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砂漠に降る銀の月~花の刻印があるスルタンの妃は盗賊と出会う~  作者: 高瀬さくら


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41.睦言

 ランプの油が切れて、灯りが消えていたが、つけ直す気にはならない。暗闇の中でも腕の中に存在を感じられるから。

 それに、むしろ離れがたくて、動きたくないのかもしれない。


 砂混じりの風が建物を叩く音のかわりに、中庭の水音が微かに聞こえる贅沢な造りの屋敷。厳重な警備と分厚い壁は、盗賊も砂風も防いで平和な世界を築いてくれる。

 連れ子であった自分は、遠慮が先立ち贅沢を満喫したことはなかったが、今がとても貴重な時間に思える。初めて充実しているように思える。


 ラズールは、シャーラの髪を指で梳く。


「ファリド、とやらが出ている間のアンタは、それに気がついているのか?」

「――覚えてないの。でもファリドは、私の行動を知っているから見ているみたい」


(シャーラだけが見られてるのは、平等じゃねぇな)


 ただ、シャーラでいる時間の方が長いというのであれば、体の持ち主はシャーラで、寄生がファリドでいいのだろうか。


(ん?)


 待てよ、と疑問が浮かび上がる。


「アイツ、男だよな」

「たぶん」


話し方、目つき、気配、間違いない。


「全部見ているのか? アンタとの会話とか、その……」


シャーラは、あっ、と声をあげた。


「今のこと、ラズールとのことは、もしかして見ていたかもしれない……」


シャーラの声は消え入りそうに小さくなり、恥ずかしいのか引き寄せた寝具に顔を埋め隠す。わざと見せようとしない。見たいような気がしたが、まあここはいいかと顔を胸に引き寄せておく。


「それは、まあいい。そうじゃなくて……その、着替えとか、入浴とか」

「え、いいって? あの?」

「気にすんな、見たいなら見せておけばいい。じゃなくて、後半のほうを」


気にして欲しいんだがな、と呟く。だが、シャーラは今のこれを気にしなくていい、に囚われているみ

たいで、でも、とか、このこと見てたら、とかブツブツ言っているから、その耳に囁く。


「――風呂、とか見られていたら、許せねぇんだけど?」


 びくっと肩が揺れる。あ、やっぱ、耳弱いのか。耳を押さえようとするから、その手を掴んで先に封じる。


「ラズール!」

「答え聞いてねぇよ」

「ファリドもわざとじゃないもの。大丈夫よ」


つまり、見てるってことだ。全然、大丈夫じゃねぇし。


「ファリドも好きで見てるわけじゃないし、気にしすぎだと思う」

「そういや、体使えるったな……その方が問題か」

「ラズール?」


わざと惚けているのか、そう尋ねそうになったが、男にしかわからない欲望をシャーラに説明しても仕方がない。不愉快だし。

そんな思案にくれていたら、シャーラのもの言いたげな視線に出くわす。


「――さっき、ラズールが言ったことだけど。――訊きたいこと、あるの」


ファリドにも自分にもシャーラは質問をしてこない、という件りのことだろう。


「ラズールは……女の人が好きじゃないってジャファルから聞いたけど……でも、私のことは?」


 シャーラの眉は寄せられている。


「もしそうなら、ラズールは私とのこと望んでなかったのよね。もし、本当は……」


なんでそうなる? だが思いつめた顔で真面目に尋ねているのを見て、どう説明すべきか悩んで……考えるのを止めた。


 顎を持ち上げて、口づけをする。

 何度も繰り返す、シャーラの息が上がるまで。そうしてようやく解放する、それから頭を腕で逃げないようにしっかり抱いて弱い耳に囁く。


「誰が……誰を、好きじゃないって?」


最後まで逃げ出せないように囁いて、そのあと耳朶を喰んだら叫び声が上がった。いや、喘ぎ声か。


「や! ラズ……」


 さすがにイジメてばかりいたら、嫌われてしまうから、引き寄せて背中を軽くあやすように叩く。


「――女は買わない。それがそういう噂になった理由だ」


 それは理由の一つ。娼館に行かないなんてと敵の盗賊連中の間じゃ「腰抜け」「童貞」「種無し」と言われているが、まあどうでもいい。


シャーラの肩から力が抜ける。そんなに気にしていたのか?



「それより、ファリドに言っとけ。話をつけたいってな」





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