメリアの鋭い指摘に父親は黙り込み、唇を噛み締めている。だが、開き直ったようだ。
「うるさい! アメリアもデイジーも暫くは謹慎だ! 部屋から出ることを禁じる! これは家長としての命令だ!」
父親の命令にデイジーは項垂れるが、アメリアは反発した。
「私は、ダニーと結婚しましたからトニー男爵家の一員です。お父さまの監視下にはおりませんわ。ダニー、行きましょう」
一家が揉めている中、父親の執務室の扉が叩かれる。
「旦那さま、バイロン侯爵が見えられています。アメリアさまにお目通りを願っていますが」
父親ははっと我に返るが、動揺のあまり声を詰まらせた。
「今は帰ってもらえ」
「ですが、今執務室の前にいらっしゃいます」
「ゴア伯爵、入るぞ」
アーチーの聞こえのいい低い声が響き渡った。デイジーは扉を瞳に映して、目を閉じた。
(入れ替わりがばれてしまう!)
ドレスの裾を握り、新緑の瞳を上下させる。扉がかたんと開かれたが、アーチーは固まっているようだ。
「アメリアが二人……?」
その後は、大騒ぎだった。バイロン侯爵家からは婚約の申し出の撤回と双子が入れ替わったことへの抗議がなされ、アメリアとデイジーは一ヶ月の謹慎として、部屋から出ることは許されなかった。アメリアを始めデイジーに対しても父親の怒りは凄まじいものであった。
***
デイジーは自分の部屋のバルコニーから外を眺めていた。デイジーの部屋から正門が一望できる。正門にバイロン侯爵家の紋章が入った箱馬車が止まった。
「!」
箱馬車からアーチーが降り立ったのが見える。
(バイロン侯爵! どうしてここへ?)
窓からアーチーを一心に見つめるデイジーだが、彼は彼女の視線に気づかなかった。そのままゴア伯爵家の屋敷に入って行く。
(もしかして私に会いに来てくれたの?)
デイジーは胸を躍らせた。アーチーとは2回しか会ってないが、彼に惹かれていく自分を自覚している。彼に会えなかった一ヶ月は辛くて仕方なかった。だが、謹慎を命じられて、彼女の侍女も彼女を監視していた。父が怒りを収める訳がないと、窓に手をついて諦観した所だった。そこへ後ろから謹慎をしていた筈の妹の声がしたのだ。
「デイジー! 今、バイロン侯爵が見えられたわよ!」
デイジーは後ろを振り返ると、謹慎した筈の部屋から出てきている妹がいたのだ。
「アメリア?」
「ふふっ! 乳母が味方になってくれたのよ! さあ、バイロン侯爵とお父さまの会話を聞きに行きましょう! バイロン侯爵はお父さまの執務室にいるわ!」
デイジーが唖然としていると、アメリアがぐいぐいと背中を押してくる。そのまま勢いで隣の部屋に入り、アメリアと聞き耳を立てる。
「バイロン侯爵、今更何をしに来たのですか? あなたとアメリアの婚約の話はなくなった筈だ」
父親の冷たい言葉がアーチーに向けられた。
「はい。私はアメリア嬢に一目惚れをして、侯爵夫人に仲立ちをお願いして、婚約を申し込みました」
「うむ。アメリアはダニー・スコットと恋人同士で駆け落ちをするために瓜二つの双子の姉デイジーに入れ替わりを願い、私たちはそれに騙されました。アメリアは、ウィンストン州で既にダニー・スコットとの結婚を交わしました。あなたとアメリアの婚約は無効なのです。申し訳ないですが、諦めてください」
ガタンと音がして、父親が頭を下げているらしい音がする。
「ゴア伯爵。頭を下げるのは止めてください。私は改めてアメリア嬢ではなく、デイジー嬢との婚約を許して頂きたく、参ったのです」
執務室の重厚な扉が静かに閉まると、アーチーは緊張を押し殺して父・ゴア伯爵の前に立った。伯爵の鋭い眼差しが彼を貫く。
「なぜ今さら、デイジーとの婚約を望むのだ?」
ゴア伯爵は低い声で問い詰める。
アーチーは少し息を整え、ゆっくりと答える。
