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僕が肩に腰かけようとすると、コバルトが手助けをしてくれた。
手を取って支えてくれたのだが、こんな親切は初めてかもしれない。
「本当に大丈夫か?」
優しく言葉もかけてくれた。明日、太陽が地球に落ちてこなけりゃいいが。
「だがトルク、お前はもはや潜水できない身だから、連れてゆくことはできないのだよ」
「だけど…」
「ランドセルからペイント缶を出してくれないか。ゴムボートの準備もしなくてはならない」
コバルトの言う意味もよくわかる。僕はしぶしぶ体を動かし始めた。
ペイント缶というのは、一抱えある重たいもので、2缶が用意されていた。
僕の力ではヨッコラショと持ち上げなくてはならないが、もちろんコバルトは軽々と手に取ることができる。
薄い金属製だから、コバルトが爪を立てて握りつぶすと、簡単に穴を開けることができる。
ゴムボートの方は、どうということはない。
色が黒いこと以外はどこにでもある製品でしかないが、パイプを口にくわえてコバルトが息を吹き込むと、あっという間に膨らんだ。ポンプなんか要らない。
「トルク、作戦は分かっているな?」
「さっきの手旗信号を受けて、スノーマンは直ちに無線を送り、航空部隊を呼び寄せたはずだね」
「爆撃機隊はスクランブル待機を命じられていたはずだからな。ここまで1時間とかかるまいよ」
「そこで、あんたが海面に流すペイントめがけて爆雷を落とすんだ」
「その真下にはゴーストがいるわけだ。悪い作戦ではない」
「あんたは大丈夫なのかい?」
「ペイントを流した後か? 私だって死にたくはない。しりに帆かけて逃げるさ」
「ならいいけど、ケガしないでよね」
「おやおや、優しいことを言ってくれるじゃないか」
コバルトはおどけているが、僕は不安を感じないではいられなかった。
でもそれを隠して、僕はゴムボートの準備を続けた。
準備が終わると、僕がボートに乗り移るのをコバルトは手助けしてくれた。




