序章 金色の籠の中
金色の柵の向こう側。
銀髪の美しい鬼が一人。
音もなく、気配もなく、闇と共にやって来た。
「おいで」
柵の隙間からこちらへ伸ばされるは、優美な手。
幻のようにゆらゆら揺れて私を誘う。
「おいで」
甘い声に導かれ。
綺麗な手に誘われて。
まるで夢の中のような浮遊感。
そっと踏み出す一歩が拙い。
「いい子だ」
近づいた私の頬を撫でる指は雪のよう。
透けそうなほど白くて、凍えそうなほど冷たい。
そして気付けば無くなっている、儚いもの。
「お前は本当にいい子だ」
どんなに甘い言葉を掛けられても。
どんなに優しく触れられても。
私はあなたに心が無いことを知っている。
「これからもお前は我の言うことさえ聞いていればいい」
だから、私は決してあなたに心を許さない。
許したふりをして過ごすは、空っぽな日々。
一体、こんな日々がいつまで続くの?
「お前の世界には我だけだ」
血のように赤い目を細め、微かに笑う美しいあなた。
綺麗な金色の籠に私を捕え、閉じ込めたあなた。
ここから逃げる術を持たない私を、気まぐれに愛でるあなた。
「お前には我だけしかいない」
まるで睦言のように甘く囁かれる、絶望の言葉。
私を思いやる心なんて一欠けらも持ってはいないくせに。
この籠の中から逃げられない私を、さらに閉じ込めようとするなんて。
あなたはなんて残酷な鬼。
「死ぬその時まで…な」
私は、籠姫。
籠の中の鳥とよく似た女。