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 ところが、それに答える前に僕の足をつかみ、コバルトは不意に水中へ引き戻そうとした。

 のんびりできないのは確かだ。黒々とした夜間の海面とはいえ、どこで誰に目撃されるかもしれないのだ。

 だがコバルトの配慮も一瞬遅かった。僕は見られてしまったのだ。思わぬ人声が波の上に響いた。

「おまえ、何をしてるんだ?」

 水面を破って海中へと落ちてゆきながらも、僕は見ることができた。

 潜水艦の隣には駆逐艦がいて、その甲板は僕がいる海面よりもずっと高いのだが、とにかくそこを一人の日本兵が歩いていて、その手の中にはカービン銃がある。見張りに立っているのだろう。

 もちろん今はカービン銃を僕に向け、引き金を引き続けている。

 すでにコバルトは逃走を始めていた。これまでに経験がないほどの勢いで海水がヘルメットをなぶってゆくが、その後を追うようにピュンピュンと音を立て、弾丸が海面を突き破る。

 コバルトは深度も取りつつある。弾丸を避けるため、駆逐艦の真下に潜り込むつもりだと気が付いた。

「どうしよう、どうしよう?」

 僕は声には出さなかったつもりだが、あるいは耳に届いたのかもしれない。赤く塗られた竜骨の下を横切りながら、コバルトは答えた。

「難しく考えることはない。お前の姿は目撃されたが、私が見られたわけではない。ストロベリー部隊の秘密は健在さ」

「それはいいけど…」

「もちろん、日本が奇襲攻撃を準備していることを、1秒でも早くワシントンへ連絡する必要がある」

「そんな方法ないよ」

「そうだな。我々は無線機など持たぬしな」

「もしも日本が本当に奇襲攻撃を実行したら、合衆国は損害をこうむると思う?」

「ああ大損害をな。正直なところ、それがどの程度になるか想像がつかぬ。ところでお前、私と交わした約束を覚えていような?」

「なんだっけ?」

「忘れっぽい餓鬼め。お前に手柄を立てさせてやるから、お前は私に礼をするのだ。最高級の牛肉が、そうさな20キロでいい。それを寄こせ。いいな?」

 だが今、僕たちは敵に追われ、命がけの逃避行が始まりつつあるのだ。正直に言って、コバルトの言葉なんか僕の耳には入らなかった。

「わかったわかった。それでいいから早く逃げようよ」

 苦しまぎれに僕はそんな返事をしてしまった。


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