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22.目覚めたら腕の中

 ”目が2つある理由を知っているか?”


 低い声が頭の中に響く。


 いつものように、恐ろしい闇ではない。殺意、と呼ばれるようなものを感じた。


(いや、やめて!!)



 また、何かに襲われている。

 恐怖が極限となった所で、シャーラは覚醒した。


(なに、が、起きているの?)


 ――今、目の前には、鈍い銀色の刃が突きつけられていた。

 

 何度も息を吸う、目を瞬くが状況は変わらない。

 恐怖で息を飲み身じろぎしたが、体は動かず、拘束されている事に気がついた。


(な、に、これ?)


 誰かが、いる。


「……っ、いゃぁっ!」


 それが何か意識する前に、悲鳴が漏れる。


 顔を仰け反らせ逃げようとして、けれど体は動かなかった。誰かに――襲われている。


「いやっ、助け――。ラズールっ!!」


 その名を呼んだのは無意識だった。


(どうして、私は、彼を?)


 叫びながら頭の片隅で疑問を持つ。


 ――ずっと助けてもらっていたから、いつの間にか依存していたのかもしれない。


 首をいやいやと振り、名を呼べば突然拘束が緩んだ。

 転がるように逃げ、手をついて半身を起こし振り向こうとすると、今度は仰向けのまま押さえつけられた。


 両手首を捕まえられ、床に敵わない力で縫い止められる。

 それだけではなく体全体で押さえ込まれる。


(殺される!)


「ラズールっ……!」


 引きつった声でもう一度助けを呼ぶ。


 けれど、涙目で見上げたその視界に飛び込んできたのは、青い瞳。見知った顔だった。

 上にいるのがその本人だとわかり、瞬間的に涙が止まる、息さえも一瞬止めてしまう。



「え、ラズール……?」


 なぜあなたが?


 そう呟けば、なぜか彼も青い瞳に困惑を上らせ、わずかに眉を寄せている。

 

 ぽたぽたとラズールの髪から雫が垂れて、シャーラの頬に落ちる。

 裸の身体は、鋼のように艶やかな筋肉で覆われている。無駄な脂肪が一切ない。

 

 厚みのある胸、割れた腹筋、丁度シャーラを跨る腰から下には、男の人の――。


 シャーラの視線を追っていたのだろう。

 胸から下へとラズールも自分の体を同じように見て、シャーラと同時に自分の下半身――自身の立派な男性のアレをみる。

 

 だがシャーラへと視線を戻す前に……。


「いやあああああっ!!」


 シャーラは絶叫した。

 今までにないくらいの力で腕を振り回そうとして、けれど拘束は外れず、足も手も体も動かず、もう一度叫ぶ。


「いやああ、放して!」

「待て、シャーラ!」


 ラズールの手が口を塞ぐ、不自由な妨害の中、シャーラは厚い手の平の中で絶叫を続ける。


「んー、んーーっ、んーー」


(――なんで、なんで、何も着ていないの!?)


 多分口にも出していたのだろう、ラズールが口を塞いだまま、珍しく上ずった声で言いきかせる。


「うー(なんで)、もごもご(着てないの)!」


「襲いはしない! だから静かに」

「うーうー」


 殆ど泣きながら、暴れ続けていると、ラズールが簡単にシャーラの上半身を起こす。彼の手が転がった篭へと伸ばされて、シャーラから離れる。服を取ろうとしたのか。


 シャーラは、そのすきに背中を向けて両手で身体を抱いて、うずくまる。


 喉がしゃくりあげる、嗚咽が喉から漏れる。押さえようとしても痙攣した喉は止まらない。ガクガクと身体が震えて、動けない。

 

 いきなり、だった。


 片腕が背後からシャーラの体を後ろから包み込むように抱きしめてくる。

 片手で両腕を、もう片方の腕で丸くなったシャーラの体を包み込む。


 多分、彼は、濡れた身体を布で包んだだけなのだろう。

 濡れた肌が、シャーラの服越しに熱を伝えてくる。


(何が、起きているの?)


 驚いて固まってしまう。繰り返していた悲鳴もピタリと引っ込む。包み込むような拘束だ。


「殺しはしない、襲いもしない。――いいな」


 耳元で言い聞かせる声が、熱い。

 心臓が煩い。

 

 一体何が起きているの? 私は何をしたの? 


 どうして――抱きしめられているの?


 外から、騒がしくバタバタと走ってくる足音が響いて止まる。


「お客さん? どうされました!?」

「滑って転んだだけだ――今出る」


 脱衣所の外にラズールが告げると、親方が去って行く足音が聞こえた。

 ラズールが大きく息を吐く。珍しく脱力しているよう。


「公的な場所での性行為は死罪だ。そう誤解されやすい状況なのはわかるな? ――早く出るぞ」


 シャーラは必死で頷いた。




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