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僕たちはゴムボートに近寄って行った。船を失ったばかりのクルーが乗っている。
耳を澄ませても、偵察機のエンジン音はもう全く聞こえない。
僕の双眼鏡が反射した光を、潜水艦の潜望鏡と勘違いしたのだろう。
いくら偵察機でも、爆雷までは積んでいない。あきらめてくれたのだ。
そのままゴムボートそばの水面に、コバルトはひょいと顔を出した。
「コバルトだ……」
スコーピオンのクルーたちは全員がびしょぬれで、こそこそと顔を見合わせているのを、コバルトはジロリと眺めまわした。
「やあ諸君、ボート遊びとは楽しそうだな。それともキャンプ・ファイヤーかな?」
そう言いながらコバルトは、まだ燃え盛っているスコーピオンにチラリと視線を走らせたが、僕はもう、どんな顔をしていいやら見当もつかなかった。
コバルトは続けた。
「諸君にニュースが2つある。どちらから聞きたいかね?」
「……」
コバルトの意図が分からず、クルーはまだ顔を見合わせているだけだ。
「まずは良いニュースから。救助船が接近しつつある。航行音が聞こえるから、もうすぐ水平線に姿が見えるだろう」
クルーたちがホッと息をつくのが僕の目にも分かったが、コバルトがこれだけで終わるはずがない。
「ニュースその2。この近海をゴーストがうろついている。それゆえ救助船が魚雷を食らわない可能性は……。お前たちはツキのある人間かね? 例えば、乗り組んでいる船が敵機に燃やされたりはしないというような?」
言いたいことだけ言って、答えも聞かず、相手の表情も確かめず、コバルトはサッと潜水してしまった。
僕は、コバルトに何を言っていいやら、どう反応すべきかさえ見当もつかなかった。
口の中でブツブツ独り言を言っていたのだけど、ゴムボートから数百メートル離れたあたりで、コバルトが口を開いた。
「おっ、ゴーストが魚雷を発射したぞ。あいつらはもうしばらく漂流を続けなくてはならないな」
「あいつらはピストルを持ってたんだよ。あんな憎まれ口をたたいて、撃たれたらどうするつもりだったんだい?」
僕は当たり前のことを言ったつもりだが、コバルトの表情は変わらなかった。
「たとえ1発2発撃ちこまれても、断末魔にボートを引き裂いて、連中を道連れにするだけの力は残っているさ」
「野蛮人!」
「その野蛮人を相棒にしているのはお前ではないか」




