第三話
絶望に染まっている顔を一瞬で、受けのいい笑みに帰る。
「何でしょうか?えっと、火神君。」
名前を知っていたことに驚いたのか、少し会話に間が空く。
「いや、朝通学路で会っただろう?俺のほうが先に行ったのに、どうして遅刻しなかったんだい?」
あぁ、そのことかと思い、丁寧に疑問を解消していく。
「僕は最短経路で登校して、君は少し遠回りをした…それだけのことでしょう。」
僕の掴みどころのない返事に、身分の高そうな少女が突っかかってくる。
「私の迅がアンタよりも足が遅いって言いたいの?女のくせに生意気なのよ。」
今の時代では確実にジェンダー平等に引っかかる発言だが、そんなことよりも疑問に思ったことを聞く。
「えっと、貴方は誰ですか?」
自分の知名度に自惚れていたのか、「えっ」と少女は驚きの声を上げる。
「貴方は皇族の方なのですか?それともそれ以外の家なのですか?」
少女は悔しそうに顔を歪めて言う。
何か皇族と因縁でもあるのだろうか?
「違うわよ、でも私は武家である御剣家の一族よ。貴方一人程度、屈服させられないとでも思っているの?」
この少女は他人を下に見すぎている。
だから僕と自分の力の差を見誤っている。
僕のことを御剣の少女が敵意をむき出しにして睨んでるのを見かねたのか間に入ってくる。
「玲奈、そんな睨まないであげなよ。君、名前はなんて言うの?俺は火神迅だ、気軽に迅って呼んでくれ。」
「僕は久神静夢だよ。こっちは僕の友人の村瀬優太君だ。話がそれだけなら、そろそろ行っていいかな?」
懲りずにまた別の女子が突っかかってくる。
火神君のことを、義兄さんと呼んでいた人だ。
「貴方、義兄さんが話しかけてくれてるのにその態度は何なの?」
それに同調するように、幼馴染ポジションっぽい少女も加担して文句を言う。
おっとりとしている少女は、ずっとオロオロとしていた。
「そもそもなんで僕が男に話しかけられて嬉しくなるんですか?」
「それは迅がイケメンだからに決まっているじゃない。」
話が噛み合っていない理由が良く分かった。
「あぁ、なるほど。そういうことか。ようやく話が噛み合った。言ってなかったしな。」
「どういうことよ?」
御剣の少女が聞いてくる。
「僕は男だ。」
静寂が訪れた。
その静寂を破ったのは、村瀬君の笑い声だった。
「ハッハッハッ、あぁ面白い。いや、ごめんね。久神君のことを男だとも知らずに、変な疑いをかけたバカの反応が面白すぎて。」
そういう風に考えれば、確かに面白いかもしれない。
だが意外にも、村瀬君は結構黒いのかもしれない。
もちろん嫌いというわけではない。
むしろ人間味があって僕は好きだ。
「確かにそう考えると面白いかもね。でもバカ呼ばわりは失礼じゃない?」
「いや、俺からしたら人の友人を馬鹿にするヤツのほうが失礼だと思うけどね。」
恥ずかしげもなくいいことを言ってくれる…そこに痺れる憧れる。
少女たちはワナワナと怒りを堪えるように震えている。
幼馴染君が村瀬君に蹴りかかる。
けれども村瀬君はそっちを見ることもなく頭の位置を少し引くだけで避ける。
義妹君と幼馴染君は絶句し、御剣の少女が言った。
「こうなったら決闘よ!!泣いても許さないんだからね。」
他の少女たちもデメリットはなかったのか、逃げるななどと言っている。
「はぁ、口論で負けたら暴力で押し通そうとするのか。最近の少女は野蛮だな。」
村瀬君が煽り始めた。
その意外な姿に笑っていると、入学式にもらった端末が音を奏でる。
僕はこの世の横暴さに絶句した。
決闘というのは生徒同士の戦いのことで、勝者が敗者に勝負前に決めたペナルティを課すことができる。
勝負は基本的に異能を使った戦闘なのだが、一対一だけでなく二対二の場合もあったり多対一もあったりする。
村瀬君の方も端末が鳴っていたようで、僕の方を見ている。
僕は大きく溜め息を吐いて、村瀬君に話しかける。
「村瀬君、どうする?この決闘、受けるかい?多分受けないと、僕たちの評価が先生たちのなかで下がると思うけど。」
少し考えて、村瀬君は返答した。
「受けようか。新入生たちに刺激を入れるのも楽しそうだし。俺が新入生の中でどのくらいの立ち位置にいるかも知りたいしね。」
「村瀬君がやりたいなら、僕も受けるよ。せっかくの友人の頼みだしね。」
その言葉を聞いて、僕は村瀬君と同士に承諾の文字を押す。
僕らが押したのを見て、義妹君が言う。
「相手は私たち四人ですけど、卑怯とは思わないでください。決闘の日時は身体能力測定を行う日の放課後で、観客はありでいいですね?」
「構わないよ。俺たちが勝ってるのに誰も見てないからって、家の権力を使われても困るしね。」
さっきから村瀬君の煽り性能が高すぎる。
ふざけすぎたので一度咳払いをして、全員の視線を集める。
「じゃあ君たちからは火神君以外の四人が出て、僕と村瀬君が二人で戦うってことでいいね?」
「えぇ、それでいいわ。せいぜい首を洗って待っていることね。」
そう言って僕らと彼女たちの会話は終わった。
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「いやぁ、災難だったね。」
村瀬君はずっと人懐っこい笑みを浮かべていた。
もちろん今もだ。
突然、村瀬君は真剣な表情をして言う。
「久神君、絶対勝とうね。」
「あぁそうだな。」
そこで思った疑問を口にする。
「なぁ村瀬君、君の異能って何?」
「えっ、嫌だなー。俺の自己紹介聞いといてくれよ。危機感知だよ。攻撃がある5秒前に頭に電撃のようなものが奔るんだ。」
「嘘は良いよ。見た感じだけど、おそらく重力を操るんでしょ。だから蹴りが当たらないように引力を操作した。」
「へぇ、すごいね。さっきの動きだけで、俺の異能がバレるなんて思ってもなかったよ。」
村瀬君の目から光が消える。
「よし、村瀬君。僕とホントの友人になろうか。僕は君のことを村瀬と呼ぶから、君は僕のことを久神と呼んでくれ。」
その言葉に村瀬君は怪物を見る目で、僕のことを見ている。
「ひどいなぁ、その目はさすがの僕でも傷つくよ。」
「お前、狂ってるんじゃないか?本当に俺みたいなヤツと友達になってくれるのか?」
「僕は君が友達でも友達じゃなくてもどっちでもいい。大事なのは君の意思だ。君は僕と友達になりたいの?」
村瀬君は決意したような顔をする。
「俺は…お前と友達になりたい。」
「オーケー、今日から俺とお前は友人だ。よろしくな、村瀬。」
悪い笑みをして、悪人っぽく言う。
「それじゃあ、あいつらを潰すための策を考えようか。」




