第六話
「両者、決闘の名乗りを!!」
審判が声を張り上げて言う。
審判は公平を期すために2年生の担当教員で一般家庭の人である。
「御剣玲奈。」
「火神千佳。」
「黒田紫音。」
「田口美優。」
僕たちが名乗りを上げる番になった。
「村瀬優太。」
「久神静夢。」
「それでは両者、準備はいいですね?」
あっちでは御剣のお嬢様が返事を、こっちは村瀬が返事をする。
距離は10メートルほど離れたところから始まる。
武器がない者には拳銃以外の殺傷能力がないものが支給される。
ちなみに僕は異能が剣を召喚する力なので、武器は持っていない。
村瀬は剣を持っている。
理由は槍などよりもかっこいいかららしい…全槍ファンに謝れ!!
とりあえず本題に入ろうか。
御剣の少女の異能は聖剣召喚。
まぁ簡単に言うと、僕の召喚する剣の下位互換みたいなものだ。
僕は剣を5本召喚できるが、どの剣も剣としては最上位に位置する。
だから最上位の剣ではない聖剣よりも強いのだ…まさしくチートってやつだな。
次に火神迅の義妹である火神千佳だ。
彼女の異能は強化付与だ。
強化付与というのは自分の半径5メートルのものに3倍までの強化を施せる能力だ。
持続時間は5分で自分の任意で外すことも可能だ。
強化を付けられる範囲は5メートルだが、一回付けると5分だけならどれだけ離れていても外れない。
火神迅の幼馴染である黒田紫音の異能は、身体強化である。
しかしそれはただの身体強化ではなく、自身の身体能力を最大10倍まで上げてくれる驚異的なものだ。
最後に田口美優の異能だが、何の変哲もない治癒能力だ。
もちろん幾万回と使ったりすれば、一瞬で無くした腕を再生することだってできるはずだ。
だが田口美優は一般家庭の生まれで、虐待などの記録もない。
言っておくがこの情報を出した筋の精度は、百発百中と言っていいほどだ。
だからこの情報に間違いはないと今までの経験で言える。
作戦はこうだ。
村瀬が田口さんを抑えて、その間に3人を僕が潰す。
単純明快が一番だな…えっ、倒せるのかって?
もちろんあんなのに負けたりしないよ。
まぁ見てれば分かると思うよ。
「試合開始!!」
ゴーンとゴングのような音がなる。
直後、僕の足元に魔法陣が現れる。
『いでよ、森羅万象を司る星の力が宿りし刃…万象の星剣。』
一振りの白銀の剣が虚空から出てくる。
すると御剣の少女も詠唱を終えていたようで、光を放つ剣を手に持っている。
瞬刻の間で目の前に御剣の少女が現れる。
聖剣を振り下ろしてくるが、軽く捌いて背後からの義妹君の打撃を避ける。
けれど避けた先に幼馴染君がいて、ローキックを放ってくる。
それも避けて、いったん3人から離れるように距離をとる。
するとそこはステージの角で、あと少し下がったら落ちるという場所だった。
「ふっ、もう追い詰められてしまったな。強気なことを言っていたが、口程にもない。」
「そもそも私と平民風情が相手になる方がおかしいのよ。」
「義兄さんを馬鹿にした仕返しを受けてもらいます。」
そう言ってじわじわと距離を詰めてくる。
けれども彼女たちは分かっているのだろうか?
僕がまだ一回も攻撃をしていないことに。
「君たちはこの決闘を戦いだと思っているのかい?」
「急になに、時間稼ぎのつもり?」
まぁそう思うのも無理はないと思う。
「いや、ただ疑問に思っただけだ。それでどう思っているんだ?」
御剣の少女が答える。
「この決闘は誰にも邪魔できない神聖な戦いよ。」
その言葉に僕は嗤った。
なんて甚だしい勘違いをしているのだろう。
「ハハッ、何を言っているんだい君たちは。これは戦いではない。一方的な蹂躙劇だ。」
あぁ僕は今心の底から嗤えているのだろうか?
