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砂漠に降る銀の月~花の刻印があるスルタンの妃は盗賊と出会う~  作者: 高瀬さくら


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42.次の展開


『むかーつく、むかつくぞ!! アイツ、何様のつもりだ! ラズールのくせに!!』


(ファリド、落ち着いて)


 頭の中で響く悪態は今日で五日目。

 シャーラも慣れたもので、他のことをしながら、彼と会話をすることができるようになっていた。


「シャーラ様、御御足はすっかり良くなられたようです。もう普通に歩いてもよろしいですよ」


 足首の包帯を外したダリラがにっこり笑う。


「ありがとう、二人には随分助けてもらって」

「いいえ、当然のこと。シャーラ様はよく我慢なさいましたわ」


 歩けないため、日常生活をおくるのに二人には随分助けてもらった。けれど、人に世話をしてもらうのは気が引ける。 


 まるで女主人のように二人は扱ってくれて、遠慮してもきいてくれない。

 足も治ったことだし、普通に接して欲しいとラズールを通して言わなければと思案していた時のことだった。強い香りが鼻を掠める。


「あ、スレイカ。――香油は待って」


シャーラは、後ろで髪を整えてくれるスレイカに声をかける。


「とてもよい香りだけど、香油はいいから」


この香りはジャスミンだろう。とても高価で、瓶を開けただけで華やかで濃厚な香りが漂う。


「あら、そうですか。……たしかにラズール様、匂いがキツイのは苦手ですものね」


スレイカの何気ないセリフに、シャーラはわずかに顔を曇らせる。


強い香りを避けたのは、シャーラ自身も苦手だから。けれど確かにラズールがあまり強い匂いを好んでないのも事実だ。


(でも、どうして、知っているの?)


この屋敷の人たちは何も言わないけれど、それはラズールのよい人がいなかったということではないと思う。女主人がいないのに、女性の働き手が多い。

 それは昔いた女性を世話するためではないか、またはこうやって、ラズールが連れてきたときのために……。


「シャーラ様、今日はスミレの香りにしましょう」


 ぼんやりとしていたシャーラの顔を覗き込むのはダリラ。


「ええ、あ、うん」

「微かにしか、香りませんから」


 確かにスミレの花と同じように、微かな匂いの香油ならば気にならないだろう。


「シャーラ様。いい方法があります」

「いい方法?」

「ラズール様に、『あなたが好きな香りを纏いたいの』とおねだりされるといいですよ」

「え? あの?」


『だいたい、あんなこと言い放って、ずっといないじゃないか。言い逃げだ!!』


「おねだり?」

「ええ。シャーラ様はラズール様の大事な女性。男の方は好きな女性からねだられるのは嬉しいものです」


『言い逃げだけじゃない、ヤリ逃げだ!』


「私が、ラズールの……?」

「ええ、そうです。見ていればわかりますよ。とても想われているのが」


『誠意が伴ってない!!』


「帰ってらしたら、市場に連れて行ってもらうといいですよ」


(ファリド、いい加減にして。言い過ぎよ)


 ファリドに注意をして、ダリラに尋ねる。


「――いつ、戻ってくるかしら」


 ラズールはシャーラのことを調べに行ったのだろう。もう五日目だ。


「もうすぐですよ」


『……シャーラ、……怒っているのか?』


(……怒ってないわ)


『――怒るとだんまりするのは、母様と同じだ……』


(え? お母様?)


『な、なんでもない!』


 彼が母親のことを話すのは初めてだ。けれど、焦る様子に追求は止めておいた。それにファリドに返答してなかったのは事実だ。


(……ラズール、どうしていると思う?)


『……』


(わからないわよね、ごめんなさい)


「シャーラ様。気分転換に髪を高く結ってたくさんの宝石で飾られたらどうですか? 色とりどりの宝石は、銀の髪によく似合います」

「このままじゃ……いけない?」


何処に行くわけでも何かの催しがあるわけでもない。ただ家の中にいるだけだし、そもそも着飾るのは気乗りがしない。


「ヴェールを被ってしまうから」

「あら、室内だからこそ飾るのです。それにヴェールは、ここではいりませんわ」


 スレイカの提案に対して困るシャーラの様子を見て、ダリラが察して微笑む。


「髪は綺麗に梳かして垂らしておきましょう。艶やかな銀の髪は、宝石の輝きも叶いません」


本当は髪を目立たせたくない。けれど、宝石で飾りたてるのよりはいい。シャーラが遠慮がちに頷くと、そこにサルマが粛々と入って告げる。


「旦那様がシャーラ様にお会いになるそうです。御仕度を」





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