「ゴア伯爵。私は最初はアメリア嬢の快活さに惹かれました。ですが、知らずにデイジー嬢と会ううちに彼女の物静かな知性と誠実さ、優しさに触れました。私が一生を共にするのは彼女だと感じたのです」
「!」
デイジーはその言葉に瞳が潤んだ。
「バイロン侯爵! 君は我が家の恥を上塗りする気か! 帰ってくれ!」
ゴア伯爵は、椅子を思わず叩く。
「ゴア伯爵、名誉も家柄も大事です。しかし、私は偽りの婚約ではなく、本当の絆を築きたい。私はデイジーを愛しています」
静かなアーチーの言葉は決意に満ち溢れていた。その時、執務室の隅から小さな足音が近づき、ドアの影からデイジーがそっと姿を現した。
「お父さま、バイロン侯爵さま」
「デイジー嬢」
「デイジー。お前、体調を崩していたのではないのか」
デイジーは父親を凝視した。幼い頃から身体の弱かったデイジーを父親は溺愛していた。今回、謹慎を申し付けたのもアメリアの我が侭によって振り回された心の優しいデイジーを気遣ってのことである。
「お父さま。私はもう大丈夫です。一時はショックで寝込みましたけど、それは気疲れからですわ。それよりお父さま、私もバイロン侯爵さまをお慕いしております」
幼かった少女は毅然と顔を上げて、父親であるゴア伯爵に自分の意見をぶつけていた。
「デイジー。お前……」
デイジーは頬を赤く染め上げて、アーチーへぱっと視線をやる。
「あなたと出逢って、私は変わりました。人を強く想う気持ちを知ったのです」
「デイジー嬢……」
アーチーの紺色の瞳とデイジーの新緑の瞳が出逢い、互いに微笑み合った。
「ならん……。ゴア伯爵家は、社交界で物笑いの種になっている。これ以上、恥をかきたくないのだ」
ゴア伯爵は娘の説得に心が揺らいだが、二人を認めようとはしない。
そこへ双子の母親であるゴア伯爵夫人が扉を開けて入ってきた。
「あなた……。あなたと私も両親や親戚の人たちを押し切って結婚しましたわ。ウィンストン州でね」
アーチーとデイジーは思わず、顔を見合わせた。
「おま、まさか、お前がアメリアに」
「ええ……。私がアメリアへ駆け落ち婚するよう、たきつけました。あなたってば、若い頃はあんなに情熱的だったのに、娘にはお堅いんですのね」
ゴア伯爵は、ごほごほと咳をして、誤魔化すが、遅い。
「お父さまが?」
「ええ……。今はお堅いけど、お父さまとお母さまにもそういう過去があったのよ?」
両手で口を覆って驚くデイジーに母親は優しく笑う。
「バイロン侯爵さま。そういうことですのよ」
ほほほと微笑む夫人にゴア伯爵はそっぽを向いた。
「わかった……。デイジーの婚約とアメリアの結婚を認める! だが、まずは婚約式を行う所からだ! アメリアも婚約させて、もう一度結婚式を挙げさせる!」
夫人に根負けしたゴア伯爵がヤケクソに叫ぶ。
その瞬間、重い扉が開いて、アメリアが入ってきた。わあっと声を上げて、デイジーに抱き着いた。
後日、バイロン邸のサロンでアーチーとデイジーの囁かな婚約式が行われた。
アーチーは、黒の蝶ネクタイの瀟洒なイブニングスーツを身に纏っていた。階段から現れたデイジーを見て、アーチーは驚く。デイジーは、フェミニンな白いドレスを身に纏い、螺旋階段から降りてきた。可憐なレースで表面が覆われて、白い花のようにふわっとしたドレスは物静かな若い令嬢を彩っていた。
「綺麗だ……」
アーチーの言葉にデイジーは柔らかく微笑んだ。
「バイロン侯爵さまも素敵です……」
二人は手を重ねて、サロンへと歩き出す。
「次は結婚式だな。あなたの花嫁姿が楽しみだ」
アーチーはデイジーに囁く。
「まあ……」
デイジーは頬を薔薇色に染め上げて、アーチーへと優しく微笑み返した。
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