感情なんてあの日、真っ先に失ってしまったものだから。
御剣の少女は僕の目を見た瞬間、後ろへ飛び退く。
だがもう遅すぎる。
飛び退いた場所、そこには僕がいる。
流れるように、足元を払い胸ぐらをつかみ頭突きを見舞う。
一連の動作に観客、実況、フィールドにいる僕以外の人間に静寂が訪れた。
「すげぇ」
そう誰かが言い、その言葉に会場が沸く。
「すごい、すごすぎる!!この男、まさに美王だ。美しい以外の言葉が浮かびません。」
幼馴染君と義妹君は限界まで目を見開いて硬直していた。
「おや、どうしたんだい?さっきまでの威勢が目に見えてなくなっているぞ?まさか僕の実力を今の今まで見誤ってた…なんてことは言わないでくれよ。」
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<side黒田紫音>
完全に逆境に立たされている自分たちを鼓舞するように叫ぶ。
「千佳!!私に限界まで強化をかけて!!」
「なっ!?でもそんなことしたら紫音ちゃんの身体が持たないよ。」
「いいのよ、こいつに勝ちたいでしょう?」
「あぁもう、わかったよ。」
『強化…3倍』
千佳はその時、手に腕、足から太もも、紫音の全細胞に強化をかけるイメージで強化をした。
紫音は今までに一度も感じたことのない全能感に包まれた。
「これなら、いける!!」
『身体強化…10倍』
身体強化の2倍をセカンド、3倍をトリプル、4倍をフォース、5倍をハイエスト、6倍をグランド、7倍をマスター、8倍をキング、9倍をロード、最後に10倍をオーバーと定める。
身体強化のオーバーを使うのは、今までの人生を振り返っても2回目だ。
以前使ったのはまだ小さな頃で、異能の恐ろしさを知らなかった。
ただの子どもの喧嘩でそれを使い、初めて異能の恐ろしさを知った。
それ以来、身体強化はグランド以上を使ったことはなかった。
今の身体能力は普段の30倍だ…もしかしたら殺してしまうかもしれない。
だがそんなことはどうでもよかった。
自分の大事な幼馴染である迅が馬鹿にされたことの怒りにより、脳のリミッターが外れていた。
その動きは確実に普段の30倍の出力を超えていた。
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<side久神静夢>
一瞬の間に僕の目の前に現れて、すでに拳を振りかぶっている。
その身体能力と身体を壊す覚悟に心の底から歓喜する。
「面白い。身体能力だけなら僕らに迫るか!!」
カメラに拾われない程度の声量で言う。
力任せの一撃だが速度は初速から音速を超えている。
普通の人間ならば視認することすらできずに、拳が頭を貫通して終わるだろう。
だがこの程度の敵は普段から厄神としての任務で戦っている。
「だが残念、身体の使い方がまるでなっていない!!」
これに少しでも技術が乗っていれば、そよ風程度は当てられただろう。
腰を後ろに曲げて拳を避ける。
眼前を音速を超えた一撃が通り過ぎる。
そのまま衝撃波がフィールドを囲っていた壁にぶつかり、轟音を鳴らして巨大な亀裂を入れる。
腕を前に出している状態の幼馴染君の背後をとり、頭蓋を掴み地面に叩きつける。
「これで詰みだ。」
義妹君は完全にこちらを恐怖を孕んだ目で見ている。
観客や実況も僕の異常性に気づいたのか、こちらを警戒した目で見ている。
「はぁ、まぁいいか。村瀬、そっちは終わったか?」
そちらを見ると壁にめり込んでいる村瀬がいる。
そこで点と点がつながった。
「そうか、そういえばそうだったな。」
田口美優ことおっとり君の異能は治癒能力。
自分たちがやられても田口美優が治癒能力を行使できるタイミングを作ればいくらでも戦える。
だからさっきの一撃で村瀬を倒し、僕の意識がおっとり君へ向けられないよう御剣の少女を回復する。
「あぁ、素晴らしい。」
御剣の少女が立ち上がり、聖剣を構える。
「何が素晴らしいだ?お前の異常性はこの学校の誰もが知ってしまった。裏組織とでも繋がりがあるんじゃないか?いや、違法薬物かもしれないな。まぁ今はどちらでもいい。貴様はこの私を負かした時点で御剣家を敵に回した。」
「それがどうかしたのか?」
「ふん、人を挑発するのがやはりうまいな。だがこれで貴様も貴様の家族も全員、御剣の手によってどこに行っても厄介ものだ。」
その言葉を聞いた瞬間、僕の心は怒りに染まっていた。
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<side御剣玲奈>
「ふん、人を挑発するのがやはりうまいな。だがこれで貴様も貴様の家族も全員、御剣の手によってどこに行っても厄介ものだ。」
そう言った瞬間、心臓を握られている感覚が訪れる。
それは観客、実況、審判、教師も生徒も関係なく発生したようで、全員が胸を抑えて久神静夢を見ている。
(なぜだ、私は何をした?そもそもなぜ一般人がこんなにも濃密な殺気を放てる?)
