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籠姫   作者: 桐龍潮音
8/14

過去―――赤き終焉

後半らへんに少し残酷な描写があります。

苦手な方はご注意ください。











「『転生の儀』…?」






父さまが言った言葉。

それは今まで聞いたことが無かった言葉。

だからその言葉が意味する内容なんて分からない。

なのに何故だろう。

とても、嫌な感じがする。






「父さま、それは一体―――――」


「紫黎、聞くな」






鋭く短い断絶の声。

それは銀の鬼の声だった。

私は自分の問いかけを遮ったその声に腹が立ち、銀の鬼を見上げるようにして睨みつける。






「どうしてそんなことを言うのよ?『転生の儀』っていうのは私に関係のあることなんでしょ?なのにその当人である私がその内容を知らないなんておかしいわっ!!」






さっきから目の前で繰り広げられていた銀の鬼と父さまの会話。

明らかにその会話の内容は私に関してのことであるのに、当人である私にはさっぱり理解できなかった。

二人があまりに真剣に話していて、口を出せるような雰囲気ではなかったので今まで黙っていたけれど、自分のことなのに何一つ分からないというこの状況が歯がゆくて仕方がなかった。

その歯がゆさが、今になって怒りとして溢れだす。






「どうして二人で勝手に話を進めてしまうの!?どうして私に何も話してくれないの!?どうしてッ!?ねえ、どう――――!」






溢れ出す怒りの言葉が途切れる。

広い胸の中に優しく、それでいてしっかりと抱きしめられたからだ。

大きな手が宥めるように私の背中をゆっくりとさすっているのを感じる。






「ごめんね、紫黎。お前のことなのに何一つ話していなくて。お前が不安に思うのも当然のことだよね」






頭上から聞こえる柔らかな声に、私を抱きしめているのが父さまなのだと気がつく。

さっきまで私は銀の鬼の腕の中にいて、父さまは少し離れたところに立っていたのにいつの間にこんな状況になったのだろう。






「でもね、僕がお前に何一つ話さなかったのには理由があるんだ」


「理由…?」


「そう。でも所詮その理由も僕のエゴでしかないのかもしれないけどね…」


「…」






その声に、その手に、その雰囲気に、怒りでささくれ立っていた心が宥められる。

父さまは私を宥めるのが上手い。

どんなに意地を張ったって、いつでも父さまは私の心を簡単にほだしてしまうのだ。






「銀緋、君が―――紫黎を大切に思ってくれている君が、僕の考えを理解してくれるまで『転生の儀』は行わない」


「…」


「だけどそんなに長くは待てない。さっきも言ったように『転生の宵』が近づいてきているんだ。もうあまり時間が無い」


「…そんなことは分かっている。だが、我は我の考えを変えるつもりはない」


「…紫黎と話す前に君とは一度、じっくりと話さないとダメみたいだね。また日を改めて――――」






父さまの言葉に、宥められていた怒りが再び燃え上がる。

また、私をのけものにするっていうの?

今さっきそんなことはしないでと怒ったはずなのに。

そう抗議しようと開いた唇は、しかし言葉を紡げなかった。






「あ…ッ!?」






真っ暗な闇。

その中で独り声を押し殺し泣く少女。

こみ上げる、庇護の情。






――――ねえ、どうして泣いているの?






何という間の悪さ。

私はまた、あの正体不明な映像に呑みこまれてしまったのだ。



































* * * * * * * * * * * * * * * * *























「――――――ん…」






あの映像から解放され、意識を取り戻した私の瞳に最初に映ったのは白に近い灰色の空。

その空を取り囲むようにして視界の片隅にちらつく赤い花びらと鼻をくすぐる甘い香りに、私は今赤い花園の中で仰向けに寝ているのだと、ぼんやりとした意識ながら気がつく。






「私…」






霞がかったような頭で、記憶を辿る。

あの映像を見る前、私は何をしていた?






