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 新婚夫婦であろうがなかろうが、その家に忍び込むというのは、ほめられた話ではない。

 ただ訪問するのに都合の良い立地ではあった。川があり、川口からさかのぼっていくらも行かない場所なのだ。

 リリーからのメッセージを沈没船で読み取った後、僕とコバルトは再び大洋に出た。

 陽が昇って沈み、もう一度夜が巡ってくる間も敵味方、両方の船から逃げ続け、日が沈んでからやっと川口をさかのぼり始めたんだ。

 だから僕が単身、塀を乗り越えて従姉の家の裏口ドアを開いた時には、もう午後10時を過ぎていた。

 こぎれいな家だ。

 裏から入って庭を横切る間も、花の咲いている花壇が目につく。きっと従姉が手をかけているのだろう。

 よほど早寝じゃないとまだ寝室には引き揚げていない時間だし、事実キッチンには明かりが見える。

「亭主がいたらどうしよう?」

 とは僕も心配していた。ただ結婚式で顔を合わせたことがあるから、不法侵入者としていきなり撃たれたりはしないだろう。

 キッチンの網戸を押して、僕はそっと入り込んだ。そしてその瞬間に発見されてしまった。

「トルク、そんなところで何をしてるの?」

 あわてて振り返ると、銀色に光る盆にカップとティーポットを乗せた従姉が、僕を見て目を丸くしているんだ。

「あのう……」

「それにあんた、どうしてそんなにびしょぬれなの? 海軍ってところは、人の家の床を濡らすのが仕事なのかしら」

 ここから先は話が早かった。

 亭主は夜勤で今は留守だったが、亭主自身も海軍士官なので、僕がストロベリーに属していることや、『ストロベリー隊員には質問をしてはならない』ということは従妹も承知していた。

「なんだか面倒くさそうな事情があるのね」

「ねえジャネット、お祖父さんに連絡を取ってくれないかな? ものすごく重要な話があるんだ」

「海軍作戦部に用があるのなら、自分で電話しなさいよ」

「電話なんかできっこないよ」

 すると不思議な表情で、従姉はニヤリと笑った。

「そりゃあそうでしょうね。あんた何やったの? 手配されてるんだってね」

「なぜ知ってるんだい?」

「詳しいことまでは、もちろん知らないわよ。だけどお祖父さんと話したいのなら、今すぐ居間へ行けばいいじゃないの。このお茶はお祖父さんのためにいれたんだから」


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