気絶できたらどれだけ良かっただろう。
全員が気絶しない程度のギリギリの殺気にあてられている。
審判である教師が顔面蒼白にしながらも、願望のように久神に叫ぶ。
「久神君、その殺気を止めてください!!」
それに返事をした久神静夢はさっきまでとはあきらかに豹変していた。
「お前、一回黙れよ。殺すぞ?」
「ひっ!!」
その一言で審判である教師は沈黙する。
無責任かもしれないが、私は仕方ないと思ってしまった。
あのような殺気を放ってる時点で止めることなど不可能なのだ。
「なぁ、お前は僕が何で怒ってるのか分かる?」
殺気で喋ることができないため、首を横にブンブンと振る。
「僕の家族に手を出す、そう言ったよな?」
喋ることができるほどに殺気が薄められたので、反論をする。
「それの何が悪いんですか!?」
「お前らみたいなやつには分からないかもしれないが、僕にとって家族は自分の命より大事なものなんだ。」
「それは…貴方が私を負かしたから悪いんですよ!!」
「そんなことはどうでもいいんだ…大事なのは君が僕の家族に手を出そうとしたこと。だから僕も御剣家を潰そうと思うんだ。」
「そんなことしたら死にますよ。」
「はぁ、どうでもいいんだよ…そんなことは。とりあえず君、黙ろうか。」
再び濃密な殺気が場を支配する。
この騒動の元凶である私はその場で地面にへたり込むことしかできなかった。
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<side久神静夢>
御剣玲奈は地面にへたり込んだ。
「そうだなぁ、まずは見せしめで君に死んでもらおうか。それで御剣家の本家にその首を投げ込むのも面白いかもな。」
そう言って御剣君にニッコリと微笑む。
すると一人の少年…火神迅がフィールドに降りてくる。
「うん、どうしたんだい?」
火神迅は絶望したかのように叫ぶ。
「お前はそんなことをして楽しいのか?」
その質問を聞いてなんだ、そんなことかと思った。
「いや、楽しくないよ。」
「ならどうしてそんなことをしたんだ。それは犯罪だろう?」
「僕は決闘で相手に殺気を放っている、それの何が悪いんだい?それを言うなら彼女の言葉を聞いていなかったのかい?」
「聞いていたさ、だけど君は明らかにやりすぎている。」
僕は嗤った。
「なんだ、君には少し期待してたのに。僕の見当外れだったらしい。」
御剣玲奈を庇うように僕の前に出る。
「どいて、と言ったらどいてくれるかい?」
「無理だな。」
予備動作をせずに星剣を振るう。
巨大な衝撃波が生まれ、火神迅は吹き飛ばされる。
「あぁ、やっぱりこの程度か。」
するとドタドタと音がして、入学式で見た校長や教頭に1年生の担当教員全員が武装してフィールドに入ってくる。
「久神、お前。一体何をしているんだ!!」
そう担任である鈴木先生の怒声が響く。
それと同時に辺りに蔓延していた殺気が霧散する。
教員の内の誰かの異能だろうか?
「まぁいいか。何をしているか…でしたね、鈴木先生。それは御剣家への牽制としてこいつを殺そうとしてたところです。」
「なぜそんなことを…。」
僕からしたらなぜ分からないのか理解できない。
「貴方たちの親はまだ生きていますか?」
突如として放たれた僕の質問にほとんどの人は心の中でハテナマークを浮かべただろう。
「僕は親の顔を見たことがありません。そんな僕にも家族と言える人が三年前できました。大切なものを持っている人間が何も持っていない人間が必死の思いで手に入れたものを奪い取るだなんて…そんなこと許されるはずないでしょう?」
その瞬間、教師たちは戦慄した。
久神静夢のあり得ないほどの狂気を孕んだ目を見て。
「さて貴方たちは僕の敵ですか?」
阿波崎先生が答える。
「いえ、貴方のために今からやろうとしていることを止めさせてもらうわ。」
その言葉に僕は絶望する。
「仕方ない。少し力の差を実感してもらいますか。」
そう言って星剣を虚空から現れた魔法陣に戻す。
「好きにかかってきていいですよ。殺しはしないので。」
完全に舐めているとしか思えない発言に教師たちは憤怒する。
学年主任である教師が心配するように言う。
「怪我をしても知りませんよ、久神君。」
そうして前代未聞の教師対新入生という戦いが始まった。