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「それでトルク、コバルトはどこにいるのだね?」
男の子の姿が完全に見えなくなってから祖父が言ったが、実は僕も同じ疑問を感じていた。
だがその時、川の表面に白く大きな波が走った。
川幅は知れているが、それなりの深さがある。透明な水が重々しく流れているんだ。
「あっ」
水面が割れてコバルトが姿を現したとき、僕と祖父は同時に声を上げた。
上半身を持ち上げ、コバルトは鼻やあごの先から水をポタポタ垂らしている。ここで流れに隠れて僕を待っていたんだ。
夜の闇の中で見ようが、川原から見上げようが、サイレンは巨大だ。祖父が「ほう」とため息をついた。
コバルトの口が動き、髪をかき分け、僕に耳を見せた。
「あのガキめ、私の耳に釣り針をひっかけやがったのだぞ。それも、お前に咬みつかれたのと同じ場所だ」
「だから水中に引き込んだのかい?」
「そんなことをするものか。勝手に足を滑らせたのさ」
「なぜ助けてやらなかったんだい?」
「助けようとしたところに、お前たちが来た。だがあのガキは、泳ぎは達者に見えた。ほっておいても自力で助かったと思うぞ」
「そうかい」
「それでトルク、そこにいるオッサンは誰だね?」
だがコバルトもある程度予測していたのだろう。僕が祖父を紹介しても驚いたそぶりはなく、ただ挨拶をした。
両腕を優雅に広げ、あたかもひざを曲げるようにして、まるで宮廷の淑女のように体を低くして見せたんだ。
「これはこれは提督閣下」
この後、話すことはあまりなかった。僕がコバルトに事情を説明しただけ。
「ああトルク、もう心配は要らないが、お前もあまり長く基地を離れないほうがいい」
と祖父も言い、僕は潜水服を着ることになった。
いつものように僕を肩に乗せ、祖父に対してはヒョイと手を振るだけで、コバルトは潜水を始めたんだ。
そのままザバザバと川の流れに乗って進み、川口を通り、海に抜けたことは僕にもすぐに分かった。水がひんやりと冷たく変わった。
それがきっかけになったのではないけれど、
「ねえコバルト、沈没船に書いてあったリリーの伝言というのは、お祖父さんがこっちへ来ているという内容だったんだね」
「そうさ。まさかお前の従姉の家にいるとまでは思わなかったがね」




