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28.遺跡の中

ヒロインに対する乱暴行為があります。お気をつけください。

 闇雲に進んだ先の部屋は広く、緑に満ちていた。


「ここは?」


 シャーラは、こわごわと足を進めた。

 この部屋の天井は半分以上崩れていて、上からは星と月が見えていた。壁は真白く淡く発光して仄かに明るい。


 これまでと全く違う様相の部屋に、呆然と緑の芝生を足で踏みならす。


「冷たい」


 ピチャ、と足元で音が跳ねた。

 芝生と見えたが、水気を多く含んだ苔だった。柔らかい緑の絨毯、壁に接している白濁した石材製の四角い槽は膝までの高さだが、水はなく干からびている。


「どこかに……水があるのかしら?」

『シャーラ!! 逃げろ!!』


 警告に背後を振り向こうとしたが、その前に髪を掴まれて、後ろ髪を強く引っ張られる。

 悲鳴さえもかき消える、引きずられて、痛みと共に髪ごと体が持ち上げられる。


「ハハっ、手に入れたぞ、女っ」


 喜色の声。自分を捕まえている存在は見えないが声は聞いたことがあった。

 四方八方から男たちが現れる。乱れた衣服、頭にはターヴァンや、ただの布を巻いているもの、格好は様々だ。

 共通しているのは何かに飢えているかのように、目にギラギラと嫌な光を浮かべていること。


「なあ女? 思い出したぜ? アンタ遺物だな? ラズールは一緒じゃねえのか?」


 掠れた笑い声が特徴的で、嫌悪感を催す。


「離し……離して」

「なんだ、いてぇのかよ? 本当に遺物なのか? 生きてんのかよ? 普通の女か?」


 ジャファルが覗き込んでくる。容赦のない扱いに涙が滲むが、弱みなんて見せたくない。 

 痛そうな顔なんてしたくない。

 唇を結んで耐えると、ジャファルの顔は苛立たしげに、頬が引きつっていた。


「ふんっ」


 突然、突き飛ばされて、シャーラは転がる。体を地面にぶつけるが、苔に受け止められて痛みはない。ただ服の半分と髪が濡れて、雫が滴り落ちる。


「出てこねえな」

「怖じ気づいてんじゃねえのか」

「ラズール!? でてこいよっ」


 周囲を男たちが警戒するが、誰も現れない。当たり前だが、ラズールの姿はない。


(当たり前……そう、来るわけない)


「はは! やっぱりなあ? 俺の女だ、俺が捕まえたぜっ!!」


 諦めていたのに、ラズールがいない現実に胸が痛くなる自分が嫌になる。

 ファリドに言ったではないか、自分一人でなんとかすると。


(なのに、捕まるなんて……)


「――俺の女にするなら、躾が必要だよなあ」


 不意に曲刀がシャッと抜かれ、空気を切り裂きながら目の前に突きつけられる。

 シャーラは逃れようとしたが、体が動かなかった。 


 腕を掴まれ、無理やり立たされる。


「その前に、役に立ってもらわねえとな」






 ジャファルに引きずられるように、奥に続く通路へと連れて行かれる。

 男達はジャファルを入れて六人、皆、剣を無造作に手にしている。

 数は少数だが、それ以上の数の何人かは見張りとかラズールを探すとかで散って行った。

 

 シャーラには、逃げられる自信がなかった。


(ジャファルは容赦しない。逃げたら斬られる……)


 それくらい、わかる。


 小突かれて何度も躓きそうになるけれど、それに頓着はされない。

 またぐいと引き寄せられて、肌に爪を食い込ませられながら、顔を覗き込まれる。


「お前、わかってねえな」


(どうして、この人は……)


 シャーラを捕まえたのに、面白くなさそうなのだろう。

 宝を手に入れたくて、シャーラがいればそれが可能になったと思っているはずなのに、苛々している。


「ラズールはうまくやりやがる、なあ、そうだろ?」


 シャーラは無言でいたが、それが不満なのか、いきなり乱暴に押される。

 追いやられたり引きずられたり、掴まれたり、自由にならない。自由になるのは顔だけ。

 だから、なるべく無表情を作る。


(怖がっているなんて、見せない)


 唇を固く引き結ぶ、前を見据えて瞬きをしない。じゃないと、泣いてしまいそう。


(大丈夫、まだ殺されない)


 宝を見つけるまでは、殺されないだろう、どこかで逃げ出す機会はあるはず。

 ジャファルは、不意にシャーラの肩を抱いて、刃をチラつかせながら密着を強いる。


「お前、ラズールに何回抱かれた?」


 ジャファルが頬を寄せて獰猛な笑みを浮かべて尋ねてくるから、顔を背ける。

 そうすると、クッと喉を鳴らして笑い、顔の形が変わるほど頬を掴まれて、彼の方に向けられる。


「その顔。余計に煽るんだよ!」

『シャーラ代われ。叩きのめしてやる』


(ファリド。まだ平気だからっ。大人しくしていて!!)


 ジャファルの目は全然笑っていない。饐えた目で、何かを求めて苛立っている。逆らわないほうがいい。


「俺のほうがいいって、教えてやる」

(もしかして……)


 ――ラズールに嫉妬している?


 シャーラはそう思いついたものの、顔には出さず僅かに目を伏せた。それがわかったからといって、解決には結びつかない。


(ラズールには関係ないのに……)


 例えシャーラを傷つけても、手に入れても、ラズールには関係がない。

 ジャファルは、どうしてこんな風にするのだろう。


「アイツに満足してるなんて、嘘だろう? なんで逃げてきた?」


 ラズールはこういう下心丸出しの接触はしてこなかった。ラズールに触れられても、嫌じゃなかった。


 ――そう思う度に、ラズールを思い出し、なぜか辛くなる。


 答えないシャーラにジャファルは舌打ちし、何かを言いかけたが、不意に足を止める。


「ここだ」


 そこは通路の最奥の部屋で、行き止まりだった。何もなく、見上げたが月も星も見えない。


(ここは……違う)


 ただ小さな絵のようなものがいくつか、壁に刻まれている。


「古代文明の文字だ。読め」


 ジャファルに壁へと押しやられるが、わからない。


「わからないわ」


 後ろから首に手が回され、羽交い締めにされ、仰け反る顔面に曲刀が突きつけられ、壁の文字へと顔を向けられる。


 視界を占める錆びて茶色に変色した刃は、何も映さない。ただそのこぼれた刃がギザギザで恐ろしい。


「思い出せるように手伝ってやるよ、なあ?」




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