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それでもコバルトは尾を動かし始め、トンネルを抜け出たところで口を開いた。
「これから我々はどこへ出かけるのだね? どこのゾーンだ?」
「あんたは海流をよく知ってるから、捜索場所は全面的に任せるってさ」
「中隊長がそう言ったのか?」
「うん」
「あの男にしては、まともなことを言うではないか」
それは本当のことだった。
コバルトは近辺の海流を非常によく知っており、どの方角へ出かける時でも正しい流れをサッと見つけ出し、尾をほとんど動かさずに体力を節約することができた。
それはもちろん、スピードと時間の節約にもつながった。
「そういう事情ならトルク、あてずっぽうに探すよりも、もっといい考えがあるぞ」
「何さ?」
「適当に探すふりだけして、見つからなかったことにして帰還しよう」
サイレンの責任感に期待した僕が馬鹿だった……。
「それはまずいよ」
「お前は真面目だな……。ではプラン2だ。爆発音が聞こえてから、その場所へ急行すればいい」
「それじゃあ遅いよ」
だがコバルトは答えず、一瞬言葉を切り、耳を傾けてから続けた。
「一応は掃海艇も出撃しているのだな」
「数は全然足りてないけどね」
コバルトの聴力は船の存在を感知するだけでなく、種類までも聞き分けてしまう。
掃海艇というのは、機雷を処理する専門の船舶。
通常は敵が仕掛けた機雷を掃除するのが役目だが、こんな場合だから、もちろん駆り出されたのだろう。
「ところであんたは、どうやって機雷を探すつもりだい?」
僕がそう言うと、コバルトが鼻から息をプッと吐き出した。泡になって水面へと登ってゆく。
「いま私が一番あきれているのは、そんな方法も知らずにお前が命令を受けていることだよ。お前の頭は本当に『新品の金庫』だな」
「どういうことさ?」
「空っぽということだよ」
「……」
「そんな顔をするな。人間の親たちが言うではないか。出来の悪い子ほど気になるものだと」
僕とコバルトの間の差。つまり知性の差と体のサイズの差。
この2つはどうしようもなくて、僕もそのままに認めるほかない。
それでも腹だけは立つから、仕返しに腕を蹴飛ばしてやったが、痛みを感じるどころか、コバルトは平気な顔でニンマリしただけだった。