「あ…っ!」






急速に思いだした記憶の勢いのまま、身を起し辺りを見回す。

私がいる場所は赤い花園の隅の方だった。

広大なその花園の中央に、父さまと銀の鬼の姿が見えた。






「父さま…銀緋…」






二人は何やら話しこんでいるようだが、遠目から見ても雰囲気が良くない。

同じ赤い花園にいるとはいえ、この花園はかなりの広さがあるため私と二人の距離は割と離れていて、静かなのにも関わらず、何を話しているのかは聞こえない。






「のけものにしないでよ…」






私と二人の間に広がる距離のせいだろうか。

さっきまではのけものにされたことに怒りを感じていたのに今は寂しく感じる。

それと同時に、さっきまでの怒りは本当はこの寂しさからきていたのかもしれない、と思った。

大好きな二人の話に入れない自分。

まるで取り残されたような疎外感。

それが形を変え、歯がゆさとなり、怒りとなり、溢れだしたのかもしれない。






「…んっ」






気だるい体にどうにか力を入れ、立ち上がる。

二人のもとへ行こうと視線をそちらへ向けると、父さまと目があった。






紫黎






父さまの唇が私の名前を呟くように動いた。

けど、声としては聞こえてこない。






「父さま…」






答えるように呟くと、何か言い募っている銀の鬼を振り切るようにして、父さまがこちらへと近づいてくる。

いつものように優しい笑みを浮かべて柔らかい雰囲気を纏った父さまのその姿に寂しさは薄れ、訳もなく安堵の気持ちが沸いてきた。






「と、」






父さま。

もう一度そう呼ぼうと出した声は、突然吹き荒れた風によって掻き消された。

あまりにも強いその風圧に、目を開けていられなくて強く瞼を閉じる。

頬に当たる自分の髪の感触や耳元を過ぎていく風の音を閉じた闇の世界の中で感じているうちに、ぴたりと風が止んだ。






「…………………え?」






恐る恐る開いた目に映ったのは、風に舞い上げられ落ちていく赤い花びら。

そしてその花びらの中に立つ父さまの姿。

けれどその姿は瞼を閉じる前と違って、とても奇妙なものだった。






舞い落ちていく烈花の花びらのように父さまの体は真っ赤に染まっていたのだ。






「う、で……?」






そして何より奇妙だったことは父さまの左胸――――そう、つまりは心臓の位置から白い腕が一本伸びていることだった。

父さまの胸から伸びたその腕の先の掌には、赤黒い塊が握りしめられていた。

その塊から滴り落ちる赤い液体が白い手と腕を赤く染めていた。






――――何、これ…。






いつもより青白い首筋。

赤い液体が溢れだした歪んだ口元。

見開かれた紫の瞳。






「と、う…さま?」






ゆっくりと上に視線を上げる度に、思考が鈍っていく。

まるで今目の前に広がる現実を受け入れまいとするように、何の考えも感情も浮かばない。

ただ、この瞳に目の前の光景を映すことしかできなかった。






「し…れ、い…」






ごぼり、と赤い液体を吐きながら父さまが私の名を呼ぶ。

その声にはいつもの優しさも柔らかさも含まれていない。

ただ、すべての気力を注ぎ込んだような必死さだけが含まれていた。






――――何なの…、これは何なの…?






