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スコーピオンとの共同作戦とは、こういうことだった。
大洋に出て、まず僕とコバルトが1キロメートル先行し、耳を澄ませて潜水艦の音を探る。
もしも敵潜を発見すれば、直ちに浮上して戻り、スコーピオンに知らせる。
スコーピオンはすぐさま無線で、敵潜発見を司令部に報告する。
あとは駆逐艦か爆撃機がやってきて、敵潜の頭上に爆雷を投下するという手順だった。
だが、どうもこの日、コバルトは始めからすべてを計画していたようだ。
ゾーンに到着して、短い打ち合わせをして、僕とコバルトはスコーピオンから離れた。
そのまま僕たちは1キロメートル前進し、耳を澄ませる。
その時、少しでもコバルトの邪魔をしないために、スコーピオンはエンジンを停止することになっていた。
海中にいる僕とコバルトの姿は、もちろんスコーピオンからは見えない。
でもコバルトは先行するどころか、水中でグルリと向きを変え、再びスコーピオンへと戻って行くじゃないか。
「コバルト、何をしてるんだい?」
それに対するコバルトの反応は簡潔だった。
「うるさい黙れ」
もうスコーピオンは、すぐそこに見上げるような近さだ。
「何をするんだい?」
コバルトの行動は、本当に意味不明だった。
スコーピオンへギリギリまで近づき、息を殺しつつ、船底部にそっと耳をくっつけたんだ。
「もがもが……」
僕は口を開こうとしたが、できなかった。
コバルトの腕の中に全身を押さえつけられ、口をきくことも身動きもできなかったんだ。
クルーたちの会話を盗み聞きしているのだとは気づいたが、僕はコバルトの顔を見ていることしかできなかった。
船体というものが、どのくらい音をよく伝えるのか、人声というものがどれだけ伝わるのか僕は知らない。
でもコバルトの聴力なら、十分に聞こえるのかもしれなかった。
僕はコバルトの表情を探っていたが、押さえつける腕を押しのけようという努力は、すぐにやめてしまった。
耳を澄ますコバルトの表情が大きく変化したんだ。
眼を大きく開き、それだけでなく瞳まで大きくなった。
コバルトは何かに驚いているんだ。
「コバルト……?」
まるで僕の言葉が合図になったかのように、コバルトは行動を起こした。スコーピオンから離れ、再び海中を泳ぎ始めたんだ。
それでも、波を起こさないよう静かに泳いでいるのは感じられる。クルーたちに気づかれたくないのだろう。
コバルトが口を開いたのは、スコーピオンなど振り向いても見えない距離まで来てからだった。




