客観的な(厳しい)評価にも耳を傾ける
7月22日。
休日の朝。私はすっかり日常となりつつあったベランダでのメーターを眺めながらのコーヒータイムを楽しんでいた。
そんな穏やかな時間を破壊するようにガチャガチャと玄関の方からドアを解錠する音が聞こえた。立ち上がる間も無く、侵入者が私のアパートにドタドタと入り込んでくる。
「おはよー。弁当持ってきたよー」
妹の娘、つまり姪であるところの悠だ。中学三年生だが小学校の頃からあまり印象が変わらない。遠慮がなく、発言がストレートでいろいろと大雑把。まぁあけすけな性格で友達も多いのはいい事だと思うから何も言わないが。
「ありがとう。はいこづかい」
持ってきてくれたのは、妹の旦那がやっている弁当屋の残り物だ。妹曰く、「捨てるよりは身内に食わせた方が1ミリほどマシ」という事でこうやって子供たちに届けさせている。その分しっかり配達料として千円札が消えていくのだが。
「ありがと。何これ、ソーラーパネル?」
「ああ、こないだ買ったんだ。スマホとか充電してる」
「まじ?私のも充電していい?」
いいよ、と答える前に悠は私のスマホを引き抜き自分のをケーブルに挿した。
「おー、ほんとに充電できてる!」
キラキラとした笑顔ではしゃぐ悠に私も少し嬉しくなる。
「どのくらいで満タンになるの?」
「一時間から二時間で50%くらいかな」
「おっそ」
先程までの無邪気な子供らしい笑顔はすぐに消え、姪の顔が大人びた冷めた顔になる。
「コレ、いくらしたの」
「ソーラーパネルが三万、こっちのバッテリーが半額で二万」
「五万円もしてるじゃん。元取れるの?」
子供でもさすが女と言うか(こういう事を口に出して言うと性差別だのなんだの言われるので気を付けなければいけないのだが)、経済感覚がしっかりしている。
「まぁ、全額は取れないだろうなぁ」
「じゃあ意味なくない?」
シビアな言葉がざくざくと心に刺さる。視線もまるで(大人の男ってムダなものばかり買うのよね)と言いたげだ。
「停電時に役に立つと考えれば、その半分くらいが回収できればいいかと思って」
「このポータブル電源?全部使いきったら電気代いくらくらいなの?」
いきなり痛いところを突いてきた。
「……10円ちょっと」
「こっちだけでも1000回使わないといけないじゃん」
「三年分だろ。2000回でも六年」
実際2000回使えるかは怪しいがそこは黙っておく。
「これ、フル充電するのに何時間かかるの」
旗色がどんどん悪くなる。
「10時間」
「二日くらい充電にかかってるじゃん。それに毎日晴れるってわけでもないし」
悠の頭の回転の早さに、俺は白旗をあげた。
「いや、元を取るのは難しいよ。俺もわかってる。でも五万まるごと捨てたって訳でも無いし」
「そーだけどさぁー」
「俺の嫁さんって訳でもないんだから、そんなにガミガミ言わなくてもいいじゃないか」
「嫁ならこの500倍はキツく言ってるよ」
俺はゲンナリしながら冷蔵庫のサイダーの缶を二つ出して片方を姪に渡した。
「そんなんだからいつまでたっても一人身なんだよってお母さんに言われるよ」
「悠だって彼氏いないだろ」
「うっさいなー」
悠は一気にサイダーを飲み干した。自分も昔はたやすく一気飲みができたなあと遠い昔を懐かしむ。
「恋愛って難しくない?その、相手を信頼して自分をー、えーと委ねてもいいっていう勇気っていうか」
「まぁわかる」
子供だと思っていた姪がそんな事を言い出すようになったかとしみじみしていると、悠はスマホをケーブルから外して画面を見た。
「5%充電してる」
「今日は天気がいいからな」
「タダで充電できたと思うと、なんかちょっと得した気になるね」
意外と理解を得られたようだ。
「停電したら充電しに来ていいぞ」
「覚えとく」
じゃあ、塾行かなきゃだからと言って悠はバタバタと出ていった。私は自分のスマホをソーラーパネルに繋げ直し、残された弁当をレンジへと運んだ。