目の前にいるのは父さま。

それは分かっている。

分かっているけど、認めたくない。

目の前で赤い液体に濡れる鬼が、父さまだと認めたくない。






「う…ッ!!」






父さまが呻き声を出すのと同時に、父さまの左胸から生えていた腕が勢いよくその背後へと抜き取られていく。

ぐちゅぐちゅ、という何とも言えぬ嫌な音と共に完全にその腕が胸から抜けると、糸が切れた操り人形のように父さまが崩れ落ちた。

その際に赤い髪紐がとれたのか、長い紫の髪が崩れ落ちた父さまの顔をベールのように覆う。






「他愛もない」






茫然と崩れ落ちた父さまを見つめていた私の耳に、聞き慣れた低い声が響く。

その声に反射的に顔を上げれば、そこ―――つまり父さまの背後だった所―――にいたのは銀の鬼だった。






「ぎ、んひ?」






彼の右腕は赤く染まり、その掌には赤黒い塊が握られていた。

何の感情も浮かべていない無機質な青い瞳が、その塊をじっと見つめている。






「これ、何だかわかるか?」






赤黒い塊から視線をそらさず、銀の鬼が私に問う。

私はその問いかけに答えを返すことができなかった。

思考が現状に追いつかないのだ。

いや、追いついてほしくなくて無意識のうちに考えないようにしていた。






「紫爛の心臓」


「し、ら、ん、の、し、ん、ぞ、う?」


「お前の父親の心臓だ」






青い瞳が、私の瞳を捕える。

やめて。

お願いだから、それ以上何も言わないで。

あなたの言葉の意味を理解したくないの。

この状況を認めたくないの。






「今、まさに我がお前の父親を殺した」






そう言うと、銀の鬼は赤黒い塊に齧りついた。

まるで何かの果物のように、齧りついた赤黒い塊から赤い液体が滴り落ちる。

その液体が銀の鬼の唇を染め、首筋を伝い、青色の着物を赤黒く染めていく。






「あ、ああ…」






ぐちゃぐちゃと響く音が耳を侵す。

鉄錆のような匂いが鼻を侵す。

生々しい赤い色が目を侵す。
















侵された三つの機関が、私の思考を急速に現状に追いつかせた。

認めまいとしていた現実を、思い知る。
















「いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!!!!!!!!!」






赤い液体は父さまの血。

父さまの左胸から伸びていた―――正確には父さまの胸を突き破っていた―――のは銀緋の腕。

その腕から続く掌が握っていた赤黒い塊は父さまの心臓。






「とうさまあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!!!」






きっと本当は最初から分かってた。

でも認めたくなかった。

銀の鬼が、私の目の前で父さまを殺したのだということを。







「なんでッ、どうしてッ、いやッ、とうさまッ、おねがい、こんなのやだああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!!」






無我夢中で父さまのもとへ走りだす。

涙で滲んだ視界に映るのは父さまただ一人。

叫び過ぎて痛む喉で呼ぶのは父さまただ一人。

今、私の世界には烈花の中に埋もれるようにして倒れている父さま一人しか存在していなかった。






「と――――ッ!?」






もう少しで父さまに触れられるという距離で、お腹に鈍い痛みを感じる。

驚いてお腹に視線を落とせば、拳の形に握りしめられた白い手が私のお腹にめり込んでいた。

その手を辿るようにして横を仰ぎみると、いつの間に移動したのか銀の鬼が横に立っていた。






「ぎ、ん、ひ…!」







暗転する視界。

闇に掻き消されていく銀の鬼の無表情な顔。

最後に「父さま」と絞り出した言葉はちゃんと声になったのか分からなかった。







































































血濡れた紫の鬼

血濡れた銀の鬼

血濡れた赤い花











終焉は赤色に縁取られ、私の中で今なお時を止めている。









予定していたよりも更新が遅れてしまいました。

すみません(ーー;)





今回の話が紫黎と銀緋の間に深い隔たりができた理由です。

次回はその補足的な話を載せようかな、と思っております。




過去編は(今度こそ)あと一話で終わります。

そこまでが一応、『籠姫』の第一部です。

そして過去編が終わったら現在編へ戻るので、やっとこさストーリーが進みます。

本当に、話を進めるのが遅くてすいませんorz





感想・評価を下さると大変励みになりますので、心の広い方どうぞ稚拙な作者に恵みを与える気持ちで送ってください。(笑)





今まで感想・評価を下さった方々、そしてお気に入り登録をしてくださってる方々、本当にありがとうございます。

これからもどうぞよろしくお願いします。






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