父の功罪
江戸時代から、エイは女性器として使われてきた。
エイの腸は螺旋型でかつヒダヒダになっている。
つまり、肛門に挿入すると、エクスタシーが得られる。
よって、女性になかなか会えない、遠洋漁業従事者に使われてきたのだ。
ただ、これはあくまで性処理具としての利用にすぎない。
女性器の本来の目的たる、妊娠までもをエイに担わせた狂人がいる。
今は亡き、私の父だ。
生き物でありながら、射精を促しやすい形をしているエイは、人工授精の文脈で都合が良すぎた。
まず、精子を外気に触れさせることなく、卵子に受精できるのだ。
その上、身体を改造されたエイから養分を得て、胎児になるまで、育てることができる。
つまり、母体の代わりとして、使うことができるのだ。
そう、文字通り、エイを妊娠させることができるのだ。
無論、人間に危害が加わってはならないので、妊娠のプロセスに不要な身体部は全て除去する。
毒のあるオビレや、暴れて、怪我をさせうるヒレなどは全てカットして、培養水に漬け込むのだ。
この技術を確立した科学者こそ、私の父だった。
確かに父は、多くの人間から感謝されていた。
数多の女性が、出産の苦しみから解放された。
妊娠率99.93%という数字は、数多の子供に恵まれない男女から歓迎された。
人類の発展に必要な技術ではあったと思う。
だが、これを生業にしておきながら、
エイの美しさを、愛おしさを私に伝えた父を、
私は一生許さない。
エイを愛することがなければ、私はこの家業を淡々と続けることができたのだ。
なぜ、愛を与えたんだ。
そんな雑念から逃げたくて海にダイブする。
子供の頃綺麗だと思って見ていた、自分の口から漏れる泡の粒すら、いまは雑音としか認識できなかった。
エイには、岩場でお腹を擦り、身体の汚れを落とすという習性がある。
この会場生簀には、岩場は一箇所しかなく、そこにエイは列をなすようにして集まってくる。
これを水中銃で、狙撃する。
傷つけてもいい、どうせ斬り落とすヒレを目掛けて
水中銃を撃ちつける。
エイが痛みによろめく。
その瞬間を狙って網で周囲を囲い込む。
そのまま船で引き上げる。
引き上げたそのエイは、元からヒレに切れ込みが入っていた。
最悪だ。
僕が子供の頃にジャミーと名付けて可愛がっていたエイだった。