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砂漠に降る銀の月~花の刻印があるスルタンの妃は盗賊と出会う~  作者: 高瀬さくら


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31.青い月

 ロープに捕まりながら、ラズールが手を伸ばす。だが、まだ遠い。


 ――ゴゴ、ゴゴゴ、ゴゴ。


 先ほどと同じ音がして、シャーラは目を見開いて音の発信源を探す。

 開ききった穴の扉が、また閉じようとしているのだ。


(どうしよう、閉じ込められる)


 少しずつだが、隙間が小さくなっている。

 このまま最初のように穴が閉じて閉まったら、ミミズの池の中で溺れ死んでしまう。


(でも……)


「シャーラ、今行く」


 ロープは穴の入口よりも上、恐らく天井からぶら下げているのだろうか? 

 

 少しずつラズールとの距離が近くなるけれど、シャーラは焦って首を巡らした。

 ラズールはまだ穴の淵にいる。――今ならば、まだ彼は逃げられる。


「ラズール……逃げて」

「シャーラ、手を伸ばせ」

「ラズール、左右を見て! 閉じてしまう!」


 ロープが足りないのだろうか、彼はそこで手を伸ばす。

 彼の手の先は、遠い。届かない、まるで月のように。


「助けに来たんだ、逃げるわけねぇ……」

「でも、死んでしまう」

「諦めるな! あんた、逃げてきたんだろ? それなら諦めるなよ!」


 こんなに暗いのに、彼の顔がすごくよく見える。青い目、歪めた顔、精一杯伸ばす手。


「――助けさせて、くれ」


 必死な顔でラズールの手が伸ばされる。その声は切なくて、ラズールのほうが助けを求めているみたいだった。


「手を、掴んで……くれよ。シャーラ」


 シャーラも手を伸ばす。

 迷惑をかけたくない、このまま見捨ててくたほうがいい、そう思っていたはずなのに。


 青い目に意識が奪われる。

 その手に触れて、まだそばにいたいと思う。

 あと僅か、空の月に触れるように、触れそうで触れられない。届きそうで届かない。

 

 でも、彼は月ではない。だから――あと少し。


 ――終わりは唐突だった。指が掴んでいた壁ごと、ぼろりと外れる。

 重力に従い、体が壁面を滑りながら、落下する。


「いやあああっ」

「シャーラ!!」


 悲鳴をあげたシャーラは、口を手で押さえる。


 衝撃はなかった、ただヌルリとした中にズボッと落ちた。

 柔らかいが、何かが肌の上を這いずる感触は、生理的嫌悪感を呼び起こす。


(やだ、やだやだっ)


 うねうねと肌の上を這う感触、それ以上に恐怖を呼び起こしたのが、足が地面につかないこと。


 足を突っ張れば突っ張るほど、沈んでいく。水ではないから浮かばない。それに粘液で滑る。泳ぐように手で掻いても、泳げない。しかもミミズは蛇みたいに大きい。


(気持ちが悪い!! 気が狂いそう)


 叫ばないですんでいるのは、口を開けないから。幸いなのは、暗くてあまりよく見えないこと。

 けれど、このままでは死んでしまう。とにかく口を閉じて、なんとか壁を目指そうと手で掻く。


 ねっとりとした冷たい感触が、意志を持ってあちこちで動く。太ももで、お腹で、胸の周りで、滑る様に何匹ものミミズが肌に接している。


 爪先は千切れたミミズの欠片が張り付いている。

 

ミミズの海の中に沈んでいくという恐怖。もう首まで浸かり唇に触れている。いずれは口や鼻に入ってしまうだろう。


(たすけて、たすけて、もう無理!!)



“捕まえた”



(え?)



“捕まえたぞ”



 赤みを帯びた瞳が見ていた。シャーラの首に、身体に、鋼色の腕が巻き付く。

 シャーラの意識が遠のいた。


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